威勢いせい)” の例文
ひるすこしまえにはもう二人ふたりにいさんが前後ぜんごして威勢いせいよくかえってた。一人ひとりにいさんのほう袖子そでこているのをるとだまっていなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人を馬鹿ばかにしていらあ、こんな所に我慢がまんが出来るものかと思ったが仕方がない。威勢いせいよく一番に飛び込んだ。づいて五六人は乗ったろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秀吉公ひでよしこう威勢いせいをもおそれず、都へりこんでくるとは、不敵ふてきなやつ。この呂宋兵衛の手並てなみにもこりず、わざわざ富士ふじ裾野すそのから討たれにきたか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジョバンニはにわかに顔いろがよくなって威勢いせいよくおじぎをすると、台の下にいたかばんをもっておもてへびだしました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
でも一度そうなれば、それはりっぱな紳士になりきって、どんな向こう見ずな、どんな乱暴らんぼうな人間でも、その威勢いせいにおされてしまうのであった。
其時そのときは、この武村新八郎たけむらしんぱちらう先鋒せんぽうぢや/\。』と威勢いせいよくテーブルのうへたゝまわすと、さらをどつて、小刀ナイフゆかちた。
着物が湿っているので、威勢いせいよくは燃え上らぬ。青い焔が、着物の裾や袖を、人魂ひとだまみたいに、不気味に這っている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
の家でも、五人六人子供の無いうちは無い。この部落ぶらくでも、鴫田しぎだや寺本の様に屈強くっきょう男子おとこのこの五人三人持て居るうちは、いえさかえるし、何かにつけて威勢いせいがよい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私どもは馬に一むちくれて、威勢いせいよくつぎの餌肉えにくのところへいった。はたしてそこにもない。私は狂喜きょうきして
すると、いままで、威勢いせいよく、きらきらと燈火あかりかがやいて、荘厳そうごんえた都会とかいが、たちまちくらとなって、すべての機械きかいおとが、まってしまいました。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その刹那せつなに、今までじっとしていた蝗は急に威勢いせいよく、大飛躍だいひやくをした。古ぼけた麦稈帽子からひらりと身をかわすと、青天鵞絨あおビロオドの座席の上へ一気に飛び下りた。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
だれがなんといったって、世界中せかいじゅうでおれの威勢いせいにかなうものはあるまい。おれが一声ひとこえうなれば、十ほういえ地震じしんこって、鍋釜なべかまのこらずひびがいってしまう。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
矢野は家を出るときはすこぶる威勢いせいよく出たけれど、汽車ちゅう退屈たいくつしてよけいな事を考えたり、汽笛の声が妙に悲しく聞こえたり、いやにはかない人の話を聞いたり
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、そこまでは、威勢いせいのいい声を出して、見得みえを切ったが、その後で、急になさけない声になって
実朝の歌はただ器用というのではなく力量あり見識あり威勢いせいあり、時流に染まず世間にびざるところ例の物数奇ものずき連中や死に歌よみの公卿くげ達ととても同日には論じがたく
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あさっぱらの柳湯やなぎゆは、町内ちょうないわかものと、楊枝削ようじけずりの御家人ごけにん道楽者どうらくもの朝帰あさがえりとが、威勢いせいのよしあしをとりまぜて、柘榴口ざくろぐちうちそととにとぐろをいたひとときの、はじ外聞がいぶんもない
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さて翌日になると禿鷹はげたかは、こんどこそは大丈夫だと思って、威勢いせいよく、飛んでゆきました。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこへ、ガラッ! 威勢いせいよくおもての格子こうしがあいて、聞きれない人のおとずれる声がする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
酔払った連中は、二つ返事で銘々めいめい美女をあいようし、威勢いせいよくシャムパングラスを左手にささげ立ったところを、ポッカアンとマグネシュウムがはじけて一同、写真に撮られてしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その実これは歴史から来る迷信めいしんであり、過去の法制局長官に非常に威勢いせいのよい政治家が多かったことと、昔の官僚かんりょう政治の中で、法制局が内閣の智恵袋ちえぶくろの役割をつとめた事から来ている。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「ワカチアタエル」のだから、こいつは愛嬌あいきょうをふりまくことにもなるし、能力や人情をわかちあたえることにもなるであろう。どっちにしても威勢いせいのいい文字であることだけは確かである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そうすると海じゅうの、あらゆる大小の魚が、のこらずけよって来て、すっかりのお船をみんなで背中せなかにおかつぎ申しあげて、わッしょいわッしょいと、威勢いせいよくしはこんで行きました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
いつも威勢いせいよきくろぬりくるまの、それかどおとまつたむすめではないかと兩親ふたおや出迎でむかはれつるものを、今宵こよひつぢよりとびのりのくるまさへかへして悄然しよんぼり格子戸かうしどそとてば、家内うちには父親ちゝはゝあひかはらずの高聲たかごゑ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
灰色の石油コンロは、まるい飛行機のような音をたてて威勢いせいよく鳴っている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
家の玄関げんかんへつくと、車夫がとても威勢いせいい大きな声で、『オ帰リイ』とさけぶ。すると家中の者がぞろぞろ出て来る。妻や女中たちが、玄関の畳にならび坐って、『お帰り遊ばせ』とお辞儀じぎをする。
威勢いせいのよい少女の、よくひびく声が大石先生をはっとさせた。あっとさけびそうになったほど、心にひびく声であった。このあたりにはめずらしい、なわのれんの店の中からそれはひびいてきたのだった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
馬鹿な威勢いせいです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ジョバンニはにわかに顔いろがよくなって威勢いせいよくおじぎをすると台の下に置いたかばんをもっておもてへ飛びだしました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところがある日三階から威勢いせいよく下りて今日も泳げるかなとざくろ口をのぞいてみると、大きな札へ黒々と湯の中で泳ぐべからずとかいてりつけてある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
司馬仲達しばちゅうたつッかけまわす孔明こうめいのごとき高き気概きがい。なんだか、自分ひとりの威勢いせいのために、咲耶子さくやこ胡蝶こちょうじんげくずれてゆくような気持がして——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛乳屋ぎゅうにゅうやさんはいそがしそうに、いいのこして、また威勢いせいよくはしっていきました。小石こいしうえはこがおどるようです。ふりくと、ほこりがかぜかれていました。
野菊の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
表の往来から聴えて来る威勢いせいのいい玄米パンの呼声、自動車の警笛、自転車のベル、そして、障子を照すまぶしい白日の光、どれもこれも、彼の暗澹たる計画に比べては
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むかし、むかし、うみそこ竜王りゅうおうとおきさきがりっぱな御殿ごてんをこしらえてんでいました。うみの中のおさかなというおさかなは、みんな竜王りゅうおう威勢いせいにおそれてその家来けらいになりました。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
寸志の一包と、吾れながら見事みごとに出来た聖護院しょうごいん大根だいこを三本げて、挨拶に行く。禾場うちばには祝入営の旗が五本も威勢いせいよく立って、広くもあらぬ家には人影ひとかげ人声ひとごえが一ぱいに溢れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
威勢いせいよくやんねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
遠山のお嬢さんと明日あしたから結婚けっこんさして、一ヶ月ばかり東京へでも遊びにやってやりたい気がした矢先だから、やお湯ですか、さあ、こっちへお懸けなさいと威勢いせいよく席をゆずると
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからいかにも退屈たいくつそうに、わざと大きなあくびをして、両手を頭のうしろに組んで、行ったり来たりやっていた。ところが象が威勢いせいよく、前肢まえあし二つつきだして、小屋にあがって来ようとする。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある時、東京式に若者が二人威勢いせいよく盤台をかついで来たので、珍らしい事だと出て見ると、大きな盤台の中は鉛節なまりぶしが五六本にまぐろの切身が少々、それから此はと驚かされたのはだらけのさめの頭だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして、彼のラッパは益々ますます威勢いせいよく、益々快活に鳴り渡るのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうおもうと、達者たっしゃうまは、威勢いせいよく、はやくあるいていくのに、びっこのうまはそれにけまいとして、あせながしていっしょうけんめいにあるいているけれど、どうしてもおくれがちになるのでありました。
びっこのお馬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こういって、為朝ためともはここでもおうさまのような威勢いせいになりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ホモイができるくらい威勢いせいよくいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
運転手が威勢いせいよく答える。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)