からだ)” の例文
旧字:
それに、和服は何かべらべらしてゐて、からだにしつくり来ないし、気持までがルウズになるうへに、ひどく手数のかゝる服装でもある。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
僕はかわいい顔はしていたかも知れないがからだも心も弱い子でした。その上臆病者おくびょうもので、言いたいことも言わずにすますようなたちでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
父親ちちおやはなにかいっていましたが、やがて半分はんぶんばかりとこなかからからだこして、やせたでその金貨きんかを三にんむすめらにけてやりました。
青い時計台 (新字新仮名) / 小川未明(著)
トーマスは、おずおずしながら手さぐりであたりをなでまわすと、なるほど、たくましい男のからだが、はっきりと手ざわりでさぐれた。
豺は、また湯気の立っていたタオルを頭から取って、からだをゆすぶり、欠伸をし、ぶるぶるっと身震いしてから、言われる通りにした。
二階の正面に陣取じんどって、舞台や天井てんじょう、土間、貴顕きけんのボックスと、ずっと見渡した時、吾着物の中で土臭つちくさからだ萎縮いしゅくするように感じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
君の肩をくじき、君のからだを地に圧し曲げる恐ろしい「時」の重荷を感じたくないなら、君は絶え間なく酔つてゐなければならない。
人のからだ男はやうなるゆゑ九出きうしゆつし(●頭●両耳●鼻●両手●両足●男根)女は十しゆつす。(男根なく両乳あり)九ははんやう十は長のいん也。
しかもあの時、思いがけない、うっかりした仕損しそこないで、あの、おそめの、あのからだに、胸から膝へ血を浴びせるようなことをした。——
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まっさきに、ふたりのひゃくしょう女がとびました。ふたりとも、うまく わをとびぬけました。ところが、からだが どたどた しています。
心と心とが戦い、じょうと意とが争い、理想と欲望とがからみ合う間にも、からだはある大きな力に引きずられるように先へ先へと進んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
幼児をさなごたちはみな十字架クルス背負しよつて、しゆきみつかたてまつる。してみるとそのからだしゆ御体おんからだ、あたしにけてくださらなかつたその御体おんからだだ。
「そやからもうあんたはんの世話になりまへん。私自分で自分のからだの解決をつけますよって、どうぞ心配せんとおいとくれやす」
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ゆるされて、家にある一日だけは、気儘もいうがよい。おれのからだは、そなたのものだ。そなたの体はまた、おれのものだし……。はははは
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは或るからだの部分が馬鹿に大きくかいてあることである。もっと小さい時に、足でないものを足だと思ったのも、無理は無いのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
保名やすなからだがすっかりよくなって、ってそと出歩であるくことができるようになった時分じぶんには、もうとうにあきぎて、ふゆなかばになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
花吉はがツくり島田の寝巻姿ねまきすがた、投げかけしからだを左のひぢもて火鉢にさゝへつ、何とも言はず上目遣うはめづかひに、低き天井、なゝめに眺めやりたるばかり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
源十郎は、何か物思いに沈みながら、からだについたごみの一つ一つをつかんでいると、おさよの茶をすする音が、その瞬間の部屋を占めた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一年に二度、わしは、年をとつたからだの弱い母親に逢ふが、此二回の訪問の中に、わしの外界に対する、凡ての関係が含まれてゐたのである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
ここまで話すと、電車が品川へ来た。自分は新橋で下りるからだである。それを知っている友だちは、語りおわらない事をおそれるように、時々眼を
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
婿一人の小遣こづかい銭にできやしまいし、おつねさんに百俵付けをくくりつけたって、からだ一つのおとよさんと比べて、とても天秤てんびんにはならないや。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
手をのばせば銃端つつさきが届きそうなところに来て立ち止まった。草藪の陰でそのからだはよく見えないが角ばかりを見たところで非常な大鹿らしい。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こんな老朽ろうきゅうからだんでもいい時分じぶんだ、とそうおもうと、たちまちまたなんやらこころそここえがする、気遣きづかうな、ぬことはいとっているような。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
代助は其奴そいつからだをごし/\られるたびに、どうしても、埃及人エジプトじんられてゐる様な気がした。いくら思ひ返しても日本人とは思へなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『これほどあなたが立派りっぱ修行しゅぎょうんでいるとはおもわなかった。あなたのからだからは丁度ちょうどかみさまのように光明ひかりします……。』
茂吉の「わがからだ机に押しつくるごとくにしてみだれごころをしづめつつり」「いきづまるばかりにいかりしわがこころしづまり行けと部屋をとざしつ」
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
これにてからだを右に倒し、右の偏袒かたはだぬぎたる手を下手しもてに突つ張り、左の手を背後へ廻し、左の足を挙げて、小金吾の右のひじを留め
ここの師匠は化けもんだ、女のくせに女をだまして、金も着物もみんな捲きあげて、仕舞いには本人のからだまで隠して……。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
就いてはこれといふ証拠が無くちや口が出ませんから、何とか其処そこを突止めたいのだけれど、私のからだぢや戸外おもての様子が全然さつぱり解らないのですものね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
テワスはからだがしびれる位嬉しかった。もはや、跣足はだしのまま竹の床にごろ寝する必要もなければ、手づかみで芋を食べる習慣もやめていいのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
ふと、かがみのおもてからはなしたおせんのくちびるは、ちいさくほころびた。と同時どうじに、すりるように、からだ戸棚とだなまえ近寄ちかよった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのからだの中に、まだなみなみならぬ力が保たれていることは確かであった。体格などは、まるで力士のようであった。
そして、とうとうこれでもうおしまいというところまで来たとき、土人の手が用心しいしい、少しずつ自分のからだに迫ってきました。もう絶体絶命です。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
食堂の衝立ついたての蔭から、瞳の青い、からだの大きい給仕きゅうじがとびだしてきたが、博士を見ると、直立不動の姿勢をとって
「あっ」という恋人こいびとさけび声を耳にしたと思ったつぎの瞬間しゅんかん、若者は自分のからだ羽根はねぶとんのようにかるがると水の上に浮かんでいることに気がついた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「ずるけ野郎ども、二三人で奴のからだを調べるんだ。残りの奴らは上へ行って箱を手に入れろ。」と彼は叫んだ。
私のからだ中に瀰漫びまんして居る血管の脈搏みゃくはくは、さながら強烈なアルコールの刺戟を受けた時の如く、一挙に脳天へ向って奔騰し始め、冷汗がだくだくと肌に湧いて
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こわい物見たさで駕籠舁きども、あそこへピッタリからだを寝かせ、鎌首ばかりを堤から出して、兇行をうかがっていたのでござるよ。で、人形がついたのでござる」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
爺さんは、船が神戸こうべ横浜よこはまの港に泊っている間じゅう、めずらしい日本の町々を見物するために、背の高いからだを少し前こごみにして、せっせと歩きまわりました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
心と体とを別に考うることはすでに身を売る時よりおこなわるる議論で、良家の子女しじょ泥水どろみずに入る時も、たとえからだ畜生ちくしょう同然になるも、心は親のため、主人のため
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もうあといくらも綱が手許てもとに残っていなくなると、爺さんはいきなりそれで子供のからだしばりつけました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
あれ、また話で時をつぶいた。妾は今日は急ぐほどに、之で御免蒙りませう。お前も精々からだを大事にしや。命あっての物種ぢやのう。さらばまたの日に会ひませう。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
御尤ごもっともさまでございますけれども、私共わたくしども夫婦の者は、萩原様のお蔭様でようやく其の日を送っている者でございますから、萩原様のおからだにもしもの事がございましては
突き上げ突き上げからだを進めて、殆んど熊の体が地につかぬ程手玉に取りながら、その喧嘩を始めた場所から四五間向うの、大きな立木たちぎの根元まで押して行きました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
赤縞あかじまのワイシャツなどを着て、妙に気取っている。「からだころもまさるならずや」とあるを未だ読まぬか。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの大きなからだを三味線の上へ尻餅しりもち突いて、三味線のさおは折れる、清元の師匠はいい年して泣き出す、あの時の様子ったらなかったぜ、おらは今だに目に残ってる……だが
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
……あなたはお年を召しておられます。そんなに長くはこの世においでになられないおからだです……わたくしはあなたの罪を自分のたましいに引き受ける覚悟でおります。
『踏絵』の和歌うたから想像した、火のような情を、涙のように美しく冷たいからだで包んでしまった、この玲瓏れいろうたる貴女きじょを、貴下あなたの筆でいかしてくださいと古い美人伝では、いっている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その顔やからだはまるで薄いガラス越しに見た未完成のスケッチのようにみにくくなっていた。
そのおそろしい勢を見て、からだ道傍みちばたけようとしましたが、牡牛はかえって一郎次の方へ真直まっすぐに突き進んで来て、アット思うもなく、一郎次を二つの角で引っかけたかと思うと
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)