牛蒡ごぼう)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そいつは聴かない方がいい、——なア八、憎いのは町内の衆じゃなくて、人間を牛蒡ごぼう人参にんじんのように斬って歩く、辻斬野郎じゃないか」
その子の金平きんぴらも、きんぴら牛蒡ごぼうやきんぴら糊に名を残したばかりか、江戸初期の芝居や浄瑠璃には、なくてはならない大立者おおだてものだ。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
と僕は赤くなって詰問しようとすると、次のベルがなって、再び僕らはハンドルを執らせられる——と、Rが、蓮根れんこん牛蒡ごぼうかかえて現れ
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
色を増した紅葉の間から、鮮やかな曲りで瑠璃色のあけびの実が垂れ、小豆の粒の艶麗な光沢と、毛ばだった牛蒡ごぼうの種とが板の間に並ぶ。
しかしてその妖巫の眼力が邪視だ。本邦にも、飛騨ひだ牛蒡ごぼう種てふ家筋あり、その男女が悪意もてにらむと、人は申すに及ばず菜大根すらしぼむ。
それから水一升に酒一合の割合で二時間ばかり煮て、牛蒡ごぼう糸蒟蒻いとごんにゃくと木くらげがあればなおいい。あるいは外の野菜でも時の物で構わん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ところで『六号室』(一八九二)の中の気の毒な医者は、百万年後の地球には牛蒡ごぼう一本生えまいと考えているが、あれは一体どうなるのだ。
私たちは今年三度目どめ、イギリス海岸へ行きました。瀬川せがわ鉄橋てっきょうを渡り牛蒡ごぼう甘藍かんらんが青白いうらをひるがえすはたけの間の細い道を通りました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
牛蒡ごぼうたばねに、引括ひきくくつた両刀を背中に背負しょはせた、御番の衆は立ちかゝつて、左右から、曲者くせものの手を引張つて遠ざかつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、その液体の匂いであろうかそれとも鉢の花の匂いであろうか、こころよ牛蒡ごぼうにおいのような匂が脳にとおるように感じた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かないが塩でで、持って来よったようじゃが最初のうちは香気が高くてナカナカ美味おいしいものじゃよ。新牛蒡ごぼうのようなものじゃ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この衝立ついたての後に有合物ありあいもので一杯やって居ります、へー、碌な物は有りませんが、此のうちの婆さんは綺麗ずきで芋を煮ても牛蒡ごぼう
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから酒を買って来て、火をおこし、笹がき牛蒡ごぼうを作って泥鰌をなべに入れ、酒で酔わせて、味噌汁にしかけてから、坐って縫物をとりひろげた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「……今までお話し申しあげましたように、万事、民政党のやり口というものは、ずるい。「人の法事で牛蒡ごぼうをする」ということわざがありますが、……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「どうれ、けえつて牛蒡ごぼうでもこせえべえ、明日あした天秤棒てんびんぼうかついで支障さはりにならあ」剽輕へうきん相手あひておもしたやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
忽ち、縄でくくり上げられてしまった。張は、牛蒡ごぼうと大根とねぎを鍋に入れ、たぬき汁に煮て、家族と共に腹鼓をうった。
支那の狸汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今でも牛蒡ごぼうを掘るという感じで使われているが、事によったらこのゴンボは酔っぱらいのことであったかも知れない。
でも、幾分の期待をかけて、牛蒡ごぼうを抜くように引っぱり出してみると、それは人間のすねか腕らしい一本の白骨だった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畑から抜いてきた牛蒡ごぼうのように、黒くて、土臭かった。——然し、そのどの顔もたった一つのこと、「食えるか」「食えないか」で、引きつッていた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ほか家鴨達あひるたちは、こんな、あしすべりそうな土堤どてのぼって、牛蒡ごぼうしたすわって、この親家鴨おやあひるとおしゃべりするより、かわおよまわほうがよっぽど面白おもしろいのです。
それに君如何どうだ、細君は殆んど僕等の喰ひあましの胡蘿蔔にんじん牛蒡ごぼうにもありつかずに平素しよつちう漬物ばかりをかぢつてる、一片ひときれだつて亭主の分前わけまへに預つたことはないよ。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「このお加減が大変いゝこと。ほんとに上手に出来ててよ。」と、おかみさんは牛蒡ごぼうのきんぴらを賞めて下さる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
……うず高く積んだ牛蒡ごぼうじめのかげ、歯朶しだの、裏白の、それぞれのいろをふかめて、日毎に霜はいよいよ白い。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
とうとう牛蒡ごぼう抜きにやられてしまいました。いやはや、強いのなんのといって、とてもお話になりません。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
隣りにすわって居る仙吉の方を横目で微かに見ると、顔中へ饂飩粉うどんこに似た白い塊が二三分の厚さにこびり着いて盛り上り、牛蒡ごぼうの天ぷらのような姿をしている。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
牛蒡ごぼう畑、大根畑が一面に連なり渡っていたが、ふと、五、六間先にねぎの白い根を上げた畑が眼に入った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
式は東京でするとのことであったが円光寺では、少くとも幾人かの村の人々に別れをしなければならぬといって、塩青魚しおさばや大根や牛蒡ごぼうの煮つけで簡単な式を挙げた。
それで材料を買いに出たわけであるが、驚いたことには、この先生、道路の真ん中を悠然と歩きながら、「あの牛蒡ごぼうは食える」とか「あのこんにゃくはいい」とか言う。
面白味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ジャガ薯煮つけ、刻み牛蒡ごぼう等で、昼、夜と二食同じ副食物がついた。そして、それは大抵二日ずつ繰返される。「がんもどき」を八十日に一度、粗悪な魚のきりみ一度。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と見ると、その番小屋の小半丁こはんちょう手前、鉄道線路の土手のすぐそば一際ひときわ深い叢の中から、三本の、あるいは黒く或は白い牛蒡ごぼうの様なものが生えて、それがピンピン動いていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ソレカラ又家に客を招く時に、大根や牛蒡ごぼうを煮てくわせると云うことについて、必要があるから母の指図さしずに従て働て居た。所で私は客などがウヂャ/\酒をむのは大嫌い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
牛蒡ごぼうはす里芋さといもの煮つけの大皿あり、屠蘇とそはなけれど配給のなおし酒は甘く子供よろこびてなめる。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くめ子は柄鍋に出汁だしと味噌汁とを注いで、ささがし牛蒡ごぼうつまみ入れる。瓦斯ガスこんろで掻き立てた。くめ子は小魚が白い腹を浮かして熱く出来上った汁を朱塗の大椀に盛った。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
路地の入り口で牛蒡ごぼう蓮根れんこんいも、三ツ葉、蒟蒻こんにゃく紅生姜べにしょうがするめ、鰯など一銭天婦羅てんぷらげて商っている種吉たねきちは借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉うどんこをこねる真似まねした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
調理台で、牛蒡ごぼうを切っていた吉永が、南京袋の前掛けをかけたまま入口へやって来た。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
もう久しくあたってない鳩羽色の、まず牛蒡ごぼうといった感じの二重顎にも、飛びだした眼にも、息ぎれの様子にも、不細工な無精たらしい姿全体にも、声音にも笑いごえにも言葉にも
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
茄子なす、ぼうぶら(かぼちゃ)、人参、牛蒡ごぼう、瓜、黄瓜など、もとよりあった。ふきもあり、みょうがもあり、唐黍とうきび(唐もろこし)もあり、葱もあり、ちしゃもあり、らっきょもあった。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
前垂まえだれがけの下から八百屋で買って来た牛蒡ごぼう人参にんじんを出してテーブルの上へのせておいたまま「これはおかずです」とその野菜をいじりながら雑誌を一生懸命に読出したということや
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
玉菜たまな赤茄子あかなすねぎ玉葱たまねぎ大根だいこんかぶ人参にんじん牛蒡ごぼう南瓜かぼちゃ冬瓜とうがん胡瓜きゅうり馬鈴薯ばれいしょ蓮根れんこん慈姑くわい生姜しょうが、三つ葉——あらゆる野菜に蔽われている。蔽われている? 蔽わ——そうではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
唐芋とういもや八つがしらや蓮根などが、牛蒡ごぼう青蕪あおかぶと位置を争ってその存在を示すようになり、魚屋の店先へはかれいやひしこが、かじきまぐろはぜなどと並んで、同じように存在を示すようになる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
久住は、その、不思議な形をした、牛蒡ごぼうとも見える、魚の乾物のようなものを、しばらく、指で挾んでぶら下げて、何かしきりに考えていたが、いきなり、ぽいと、火の中へほうり込んで
「そば粉三袋、牛蒡ごぼう、六はら村の長徳寺様より西町の芋七へ下さる」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花の痛いは種牛蒡ごぼう、勧進帳のすず懸けだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
牛蒡ごぼう人参にんじんなどの好い野菜を出す土地だ。滋野は北佐久きたさくの領分でなく、小県ちいさがたの傾斜にある農村で、その附近の村々から通って来る学生も多い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
第二十五 五目ごもく飯 と申すのは色々の野菜を入れたものです。先ず牛蒡ごぼうをササきにしてしばらく水へ漬けてアクを抜きます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ウアイー賛成! 賛成! 助かりや助かりや、有難や有難や、勿体なや、サンタ・マリア……一丁テレスコ天上界。八百屋の人参、牛蒡ごぼうえ——」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、やおら次郎は、鋭利な刃物のすげてある牛蒡ごぼうのような黒い棒を横に持って、三方に立った三人の人間を、どいつから先に突こうかと見廻しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なあに、がためるところけてせえけば大丈夫でえぢやうぶなものさ、田植たうゑまでるやうににはめてくのよ」亭主ていしゆ自分じぶんわん牛蒡ごぼうはさんでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あくもいいお天気てんきで、お日様ひさまあお牛蒡ごぼうにきらきらしてきました。そこで母鳥ははどり子供達こどもたちをぞろぞろ水際みずぎわれてて、ポシャンとみました。