たか)” の例文
すっかり禿げ上った白髪を総髪に垂らして、ひたいに年の波、鼻たかく、せた唇元くちもとに、和らぎのある、上品な、六十あまりの老人だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わるへば傲慢がうまんな、下手へたいた、奧州あうしうめぐりの水戸みと黄門くわうもんつた、はなたかい、ひげしろい、や七十ばかりの老人らうじんでした。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
植松夫婦は、名古屋生まれの鼻のたかいお婆さんや都育ちの男の子と共に、京橋鎗屋町やりやちょう住居すまいの方で宗太らを待ち受けていてくれたという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一見、田舎の村長さんみたいな、銀色の山羊鬚やぎひげの生えた朴訥な風貌だが、たかい鼻、ひろい額は、さすがに世界的な大学者の品位をそなえていた。
博士の目 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
たかい鼻すじからひたいにかけて、てらりと聡明が光っている。この年暮くれでちょうど五十四を越えようとしている光秀であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柱時計の午後二点にじをうつ拍子に、入り来たりしは三十八九のたけ高き婦人なり。束髪の前髪をきりて、ちぢらしたるを、たかき額の上にて二つに分けたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
握る手のふしたかきは、真黒きは、松の小枝に青筋を立てて、うんとく力の脈を通わせたように見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
運平老は、座敷に画仙紙をひろげて、絵をいているところだったが、恭一と次郎とが挨拶に行くと、老眼鏡をたかい鼻先にずらして、じろりと二人の顔を見た。そして
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「さあ、お名前はおっしゃいませんが、若い方です。鼻のたかい目の大きい、役者みたいなねえ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すらりとしながら引き締まって均整のれた手肢てあし……恰好かっこうのいい胸のたかまり! 私に見せた笑い顔がまだ眼前に散らついて、私はあえいで胸で息をしたいような気になりました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
たかく、眉秀で夢見るようにまみを伏せて、右手は乳の辺に挙げ、脇の下に垂れた左手は、ふくよかな掌を見せて……ああ雲の上に朱の唇、匂いやかにほほ笑まれると見た……そのおもかげ
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
薄い樺色かばいろ乳暈にゅううん、ゆたかな腹部のえぐったようなくぼみと、それに続くたかまりの上の僅かな幅狭い墨色、広くなった腰から重たげな太腿ふとももへ、そうしてすんなりと細くしなやかに伸びている脚。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鼻のたかくしかも翼孔の小さいのと前額の広いのとだけは幾分此者の顔面の違常性を調和して居るが、短く刈つた毛髪の下からすぐ看取することの出来る頭の形は又直にその不均斉を思はせる。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
広い額、のび/\とたかまり拡がった鼻、濃くて逞しい眉毛、——雄偉な天野の一つ一つの相を乙彦も具えていた。ただその一つ一つが小さく、内から湧く豊かな力がなく、全体が凋びているのである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
左は海に向へる青野のあなたに、チルチエオのみさき(プロモントリオ、チルチエオ)のたかく起れるあり。こは今こそ陸つゞきになりたれ、古のキルケが島にして、オヂツセウスが舟の着きしはこゝなり。
仮サズ/卅歳辛勤一空ニ付ス/君ヤ夙ニ克家ノ子リ/七齢李賀声已ニたかシ/吾嘗テ西遊シテ君ガ舎ニ寓ス/吾未ダ弱冠ナラズ君猶童タリ/対床一堂講習ヲ事トシ/灯火旦ニ達シ三冬ヲわたル/ああ吾産ヲ破リテ何事ヲカ成サン/爾来落托十年ノうち/江湖酒ヲ載セテ薄倖ニ甘ンジ/狂名留マリテ煙花ノ叢ニ在リ/君亦郷閭ノ誉ヲ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
正太と三吉とは、年齢としが三つしか違わない。背は正太の方がたかい。そこへ来て三吉の傍に坐ると、叔父おいというよりか兄弟のように見える。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いたずらに鼻がたかく目のくぼんだ処から、まだ娑婆気しゃばッきのある頃は、暖簾のれんにも看板にも(目あり)とかいて、煎餅せんべいを焼いて売りもした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、その駕籠の列が遠く去るのを、岡の梅林からひそかに見送っている人にも、白い髯と、鼻すじのたかい横顔とがあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻のたかい、色白の、上脊うわぜいのあるその青年は、例の電球二つを女の乳房ちぶさのようにつけた仏蘭西製フランスせいのスタンドの、憂鬱な色をしたシェドのかげに、うつむき加減に腰かけていたものだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
妹とよく似た面差おもざしはしていますが、これは妹と違って細面の、あでやかなひとみ……愛らしい口許くちもと……たかい鼻……やっぱりふさふさとした金髪を、耳の後方うしろで付けて、せいも妹よりは
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
一座が二十六七人、揃って顔を見合わせると、それまで、鼻のたかい、長頤ながあごでていた運八が、はかまのひだへ手を入れて目礼をしたんですって。
耳のあたりまで裂けて牙歯きばのある口は獣のものに近く、たかい鼻は鳥のものに近く、黄金の色に光った目は神のものに近い。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「塗駕籠の御簾みすごしに、白いおひげと、鼻ばしらのたかいお顔が、何やらきょうは、神々こうごうしげに拝まれたぞよ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階には見晴しのいい独立の部屋が幾個いくつもあったが、どちらも明いていた。病身らしい、頬骨ほおぼねと鼻がたかく、目の落ちくぼんだ、五十三、四のあるじの高い姿が、庭の植込みの間に見られた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その髪を両耳き上げて、たかい鼻、不思議そうに私を見守っている、透きとおるようなあおひとみ……真っ白なブラウスに、乳色の乗馬洋袴ズボンを着けて、艶々つやつやした恰好かっこうのいい長靴を、あぶみに乗せています。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
先生は鼻眼鏡をたかい鼻のところに宛行あてがって、過ぎ去った自分の生活の香気においぐようにその古い洋書を繰りひろげて見て、それから高瀬にくれた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頤骨あごぼねとがり、頬がこけ、無性髯ぶしょうひげがざらざらとあらく黄味を帯び、その蒼黒あおぐろ面色かおいろの、鈎鼻かぎばなが尖って、ツンとたかく、小鼻ばかり光沢つやがあって蝋色ろういろに白い。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一見飄乎ひょうことした旅の坊さんでしかないが、眉骨たかく、口は大きく、どこか異相なところがある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻のたかい、眼のあおい、そして髪の毛が亜麻色をした、我々と何ら異なったところのない欧州人であったが、その服装の変っていることには、まったく一驚をきっせずにはいられなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
たかくない、ほほほ、ちょっとつまんでやろうかしら、なんと思って上から顔をると、ねむっていたんじゃないんです。
自分で言ふもなものではあるが、私はよく手入れをした髪と、たかい筋の通つた鼻と、浅黒くはあるがしかしきめのこまか光沢つやのある皮膚とを持つて居た。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くちの大きいのは、意志の強さを示している。眉骨びこつたかく、鼻ばしらは太い。野性というか、壮気というか、何しろさかんな生命を内に蔵していることは赭黒あかぐろい皮膚の光沢や眼の光でもわかる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜上った額の広い、鼻のすっとたかい、髯の無い、おとがいの細い、眉のくっきりした顔を上げた、雑所ざいしょという教頭心得きょうとうこころえ
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神経の鋭いものだけに、主人を懐しむことも恐れることもはげしいものと見え、すこし主人に残酷な様子が顕れると、もう腰骨こしぼねたかくして前へ進みかねる。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小犬を連れたお婆さんにも、赤い花や桜の実の飾りのついた帽子を冠り莫迦ばかかかとたかい靴を穿き人の眼につく風俗をしてその日のかてを探し顔な婦人にも。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
神月が人魂だといったのを聞いた時、あいつ愛嬌あいきょうのない、鼻のたかい、目のきつい、源氏物語の精霊しょうりょうのような、玉司たまつかさ子爵夫人りゅう子、語を換えて云えば神月の嚊々かかあだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
提灯の光に照された先輩の死顔は、と見ると、頬の骨たかく、鼻尖り、堅く結んだ口唇は血の色も無く変りはてた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やや蔭になった頬骨ほおぼねのちっと出た、目の大きい、鼻のたかい、背のすっくりした、人品に威厳のある年齢ねんぱい三十ばかりなるが、引緊ひきしまった口に葉巻をくわえたままで、今門を出て
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供と大人がこの人の蒼白い額や特色のあるたかい鼻には同時にんでいた。やがて市川は岡見と一緒に編輯へんしゅうしたという例の小さな雑誌の秋季附録を捨吉の前に取出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鼻のたかい、目の鋭い、眉の迫った、額の狭い、色の浅黒い、さながら悪党の面だけれども、口許くちもとばかりはその仇気あどけなさ、乳首を含ましたら今でもすやすやとそうに見えて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡麻塩頭ごましおあたまで、目がくぼんで、鼻のたかい、節々のあらわれたような大きな手を持った隠居が、私達の前を挨拶あいさつして通った。腰にはつのの根つけの付いた、大きな煙草入をぶらさげていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……奥沢の九品仏くほんぶつへ、くるわ講中こうじゅうがおまいりをしたのが、あの辺の露店の、ぼろ市で、着たのはくたびれた浴衣だが、白地の手拭てぬぐいを吉原かぶりで、色の浅黒い、すっきり鼻のたかいのが
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うたいもうたい、歌の話もするが、なにしろ尾州藩の宮谷家から先代菖助の後妻に来た鼻のたかい人で、その厳格さがかえって旦那を放縦ほしいままな世界へと追いやったかとおもって見ることもある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鼻のたかいのが、……段の上からと、廊下からと、二ヶ処の電燈のせいか、その怪しい影を、やっぱり諸翼もろはのごとく、両方の壁に映しながら、ふらりと来て、朦朧もうろうと映ったが、近づくと
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白木綿しろもめん布子ぬのこえり黄色きいろにヤケたのに、單衣ひとへらしい、おなしろ襦袢じゆばんかさね、石持こくもちで、やうかんいろ黒木綿くろもめん羽織はおり幅廣はゞびろに、ぶわりとはおつて、むね頭陀袋づだぶくろけた、はなたかい、あかがほ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
香蔵と来たら、たかく持ち上げた左の肩に物を言わせ、歩きながらでもそれをすぼめたり、ゆすったりする。この二人に比べると、息づかいも若く、骨太ほねぶとで、しかも幅の広い肩こそは半蔵のものだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鼻のたかいその顔が、ひたひたと横に寄って、胸に白粉おしろいの着くように思った。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
光起はあいと紺、味噌漉縞みそこしじま一楽の袷羽織、おなじ一楽の鼠と紺を、微塵織みじんおりの一ツ小袖、ゆきみじかにきりりと着て、茶の献上博多の帯、黄金きんぶちの眼鏡を、ぽつりと太い眉の下、鼻たかく、ひげこまやかに
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅僧たびそう年紀とし四十二三、全身ぜんしんくろせて、はなたかく、まゆく、耳許みゝもとよりおとがひおとがひよりはなしたまで、みじかひげまだらひたり。けたる袈裟けさいろせて、法衣ころもそでやぶれたるが、服裝いでたちれば法華宗ほつけしうなり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)