じん)” の例文
じんほどこすとか、仁政をくとか——口のさきでは余りいわないそうだが、老公の仁は、老公のする事なす事が自然それになっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かゝはりのないことだが、念の爲に申上げよう、——湯島切通しに屋敷を持つてゐられる、三千五百石の直參、望月丹後たんごといふじんぢや。
「いやわれわれではありません、一人はいま逃げ去りましたが、一人はまだそこにおります、どうやら他国のじんらしゅうございますが」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いや、拙者も、尊公のごとき玄妙不可思議げんみょうふかしぎな手筋のじんに、出会ったことはござらぬ。テ、テ、天下は広しとつくづく思い申した」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父上以外の他のごじんが、かかる所業を致しましたる時は、右門必ずその人物を反逆人とののしって切って捨つるに用捨ようしゃござりませぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はて、いずれのじんかな? が、わしにはそなたの護り袋の中の、大方おおかた父御ててご遺言ゆいごんらしいものの文言もんごんさえ、読めるような気がするのじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
金内殿は、貴殿とは違って、うそなど言うじんではござらぬ。日頃の金内殿の実直を、貴殿はよもや知らぬとは申されますまい。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
石見どのは強情なじんでござりますから、「わたくし主人あさいながまさは織田どのゝような表裏ある大将ではござりませぬ」
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
言語を鄭重ていちょうにしたり温和にすれば、すぐに巧言こうげんと解し、威儀をもって語れば令色れいしょくと曲解し、すぐにすくないかなじんと結論をくだす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
木村君はわたしもよく知っとるが、信仰も堅いし、仕事も珍しくはきはきできるし、若いに似合わぬ物のわかったじんだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、日頃のおこないから察して、如何いかに、思死おもいじにをすればとて、いやしくもぬしある婦人に、そういう不料簡ふりょうけんを出すべきじんでないと思いました、果せるかな
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「アノ失礼でございますが、この前伺ったときとはちがいまして、お邸の中に変な男の人がいるようでございますが、あれはどうしたじんでございましょう」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
カピ妻 このじんはモンタギューの親戚しんせきゆゑ、贔屓心ひいきごゝろがさもないことまうさせまする。この不正ふせい爭鬪たゝかひには二十人餘にんよ關係かゝづらうてたんだ一人ひとりころしたに相違さうゐござりませぬ。
いくらこちらがいきりたっていても、一言ひとことあのじんから優しい言葉を懸けられると、すぐにまたころりとまいって、やっぱりこの人の下に死にたいと思うからね。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「あなたのお連れだといって、あとからおいでになった方も、やはり、武術修行のじんとお見受け申します」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古昔むかしそう文帝ぶんていころの中書學生に盧度世ろとせいと云者あり崔浩さいかうの事に坐し亡命にげ高陽かうやうの鄲羆の家に竄る官吏やくにんの子をとらへて之を掠治たゞす其子をいましめて曰君子は身を殺てじん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(四二)あるひいはく、(四三)天道てんだうしんく、つね善人ぜんにんくみすと。伯夷はくい叔齊しゆくせいごときは、善人ぜんにんものか。じんおこなひいさぎようし、かくごとくにして餓死がしせり。
あのじんに会うて来た者の話では、豬肥いのこごえのした、唯の漢土びとじゃったげなが、心はまるで、やまとのものと、一つと思うが、お身なら、うべのうてくれるだろうの。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
大体その道理が分らぬ。婦人のじんというのはその事だ。いわゆる小仁しょうじんを知って大仁たいじんを知らぬ者の言だ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私は狩野元信かのうもとのぶのために生きているので、決して私のためには生きているのではないと看板をかける人もたくさんある。こういうのは身を殺してじんをなすというものでしょう。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔はその不可なるを知つて、しかもじんを説いた孔丘さへ微温底なる中庸を愛してゐた。今はカフエに出没する以外に一事を成就しない少年までも灼熱底なる徹底を愛してゐる。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
されども、想ひ返しては又心弱く、誰と誰とは必ず二日に来るかたじんにて、衣服に綺羅を飾らざれども、心の誠は赤し。殊に、ことさら改らずして、平日の積る話を語り合ふも亦一興なり。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
さういふことは、今云はんでもえゝだ。われわれは水源地の問題で、話のちやんとわかるじんに、こつちの言ひ分を聴いて貰へばえゝだ。どういふもんでせうかね、はじめからのいきさつを
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「遅かつたかね。さあ御土産おみやげです。かへつてこれを細君におくる。何ぞじんなるや」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
又、周のはじめ七七武王ぶわう一たびいかりて天下の民を安くす。臣として君をしいすといふべからず。じんぬすみ義を賊む、一ちうちゆうするなりといふ事、七八孟子まうじといふ書にありと人の伝へに聞きはべる。
芭蕉のいわゆるびとはびしいことでなく仏教の寂滅でもない。しおりとは悲しいことや弱々しいことでは決してない。物の哀れというのも安直な感傷や宋襄そうじょうじんを意味するものでは決してない。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
世の中には途法も無いじんもあるものぢや、歌集の序を書けとある、人もあらうに此の俺に新派の歌集の序を書けとぢや。ああでも無い、かうでも無い、とひねつた末が此んなことに立至るのぢやらう。
「一握の砂」序 (新字旧仮名) / 藪野椋十(著)
が、しかしこれは頼宣という人の性質を知らない説であって、彼のじんは決して威嚇や強迫に、屈伏するような人物ではない。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
出してくれた、若狭わかさのさる物持ちの道楽息子のくずれだとか申しているが、それはあのじんの、欲が手伝っているはなしだし
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このじんの驚きは、われわれ以上だよ。盗まれたことを知らずにいたのだ。責めても、むだだ。さあ、ひきあげよう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
千石取せんごくどりの旗本、本郷丸山のぢゆう、口きゝで、顏が通つて、近く役付になつたばかりといふじん、その披露を兼ねて同僚、上役、友人方を招いての凉み船に
そこで米友が立止まって、これこれこういう人体にんていじんが通らなかったかということを、米友としてはかなり気を落ちつけたつもりで尋ねると、物売屋の女房が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを黙って拾うてくるんやと、こないな話だすな。そやさかい向うの家のじんに顔を合わさしまへん
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はなはだしきは、なたでもって林檎を一刀両断、これを見よ、亀井などというじんは感涙にむせぶ。
(七八)夏桀かけつきよ(七九)河濟かせいひだりにし、(八〇)泰華たいくわみぎにし、(八一)伊闕いけつ其南そのみなみり、(八二)羊腸やうちやう其北そのきたりしが、まつりごとをさむることじんならず、たうこれはなてり。
「いかに何でも、この唐櫃を届けてくれたじんを、このまま返すことは、わしには出来ぬことだ、それは、ようわかっていよう——さ、ずっと通るがよい——これ、誰か?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
じんは以て下にあつけんは以てもちゐるにたるくわしてゆるめずくわんしてよくだんずとされば徳川八代將軍吉宗公の御治世ぢせい享保年中大岡越前守忠相殿たゞすけどの勤役きんやく數多あまた裁許さいきよ之ありしうち畔倉あぜくら重四郎ぢうしらう事蹟じせき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見知越みしりごしじんならば、知らせてほしい、何処そこへ行って頼みたい、と祖母としよりが言うと、ちょいちょい見懸ける男だが、この土地のものではねえの。越後えちごく飛脚だによって、あしはやい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「又種彦たねひこの何か新版物が、出るさうでございますな。いづれ優美第一の、哀れつぽいものでございませう。あのじんの書くものは、種彦でなくては書けないと云ふ所があるやうで。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なおこれと関連して世に誤解された教訓は、「巧言令色こうげんれいしょくすくないかなじん」ということである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「捜しているようだ、久木氏はなかなか剛気のじんだ、注意しろ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「はっ」と云って式体しきたいしたが、「たとえいかなるごじんに致せ、刻限過ぎにござりますれば開門いたすことなりませぬ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「自体、あのじんは、経略家肌で、忠義一徹ではない。このたびもそのために、すぐ足が立てなかったものであろ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
養家の親類に鈴木清兵衛という御細工所頭おさいくどころがしらを勤めるじん、柔術の先生にて、一橋殿、田安殿はじめ、諾大名大勢弟子を持っている先生が、横網町というところにいる故
「そういえば、お前さんをどこかで見たようなじんだと思っていたが、なるほどお前さんはお八重に似ているところがあるネ。お前さんはその姉さんか身内ででもあるのかい」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一同があっけにとられていると、今日の仕合に優勝したじんと手合せが願いたいと言う。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
孔子こうしいはく、(二〇)伯夷はくい叔齊しゆくせい舊惡きうあくおもはず、うらここもつまれなり。じんもとめてじんたり。またなにをかうらみん』と。(二一)伯夷はくいかなしむ、(二二)軼詩いつしるにあやしむし。
おそれ我方非分ひぶんと知りながら是をさばく事遠慮ゑんりよする所かの越前守は奉行ぶぎやうとなつてたちまち一時に是非ぜひたゞ我領分わがりやうぶんをまけになしたるだんあつぱれ器量きりやう格別かくべつにしてじんゆうとく兼備けんび大丈夫だいぢやうふなりかれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「また種彦たねひこの何か新版物が、出るそうでございますな。いずれ優美第一の、哀れっぽいものでございましょう。あのじんの書くものは、種彦でなくては書けないというところがあるようで。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
如何いかんとなれば、乘客等じようかくらしかころしてじんさむとせし、この大聖人だいせいじんとく宏大くわうだいなる、てん報酬はうしうとしてかれ水難すゐなんあたふべき理由いはれのあらざるをだんじ、かゝ聖僧せいそうともにあるものは、この結縁けちえんりて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)