なまり)” の例文
おまけにまた人間の女と来た日には、その生白い顔や手足へ一面になまりをなすっているのだよ。それだけならばまだいのだがね。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
省三は気がくと手でほおや首筋にとまったを叩いた。そして、思いだしてなまりのようになった頭をほぐそうとしたがほぐれなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ロミオ いや/\、滅相めっさうな。足下きみ舞踏靴をどりぐつそこかるいが、わしこゝろそこなまりのやうにおもいによって、をどることはおろか、あるきたうもない。
何だか先におもりのようななまりがぶら下がってるだけだ。うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
話が途断れると、屋根の上をコト/\と鴉の歩き廻る音がする……由三はなまりのやうな光彩ひかりすらない生涯を思浮べながら、フト横に轉がツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかも、一方では、興国塾こうこくじゅくとの交歓会をひかえて、その同じ胸が、空洞どころか、重いなまりでもつめこんだように心配で一ぱいになっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
四十恰好のデップリした武士、人品骨柄には申分ありませんが、恐ろしい心配に打ちひしがれて、さすがに顔色がなまりのように沈んでおります。
と思った途端に、刀はなまりのように重たいばかりの物だった。ひょいと、逃げ口を振り向いた隙に、くそ度胸のある敵の大刀どすが真っ向へ迫った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがほかの子供こどもらは、いままで祭りを延ばされたり、なまりうさぎを見舞いにとられたりしたので、なんともおもしろくなくてたまりませんでした。
ざしき童子のはなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この子たちは、『孤児院の子』とばれていた。首の回りに番号のはいったなまりふだをぶら下げていた。ひどいみなりをして、よごれくさっていた。
その時計は赤や緑でたいへんきれいにってありました。そして上にはカッコウがとまっていて、下には重いなまりのおもりが垂れ下がっていました。
連日れんじつの雪や雨にさながらぬまになった悪路に足駄あしだを踏み込み/\、彼等夫妻はなまりの様に重い心で次郎さんの家に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よく調べてみると、四本の足のようなものがあって、その先に小さななまりのおもしがついていることがわかりました。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暗室の内では、なまり前垂まえだれをしめた赤星探偵が、大きな石盤のような形をした蛍光板けいこうばんを目の高さにさしあげ、壁とすれすれにそれを上下に動かしています。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうやら風向きも変つたらしく、北の空めがけてどす黒いなまりいろの雲が、ひしめき上つてゆくのが見えました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
炎天えんてんうみなまりかして、とろ/\とひとみる。かぜは、そよともかない。斷崖だんがいいはしほけづつてしたす。やまにはかげもない。くさいきれはまぼろしけむりく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
斷割たちわらなまり熱湯ねつたうおろ水責みづぜめ火責ひぜめ海老責えびぜめに成とも白状なすまじと覺悟せしが御奉行樣の御明諭ごめいゆにより今ぞ我がせし惡事の段々だん/\不殘のこさず白状はくじやうせんと長庵が其決心は殊勝にも又憎體にくていなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お絹の胸にも不安のかたまりがなまりのように重く沈んでいる。おとといの晩の気まぐれは自分でも深く後悔している。自分の男は林之助のほかにないという事がつくづく思い沁みた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ブリキ細工の雀が時計の振子のように左右に動いているのを、小さいなまりの弾で撃つのだ。尻尾しっぽに当っても、胴に当っても落ちない。頭の口嘴くちばしに近いところを撃たなければ絶対に落ちない。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
同じくこれ焼直しなりともきんなまりとはおのずから価値に大差あり。初学者まどふ莫れ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
たとえば、溶解ようかいせるなまりくちるるとも、すこしも不思議ふしぎにはおもわぬであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
黄釉というのはなまりからとる釉薬うわぐすりでありまして、他の窯では余り用いられません。西洋では大変多いのでありますが、日本ではまれであります。他の大部分の窯では鉛ではなく灰が釉に用いられます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
藤三はなまり色の光のなかにあやしく浮いた白い肉体と、その刺青を見た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
と源三郎は、しゃちなまり鋳込いこまれたように、真っ四角にかたくなって
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
嗚呼くろがねの筆となまりとをもて永く磐石にえりつけおかんことを。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
なまり中毒ちゅうどく 春 第五十一 水道の水
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つよくゆりのなやましさ、なまりむろ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なまりのなかを
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
ドストイェフスキーはかくして法律のね丸めた熱いなまりたままずにすんだのである。その代り四年の月日をサイベリヤの野に暮した。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がた彼は彼自身を、大きな湖の岸に見出した。湖は曇った空の下にちょうどなまりの板かと思うほど、波一つ揚げていなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四十恰好のデツプリした武士、人品骨柄には申分ありませんが、恐ろしい心配に打ちひしがれて、さすがに顏色がなまりのやうに沈んで居ります。
ピュッとうなって飛んできた捕縄とりなわ! 縄の先にはなまりがある。小具足術こぐそくじゅつの息一つ、クルクルッと、お十夜の首にからみついた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而るとなまりのやうに重く欝結うつけつした頭が幾分輕く滑になつて、體中がぞく/\するやうにくすぐツたくなる………何かつかむでもしやくしやにして見たい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
……あゝ、老人らうじんといふものは、んでゞもゐるかのやうに、太儀たいぎさうに緩漫のろ/\と、おもくるしう、蒼白あをじろう、なまりのやうに……
五日の月が、西の山脈さんみゃくの上の黒い横雲よこぐもから、もう一ぺん顔を出して、山にしずむ前のほんのしばらくを、にぶなまりのような光で、そこらをいっぱいにしました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おもいなまりのついたくつをはいて、ふたりの潜水夫は、作業船の外がわについた鉄ばしごを、つたいおり、ブクブクとあわをたてて、青い海の中へ、はいっていきました。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なまりおもりかとおもふ心持こゝろもちなにでゞもあるからんと、二三ふつたが附着くツついてそのまゝにはれないから、何心なにごゝろなくをやつてつかむと、なめらかにひやりとた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
軟泥なんでいの中に、なまりの靴がずぶずぶとめりこんで、あたりは煙がたちこめたようににごってしまった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薄ぐもりの空の下で、黄海の波がなまりいろにうねつてゐた。人つ子ひとりゐない。ペンキのせた海水小屋がぽつりぽつりと立つてゐる。みんな鍵がかけてある。僕はそれを一つ一つのぞいて廻つた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
たとへば、溶解ようかいせるなまりくちるゝとも、すこしも不思議ふしぎにはおもはぬであらう。が、これところおいては如何どうであらうか、公衆こうしゆうと、新聞紙しんぶんしとはかならかくごと監獄バステリヤは、とうに寸斷すんだんにしてしまつたであらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はた、胸に、ゆかなまりに……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
よく注意したまえと云った津田君の言葉と、悪いから御気をつけなさいと教えた巡査の言葉とは似ているなと思うとたちまち胸がなまりのように重くなる。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鎌倉の枢機すうきささやかれたその一言が、いまでも彼には、なまりを呑んで帰ったように、心を重くしていたのだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かいの火はまるでなまりの玉のようになっています。ホモイはきながらきつねあみのはなしをお父さんにしました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あゝ、僕あもう絶望ぜつぼうだよ!」投出なげだすやうな調子てうしで友は云ツた。私の胸はなまりのやうにおもくなツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
なまりおもりかとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着くッついていてそのままには取れないから、何心なく手をやってつかむと、なめらかにひやりと来た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
情婦は、思いあまって、自殺の意を決し、自分の働いている工場の熔融炉キューポラに飛びこんで、ドロドロにけたなまりの湯の中に跡方あとかたもなく死んでしまった。こんどは、若い男の番だった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「少年」と「探偵」にあたる英語の頭字かしらじBとDとの組み合わせ文字で、百円銀貨ほどの大きさのなまりのメダルをたくさんこしらえさせ、団員が、めいめい三十枚ずつほど持っている
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なまりの如く變つて、クワツと見開いた眼は、底知れぬ恐怖にかげつて、恐らくこの生命をうしなつたのうちにこそ、最後に映つた兇惡無殘な、下手人の面影がこびり付いてゐることでせう。
なまりめく首のあたりゆ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)