平生へいぜい)” の例文
だから、小僧こぞうがものをいう時分じぶんには、みみたぶがあかくなって、平生へいぜいでさえ、なんとなく、そのようすがあわれにられたのであります。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
平生へいぜいからあざけるものはあざけるが、心優こゝろやさしい衣絵きぬゑさんは、それでもどくがつて、存分ぞんぶんかしてむやうにとつた厚情こゝろざしなのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平生へいぜい腰かがみて衣物きものすその引きずるを、三角に取り上げて前に縫いつけてありしが、まざまざとその通りにて、縞目しまめにも見覚みおぼえあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
平生へいぜい私の処にく来るおばばさんがあって、私の母より少し年長のお婆さんで、お八重やえさんと云う人。今でもの人のかおを覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時にお登和さん、私はこういう話を聞ました。東京のある氷店の主人が大層アイスクリームを上手にこしらえ平生へいぜい客に自慢するそうです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十六日の口書くちがき、三奉行の権詐けんさわれ死地しちかんとするを知り、ってさらに生をこいねがうの心なし、これまた平生へいぜい学問のとくしかるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
また私ははたして政府の人であるかあるいは純粋の仏教僧侶であるか、またその平生へいぜいの行為はいかがであるかを逐一調査せられたい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
單純たんじゆんなレウマチスせい頭痛づつうではあつたが、りよ平生へいぜいからすこ神經質しんけいしつであつたので、かりつけ醫者いしやくすりんでもなか/\なほらない。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
金銭のことを口にするのは卑しいことだと、おちぶれ士族の娘である母はかたく信じていて、平生へいぜいから子供たちにいいきかせてあった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
其婦人は三十何年間日本にゐて、平安朝文学に関する造詣深く、平生へいぜい日本人に対しては自由に雅語を駆使して応対したといふ事である。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こんな狂人きやうじんじみた女のおほ袈裟な言葉を釣り出し、それを根據にまたこちら自身の平生へいぜいを人が世間に廣告しては甚だ以つておほ迷惑だ。
いふ心夢しんむとはつね平生へいぜいこゝろに思ふ事を見るをいふなりこの時奧方おくがたの見給ふは靈夢れいむにして天下の主將しゆしやうなるべきさが後々のち/\思ひしられたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや、そのときあわてて構えずとも、外的な事故によって内なるものが動揺を受けないように、平生へいぜいから構えができてしまっている。
平生へいぜいは一ぽんきりしてゐないけれども、二本帶ほんさしてある資格しかくつてゐて、與力よりき京武士みやこぶしあとまはらなくてもいいだけの地位ちゐになつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
また実際仲間の若者たちも彼の秘密をぎつけるには、余りに平生へいぜい素戔嗚すさのおが、恋愛とははるかに縁の遠い、野蛮やばんな生活を送り過ぎていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
湖山は唐の白居易はくきょいがその友元微之げんびしから贈られた詩を屏風に書きつけたという風雅の故事にならい、江戸当時の詩人の中平生へいぜい師と尊び
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お父様は平生へいぜい決して妓楼へはいらっしゃらないのですが、その折は前以て病気の人でもあってはと、お出になったかに聞きました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それぞれ御用ごようちがうので、平生へいぜい別々べつべつになっておはたらきになり、たまにしかしょになって、おくつろあそばすことがないともうします……。
病人は平生へいぜいから自分の持っている両蓋の銀側時計を弟の健三に見せて、「これを今に御前に遣ろう」とほとんど口癖くちくせのようにいっていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この夫に対する仕向しむけは両三年来の平生へいぜいを貫きて、彼の性質とも病身のゆゑとも許さるるまでに目慣めならされて又彼方あなたよりも咎められざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ここにおいてわがはいは日々の心得こころえ尋常じんじょう平生へいぜい自戒じかいをつづりて、自己の記憶きおくを新たにするとともに同志の人々の考えにきょうしたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こう思うと、われわれの平生へいぜいは、ただ方便ほうべんしゅとすることばかりおおくて、かえってこの花前に気恥きはずかしいような感じもする。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
平生へいぜいは往来も少なく、昼でも寂しい場所であるから、この方面から忍び込んで死骸をかつぎ出すようなことが無いとは云えない。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父は平生へいぜいから、物を見る標準を金に置いていた。品物を買うのにも、まず値段をきいて、それで品物のよいわるいを決めていた。
自分は幼い時からややもすると死の不安に襲われて平生へいぜい少しの病気もない健かな身体からだでありながらかえって若死をする気がしてならなかった。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
二人共平生へいぜいの通りの樣子をしようとつとめた。しかし彼等が戰はねばならぬ悲しみは完全に征服され、または隱しおほはれるものではなかつた。
野郎やらうこんなせはしいときころがりみやがつてくたばるつもりでもあんべえ」と卯平うへい平生へいぜいになくんなことをいつた。勘次かんじあとひといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかしいつも覆面しているので顔も判らず、又平生へいぜいは、どんな生活をしているひとなのだか、それも殆んど判っていない。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平生へいぜい、好んで、パンを何もつけずに食うのである。で、その晩もやはり、兄貴のフェリックスより早く歩く——自分が先に貰いたいからである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その句の傾向は平生へいぜい目睹もくとする卑近な人事景色の内から、比較的趣味の深い趣向を見つけ出して、屈折をつけて平凡でないように叙するのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
正岡君は平生へいぜい君を知っていたらしいのでまず君の名が星田代二であると信じている。けれど、まず僕はそれから取調べてかからなければならない。
平生へいぜいはふつうの人のはいれない、離宮やぎょえんや、宮内省くないしょうの一部なども開放されたので、人々はそれらの中へもおしおしになってにげこみました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、おひめさまが平生へいぜい大臣だいじんのおむすめ似合にあわず、行儀ぎょうぎわるいことをさんざんにならべて
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
東鶏冠山とうけいかんざん北堡塁ほくほうるいや、松樹山の補備砲台は、平生へいぜいセメントや煉瓦れんがをいぢくる商売がら、つい熱心に見て廻つたが、けつきよく僕にわかつたことは
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それから西浦賀の上成寺じょうせいじ平生へいぜい有りそうに思って其の夜忍び込み、此の寺で二百両で、金は随分あるにもせよ肴がなくてはお淋しかろうと存じて
自分は平生へいぜい誰でも顔の中に其人の生涯しやうがいあらはれて見えると信じて居る一人で、悲惨な歴史の織り込まれた顔を見る程心を動かす事は無いのであるが
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「殿様はお酒をおあがりなさるとお気が荒いけれど、平生へいぜいは親切なお方だから、御機嫌ごきげんの取りにくいことはありませぬ」
平生へいぜいは誠に温順で君子と言はれるやうな人が、碁将棋となるとイヤに人をいぢめるやうな汚ない手をやつて喜んで居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大きく呼ぶと階下にいた愛子が平生へいぜいに似合わず、あたふたと階子段はしごだんをのぼって来た。葉子はふとまた倉地を念頭に浮かべていやな気持ちになった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
平生へいぜいから骨董がかつた物に余り興味を持つてない自分は、して自分の生活とまつたく交渉の無い地下の髑髏どくろなどは猶更なほさら観たくないが、好奇心の多い
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
不意の闖入者ちんにゅうしゃがあったので、びっくりして離れ離れになってちあがったが、入って来た者が奴さんだと知ると、平生へいぜいからばかにしきっている女は
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
確乎かっこたる見込みこみありての事なり、未練らしう包み隠さずして、有休ありていに申し立ててこそ汝らが平生へいぜいの振舞にも似合わしけれとありければ、もっともの事と思い
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
平生へいぜい無口な非社交的な先生としては、それがどれほどの努力であるかという事が、はっきり感ぜられるほど、一生懸命に私をもてなして呉れるのだった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これはのちほどおはなしをする朝鮮ちようせん古墳こふんからもるもので、かようなくつかんむりは、もちろん平生へいぜい使つかつたものでなく、儀式ぎしきのときなどにもちひたものでありませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
この馬鹿七は平生へいぜいから、狸山へ行つて一度その狸の腹鼓を聞いて見たいものだ、狸の踊る様子を見てやりたいものだと言つてゐましたが、る日の夕暮に
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
私は山荘の住人で、平生へいぜい竹や草や昆虫ばかりの中に立ち交っているので、身のまわりなぞは清潔にはしているが、少くとも野趣そのままにちがいなかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
平生へいぜい頑健な上に右眼を失ってもさして不自由しなかったので、一つはその頃は碌な町医者がなかったからであろう、碌な手当もしないで棄て置いたらしい。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
平生へいぜいからお人好ひとよしで、愚圖ぐづで、低能ていのうかれは、もともとだらしのないをとこだつたが、いままつた正體しやうたいうしなつてゐた。かれ何度なんどわたしかたたふれかゝつたかれなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
余はこゝに至り初て目科がいつもより着飾きかざりたる訳を知れり、彼はく藻西が家の近辺にて買物を素見ひやかしながら店の者に藻西の平生へいぜいの行いを聞集めんと思えるなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
平生へいぜい田畑のあを々した気色ばかながめて居るものが折々にぎやかな都へ出ることですから見るものが珍らしく、小さな魂はみんな一ツへ集つた心地がして居りました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)