トップ
>
蝉
>
せみ
ふりがな文庫
“
蝉
(
せみ
)” の例文
動物の中でもたとえばこおろぎや
蝉
(
せみ
)
などでは発声器は栄養器官の入り口とは全然独立して別の体部に取り付けられてあるのである。
自由画稿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
自分はこの三階の
宵
(
よい
)
の
間
(
ま
)
に虫の音らしい涼しさを
聴
(
き
)
いた
例
(
ためし
)
はあるが、昼のうちにやかましい
蝉
(
せみ
)
の声はついぞ自分の耳に届いた事がない。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蝉
(
せみ
)
がその単調な眠そうな声で鳴いている、
寂
(
しん
)
とした日の光がじりじりと照りつけて、今しもこの古い士族屋敷は眠ったように静かである。
河霧
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
袖や
裾
(
すそ
)
のあたりが、
恰度
(
ちょうど
)
蝉
(
せみ
)
の
衣
(
ころも
)
のように、雪明りに
透
(
す
)
いて見えて、それを通して、庭の
梧桐
(
あおぎり
)
や
金目
(
かなめ
)
などの木立がボーッと見えるのである
雪の透く袖
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
そして折り尺の一
端
(
たん
)
をにぎって、他の
端
(
はし
)
を高くお面のほうへ近づけた。すると、お面の両耳が、ぷるぷるッと
蝉
(
せみ
)
の羽根のようにふるえた。
怪星ガン
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
蜻蜓
(
とんぼ
)
や
蝉
(
せみ
)
が化し飛ぶに必ず草木を
攀
(
よ
)
じ、
蝙蝠
(
こうもり
)
は地面から
直
(
じか
)
に舞い上り能わぬから推して、仙人も足掛かりなしに飛び得ないと想うたのだ。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
わたしは無言で歩いた。男も無言でさきに立って行った。うしろの山の杉木立では、秋の
蝉
(
せみ
)
が
破
(
や
)
れた笛を吹くように
咽
(
むせ
)
んでいた。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
今日は夏を
憶
(
おも
)
い出す様な日だった。午後寒暖計が六十八度に上った。白い
蝶
(
ちょう
)
が出て舞う。
蠅
(
はえ
)
が活動する。
蝉
(
せみ
)
さえ一しきり鳴いた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
しかも、
涼霄
(
りょうしょう
)
の花も恥ずらん色なまめかしい
粧
(
よそお
)
いだった。
髪
(
かみ
)
匂
(
にお
)
やかに、
黄金
(
きん
)
の
兜巾簪
(
ときんかんざし
)
でくくり締め、
鬂
(
びん
)
には一
対
(
つい
)
の
翡翠
(
ひすい
)
の
蝉
(
せみ
)
を止めている。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一山
(
いっさん
)
の
蝉
(
せみ
)
の声の中に
埋
(
うも
)
れながら、自分は昔、春雨にぬれているこの墓を見て、感に堪えたということがなんだかうそのような心もちがした。
樗牛の事
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
後に述べたいと思うツクシという春の草なども、今では秋の
蝉
(
せみ
)
のツクツクホウシと、その名をおもやいにしようとする子さえあるのである。
野草雑記・野鳥雑記:01 野草雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
雲は白く
綿々
(
めんめん
)
として去来し、
巒気
(
らんき
)
はふりしきる
蝉
(
せみ
)
の声々にひとしおに澄みわたる、その峡中に白いボートを漕ぐ白シャツの三、五
子
(
し
)
がいる。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
山里の空気は、真夏でも、どこかひやりとしたものを包んで、お陣屋の奥ふかく、お庭さきの
蝉
(
せみ
)
しぐれが、ミーンと耳にしみわたっていた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
病後の
慄
(
ふる
)
えの見える手で乱れ書きをした消息は美しかった。
蝉
(
せみ
)
の
脱殻
(
ぬけがら
)
が忘れずに歌われてあるのを、女は気の毒にも思い、うれしくも思えた。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
蝉
(
せみ
)
が木の間で鳴いていた。
蛙
(
かえる
)
が水のほとりに鳴いていた。そして夜には、銀の波をなした月光の下に、無限の静寂があった。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ある
墓
(
はか
)
の
中
(
なか
)
からは、
木棺内
(
もくかんない
)
の
死體
(
したい
)
の
胸
(
むね
)
のあたりに、
圓
(
まる
)
い
玉
(
ぎよく
)
で
作
(
つく
)
つた
璧
(
へき
)
といふものや、
口
(
くち
)
の
邊
(
へん
)
からは
蝉
(
せみ
)
の
形
(
かたち
)
をした
玉
(
ぎよく
)
の
飾
(
かざ
)
りなどが
出
(
で
)
て
來
(
き
)
ました。
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
蝉
(
せみ
)
の声一つ聞かない巴里の町中でも最早何となく秋の空気が通って来ていた。部屋の壁に残った
蠅
(
はえ
)
は来て旅の鞄に取付いた。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
町の木立に
蝉
(
せみ
)
の聲が繁くなつて、
心太
(
ところてん
)
と甘酒の屋臺が、明神下の木蔭に陣を布く頃、八五郎はフラリとやつて來たのです。
銭形平次捕物控:220 猿蟹合戦
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
盛んに啼いている
蝉
(
せみ
)
の声も、分厚い豪奢な窓
硝子
(
ガラス
)
に遮られて遠く、
微
(
かす
)
かにしか聞こえず、壁が厚いせいであろう、暑さもさほどに感じられない。
二重心臓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
裏の
樅
(
もみ
)
の林でしきりに
蝉
(
せみ
)
が鳴いていて、どうかすると大学の話までが蝉の鳴き声の中にまぎれこんでゆくように思われた。
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
火鉢
(
ひばち
)
にかかって沸いている
茶釜
(
ちゃがま
)
の音には、ゆく夏を惜しみ悲痛な思いを鳴いている
蝉
(
せみ
)
の声がする。やがて主人が室に入る。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
蝉
(
せみ
)
の声などのまだ木蔭に涼しく聞かれる頃に、家を出ていった彼女は、行く先々で、取るべき金の当がはずれたり、
主
(
あるじ
)
が旅行中であったりした。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
鳴く
蝉
(
せみ
)
よりも何んとかいって悩んでいる訳なんだからといって、すでに
錆
(
さび
)
かかっている大和魂へ我々亭主はしきりに
光沢布巾
(
つやぶきん
)
をかけるのであった。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
彼が立って抱こうとすると、姪は桟を持ったまま叩かれた
蝉
(
せみ
)
のように不意に泣き出した。彼はぼんやりとしてしまった。
御身
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
或年の秋の大掃除の時分、めつきり
陽
(
ひ
)
の光も弱り、
蝉
(
せみ
)
の声も弱つた日、私は門前で尻を端折り手拭で頬冠りして、竹のステッキで畳を叩いてゐた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
窓の下のたうもろこしのさやかな葉ずれの音や、
蝉
(
せみ
)
の音を聞きながら、ゆき子は、三宿の富岡の部屋の事を考へてゐた。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
「ぼくの村には、夏になると、こんな声を出して鳴く
蝉
(
せみ
)
が、たくさんいます。——みいん——みいん——みいん——」
次郎物語:05 第五部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
みんな赤や
橙
(
だいだい
)
や黄のあかりがついていて、それがかわるがわる色が変わったりジーと
蝉
(
せみ
)
のように鳴ったり、数字が現われたり消えたりしているのです。
グスコーブドリの伝記
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
同じ虫のうちでも、
蝉
(
せみ
)
とかかぶと虫のような、からだのかたいものは気味が悪くないが、蛇とか毛虫とか蛙のような、柔かいものはいちばん苦手である。
触覚について
(新字新仮名)
/
宮城道雄
(著)
そして
漸
(
ようや
)
く準備が終り、一人前の人間として、充分の知識や財産を
蓄
(
たくわ
)
えた時には、もはや青春の美と情熱とを失い、
蝉
(
せみ
)
の
脱殻
(
ぬけがら
)
みたいな老人になっている。
老年と人生
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
マダム・タニイは
巴里
(
パリー
)
トロンシェ街の衣裳屋ポウラン夫人が自分で
裁断鋏
(
カッタアス
)
をふるった
蝉
(
せみ
)
の羽にシシリイ島の夕陽の燃えてる
夜宴服
(
イヴニング
)
をくしゃくしゃにして
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
「まあ、負んぶなどして」といいますと、「大木へ
蝉
(
せみ
)
が止ったようでしょう」といって揺すぶるので、「大木へ蝉、大木へ蝉」といっては取りつきます。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
上
(
あ
)
げてやらうと、
杖
(
ステツキ
)
で、……かう
引
(
ひ
)
くと、
蝉
(
せみ
)
の
腹
(
はら
)
に五つばかり、
小
(
ちひ
)
さな
海月
(
くらげ
)
の
脚
(
あし
)
の
様
(
やう
)
なのが、ふら/\とついて
泳
(
およ
)
いで
寄
(
よ
)
る、
食
(
く
)
つてゐやがる——
蝦
(
ゑび
)
である。
十和田湖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
それほど静寂であった——樹々の
梢
(
こずえ
)
では
蝉
(
せみ
)
が鳴いていたし、うす黒い木蔭のあたりでは秋の虫がすだいていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
訊問室はしばらくの間しーんとして、
蝉
(
せみ
)
の声がキニーネを飲んだときの耳鳴りを思わせるように響いてきた。
愚人の毒
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
これはまた
落雷
(
らくらい
)
のやうな
聲
(
こゑ
)
でした。さつきから
啼
(
な
)
くのをやめて、どんなことになるかとはらはらしながらきいてゐた
蝉
(
せみ
)
の
哲學者
(
てつがくしや
)
、
附近
(
あたり
)
がもとの
靜穩
(
しづかさ
)
にかへると
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
それは
梵鐘
(
ぼんしょう
)
の声さえ二三年前から聞き得なくなった事を、ふと思返して、一年は一年よりさらに
烈
(
はげ
)
しく、わたくしは
蝉
(
せみ
)
と
蛼
(
こおろぎ
)
の庭に鳴くのを
待詫
(
まちわび
)
るようになった。
虫の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
野に遊んでは蛇を殺し山を歩いては
蝉
(
せみ
)
を殺す。そうして彼らは大人となる。すると戦いをして人を殺す。また
喧嘩
(
けんか
)
をして人を殺す。人間同志殺し合うのである。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
青い田の中を
蝙蝠傘
(
こうもりがさ
)
をさした人が通る、それは町の裏通りで、そこには路にそって里川が流れ、
川楊
(
かわやなぎ
)
がこんもり茂っている。森には
蝉
(
せみ
)
の鳴き声が
喧
(
かまびす
)
しく聞こえた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
その死物狂いで欄干へとりついたのが、木の枝にかじりついた
蝉
(
せみ
)
のぬけ殻と同じような形であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
もとより人里には遠く、街道
端
(
はず
)
れの事なれば、旅の者の
往来
(
ゆきき
)
は無し。ただ
孵化
(
かえ
)
り立の
蝉
(
せみ
)
が弱々しく鳴くのと、
山鶯
(
やまうぐいす
)
の
旬
(
しゅん
)
脱
(
はず
)
れに啼くのとが、
断
(
き
)
れつ続きつ聴えるばかり。
怪異黒姫おろし
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
その種類は
蜂
(
はち
)
、
蝉
(
せみ
)
、
鈴虫
(
すずむし
)
、きりぎりす、
赤蜻蛉
(
あかとんぼ
)
、
蝶々
(
ちょうちょう
)
、バッタなどですが、ちょっと見ると、今にも
這
(
は
)
い出したり、羽根をひろげて飛び出そうというように見えます。
幕末維新懐古談:41 蘆の葉のおもちゃのはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
満山に湧く
蝉
(
せみ
)
の声も衰えた。薄明の中、私達は部隊に着いた。道から急角度にそそり立つ崖に、大きな
洞窟
(
どうくつ
)
を七つ八つも連ね、枯れた樹などで下手な
擬装
(
ぎそう
)
をしている。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
凧の種類には扇、
袢纏
(
はんてん
)
、
鳶
(
とび
)
、
蝉
(
せみ
)
、あんどん、
奴
(
やっこ
)
、
三番叟
(
さんばそう
)
、ぶか、
烏
(
からす
)
、すが凧などがあって、主に細工物で、扇の形をしていたり、蝉の形になっていたりするものである。
凧の話
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
主人
(
あるじ
)
は
甲斐甲斐
(
かいがい
)
しくはだし
尻端折
(
しりはしょり
)
で庭に下り立って、
蝉
(
せみ
)
も
雀
(
すずめ
)
も
濡
(
ぬ
)
れよとばかりに打水をしている。
太郎坊
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
××が薬をとってくるのをもどかしく待つうちにいつかうとうとしたらしい。横向きになってる背中のほうに人の気はいがしたので首をねじむけてみたら「
蝉
(
せみ
)
」だった。
胆石
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
つぶりて折節橋の上で聞くさわぎ唄も
易水
(
えきすい
)
寒
(
さぶ
)
しと通りぬけるに冬吉は
口惜
(
くや
)
しがりしがかの歌沢に申さらく
蝉
(
せみ
)
と
螢
(
ほたる
)
を
秤
(
はかり
)
にかけて鳴いて別りょか焦れて
退
(
の
)
きょかああわれこれを
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
その形は
雪見灯籠
(
ゆきみどうろう
)
のごとくにして、その火袋に直径六寸余の円き穴がある。人、もしその穴に耳をつけて聞けば、たちまち
蝉
(
せみ
)
の声のごとく、松風の音に似たる響きがする。
迷信と宗教
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
それは、輝く太陽よりも、咲誇る
向日葵
(
ひまわり
)
よりも、
鳴盛
(
なきさか
)
る
蝉
(
せみ
)
よりも、もっと打込んだ・裸身の・
壮
(
さか
)
んな・没我的な・
灼熱
(
しゃくねつ
)
した美しさだ。あのみっともない
猿
(
さる
)
の闘っている姿は。
悟浄歎異:―沙門悟浄の手記―
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
動物が子孫を
継
(
つ
)
ぐべき子供のために、その全生涯を
捧
(
ささ
)
げていることは
蝉
(
せみ
)
の例でもよくわかる。暑い夏に鳴きつづけている
蝉
(
せみ
)
は
雄蝉
(
おすぜみ
)
であって、
一生懸命
(
いっしょうけんめい
)
に
雌蝉
(
めすぜみ
)
を呼んでいるのである。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
“蝉(セミ)”の解説
セミ(蟬・蝉)は、カメムシ目(半翅目)・頸吻亜目・セミ上科(Cicadoidea)に分類される昆虫の総称。「鳴く昆虫」の一つとして知られる。ただし鳴くのは成虫の雄だけであり雌は鳴かない。
(出典:Wikipedia)
蝉
漢検準1級
部首:⾍
15画
“蝉”を含む語句
秋蝉
空蝉
蝉脱
初蝉
貂蝉
春蝉
蝉取
川蝉
晩蝉
月府玄蝉
唖蝉
蝉折
蝉口
寒蝉
蝉時雨
油蝉
蝉丸
法師蝉
松蝉
夕蝉
...