くし)” の例文
それであッてこのありさま,やいばくしにつんざかれ、矢玉の雨に砕かれて異域の鬼となッてしまッた口惜くちおしさはどれほどだろうか。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
新宿までの電車賃をけんやくして、鳴子坂の三好野で焼団子を五くし買ってたべる。お茶は何度でもおかわりして、ああ一寸だけしあわせ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そればかりか、生きているうちはぬらぬらしているから、これをつかんでくしに刺すということだけでも、素人しろうとには容易に、手際てぎわよくいかない。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
これをいて二十つた、にしてとをつたとをとこだて澤山たくさんなり。次手ついでに、目刺めざしなし。大小だいせういづれもくしもちゐず、したるは干鰯ひいわしといふ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黄色い鵞鳥がちょうの肉が、くしにささってゆっくり回っている。脂肪と歯ごたえのある肉との甘い匂いが、室の中にたちこめている。
川に流れているしばを拾い、それを削ってくしを作り、川からとった雑魚ざこをその串にさして焼いて、一文とか二文とかで売ってもうけたものなんだ。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その名の御幣餅にふさわしく、こころもち平たく銭形ぜにがたに造ってくしざしにしたのを、一ずつ横にくわえて串を抜くのも、土地のものの食い方である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
黙っているが、ひもじそうに見えたので、観音堂の境内で、くしにさした芋田楽いもでんがくを買ってやると、お三輪も乙吉も、歩きながらムシャムシャ食べる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七面鳥も彼の眼には、うまそうにくしざしになって、砂嚢さのうは羽の下にかくして、おそらくは、かおりのよいソーセージを首飾りにしているように思われた。
焼鳥をくしから引っこぬくように、鼬を竿の先から抜き取って、それを地面じびたへ叩きつけると、屋根の上へ飛び上った鶏がホッと安心したように下りて来て
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
のちにはらんで産むところの子、両牙長くい尾角ともに備わり、げんとして牛鬼のごとくであったので父母怒ってこれを殺し、銕のくしに刺して路傍にさらした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大木の根本には燃えてる火が見えていて、そこでひとりの猟師がくしにさされて三匹のうさぎからあぶられていた。
(Ice.)steik は steka と親類で英語の stick すなわちステッキと関係があり、くしに刺して火にあぶる「串焼き」であったらしい。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
物に由りて或はくしされて燒かれしも有るべく或は草木くさきの葉につつまれて熱灰にうづめられしも有るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
団子を認めた彼女は、ついに個々を貫いているくしを見定める事のできないうちに電車を下りてしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きなをきって、自在じざいに大薬罐の湯がたぎって居る。すすけた屋根裏からつりさげた藁苞わらつとに、焼いた小魚こざかなくしがさしてある。柱には大きなぼン/\がかかって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一方では又、一郎君の射とめた鹿の肉を切りとって、それを木の枝をけずったくしにさして、焚火の上であぶりはじめる。それもだまってやっているのではありません。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
神輿の御座船は一きわ美しい屋形船で、旗のぼりや、玉くしなどの立ち並ぶ下に、礼装した神官たちがいずまい正し、伶人が楽を奏でるなかに、私の鈴子は美しい巫女の装いして
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
K・S氏はそこで出た料理の中で、焼蛤やきはまぐりの皿に紅梅のつぼみが添えてあったことや、青竹のくしに差した田楽の豆腐に塗ってある味噌みそに木の芽がにおったことをおもい出して話した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あやしきなりに紙を切りなして、胡粉ごふんぬりくり彩色さいしきのある田楽みるやう、裏にはりたるくしのさまもをかし、一軒ならず二軒ならず、朝日に干して夕日にしまふ手当ことごとしく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ああ、かやくしにしておけばいいよ。そら、こんな工合ぐあいに。」黒服くろふくいながら萱の穂を一すんばかりにちぎって地面じめんしてその上にきのこのあしをまっすぐに刺して立てました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
万年青おもとの芽分けが幾鉢も窓にならべてあって、鉢にはうなぎくしをさし、赤い絹糸で万年青が行儀わるく育たないように輪をめぐらしてあった。格子をあけると中の間の葭屏風よしびょうぶのかげから
追い追い穀をく事と、瓢に水を汲んで頭に載せ運び、またくしを廻して肉をあぶる事を教えたというも事実であろう(一七四五年板、アストレイの『新編航記紀行全集』二巻三一四頁)
竹のくしに刺して留めてある、ちょうど大根締めと俵とに刺さるようになるのです。
時たま仕事の暇を見て、船橋在のおやの家へ歸る時には、闇市で一くし拾圓の鰻の蒲燒を幾串も買つて土産みやげにしたり、一本壹圓の飴を近處の子供にやつたり、また現金を母親にやつたりした。
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
しな俯伏うつぶしたまゝ乳房ちぶさふくませた。さうしてまたいもくしこしらへてたせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
佐佐木茂索ささきもさく君はくしに通して、白やきにするのに適してゐる。
食物として (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ずいぶんあるもんだね」と数えてみて、「十九くしある」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
蛾次郎はいもくしをほうりだして、げるわ逃げるわ、むちゅうでにげた——一心不乱いっしんふらんに、あかるいほうへかけだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮に生きた鮎が手に入るとしても、素人しろうとがこれを上手にくしに刺して焼くということはできるものではない。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
と、とくならず、ちよろつかなつゝ加減かげんいたくしかはいて、小姉ちひねえうへひるがへつたのを、風呂敷ふろしきごと引奪ひつたくるやうにつて、やつこ屋臺やたいで、爲直しなほしながら
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大きなお社の鳥居の脇にはお百度石という石が立っていて、手に数取かずとりの紙縒かみよりや竹のくしをもって、脇目わきめも振らずにそこと社殿とのあいだを、き返りする人を毎度見かける。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
木曾きそ御幣餅ごへいもちとは、ひらたくにぎつたおむすびのちいさいのを二つ三つぐらゐづゝくしにさし、胡桃醤油くるみしやうゆうをかけ、いたのをひます。そのかたちるから御幣餅ごへいもちでせう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あやしきなりかみりなして、胡粉ごふんぬりくり彩色さいしきのある田樂でんがくみるやう、うらにはりたるくしのさまもをかし、一けんならず二けんならず、朝日あさひして夕日ゆふひ仕舞しま手當てあてこと/″\しく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一杯五銭の甘酒、一杯五銭のしる粉、一くし二銭の焼鳥は何と肩のはらない御馳走だろう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
時たま仕事の暇を見て、船橋在の親の家へ帰る時には、闇市で一くし拾円の鰻の蒲焼を幾串も買って土産みやげにしたり、一本壱円の飴を近処の子供にやったり、また現金を母親にやったりした。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寒い時はこれに限りますからね、一くしは奥さんに、一串は我々にという事にしていただきましょうか、それから、おい誰か、林檎りんごを持っていた奴があったな、惜しまずに奥さんに差し上げろ
饗応夫人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
少しも肉感を逆立さかだてない、品のいゝ肌質のこまかい滋味が、かの女の舌の偏執の扉を開いた。川海苔のりを細かく忍ばしてある。生醤油きじょうゆの焦げた匂ひもびて凜々りりしかつた。くしの生竹も匂つた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
其音そのおとかり鳴聲なきごゑによくてゐるのを二人ふたりとも面白おもしろがつた。あるときは、平八茶屋へいはちぢややまで出掛でかけてつて、そこに一日いちにちてゐた。さうして不味まづ河魚かはうをくししたのを、かみさんにかしてさけんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あゝ、萱でくしにしておけばいゝよ。そら、こんな工合ぐあひに。」
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
グイと、横にくわえた鮒焼のくしで、ムシャムシャったあとの歯をせせりながら、毒々しいことばづかい。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
囲炉裡いろりの灰の中に、ぶすぶすとくすぶっていたのを、抜き出してくれたのは、くしに刺した茄子なすの焼いたんで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして一方にはお祭りの折りに限って、木のくしまたは木の枝を土にさす習慣がありました。同時にまた新しい箸をけずって、祭りの食事を神と共にする習慣もありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
焼鳥のくしをかじり、焼酎しょうちゅうを飲み、大声で民主々義の本質にいて論じ合ったりなど致しますと、まさしく解放せられたる自由というものをエンジョイしているような実感がして来たものです。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
油で濁った半台はんだいの水の中に、さまざまの魚類の死骸しがいや切りそいだその肉片、くしざしにした日干しの貝類を並べて、一つ一つに値段を書いた付木つけぎ剥板そぎいたをばその間にさしてあるが、いずれを見ても
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その音がかりの鳴声によく似ているのを二人とも面白がった。ある時は、平八茶屋へいはちぢゃやまで出掛けて行って、そこに一日寝ていた。そうして不味まずい河魚のくしに刺したのを、かみさんに焼かして酒をんだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜店よみせに、大道だいだうにて、どぢやうき、くしにさし、付燒つけやきにしてるを關東燒くわんとうやきとておこなはる。蒲燒かばやき意味いみなるべし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くしへさしたおいも田楽でんがく、左につかんでいるのは黒いあめぼう、ひゃらりこドンとおどりながら、いもをたべてはあめをなめ、あめをなめてはいもをくい、かわりばんこにしたを楽しませて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
想山著聞奇集しょうざんちょもんきしゅう』などに詳しく説いた美濃・信濃の山々の狗賓餅ぐひんもち、或いは御幣餅ごへいもち・五兵衛餅とも称するくしに刺した焼飯のごときも、今では山の神を祭る一方式のように考えているが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
造り酒屋でかすを絞るのに使う真っ黒な麻の袋だ。それに、岩公がきょうまで、頭を下げて稼いだ金が、ほとんど、一文もつかってないように、くしにして、いっぱいに詰っていた。
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)