さかい)” の例文
欧米も支那も共に、支那に対するこの観察の誤りを覚醒せなければならぬ。日本と支那とはさかい相近く、人相同じ、文字もまた相同じ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
さっき米原まいばらを通り越したから、もう岐阜県のさかいに近づいているのに相違ない。硝子ガラス窓から外を見ると、どこも一面にまっ暗である。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女の言葉遣いはその態度と共に、わたくしの商売が世間を憚るものと推定せられてから、狎昵こうじつさかいを越えてむしろ放濫ほうらんに走る嫌いがあった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かじをとるさえものうき海の上を、いつ流れたとも心づかぬ間に、白い帆が雲とも水とも見分け難きさかいただよい来て、ては帆みずからが
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそのころを一つのさかいとして、甘いという味がおいおいと普及することになったのは、やはりお茶というものの影響であろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丑蔵は、彼女にみのを着せかけながら云った。大丈夫——と答えはしたけれど、八雲はそこが生死のさかいであることを覚悟していた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気密扉というのは艇内が小さな区画くかくに分かれていて、そのさかいのところに、下りるようになっている扉だ。それを下ろすと空気は通わない。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さて舞台に上らない時は、うおが水に住むように、傍観者が傍観者のさかいに安んじているのだから、僕はその時尤もその所を得ているのである。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんでもなん千年というむかし、甲斐かい駿河するがさかいさ、大山荒おおやまあれがはじまったが、ごんごんごうごうくらやみの奥で鳴りだしたそうでござります。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そして、ようよう、この世界と黄泉よみの国とのさかいになっている、黄泉比良坂よもつひらざかという坂の下まで遁げのびていらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
もう一つわすれてはいけないのは、オッテンビューの長いかきです。これは島をよこぎって、オッテンビューとほかの土地とのさかいになっています。
この事件に対して嫉妬しっととも思われるほど厳重な故障を持ち出したのは、不思議でないというべきさかいを通り越していた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お杉が棲んでいる虎ヶ窟というのは、角川家のある町と吉岡家の居村きょそんとをさかいする低い丘から、約一里の山奥にあった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし今更いまさらながら生死せいしさかいえて、すこしもかわっていない良人おっと姿すがた驚嘆きょうたん見張みはらずにはいられませんでした。
言うまでもなく、危機一髪のさかい猛虎もうこを射殺した名射撃手は明智であった。彼の右手に握られたコルト拳銃けんじゅうから、名残りの白煙がかすかに立ち昇っていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わが妹を誘惑ゆうわくして堕落だらくさかいにひきこもうとしつつあるチビ公をさがしまわった光一がいま松の下陰で見たのはたしかに妹文子の片袖かたそでとえび茶のはかまである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この二股坂と言うのは、山奥で、可怪あやしい伝説が少くない。それを越すと隣国への近路ちかみちながら、人界とのさかいへだつ、自然のお関所のように土地の人は思うのである。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思いがけなき熊の助勢にお町は九死きゅうしさかいのがれ、熊の脊に負われて山奥深く逃げ延びました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この姿のおかげで老人は空々寂々のさかいにいつまでもいるわけにゆかなくなった。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
己の方からその中へ入れた程しきゃ出して見せてはくれなかったでは無いか。(身を返して櫃の前に立ち留まる。)このさかずきの冷たいふちには幾度いくたびか快楽の唇が夢現ゆめうつつさかいに触れた事であろう。
彼は琵琶の音はしないかと思って耳を立てたが琵琶は聞えなかった。彼は婢に西洋料理とビールを註文して、婢が出て往くとって往ってさかいふすまの間をきしまして、そのすきからのぞいてみた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
強盜がうとう間違まちがへられた憤慨ふんがいまぎれに、二人ふたりはウン/\あせしぼりながら、一みちさかい停車場ていしやばで、其夜そのよ汽車きしやつて、品川しながはまでかへつたが、新宿しんじゆく乘替のりかへで、陸橋ブリツチ上下じやうげしたときくるしさ。
いくら旦那様がおっしゃっても、幽霊が出たものは、仕方ねえじゃごぜいやせんか? では、早い話が旦那様! 旦那様はさっき仰しゃいましたでしょうが! 村のさかいの石橋のところまで
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
東引佐村ひがしいなさむらと西引佐村は引佐川いなさがわさかいにして、東と西から相寄り添っている。名前から言っても、地勢から見ても、兄弟村だけれど、仲の悪いこと天下無類だ。何の因果か、喧嘩ばかりしている。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
げ道のために蝦蟇がまの術をつかうなんていう、忍術にんじゅつのようなことは私には出来ません。進み進んで、出来る、出来ない、成就じょうじゅ不成就の紙一重ひとえあやうさかいに臨んでふるうのが芸術では無いでしょうか。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ただ思うさま吹きつくした南風が北にかわるさかいめに崖を駈けおりて水を汲んでくるほどのあいだそれまでのさわがしさにひきかえて落葉松からまつのしんを噛むきくいむしの音もきこえるばかりしずかな無風の状態がつづく。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
寺のさかいにひょろ長いはんの林があって、その向こうの野の黄いろく熟した稲には、夕日が一しきり明るくさした。こうの巣に通う県道には、薄暮はくぼに近く、空車からぐるまの通る音がガラガラといつも高く聞こえる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
更にその黒にさかいして大きく円い頬がきれいに頬紅をさして毛並美しく頸にかぶさっているのだから、このウソの首だけでも、いかにも山の小鳥らしい、黒じみない、おっとりとしていて、中々精悍な
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
丁度浮木うききが波にもてあそばれて漂い寄るように、あの男はいつかこの僻遠へきえんさかいに来て、漁師をしたか、農夫をしたか知らぬが、ある事に出会って、それから沈思する、冥想めいそうする、思想の上で何物をか求めて
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
此辺は秋已に深く、万樹ばんじゅしもけみし、狐色になった樹々きぎの間に、イタヤかえでは火の如く、北海道の銀杏なる桂は黄のほのおを上げて居る。旭川から五時間余走って、汽車は狩勝かりかつ駅に来た。石狩いしかり十勝とかちさかいである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さかいが開ける。のぼってはくだる、紫のふちを取った
湛然たんぜんとして音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗えいろうたるおもてを過ぐる森羅しんらの影の、繽紛ひんぷんとして去るあとは、太古の色なきさかいをまのあたりに現わす。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「引っ返す道はありません。ここの門が幽明ゆうめいさかいです。てまえが先に馳け抜けて通りますから、すぐ後からお続きなさい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錦絵は歌麿以後江戸随一の名産と呼ばれ、美術のさかいを出でて全く工芸品に属し、絵本は簡単なる印刷出板物しゅっぱんぶつとなりぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし調達が出来るかどうか、半信半疑のさかいにいた時は、善悪も考えずに居りましたし、また今となって見れば、むげに受け取らぬとも申されません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
信州は北のさかい下水内しもみのち郡、美濃みの山県やまがた郡、三河みかわ宝飯ほい郡などでも、以前の稲扱道具をコバシと呼んでいたことが、それぞれの郡の方言誌に見えている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたくしはただ瀑布たきおとむようにして、こころしずめてすわってたまでで、そうするとなんともいえぬ無我むがさかいさそはれてき、雑念ざつねんなどはすこしもきざしませぬ。
当時秋月には少壮者しょうそうしゃの結べるたいありて、勤王党としょうし、久留米などの応援おうえんを頼みて、福岡より洋式ようしきの隊来るを、さかいにて拒み、遂に入れざりしほどの勢なりき。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、この垣のおかげで、動物たちは、古い王家おうけ領地りょうちさかいめを知るのです。この古い領地には、野生やせいの動物たちも、たくさんむれをなしてやってきます。
「たくさんあります。四角な箱には六つの面がありますね。その面と面とのさかいは、どうなってますか」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これで悪漢は全部ほろんだので、一同は安堵あんどの思いをなした。しかし安堵あんどならぬは、ドノバンの容態ようだいである。彼はいぜん、こんこんとして、半死半生のさかいにあるのだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
物忘れする子なりともいい、白痴なりともいい、不潔なりともいい、ぬすみすともいう、口実はさまざまなれどこの童を乞食のさかいに落としつくし人情の世界のそとに葬りし結果はひとつなりき。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
如何いかにもにぎやかそうだが、さて何処どことも分らぬ。客人は、その朦朧もうろうとしたいただきに立って、さかいは接しても、美濃みの近江おうみ、人情も風俗も皆違う寝物語の里の祭礼まつりを、此処ここで見るかと思われた、と申します。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八月の六日になって、河野は大和の葛城山かつらぎざんへ登ってその頂上で修練を始めた。草の上に安坐趺跏あんざふかして、おのれの精神を幽玄微妙ゆうげんびみょうさかいに遊ばしている白衣びゃくえを着た河野の姿は夜になってもうごかなかった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
凡ての職業を見渡したのちかれは漂泊者のうへて、そこでまつた。彼はあきらかに自分の影を、犬とひとさかいまよ乞食こつじきむれなかに見いだした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
加州かしゅうさかいへ、宗徒討伐に向った朝倉軍は、冬季をこえての長陣となった。光秀は、日頃、世話になっている園阿えんあ
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これにはっきりとしたさかいの線があって、たとえば沖繩本島ではあの島のもっとも細くなっているあたりが一つの境で、それから南では荷物を頭の上にのせる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
菩提樹下ぼだいじゅかと訳するときは、幽静なるさかいなるべく思わるれど、この大道かみのごときウンテル・デン・リンデンに来て両辺なる石だたみの人道を行く隊々くみぐみの士女を見よ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四人は思わず顔を見あわした、このぼうぼうたる無人のさかいに、住まったものははたしてだれか。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
放水路の水と荒川の本流とは新荒川橋下の水門をさかいにして、各堤防を異にし、あるいは遠くなりあるいは近くなりして共に東に向って流れ、江北橋の南に至って再び接近している。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)