談話はなし)” の例文
男は二十四五の、草臥くたびれたやうな顔、女は六十ばかりの皺くちやなばあさんで、談話はなしの模様でみると、親子といふやうな調子があつた。
談話はなしをしても差支えない程度まで元気づいた時、未だ毎日采配を振りに来る母親が二人の病室の仕切りになっていた襖を外してくれた。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのかわりね、私にゃ、(芳さんと談話はなしをすることは決してならない)ッて、固くいいつけたわ。やっぱり疑ぐっているらしいよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村長は高山の依頼を言い出す機会おりの無いのに引きかえて校長細川繁はほとんど毎夜の如く富岡先生をうて十時過ぎ頃まで談話はなしている
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
談話はなしの様子で見ると、高柳夫婦は東京の方へ廻つて、江の島、鎌倉あたりを見物して来て、是から飯山へ乗込むといふ寸法らしい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いやらしい事なぞはちっとも口にしなかったが、胸と胸との談話はなしは通って、どうかして一緒いっしょになりたい位の事はたがいに思い思っていたのだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何をお思いになっておいでであろうか、または、何についてお談話はなしをなされてであったろうかと、ふと何ともいえぬなつかしみがき上りました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたし達二人の産婦は知らない仲でしたから、碌々談話はなしもしませんでした。お互いに何か盗まれたような気がして、睨み合っていたのです。
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼はこの談話はなしを聞いて、初めてそれにちがいないと悟った、その老婆の怨霊がまだこの家に残っていて、無関係の彼の眼にも見えたと思った
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
「どうか有の儘にお話して下さい。小母さんはどの位永くあの腰掛ベンチにいました。そしてその男とどんな談話はなしをなさいました?」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
改札口へ来かかると俄に混雑する人の往来ゆききに、談話はなしもそのまま、三人は停車場ていしゃばの外へ出た。吹きすさむ梅雨晴の夜風は肌寒いほどひややかである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
起上たちあがッて部屋へ帰ろうとは思いながら、ついたちそそくれて潮合しおあいを失い、まじりまじり思慮の無い顔をして面白おもしろくもない談話はなしを聞いているうちに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二人とも何やら浮かぬ顔色で今までの談話はなしが途切れたような体であッたが、しばらくして老女はきッと思いついた体で傍の匕首あいくちを手に取り上げ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
そこでそれがふたゝせないやうに、あいちやんはそれをわきしたみ、それからその友達ともだちほも談話はなしつゞけやうとしてもどつてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そなたってかうとおもって、今日きょうはわざわざ老人としより姿すがたけて出現てまいった。人間にんげん談話はなしをするのに竜体りゅうたいではちと対照うつりわるいのでな……。
貞之進はぐっと一思いに猪口ちょくをあけて、隣の男へ返そうとしたが、生憎向うむいて一心に談話はなしを仕て居るので、何と云って呼んでいゝか分らない。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
今朝けさがた、自分は決してそんな病気というような事も知らない、談話はなしさえ一度もしない、あかの他人だ、そしてこの無関係な者の眼にかく映じたのだ。
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
白旗氏しらはたうじのご子息だそうで。弓之助殿と仰せられるかな。……書面の趣き承知致した。しかし談話はなしでは意を尽くさぬ。書物があるによってお持ちなされ」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以上は紛れもなき事実で、現在これを目撃した人の談話はなしをそのまま筆記したものである、しかしそれが果して池袋の祟であるや否やは勿論保証のかぎりでない。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
日出雄少年ひでをせうねん先刻せんこくから、櫻木大佐さくらぎたいさかたはらに、行儀ぎようぎよく吾等われら談話はなしいてつたが、いとけなこゝろにもはなし筋道すぢみちはよくわかつたとへ、此時このとき可愛かあいらしき此方こなた
がとにかく主人が次の間から、茶と煙草盆を持って来たには違いない。そうして長蔵さんと談話はなしをし始めた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梅干の談話はなしはとんだ枝線しせんへ流れ込みたり。続いて下女が持出す西洋皿にはとりの肉に白き汁をかけたるあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かねてから、顔は充分見知っている仲、自然にその事が、談話はなしの皮切りとなり、私が頭をち上げると、きまり悪そうに其所そこを去ったことなども笑い話の中に出て
才物だ。なかなかの才物だとしきりにやし、あの高ぶらぬところがどうもえらい。談話はなしの面白さ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
二葉亭は談話はなし上手じょうずでもあったしかつ好きでもあった。が、この晩ぐらい興奮した事は珍らしかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
始め茂助藤兵衞等しきりと打悦び何分なにぶん宜敷よろしく御頼み申なりとて是より皆々みな/\食事しよくじなど致し十分其支度に掛りけるさて又三五郎はかねて重四郎よりの談話はなしもあれば金兵衞が子分等扇子あふぎ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
学者の談話はなしを聞ても其意味を解し、自から談話しても、其意味の深浅は兎も角も、弁ずる所の首尾全うして他人のあざけりを避ける位の心掛けは、婦人の身になくて叶わぬ事なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そのはずでございます、子が親に会うのが何で悪いことでしょう、お父上様のおよろこびが察せられます。して、久しぶりで親子御対面のお談話はなしの模様はいかがでござりました」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
店にさえおいなさりゃ、御内所ごないしょのお神さんもお前さんを贔屓ひいきにしておいでなさるんだから、また何とでも談話はなしがつくじゃアありませんか。ね、よござんすか。あれ、また呼んでるよ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
真青に澄切ってる、この湖に映じて、如何いかな風流気のない唐変木とうへんぼくも、思わずあっと叫ばずにはおられない、よく談話はなしにきく、瑞西すいつるのゲネパ湖のけいも、くやと思われたのであった、何様なにさま
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
手芸を習ふか、縁付くか、どちらにしても、しかとした談話はなしの纒まるそれまでは、かうして気楽に暮すがよい。たとへば二年三年でも、汝一人をかうして置くが、乃公の痛痒いたみになりはせぬ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
一しきり何等か談話はなしのあつたあとだなと皆の顏を見渡して私は直ぐ覺つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
其の談話はなしは、福地源ふくちげんろう君が口訳こうやくして同氏に授けたる仏国有名の小説を、同氏が例の高尚なる意匠を以て吾国の近事に翻案し、例の卓絶なる弁舌を以て一場の談話として演述したるものにて
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
談話はなしは尽きて小林監督は黙って五分心の洋燈ランプを見つめていたが人気の少い寂寥ひっそりとした室の夜気に、油を揚げるかすかな音が秋のあわれをこめて、冷めたい壁には朦朧ぼんやりと墨絵の影が映っている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
同じ宿に泊っている潮田うしおだ又之丞、近松勘六、菅谷すがのや半之丞、早水はやみ藤左衛門なぞという連中は、一室置いた次の間に集まって、かみの間に気を兼ねながらも、何やらおもしろそうに談話はなしをしていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「敵の吸筒すいづつを……看護長殿、今は談話はなしが出来ません。も少し後で……」
お父さんと談話はなしをしている。伯父さんは大変乃公を怒っているというから会う訳には行かない。乃公は戸口で談話だけ聞いていた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すべて学者といふものは、自分の専門の談話はなしをしなければ、どんな料理を食べても、それを美味うまいと思ふ事の出来ないものなのだ。
斯うした女子供のなかで談話はなしをさせると、実に文平は調子づいて来る男で、一寸したことをいかにももつともらしく言ひこなして聞かせる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
づこんなりふれた問答もんだふから、だん/\談話はなしはながさいて東京博覽會とうきようはくらんくわいうはさ眞鶴近海まなづるきんかい魚漁談ぎよれふだんとう退屈たいくつまぬかれ、やつとうらたつした。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
魔的まてき警察けいさつしのんで、署長しよちやうどのの鉛筆えんぴつさきするどはりのやうにけづつて、ニヤリとしたのがある、と談話はなしをされた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
單に黒川の音樂學校ばかりではなく、日本人の經營する事業には何に限らず關係したくないと云ふ考へが談話はなしして居る最中に動し難く定められた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
これはあたくしの父が、幼いころの気味のるかったことという、談話はなしのおりにききましたことです。場処は通油町とおりあぶらちょうでした。
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたくしは一しょう懸命けんめいるべくなみだせぬようにつとめましたが、それはははほうでも同様どうようで、そっとなみだいては笑顔えがおでかれこれと談話はなしをつづけるのでした。
『それはおまへおなじことだ』と帽子屋ばうしやひました、これで談話はなしはぱつたりんで、連中れんぢゆう霎時しばしだまつてすわつてました、其間そのあひだあいちやんは嘴太鴉はしぶとがらす
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ふさぐのでもなくしおれるのでもなく、唯何となく沈んでしまッて、母親が再び談話はなし墜緒ついしょつごうと試みても相手にもならず、どうも乙な塩梅あんばいであったが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ああとてもあの山は越えられぬとはらの中で悲しみかえっていたが、一度そのこころを起したので日数ひかずの立つうちにはだんだんと人の談話はなしや何かが耳に止まるため
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
喧嘩の出ばなをくじかれて、二人もだまって苦笑にがわらいをした。それで人形問題は立ち消えになったが、席はおのずと白らけて来て、談話はなしも今までのようにはずまなかった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕暮となりよいとなり、銀燭ぎんしょくは輝き渡りて客はようやく散じたる跡に、残るは辰弥と善平なりき。別室にさかなを新たにして、二人は込み入りたる談話はなしに身を打ち入れぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
車内の乗客は玻璃窓を閉じ鎧戸までも堅く下ろして、スチームの暖気を喜びながら賑やかにお喋舌しゃべりをつづけていた。するとそのうち人々は次第に談話はなしを途切らせた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)