いで)” の例文
何かと遠慮いたされまするかるもういでゆえ、ずいぶん躊躇もいたしましたけれども、いろいろとそちらの御様子などお聞きいたし
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
明月記は千しやの書なれば七は六のあやまりとしても氷室をいでし六月の氷あしたまつべからず。けだし貢献こうけんの後氷室守ひむろもりが私にいだすもしるべからず。
いで芝八山へと急ぎ行次右衞門道々考へけるは天一坊家來に九條殿くでうどのの浪人にて大器量人とうはさある山内伊賀亮には逢度あひたくなしされば赤川大膳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「喜田さんにしても、あなたの為めをお考えになって直ぐにおいで下すったんですから、兎に角御用心丈けはなさる方が宜いでしょう」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御国よりいでしものゝ内一人西洋イギリス学問所ニいりおり候。日本よりハ三十斗も渡り候て、共ニ稽古致し候よし。実ニ盛なる事なり。
ああ何も御存じなしにあのやうに喜んでおいで遊ばす物を、どの顔さげて離縁状もらふて下されと言はれた物か、かられるは必定
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これらの幻像の出るのは、鑓ガ岳の南に続く大雪田だいせつでん、土地の人がオいでぱらと呼ぶ処で、その南側、奥不帰の連峯に寄った辺である。
残雪の幻像 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
こういうわけで、少年はすぐさまそのもういで承知しょうちしました。そして、小人がいだせるように、網をゆり動かすのをやめました。
こう落ちついて聞くと、女の語調にどこか聞き覚えがあるばかりでなく、いう注文がいよいよいでていよいよ不思議に聞かれたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万田龍之助は、お染を振り返って「安心して待っておいで」と言わぬばかりのまばたきをして見せ、男に従って、元来た小路を戻りました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おいでやす、何あげまほ」などと、通りがかりの客と思ひ込んで、私がそれを名乗つても、尚ほ容易に信じ兼ねてゐたものだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「この間はどんな本をお求めになりましたの。二晩もつづけておいでになるのは、よほどお気に入ったからでしょうと思いました。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
とうさんはえだからえだをつたつてのぼつて、ときにゆすつたりしてもかきおこりもしないのみか、『もつとあそんでおいで。もつとあそんでおいで。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ホラ、おいでお出だ。今度はフラフラダンス。失敬失敬。体操だ体操だ。オイチニオイチニ。又かわるよ。赤旗になったから……」
しかしそれがなかなか極まらないので、お父様は心配しておいでなさる。僕は平気で小菅の官舎の四畳半に寝転ねころんで、本を見ている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
武「いや一緒に行かんでも宜しい、エ、明日お筆さんをお前が引取に来なければならんから、組合を連れて印形いんぎょう持参でおいでを願いい」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「左様か。拙者の屋敷も、御覧の通り無人で手広いから、いつなりともお世話するほどに、明日からでもおいでになってはどうか」
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
足の向くがまゝ芝口しばぐちいで候に付き、堀端ほりばたづたひにとらもんより溜池ためいけへさし掛り候時は、秋の日もたっぷりと暮れ果て、唯さへ寂しき片側道。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
過ぎて新街道大釜戸おほかまどといふより御嶽みたけへ出づ元は大井より大久手おほくて細久手ほそくてを經て御嶽みたけいでしなれど高からねど山阪多きゆゑ釜戸かまどかた
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
お前が可厭いやなものを無理においでといふのぢやないのだから、断るものなら早く断らなければ、だけれど、今になつて断ると云つたつて……
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
サアおいでだというお先布令さきぶれがあると、昔堅気むかしかたぎの百姓たちが一同に炬火たいまつをふりらして、我先われさきと二里も三里も出揃でぞろって、お待受まちうけをするのです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
何をお思いになっておいでであろうか、または、何についてお談話はなしをなされてであったろうかと、ふと何ともいえぬなつかしみがき上りました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
われらがこの家をいでたる時、日はいまだ昇らざりき。われらはうずらあさらんがために、手に手に散弾銃をたずさえて、ただ一頭の犬をひけり。
もしまた梅の花が見えて居るのに「かをる」といひたりとすればそは昔より歌人の陥り居りし穴をいまだいでずに居る者なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
代助は、父としてはむしろ露骨過ぎるこの政略的結婚の申しいでに対して、今更驚ろく程、始めから父を買いかぶってはいなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(代匠記)か「鹿島の神に祈願こひいのり官軍すめらみいくさいでて来しものをいかでいみじき功勲いさをを立てずして帰り来るべしや」(古義)かのいずれにかになる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いかにとまをせば彼等かれら早朝まだきときさだめて、ちよ/\と囀出さへづりいだすをしほ御寢室ごしんしついでさせたまはむには自然しぜん御眠氣おねむけもあらせられず、御心地おんこゝちよろしかるべし
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『さうです。きみられた學校がくかうです。三田みたですか、早稻田わせだですか。』と高等商業かうとうしやうげふ紳士しんし此二者このにしやいでじといふ面持おもゝちふた。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かゝる中へ一人の男きたりてお辰様にと手紙を渡すを見るとひとしくお辰あわただしく其男に連立つれだち一寸ちょっといでしが其まゝもどらず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
広太郎にとっては一生懸命、相手の右手めての膝のあたりへ、太刀先をつけて構え込んだ。いわゆる、「獅子ししのほらいで」である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼れの言条いいじょう愈々いよ/\いでて愈々明白なり、流石さすがの目科も絶望し、今まで熱心に握み居たる此事件も殆ど見限りて捨んかと思い初めし様子なりしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其様に出たければあなた一人で勝手に何処へでもおいでなさい、何処ぞへ仕事を探がしに御出おいでなさい、と突慳貪つっけんどんに云うンです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その文明論の極端を公言して人心を激したるは、亦れ人生の獣勇、闘争を好むの情にいでたることならんと、今より回想してみずから悟る所なり。
旦那がおいでになって、例の処で始めますと、昼の雨が利いたのでしょう、打ち込むや否懸り始めて、三年四年以上のはかり、二十一本挙げました。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
汝等の名は草の色のあらはれてまたきゆるに似たり、しかして草をやはらかに地よりいでしむるものまたその色をうつろはす。 一一五—一一七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
僕もその席に侍りて、先のほどまで酒みしが、独り早く退まかいでつ、その帰途かえるさにかかる状態ありさま、思へば死神の誘ひしならん
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いやわたくしらうとおもふのは、なんため貴方あなた解悟かいごだの、苦痛くつうだの、れにたいする輕蔑けいべつだの、其他そのたこといてみづか精通家せいつうかみとめておいでなのですか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いいや、それはなりません。おかみさんは、たしかっておいでなされたはず。もう一手前てまえと一しょに、白壁町しろかべちょうのおたくへ、おもどりなすってくださりませ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
文三には昨日お勢が「貴君あなたもおいでなさるか」ト尋ねた時、行かぬと答えたら、「ヘーそうですか」ト平気で澄まして落着払ッていたのが面白からぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「長者よ。それはわたくしが悪かったわけではございませぬ。ただどの路へ曲っても、必ずその路へおいでになった如来にょらいがお悪かったのでございまする。」
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同一の環境の下にいでても、多様多趣の形態を取ってえ出ずるというドフリスの実験報告は、私の個性の欲求をさながらに翻訳ほんやくして見せてくれる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おもてに「いでさま」と女文字で書いてある。彼は行燈のそばへ寄って封をひらいた。よんでみると恋文であった。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「すぐお料理が出来ますさかい、……あんた、これから、ちょいちょいおいでやす、姝なお朋友ともだちれなはってな」
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「はい、一度分でございました。一服だけ召し上って、もういゝからあっちへおいで、おやすみと仰有おっしゃいました」
有一日あるひ伏姫は。すゞりに水をそゝがんとて。いで石湧しみづむすび給ふに。横走よこばしりせし止水たまりみづに。うつるわが影を見給へば。そのかたちは人にして。かうべは正しく犬なりけり。」云々しか/″\
「いや、あなたも随分不自由な生活をしておいでになる。お気の毒だと思って、つい控え目になったのです。」
「林をいでかえってまた林中に入る。便すなわち是れ娑羅仏廟さらぶつびょうの東、獅子ししゆる時芳草ほうそうみどり、象王めぐところ落花くれないなりし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
老伯爵はアンジェリカの告白したことは、みな狂気の言わせるでたらめだとは思ったが、それでも娘の極度の悩みに心を動かされて、その申しいでを許してやった。
『胸算用』には「仕かけ山伏」が「祈り最中に御幣ごへいゆるぎいで、ともし火かすかになりて消」ゆる手品の種明かし、樹皮下に肉桂にっけいを注射して立木を枯らす法などもある。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
百千の媚惑脅迫と難闘して洞穴や深山に苦行をかさねたが、修むるところ人為をいでずで、妻を持ち家を成し偽り言わず神を敬し、朝から晩まで兀々こつこつと履の破れを繕うて