深山みやま)” の例文
いずこの深山みやまにもある習いで、四季ともに花が絶えないので此の名が伝わったのでしょう。今は米躑躅こめつつじの細かい花が咲いていました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつはりではけれどくすとはなにを、デハわたしからまをしませう深山みやまがくれのはなのおこゝろひさして莞爾につことすれば、アレわらふてははぬぞよ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
頼政殿は、清和せいわ源氏の嫡流ちゃくりゅうで、武芸はもとより、文武両道に優れた得難いお人、かつて近衛院の頃、お歌会で、深山みやまの花という即題に
文治夫婦は深山みやまの小屋にて、島に一年蟄居ちっきょの話、穴に一年難儀の話、積る話に実がりまして、思わず秋の夜長を語り明しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
笹村のおいが一人、田舎いなかから出て来たころには家が狭いので、一緒にいた深山みやまという友人は同じ長屋の別の家に住むことになった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
虫取菫むしとりすみれの紫花、白山小桜の紅花、深山みやまキンポウゲの黄花など、色とりどりに美しい。登るに従って植物の光景も多少変って来る。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
深山みやま理学士が実験衣を脱いで、卓子テーブルの上へポーンとほうり出したときに、廊下にコツコツと聞き覚えた跫音あしおとがして、白丘ダリアがやって来た。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聞きながらこの曲の構想を得たのである手事の旋律せんりつは鶯のこおれる涙今やとくらんと云う深山みやまの雪のけそめる春の始めから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雪深き深山みやま人気ひとけとだえしみち旅客たびびと一人ひとりゆきぬ。ゆきいよいよ深く、路ますます危うく、寒気え難くなりてついに倒れぬ。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
深山みやまはんの木の根方にうち倒れた、醜い空骸は、土に還ると共に、根方に寄生して、そこから穂のような花をさし出すおにくという植物になった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれを案内に立ててあたふたと、ああしてこの深山みやまの湯へ分け入って来たのだけれど、そういつまでも江戸の道場を空けておくわけにもいかない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
誰やらの申しました『深山みやまがくれの草』とばかり思えて、いくら繁くとも誰方もお認めなさいますまいと思って居ります
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
歌詞は“おもひを篠舟さゝふねにのせれば、思ひは沈む恋は浮く”というのや“波の八島をのがれ来て、たき木刈るてふ深山みやまべに、ゑぼし狩衣ぬぎすてて
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深山みやま美玉都門びぎょくともんいってより三千の碔砆ぶふに顔色なからしめたる評判嘖々さくさくたりし当代の佳人岩沼令嬢には幾多の公子豪商熱血を頭脳にちょうしてその一顰一笑いっぴんいっしょう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いっさいをこんなふうに清算なさいまして深山みやま雲霞くもかすみの中に紛れておはいりになりましたあとのわれわれ弟子どもはどんなに悲しんでいるかしれません
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その小灌木の大部分は深山みやま霧島性のつつじで、そのつつじが絶頂まで茂っている趣きは普賢と全く相違している。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
それから国境の深山みやまを通じる山道にさしかかるのだが、あいにく雨天であったため傘なしのずぶぬれで、遂に雨の石槌山にたどりつき、その絶頂に登った。
若き日の思い出 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「これこれ何をいうのじゃ、泥棒崇拝は少し慎しんだがよかろう、深山みやま君、君はこの問題をどう思うネ?」
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
火をたいている青い烟は微かに棚曳たなびいて深山みやまの谷に沈んでいる。一人の悪者は、捕われた男の前に立って両腕を組んでいる。この間互に一言も言い交わさなかった。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
嗚呼、王侯の前に屈せざりし首よ、人を殺し火を放つはかりごとを出しゝ首よ、深山みやまの荒鷲に似たる男等の首よ。今は靜に身を籠中に托すること、人に馴れたる小鳥の如し。
高坂は語りつつも、長途ちょうとくるしみ、雨露あめつゆさらされた当時を思い起すに付け、今も、気弱り、しん疲れて、ここに深山みやまちり一つ、心にかからぬ折ながら、なおかつ垂々たらたらそびらに汗。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さへ置かれけるとか和田鳥居と過來つる目にはさしも深山みやまうちなりとは思はれず左りながら此宿このしゆく
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
こうして不景気に隠れん坊をしているくらいなら、深山みやまの中も、根岸の里も、変ったことはない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは、木彫りの熊・深山みやまははこの鉢植・一面に瑞西スイツル風景を描いた鈴・智恵の小箱・コルク細工の壜栓びんせん・色塗りの白粉おしろい入れ・等原始的な玩具おもちゃの土産類をひさぐ店々である。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そこで深山みやまの奥へ行き、ご婚礼ということになる。だがおれには疑問だよ。どうしていったい女というものは、退治られるまでは騒ぐんだろう? 思うにあいつは商法だね。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あのづるへんわが故國ここくでは今頃いまごろさだめて、都大路みやこおほぢ繁華はんくわなるところより、深山みやまをくそま伏屋ふせやいたるまで、家々いへ/\戸々こゝまる國旗こくきひるがへして、御國みくにさかえいわつてことであらう。
いそぎ申し上げよといふ。夢然いよいよ恐れて、殿下とおほせ出され侍るは一二四誰にてわたらせ給ひ、かかる深山みやま夜宴やえんをもよほし給ふや。一二五更にいぶかしき事に侍るといふ。
はるむかうの深山みやまでゴロゴロというおとがして、同時どうじくらむばかりの稲妻いなづまひかる。
葡萄蔓えびかづらかとも見ゆる髪の中には、いたいけな四十雀しじふからが何羽とも知れず巣食うて居つた。まいて手足はさながら深山みやまの松檜にまがうて、足音は七つの谷々にもこだまするばかりでおぢやる。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
右のとまり山するは此地にかぎらずほかにもする所あり。小出嶋こいでじまといふあたり、上越後山根やまね在々ざい/\にてもするなり。すべて深山みやまにありて事をなすには山ことばといふありてこれをつかふ。
骨無しのとろとろ、立つべきを何けつる。深山みやま一木檞ひときかしの、風に立つ樹思へや。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
風や雪を防ぐために石をのせた板屋根を見ると、深山みやまずまいも思いやられます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四百四病のそのうちひん程つらきものはなし、心は花であらばあれ、深山みやまがくれのやつれたれおもいを起すべき、人間万事かねの世の中、金は力なり威力なり、金のみは我らに市民権を与う
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
むかし深山みやまの奥に、一匹の虎住みけり。幾星霜いくとしつきをや経たりけん、からだ尋常よのつねこうしよりもおおきく、まなこは百錬の鏡を欺き、ひげ一束ひとつかの針に似て、一度ひとたびゆれば声山谷さんこくとどろかして、こずえの鳥も落ちなんばかり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
赤ショウビン一名深山みやまショウビンが、歌に詠まれた水恋鳥みずこいどりのことだという説は、関東の方でも信じている人が多い。普通の会話には用いにくい言葉だが、本を読まぬ人でもこの名はよく知っている。
ほととぎす岩山みちの小笹をざゝ二町深山みやまといふにわらひたまひぬ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
崖下をとをりて仰ぐ眼に紅葉深山みやまをいでゝ峡はあかるし
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
石楠花しやくなぎいきづく深山みやま、——『寂靜さびしみ』と
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
散る花の音聞く程の深山みやまかな 心敬
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あきはてぬ、この深山みやまはや
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
今日は深山みやまの崖となる
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
花は 深山みやま
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
沖はよくぎてさざなみしわもなく島山の黒き影に囲まれてそのしずかなるは深山みやまの湖水かとも思わるるばかり、足もとまで月影澄み遠浅とおあさの砂白く水底みなそこに光れり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
めてつかへんかそれなんとしてもなることならずてもかくてもなればひとはぬ深山みやまおくにかきこもりて松風まつかぜみゝ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうしてあんたと二人で夫婦になって、深山みやまの奥なりとんで暮したいが、それに就いてもせめ金子かねの五六十両も持ってお出でやというと、おゝ左様さよ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かの『古今集』の歌の「深山みやまにはあられ降るらし外山とやまなるまさきのかづら色づきにけり」にあるマサキノカズラも
残るは深山みやま理学士だ。これは確かにあやしくてもいい人物だ。しかし彼は赤外線男を見たという。赤外線男が二人もあるなら格別、一人なら彼の嫌疑けんぎは薄い。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「声は深山みやまに聞く者もあるが、かつて、形は見た人がないと言い伝えのある仏法僧ぶっぽうそうはあれでござりましょう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この三つの国が、富士の裾の籠坂峠かごさかとうげから一線に延びる連山の一ばん高いてっぺんに出会ったところが、この三国ヶ嶽で、いうまでもなく、訪う人も深山みやまの奥だ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「浮世が幻であるとしたら、女人もきっと美しい幻なのだ。幻なればこそ、凡夫は其れに迷わされるのだ。ちょうど深山みやまを行く旅人が、狭霧さぎりの中に迷うように。」
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)