見附みつけ)” の例文
牛込見附みつけとき、遠くの小石川のもりに数点の灯影ひかげみとめた。代助は夕飯ゆふめしふ考もなく、三千代のゐる方角へいてあるいてつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さらに三人連れだって殺気のあふれた町々を浅草橋の見附みつけから筋違すじかいの見附まで歩いて行って見たのは二十三日のことであったが
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見附みつけ見附には枡形ますがたがあり、そこは長いものを通さず、やりや鉄砲や梯子はしごと間違えられるので、竹ざおなどを持ちこむのに、風呂敷をかぶせて
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僧が引込ひきこんだので三左衛門はそこへ草履ぞうりを脱いであがった。庵の内にはわらを敷いて見附みつけ仏間ぶつまを設けてあったが、それは扉を締めてあった。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
江戸時代の築城の規模がそのまま壮麗なビル街を前景のうちに抱え込んでいる雄大な眺め、見附みつけやお濠端のみどり色、等々に尽きる。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんでえ、へんにおれを、めつけやがって。——見附みつけのそばで、追剥おいはぎなんざ、場所がわるいぜ。すこし頭を働かせろよ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麹町見附みつけ内に開設せられ、西岡未亡人がその学校の校長に推されているというようなことなども段々知らされた。
幾多いくらも違ひは致しませんのに、にぎやかな方をいらつしやいましよ。私その代り四谷見附みつけの所までお送り申しますから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
をしかな。すぐにもあとをたづねないで……晩方ばんがた散歩さんぽときは、見附みつけにも、おほりにも、たゞきりみづうへに、それかともおもかげが、たゞふたつ、つ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
遠州見附みつけ人身御供ひとみごくう問題を解決した物語の主人公だから、どこまでが昔話か結局は不明に帰するのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
砂糖のが文久ぶんきゅう一枚、白玉が二枚という価でした。まだ浅草橋には見附みつけがあって、人の立止るを許さない。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
神田川の河岸かしにある石屋のせがれ安太郎が、友達五、六人と清元の師匠の家に寄り集まったとき、その一人が云い出して、桜田門の見附みつけの桝形のまん中に坐って
袋井から見附みつけへ四里四町、見附から池田の宿、大天竜、小天竜の舟渡ふなわたしも予定通り日の中に渡って中の町。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
〆切町内々々ちやうない/\自身番屋じしんばんやにはとびの者共火事裝束しやうぞくにてつめ家主抔いへぬしなどかはり/″\相詰たり數寄屋橋御見附みつけ這入はいれば常よりも人數夥多おびたゞしく天一坊の供のこら繰込くりこむを待て御門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
余はまたこの数年来市区改正と称する土木工事が何ら愛惜あいせきの念もなく見附みつけ呼馴よびなれし旧都の古城門こじょうもんを取払ひなほいきおいに乗じてその周囲に繁茂せる古松を濫伐らんばつするを見
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
筋違すじかい見附みつけ跡、俗にめがね橋といった旧万世橋、それが東京一の大通りに架った石橋で、その手前二、三丁の間が全くの空地、緑したたる柳の立木が不規則に並んで
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
フォォル氏は僕に名刺をれると云つて夫人と一緒に探して居たが、やつと一枚服の衣嚢かくし何処どこからか見附みつけ出してしわを直しながれたのは黄色く成つたふる名刺であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
淺草見附みつけの廣場に家財道具を持出したものが積み重なり、逃げ道をふさいで、十萬七千人といふおびただしい燒死者があつたから、時の政府が急に造橋を思立つたのだつた。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
今浅草見附みつけの所をって来ると、うまそうな茶飯餡掛ちゃめしあんかけを食べさせる店が出来ていました。そこに腰を掛けて、茶飯を二杯、餡掛を二杯食べました。どっちも五十文ずつで、丁度二百文でした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
俥があったら乗ろうと思ったが、提灯ちょうちんの影らしいものすら見当らなかった。見附みつけの方には、淡蒼うすあおい柳の蔭に停車場ステイションの明りが見えていたが、そんなところへ迂闊うかつに入り込んで行くことも出来なかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見附みつけなどの幕の内には角力取が五人ぐらいずつ勤めて居ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それをちょっとお見附みつけなさる方はお為合しあわせです。
政雄はその間の狭い暗い処を通って急いで見附みつけの座敷にあがった。そこには老人夫婦の寝ている隣のへやけた電燈がぼんやりした光を投げていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旧城郭の関門とも言うべき十五、六の見附みつけ、その外郭にめぐらしてあった十か所の関門も多く破壊された。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると昨日きのう、母様がここへ訪ねて来たろう。帰りがけに、飯田町から見附みつけを出ようとする処で、腕車くるまを飛ばして来た、母衣ほろの中のがそれだッたって、矢車の花を。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はまたこの数年来市区改正と称する土木工事が何ら愛惜あいせきの念もなく見附みつけ呼馴よびなれし旧都の古城門こじょうもんを取払ひなほいきおいに乗じてその周囲に繁茂せる古松を濫伐らんばつするを見
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
〆切しめきり町内の自身番屋には鳶の者火事裝束にて相詰あひつめたり程なく惣人數そうにんずは數寄屋橋御門へ來しに見附は常よりも警固かための人數多く既に天一坊の同勢どうぜい見附みつけ這入はひれば門を〆切しめきりそれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この国見附みつけの国府という処に止まっていると、其処そこへ近隣の地頭共が結縁の為に集って来た。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見附みつけのわきまでゆくと、まっ黒に人がたかっていた。蓆掛むしろがけの中に百目蝋燭ひゃくめろうそくの明りがゆらいでいる。太平記読のしわがれた声が内から大勢のあたま越しに聞えてくるのだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
附木店は浅草見附みつけ内の郡代——日本橋区馬喰町ばくろちょうの裏と神田の柳原河原のこっちうらにあたっている。以前もとは、日本橋区の松島町とおなじ層の住民地で、多く願人坊主がんにんぼうずがいたのだそうだ。
わたしが二十歳はたちの九月はじめである。夜の九時ごろに銀座から麹町の自宅へ帰る途中、日比谷の堀端にさしかかった。その頃は日比谷にも昔の見附みつけの跡があって、今日の公園は一面の草原であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
処のあるのをお見附みつけなされたかと存じて。
戸外そとへ出ようとして扉に手をかけた時、ふ、ふ、ふと笑うような声がした。り返って見ると、見附みつけの窓の中に宵のままの老婆が大きな眼鏡めがねを見せていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
またその道すがら横手はるか幸橋さいわいばし見附みつけを眺めやった御郭おくるわそとの偉大なる夕暮の光景が、突然の珍らしさにふと少年時代の良心の残骸ざんがい呼覚よびさましたというよりほかはあるまい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここの湯のくるわは柳がいい。分けて今宵は月夜である。五株、六株、七株、すらすらと立ち長くなびいて、しっとりと、見附みつけめぐって向合う湯宿が、皆この葉越はごしうかがわれる。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年明後ねんあけごつまとなし越後に實親じつおやありとたづね行しに同國猿島河原にて人手ひとでかゝり其くびをば川下にて見附みつけたりと申す然すれば其方どもか奸計かんけいにて右の死骸しがいむすめせがれ着物きるゐを着せ傳吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
江戸大城の関門とも言うべき十五、六の見附みつけをめぐりにめぐる内濠うちぼりはこの都会にある橋々の下へ流れ続いて来ている。その外廓そとがわにはさらに十か所の関門を設けた外濠そとぼりがめぐらしてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
安いのなら見附みつけのわきへ行きなさい。太平記読たいへいきよみの小屋と並んで『ゆ』という看板が出ておるし、もっと贅沢に、湯よりも遊ぼうというつもりなら、神田のほうへ向いて、ぶらぶら行ってごらん。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は歩いて往って見附みつけ障子しょうじを開けた。左側に小さな小縁こえんが見えてそこに六畳ぐらいのへやがあった。右側は台所になって、その口の処に一枚の障子があった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
てんときあめながら、案内あんない美人びじんたぞと、もう山葵漬わさびづけはしさきで、鯛飯たひめし茶漬ちやづけにしたいきほひで、つい此頃このごろ筋向すぢむかひとんさんにをしへをうけた、いち見附みつけはとじるしと
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
間貸のばばは市ヶ谷見附みつけ内の何とやらいう薬湯やくとうがいいというので、君江はその日の暮方始めて教えられた風呂屋ふろやへ行き、翌日はとにかく少し無理をしても髪をおうと思いさだめた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うわさに聞く浅草橋あさくさばしまで行くと、筋違すじかいで見たような見附みつけの門はそこにもあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見附みつけで、酒の上で武士を斬った。——手を洗わしてくれ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はまず細君さいくんがいるかいないかをたしかめるために玄関をあがるなり見附みつけの茶の間の方を見た。そこはひっそりして人の影もないので左側になった奥のへやを見た。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はやいもので、せん彼處あすこいへ建續たてつゞいてことわたしたちでもわすれてる、中六番町なかろくばんちやうとほいち見附みつけまで眞直まつすぐつらぬいたひろさかは、むかしながらの帶坂おびざかと、三年坂さんねんざかあひだにあつて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
東都柳原やなぎわらの土手には神田川の流に臨んで、筋違すじかい見附みつけから浅草あさくさ見附に至るまで毿々さんさんとして柳が生茂おいしげっていたが、東京に改められると間もなく堤は取崩されて今見る如き赤煉瓦の長屋に変ってしまった。
赤坂あかさか見附みつけちかい、ある珈琲店コオヒイてん端近はしぢか卓子テエブルで、工學士こうがくし麥酒ビイル硝子杯コツプひかへてつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
政雄は安心してそこの往き詰めの開き戸をけて微暗うすぐら縁側えんがわに出、その見附みつけにある便所の戸を啓けた。と、その時便所の中から出て来たものがあった。政雄はびっくりしてその顔を見た。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
渡り一ツ橋見附みつけを出で
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……新坂しんざかとか、見附みつけさかとか、勝手かつてとなへてはせるが、おほきなあたらしいさかである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)