きた)” の例文
旧字:
さりながら歴史を進展せしむる動力は断じてこれのみではないのであります。述べきたった二ツの力も確かに歴史を動かす動力である。
流れ行く歴史の動力 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
追放の刑を受けて他国に赴いたものが、容易に安住の場所を得難かった事は、別項「きたにんの地位と職業」中にも述べた通りである。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
何ぞかん、俗に混じて、しかもみづから俗ならざるには。まがきに菊有り。ことげん無し。南山なんざんきたれば常に悠々。寿陵余子じゆりようよし文を陋屋ろうをくに売る。
たまたまそとより基督信徒のきたるあれば我らは旧友に会せしがごとく、敵地にありて味方に会せしがごとく、うち悦びてこれを迎えたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そうと、外套の袖口と、膝の処が泥だらけになりおれども、顔面には何等苦悶のあとなく、明け放ちたる入りきたる冷風に吹かれおり。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
良民社会に対して容易ならぬ恩人なるを知り我が前に行く目科の身が急に重々しさを増しきたり、其背長せたけさえ七八寸も延しかと疑わる
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と蚊のうめくようなる声して、ぶつぶついうその音調は、一たび口を出でて、唇を垂れおおえる鼻にってやがて他の耳にきたるならずや。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一が去り、二がきたり、二が消えて三が生まるるがためにうれしいのではない。初から窈然ようぜんとして同所どうしょ把住はじゅうするおもむきで嬉しいのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また従来から久しく人口に膾炙かいしゃきたって口に慣れているので、今殊更にこれを改めなくてもあえて不都合を感じないからでもあった。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その蜿蜓えんえんと廻り廻って上から下までずっと流れ去り流れきたる有様はちょうど一流の旗が大地に引かれて居るような有様に見えたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
抽斎が優善のために座敷牢を作らせたのは、そういう失踪しっそうの間の事で、その早晩かえきたるをうかがってこのうちに投ぜようとしたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほ一層の探索と一番の熟考とをげて後、きたくは再び来らんもおそからず、と失望のうち別に幾分の得るところあるをひそかに喜べり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かの戦争に如何いかなる意義があったか、如何なる効果をかの戦争の犠牲に由って持ちきたしたか、戦争の名は如何様いかように美くしかったにせよ
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
丹治は大きな獲物の落ちきた刹那せつなの光景を想像しながら鶴の方を見た。鶴は平気で長いくびかしげるようにしていた。丹治は眼をみはった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時、往手ゆくての林の中から、いかにもあわただしく転がり出して、こけつまろびつ、こちらへ向って走りきたる二つの物体がありました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしは一葉柳浪鏡花等の作中に現れきたる人物の境遇と情緒とは、江戸浄瑠璃中のものに彷彿としてゐる事を言はねばならない。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
後世こうせい地上ちじょうきたるべき善美ぜんびなる生活せいかつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも圧制者あっせいしゃ残忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどおらしむるところの、まど鉄格子てつごうしのことなどである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
太子問ひたまふ所の義、師(慧慈ゑじ)も通ぜざる所有り。太子夜の夢に金人のきたりて不解義を教ふるを見たまふ。太子めて後即ちこれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
春告鳥はるつげどり』の中で「入りきた婀娜者あだもの」は「つまをとつて白き足を見せ」ている。浮世絵師も種々の方法によってはぎを露出させている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
きたる七月十四日、ジロ楽園カーニバルさいの当夜、殺人遊戯の大団円が来るのだ。その夜残りすくなのメンバー達は、みなごろしになる。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おのずから南は人口も多く、町々も多くまた繁昌はんじょうきたしました。しかしどういうものか、それに比べ手仕事が特にゆたかだとは申されません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
山三郎は石塔の際へ馬をとゞめて居る。圖書は山三郎はまだきたらんと心得てぱっ/\と土煙を立って参りますと、わきから声を掛けまして
だが、だが、激しい陣痛の兆候はきたる。生まれんとする者は胎内に張りつめる。何としても、死んでも生まなければならないのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
赤々として熱そうな、日入いりひの影が彼方むこうの松林に照りつけると、蜩の声は深山の渓間たにまで鳴くのである。もはや帰るべき時はきたった。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むやみと放棄しきたった過去の無定見むていけんを反省し、さらにさらに研究して、ふぐの存在を充分有意義ならしめたいと私は望んでいる。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
通つて来る二三人の家庭教師にかされてゐるが、実は父が家庭に於ける享楽きょうらく生活に手不足をきたすのを、父は極力嫌つたためでもあつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
防者は皆打者の球は常に自己の前に落ちきたる者と覚悟かくごせざるべからず。基人ベースマンは常に自己に向って球を投げらるる者と覚悟せざるべからず。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
商売運の目出たい笑名は女運にも果報があって、おいようやきたらんとするころとうとう一のとみを突き当てて妙齢の美人を妻とした。
道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのはきぬを裂くよりも容易だ。ただ、容易にきたらぬはこれを破るに至る機会である。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かかる現象にありては或原因の結果として起った者が必ずしも合目的とはいわれない、全体の目的と一部の現象とは衝突をきたす事がある。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
彼は思えり、そのきたらざるをたのむなく、我が待つあるを恃むべしと。彼は思えり、食を足し、兵を足す、これ国防の主眼なりと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この日同志の一人大高源吾はふたたび宗匠山田宗徧のところから、きたる十四日いよいよ上野介の自邸において納めの茶会がもよおされる
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
是も宝暦年間(一七五一)の『倉橋風土記』に、「本浦の人きたって畑を開く。鼠害そがい甚だしき故にこれをつ」とあるそうである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
僕のごときも今日まで幾度となくこのあやまちを繰り返しきたったもので、今にしてこれをかえりみるとまぬことをしたと思うことがたびたびある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
……と私は考えるのです。そう思い去り思いきたると、何十万の白骨もくるめて、上下なく、誰も彼も、ただあわれでなりません。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分が従来服従しきたったところのものに対して或る反抗を起さねばならぬような境地(と私は言いたい。理窟りくつすべて後から生れる者である)
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
未明みめい食事をおはりて出立し又水流すいりうさかのぼる、無数の瀑布を経過けいくわして五千五百呎のたかきに至れば水流まつたき、源泉は岩罅かんこより混々こん/\として出できた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
或は川をわたり、或は裏口より突然にきたるあり。或は跡より追い来るの人あり。其混雑なるは実に一種の世界たるを覚えたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
新らしい奉公人はその古い奉公人の為しきたったことを少し見習って、その古い奉公人の出て行ったあとは自分ですべての事に当るようになる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
だから私の有する知識とは、要するに私の過去を整理し、未来に起りきたるべき事件を取り扱う上の参考となるべき用具である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「我らは遠く山を越えてきたれる不弥うみの者。我らを放せ。」と訶和郎はいった。反耶の視線は訶和郎から卑弥呼の方へ流された。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と、論じきたれば、ドリー助教授は自席で目を白黒してあわてていた。じつは老学者にも、この研究問題は、まだ解けていなかったのである。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると第十六世紀になって所謂文芸復興期がきたり、今日の科学者の先駆があらわれ、人体の解剖生理の学が発達して、再び機械説が勝利を得
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
分娩ぶんべんすると同時に、又もいつの苦悶は出できたりぬ。そは重井おもゐと公然の夫婦ならねば、の籍をば如何いかにせんとの事なりき。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
その上に、もし一度ひとたび興起り、想みなぎきたって、無我の境に筆をとる時の、ひとみは輝き、青白いほおに紅潮のぼれば、それこそ他の模倣をゆるさない。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これきたりてもって建文の位をゆずれるに涙をおとし、燕棣えんていの国を奪えるに歯をくいしばり、慷慨こうがい悲憤して以て回天の業をさんとするの女英雄じょえいゆうとなす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
以上は漢語の、支那における発音に基づいたものであって、勿論多少日本化しているのであろうが、多分平安朝以来用いきたったものであろう。
国語音韻の変遷 (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
きたる」は行四段の動詞である。「み冬つき春は吉多礼登キタレド」(巻十七・三九〇一)「冬すぎて暖来良思ハルキタルラシ」(巻十・一八四四)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぐ通じなくてはならない、それがこうだろうといっても、さようですかいなわかりまへんではしゃくが起る、これが度々重なると魂は衰弱をきた
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
は人にたすけられて高所たかきところ逃登にげのぼはるか駅中えきちゆうのぞめば、提灯ちやうちんたいまつともしつれ大勢の男どもてに々に木鋤こすきをかたげ、雪をこえ水をわたりこゑをあげてこゝにきたる。