ふせ)” の例文
三日風邪でふせった。洗礼をうけてからは、お松は、自分は、神の子である、と堅く信じるようになった。重い使命を肩の上に感じた。
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「おうお、なにからなにまでよく届きます。糸かい、首の騒ぎで気分を悪うしてな、頭痛がするとか言うて奥にふせっとりますわい。」
しかし、何も知らない二頭のモルモットはそのちっちゃな可愛い足を投げ出して、一摘みの草の葉を枕にごろりと横にふせっていた。
モルモット (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
息子が早稲田に在学の時分、主人は風邪の気分でふせつてゐた。其の時分未だ嫁に行かない末の従妹………が泊り合はせて看護してゐた。
若芽 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
どうぞ悪しからず、実は家内からお送りする筈だったそうだが、二三日前から病気でふせって居るので、私が代ってお詫を申上げる。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その奇跡が実際起こったときには、彼は熱にうかされうとうとしながら、学校の病室にふせっていた。姉の姿を見ても声をたてなかった。
いや、蚊帳は釣らないでふせりました。——母屋の方はそうも行かんが、清水があって、風通しのいせいか、離座敷には蚊は居ません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大旦那おおだんなは咋夕からおふせりで、それからお嬢さんもご病気で」と挨拶あいさつした。私は、「おや」と思いながら、さっさと自分の河沿いの室へ入った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そりやいかんぢやないか。此頃は手も揃つてゐるし、少しも早くふせつたらよからう」と文太郎は心配さうに言つた。
一年半も半身不随になつて、どつとふせつたなりであつたから、小さな床屋の世帯としては、手にあまる重荷だつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「先ほど、おやぐらからお下り遊ばすと、すぐに気分がお悪いと仰せられて、典医のさしあげた薬湯やくとうも召しあがらずに、おふせりになった筈でござりますが」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お袋はまだ戸口に向かいあった寝台にふせっており、その右手にはイワン・イワーノヴィッチ・エローシキンといって、当時元老院の古参事務官であった
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
「娘はゆうべ帰りまして、それからなんだか気分が悪いとか申して、きょうも一日ふせって居りますので、まだ碌々に相談いたす暇もございませんで……」
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
戸締りをして、起きて来た娘としばらく話をして、彼女の寝室にめてある方の、玄関ともいうべき四畳半へふせった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
姉は熱のかけ冷めがはげしく、風にあたってはよくないということで、ずっと土蔵の中でふせっておりました。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寿江子はこの三四日風邪でふせって居ます。どうも大分見舞に来て欲しいらしいが私はすこしつめてやっていることがあるので、机にとりついてつい出かけない。
それからといふものは三ねんふせつたまゝ季節きせつあたゝかにればまれには蒲團ふとんからずりしてわづかつゑすがつてはやはらかなはるをさへ刺戟しげきへぬやうにまぶしがつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母親ははおやは、としをとって、それに、あいにくかぜをひいて、あちらにふせっていますが。」と、息子むすここたえて、おくへはいったが、やがて時計とけいっててまいりました。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その日私は頭痛がしてふせつてゐますと、矢張りその記者が来ました。勿論私も断りました。らいてうもるすで会はなかつたさうです。それで、ちつとも種がとれなかつたわけです。
一日いちにちとこいてふせつてこと一度いちど二度にどでは御座ござりませぬ、わたし泣虫なきむし御座ございますから、その強情がうじやう割合わりあひ腑甲斐ふがひないほど掻卷かいまきえりくひついてきました、唯々たゞ/\口惜くやなみだなので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「桃井さまはお足の傷が痛みだして動くことができず、家でふせっておいでなさいます」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「圓朝さん。いまうちの人、風邪気味でふせっていますからお目にかかれないそうです」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
新宿の帝都座で、モデルの女を雇い大きな額ぶちの後に立ったりふせたりさせ、あらかじめ別の女が西洋名画の筆者と画題とを書いたものを看客に見せた後幕を明けるのだという話であった。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
米や醤油したじ時買ときがいしなければならぬような日が、三日も四日も二人に続いていた。お島は朝から碌々ろくろく物も食べずに、不思議に今まで助かっていた鶴さん以来の蒲団ふとんかぶってふせっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と少しいきどおった気味で受合いましたから、大きにお竹も力に思って、床をってふせりました、和尚さまは枕にくと其の儘旅疲れと見え、ぐう/\と高鼾たかいびきで正体なく寝てしまいました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
楽しい空想に耽りながら、いつもの寝間の離座敷で、伊太郎は一人ふせっていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところで平生ふだんせわしく暮しておりますので、こう静かにふせっておりますと何だか独りで旅へ出て呑気のんきに温泉にでも入っておるような気が致しますし、また平生ふだん考えもせぬ事が色色と胸に浮びます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
相沢は母を呼びてともにたすけて床にふせさせしに、しばらくしてめしときは、目は直視したるままにて傍らの人をも見知らず、わが名を呼びていたくののしり、髪をむしり、蒲団ふとんみなどし
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
記者は先刻さきがた友達に出会つた時、コツペエの詩集を読みさしのまゝ、ポケツトに入れた事に気がいた。そしてその頃コツペエが風邪か何かでふせつてゐるのを思ひ出すと、覚えず小躍りして叫んだ。
した上はさぞかし氣勞きづかれもあらう程に今宵こよひは早くやすむがよいおれも今夜は早寢はやねにせんと云ば十兵衞は然樣さやうならお先へふせります御免成ごめんなされと挨拶し臥戸ふしどへこそは入にけれ跡に長庵工夫くふうこらし彼の五十兩の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふせってばかりおり、田舎にでもゆこうかといい出すしまつだった。
三ヶ月ふせった事が、きっかけになったのでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
彼は奥の間に床をとってふせっていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
爾時そのときは……、そして何んですか、せつなくって、あとでふせったと申しますのに、爾時そのときは、どんな心持こころもちでと言っていのでございましょうね。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは/\御苦勞に存じます。主人三右衞門は老病にてふせつて居りますので、久賀彌門代つて御挨拶をいたします」
車力たちが酒を飲みにやって来てかみさんといっしょにふせり、上さんをひどい目に会わしていた。そのうちの一人が彼女と結婚した、彼女に少し小金こがねがあったから。
と老人は独言ひとりごとをいって、籠を柱からはずすと、大事に捧げて、自分等がふせる居間にもって行く。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と云い捨てゝうちへ帰ってふせりましたが、何う云う因果か寝ても覚めてもうつゝにも、の息子の顔が眼先を離れませんで、漸々だん/″\ふさぐような事に成りましたゆえ、親父おやじも心配いたしましたが
照ちやんがふせつてしまつてから春三郎は一倍の苦痛を感じた。文太郎の顏には失望の色は隱されなかつた。春三郎は其を見て殘念に思つた。けれども文太郎は不平らしい顏はしなかつた。
どうしてもお前達を子守こもりに任せておけないで、毎晩お前たち三人を自分の枕許や、左右にふせらして、夜通し一人を寝かしつけたり、一人に牛乳を温めてあてがったり、一人に小用をさせたりして
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
病床にふせがちな次姉はこの噂に神経をたかぶらせて衰弱して死んだ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いとはずゆふ申刻過なゝつすぎより右の寺へ參り暫時物語等致し居存外ぞんぐわいおそなはり夜亥刻よつどきちかころ上伊呂村迄歸り來りし時河原にて何やらにつまづきたれども宵闇よひやみなれば物の文色あいもんは分らずたゞ人の樣子ゆゑさけゑひし者のふせり居し事と心得氣のせくまゝ能もたゞさず早々歸宅仕り其夜は直樣すぐさま打臥うちふし翌朝よくてうおき出門の戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あのね、わたいは今夜塩梅あんばいが悪いから、どこからかかって来てもお座敷はみんな断って下さいな、そして姐さんがお帰りだったら済みませんがお先へふせりましたッてね。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綺堂先生が風邪かなんかでふせっていた時、退屈のあまり、『江戸名所図会ずえ』をひもといていて、フトこれを舞台に、江戸末期の風物詩的な捕物を書いて見ようと思い付いたということである。
悋気りんきでいうが、世間へ漏れては成りませんから、又市は種々いろ/\なだめて、その晩は共にふせりましたことで、ず機嫌も直りましたが、翌朝よくあさになり、又市は此処に長く居ては都合が悪いと心得
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
同道にて忠兵衞のたくに到り私しは赤坂表町家主長助と申す者なりと初對面しよたいめんの挨拶もすみさて段々だん/\と此お光よりうけたまはりしに御自分ごじぶん事八ヶ年以前八月廿八日未明みめいに平川天神御參詣の折節をりふし麹町三丁目町醫師まちいし村井長庵におあひなされしとの事道十郎殿むじつの罪におちいりしも長庵は其あさ不快ふくわいにてふせり居り弟の見送みおくりにさへ出る事あた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はあ、私がふせりまして、枕に髪をこすりつけて、もだえて、あせって、れて、つくづく口惜くやしくって、なさけなくって、身がしびれるような、骨が溶けるような、心持でいた時でした。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やどでもついこの間、窓を開けて寝られるから涼しくっていてって、此室ここふせりましてね、夜中に戸迷とまどいをして、それは貴下あなた、方々へ打附ぶつかりなんかして、飛んだ可笑おかしかったことがござんすの。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か打合せがあって、そっと目をつけていたものでもあると見えます。お米はそのまんま、手が震えて、足がふらついて、わなわなして、急に熱でも出たように、部屋へ下ってふせりましたそうな。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お雪さんにお聞きなさいまし、貴方あなたは御存じでいらっしゃるんだよ、可憎にくらしゅうございますねえ、でもあのお気の毒さまでございますこと、お雪さんは貴方、久しい間病気でふせっておりますが。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)