鷹揚おうやう)” の例文
て、ぷんかをりのたか抽斗ひきだしから、高尾たかを薄雲うすぐも一粒選ひとつぶえりところして、ずらりとならべてせると、くだん少年せうねん鷹揚おうやうたが
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少年が屋根へ登る家は小さな川のそばにあつて、黒塀が𢌞めぐつて居る。建物は古いけれども、何となく鷹揚おうやうな間取で、庭も廣い。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「さうか。それではお前はおれのかゝ医者いしやになるか——」う、万事を呑込んでゐるやうな鷹揚おうやうな態度で云ふのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
かう云つて彼は鷹揚おうやうにワツハツハと笑つた。が、森島和作は「徳兵衛」といふ名前を聞くと後ろを鋭く振返り、その少年の顔をつと見つめてゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ガラツ八は自分のふところ見たいな顏をして、鷹揚おうやうに勘定をすると、若干なにがしか心付けを置いて、さて妻楊枝つまやうじを取上げました。
其の時は二月の末で、港の山々にはまだ雪が消え残つてゐたが波はもう春らしい丸みを見せて鷹揚おうやうに揺ぎ、商船や軍艦の間を白いかもめが飛びうてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
五位のことばをはらない中に、誰かが、嘲笑あざわらつた。さびのある、鷹揚おうやうな、武人らしい声である。五位は、猫背の首を挙げて、臆病らしく、その人の方を見た。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
汽車は早くも大船おほふなに着けり、一海軍将校、鷹揚おうやうとして一等室に乗り込みしが、たちまち姿勢をただしうして「侯爵閣下」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『然うです。美術學校で同級だつたんですが、……あゝ御存知ですか! 然うですか!』と鷹揚おうやううなづいて、『甚麽どんなで居るんでせう? まだ結婚しないでせうか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
常の湯村はたゞ鷹揚おうやうに、「何有なあに、喰べる位の事なら何時まで居ても好い、ユツクリ勤口を探すさ。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「フム、フム」と黒幕の中で鷹揚おうやうに鼻の先の軽い一笑を演じる一つの心が其れに次ぐ。あとは気の乗らない沈黙。其間そのあひだもがいて居た首と手とはやつとのことでブトンを入れ終つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
家庭かていあたゝかにそだつたうへに、同級どうきふ學生がくせいぐらゐよりほか交際かうさいのないをとこだから、なかことにはむし迂濶うくわつつてもいが、その迂濶うくわつところ何處どこ鷹揚おうやうおもむきそなへて實社會じつしやくわいかほしたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると、池田氏は物を呉れる者に附物つきもの鷹揚おうやう態度ものごしで、ポケツトに手を突込んだと思ふと、何か知らつかみ出して黙つて相手の掌面てのひらに載せて呉れる。——見ると、使ひ古しの郵便切手である。
ねがふとのおもむきなり此時隔のふすまを押明れば天一坊威儀を繕ろひ然も鷹揚おうやうに此方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見渡せば正面に唐錦からにしきしとねを敷ける上に、沈香ぢんかう脇息けふそくに身を持たせ、解脱同相げだつどうさう三衣さんえした天魔波旬てんまはじゆんの慾情を去りやらず、一門の榮華を三世のいのちとせる入道清盛、さても鷹揚おうやうに坐せる其の傍には
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
事実、私はちんちくりんの身体の肩を怒らせひぢを張つて、廊下で行き違ふ新入生のお辞儀を鷹揚おうやうに受けつゝ、ゆるく大股おほまたに歩いた。さうしてたかであらを見出し室長の佐伯に注進した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
山や田地をやしたので、今では村一二の物持ちになつて、家柄なぞといふものの光のだん/\薄くなるとともに、鷹揚おうやうな好人物の主人をつたお安の實家さとが、村に唯一つの瓦葺かはらぶきの大きな家と
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と言はれて、郡視学は鷹揚おうやう微笑ほゝゑみを口元にたゝへ乍ら
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「今迄どこにゐたんだね。」重役は鷹揚おうやうに訊いた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
鷹揚おうやうにわらつてその木のしたへゆくのだけれども
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
『ヌ、』とばかりで、下唇したくちびるをぴりゝとんで、おもはず掴懸つかみかゝらうとすると、鷹揚おうやう破法衣やぶれごろもそでひらいて、つばさ目潰めつぶしくろあふつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大町人らしい鷹揚おうやうさを持つて居るのと反對に、痩せて、しわだらけで、蒼黒くて、老狐のやうな感じのする男でした。
大兵肥満の晋子其角しんしきかくが、つむぎの角通しの懐を鷹揚おうやうにふくらませて、憲法小紋の肩をそば立てた、ものごしの凛々りりしい去来と一しよに、ぢつと師匠の容態をうかがつてゐる。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宗助そうすけ其間そのあひだに、なんとかして、もつと鷹揚おうやうきて分別ふんべつをしなければならないと決心けつしんだけをした。三朦朧もうろうとしてきこえたやうきこえないやうなうちにぎた。四時よじ、五、六まるらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
見ても何某と稱るゝ御殿醫先生ならんと思へば一同うやまひまづ此方へと上座じやうざせうすに元益更に辭する色なくいと鷹揚おうやう挨拶あいさつして打ち通りつゝ座に附ば今日は管伴ばんたう忠兵衞が不在なるに依り帳場ちやうばにゐる主人長左衞門は立出て敬々うや/\しく挨拶あいさつなしおちや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きつね鷹揚おうやうに笑ひました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おぼかたはいけ粗雜ぞんざいだが、料理れうりはいづれも念入ねんいりで、分量ぶんりやう鷹揚おうやうで、いさゝかもあたじけなくないところうれしい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何ぢや。」利仁は、郎等たちの持つて来た篠枝ささえ破籠わりごを、五位にも勧めながら、鷹揚おうやうに問ひかけた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
でも、白状したも同じことさ、顏色が變つたぜ。もう少し鷹揚おうやうな心持になつて、あの晩庭で人影を
宗助そうすけはわざと鷹揚おうやうこたへをしてまた仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鷹揚おうやうにうなづくと、頬のあたりによどんだ持前の愛嬌が、戸迷ひをしたやうにスーツと消えます。
……鷹揚おうやうに、しか手馴てなれて、迅速じんそく結束けつそくてた紳士しんしは、ためむなしく待構まちかまへてたらしい兩手りやうてにづかりと左右ひだりみぎ二人ふたりをんなの、頸上えりがみおもふあたりを無手むずつかんで引立ひつたてる、と
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
りやくしてまをすのですが、其處そこ案内あんないもなく、づか/\とはひつてて、立状たちざま一寸ちよつとわたし尻目しりめにかけて、ひだりについた一にんがあります——山伏やまぶしか、隱者いんじやか、とおも風采ふうさいで、ものの鷹揚おうやう
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎は兄哥らしく鷹揚おうやうに首をネヂ向けました。
小母をばさん頂戴ちやうだいな」「其蟲そのむし頂戴ちやうだいな」とくうちに、むしは、うつくしいはねひろげず、しづかに、鷹揚おうやうに、そしてかるたて姿すがたさばいて、水馬みづすまし細波さゝなみかけごとく、ツツツと涼傘ひがさを、うへ梭投ひなげにくとおもふと
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)