うっす)” の例文
外はクワッと目映まぶしいほどよい天気だが、日蔭になった町の向うのひさしには、霜がうっすりと白く置いて、身が引緊るような秋の朝だ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
が、羽音はしないで、すぐその影にうっすりと色が染まって、おんなすそになり、白い蝙蝠こうもりほどの足袋が出て、踏んだ草履の緒が青い。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その晩から天気は激変して吹雪ふぶきになった。翌朝あくるあさ仁右衛門が眼をさますと、吹き込んだ雪が足から腰にかけてうっすら積っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日の光はちょうど二人の胸あたりから下の方に当っているが、日ざしに近くいるせいだか二人とも顔がうっすりと紅くなって、ことに源三は美しく見える。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が雲に遮られて、湖水の上がうっすらと、かげろってきました。が、その瞬間に、私には今日まで二日間の疑問が、淡雪あわゆきのように消え去るのを覚えました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
いわゆる春の夜の花明り、闇とは云ってもほの明るかった。うっすり一筋木刀が闇の中へ浮いて見えた。卜伝は切っ先へ眼を付けた。と、気合いが充ちたのか
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
唇から付いたんなら、もう少しうっすり付きますが、筒の口は紅が笹色になっているほど付いてるでしょう。それは、紅皿から指で筒の口へなすったものに相違ありません
それは雲の湧いて出るところが、影になった杉山のすぐ上からではなく、そこからかなりのへだたりを持ったところにあったことであった。そこへ来てはじめてうっすり見えはじめる。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そして夕方、北向の高窓から射す日の光が、うっすらとぼやけてゆく頃、秋子は何気なくその室にはいって、押入の前に佇むと、ぞーっと底寒い気がして、ぶるぶると身体が震えた。
白血球 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
眼が闇に慣れるに従って、星空の下の墓地や建物が、うっすりと見分けられた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからまた元の穴へ行ってみると、爪痕がうっすらと幾つも見えている。この爪痕は大兎のものとしては余りに大きい。彼女はあのいつも塀の上にいる大きな猫に疑いを掛けずにはいられなかった。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
牡蠣船のさきにはまた小さな使者屋橋しさやばしと云う橋がうっすらと見えていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
川端へ着くと、うっすらと月が出たよ。大川はいつもより幅が広い、霧でぼうとして海見たようだ。ながれの上の真中まんなかへな、小船が一そう
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして遊びほうけて、野原へ走り出て、池の端の大木のうつろなぞに隠れているうちに、水の面にうっすらと夕靄ゆうもやが漂って、ゴウンゴウンと遠くから鐘の音なぞが聞こえてきます。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
向う側にずらりと並んでいる無関心な男女の顔の二三に、うっすらとした微笑が浮んだ。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
びんの毛がねっとりと、あの気味の悪いほど、枕に伸びた、長い、ふっくりしたのどへまつわって、それでいて、色がうっすりとあおいんですって。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の陰、木の陰はうっすらとしていましたが、遠くの空は八月ですから、まだ明るくえていました。私も草臥くたびれていましたし、二人も沈み切って、お互いに黙々として歩いていたのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「あら、うっかり、おじさんだと思って、つい。……真紅まっかでしたわ、おとなになって今じゃうっすりとただ青いだけですの。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ明けやらぬ暁のもやうっすらと立てめている頃であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いい塩梅あんばいに、車は、雨もふりやんだ、青葉の陰の濡色の柱のうっすり青い、つつじのあかるい旅館の玄関へ入ったのである。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
串戯じょうだんじゃありませんぜ。ね、それ、何だかうっすりと美しい五色の霧が、冷々ひやひやかかるようです。……変にすごいようですぜ。亀が昇天するのかも知れません。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胸の隅々くまぐまに、まだその白いはだ消々きえぎえに、うっすらと雪をかついで残りながら、細々と枝を組んで、肋骨あばらぼねが透いて見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この煙とも霧とももやとも分らない卍巴まんじともえの中に、ただ一人、うっすりとあなたのお姿を見ました時は、いきなり胸で引包ひっつつんで、抱いてあげたいと思いましたよ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うっすりとひさしを包む小家こいえの、紫のけぶりの中もめぐれば、低く裏山の根にかかった、一刷ひとはけ灰色のもやの間も通る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがね、おかみさん、いざ原場はらっぱの頂上へうっすりと火柱が立って、愛吉の姿があらわれたとなる。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その内、湯に入ると、うっすりと湯槽ゆぶねの縁へ西日がさす。のぞくと、空の真白まっしろな底に、高くから蒼空が団扇うちわをどけたような顔を見せて、からりと晴れそうに思うと、かこいの外を
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鐘さえ霞む日はたけなわに、眉をかすめる雲は無いが、うっすりとある陽炎かげろうが、ちらりと幻を淡く染めると、露地を入りかけた清葉は、風説うわさの吾妻下駄と、擦違うように悚然ぞっとした。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空は晴れて、かすみが渡って、黄金のような半輪の月が、うっすりと、淡い紫のうすもの樹立こだちの影を、星をちりばめた大松明おおたいまつのごとく、電燈とともに水に投げて、風の余波なごり敷妙しきたえの銀の波。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶴沢宮歳つるさわみやとしとあるのを読んで、ああ、お師匠さん、と思う時、名の主は……早や次の葭戸越よしどごし背姿うしろすがたに、うっすりと鉄瓶の湯気をかけて、一処ひとところ浦の波が月に霞んだようであった。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洗面所の壁のその柱へ、袖の陰がうっすりと、立縞たてじまの縞目が映ると、片頬かたほで白くさし覗いて
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことは——吹矢ふきやも、ばけものと名のついたので、幽霊の廂合ひあわいの幕からさかさまにぶら下り、見越入道みこしにゅうどうあつらへた穴からヌツと出る。雪女はこしらへの黒塀くろべいうっすり立ち、産女鳥うぶめどり石地蔵いしじぞうと並んで悄乎しょんぼりたたずむ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちらちらと春風にちらめく処々ところどころうっすりと蔭がさす、何か、ものおもいか、なやみが身にありそうな、ぱっと咲いて浅くかさな花片はなびらに、くもりのある趣に似たが、風情は勝る、花の香はそのくまから、かすか
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気候は、と言うと、ほかほかが通り越した、これでかっと日が当ると、日中ははやじりじりと来そうな頃が、近山曇ちかやまぐもりにうっすりと雲が懸って、真綿まわたを日光にすような、ふっくりと軽い暖かさ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だって口惜くやしかろう。その川一条ひとすじ前途さきは、麗々と土が出て、うっすりと霧がって、虫の声がするんだもの。もう近いから、土手じゃ車の音はするし、……しばらくにらみ詰めて立っていた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この路をあとへ取って返して、今へびったという、その二階屋にかいやかどを曲ると、左の方にの高い麦畠むぎばたけが、なぞえに低くなって、一面にさっと拡がる、浅緑あさみどりうつくし白波しらなみうっすりとなびなぎさのあたり
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことは——吹矢も、化ものと名のついたので、幽霊の廂合ひあわいの幕からさかさまにぶら下がり、見越入道みこしにゅうどうあつらえた穴からヌッと出る。雪女はこしらえの黒塀にうっすり立ち、産女鳥うぶめどりは石地蔵と並んでしょんぼりたたずむ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歯磨屋はみがきや卓子テエブルの上に、お試用ためし掬出すくいだした粉が白く散って、売るものの鰌髯どじょうひげにもうっすり霜を置く——初夜過ぎになると、その一時ひととき々々、大道店の灯筋あかりすじを、霧で押伏おっぷせらるる間が次第に間近になって
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんと……綺麗な、その翼の上も、一重ひとえ敷いて、うっすり、白くなりました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真白まっしろな手が二つ、悚然ぞっとするほどなおんなが二人……もうやがてそこら一面にうっすり白くなった上を、しずかに通ってくのでございます。正体は知れていても、何しろそれに、所が山奥でございましょう。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おお沢山な赤蜻蛉あかとんぼじゃ、このちらちらむらむらと飛散とびちる処へ薄日うすびすのが、……あれから見ると、近間ちかまではあるが、もみじに雨の降るように、こううっすりと光ってな、夕日に時雨しぐれが来た風情ふぜいじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しおれて見える処へ、打撞ぶつかったその冷い紋着もんつきで、水際の立ったのが、うっすりと一人浮出したのであるから、今その呼懸けたお三輪さえ、声に応じて、結綿ゆいわたの綺麗な姿が、可恐こわそうな、可憐かれんな風情で
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁にはうっすり、呼吸いきあとと、濡れた唇が幻にそのまま残って、蝶吉の体は源之助きのくにや肖顔画にがおえが抜出したようになって、主婦おかみの手で座敷の真中まんなかへ突入れられて、足もたまらず、横僵よこだおれになったが、男のそば
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁側に跫音あしおとして、奥の方からちかづいたが、やがてこの座敷の前の縁、庭樹をめて何となく、隣家となりのでもあるか蚊遣の煙のうっすりと夏の夕を染めたる中へ、しゃであろう、被布を召した白髪しらがを切下げのおうな
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
料理旅籠はたごは、古家ふるいえいらかを黒く、亜鉛トタン屋根が三面にうっすりと光って、あらぬ月の影を宿したように見えながら、えんひさしも、すぐあの蛇のような土橋に、庭に吸われて、小さな藤棚のげようとする方へ
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ぞ苦しかったでしょう、乳を透して絽の紅い、其処の水が桃色にうっすりとからんでいる、胸を細く、両手で軽く襟を取って、はだけそうにしていたのが、貴方がその傍にお寄りなさいました煽りに
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桃色の小枕ふっくりとなまめかしいのに、白々しろじろと塔婆が一基(釈玉しゃくぎょく)——とだけうっすりと読まれるのを、面影に露呈あらわに枕させた。かしらさばいて、字にはらはらと黒髪は、かもじ三房みふさばかりふっさりと合せたのである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
粧飾めかす時に、うっすらと裸体に巻く宝もののうつくし衣服きものだよ。これは……
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、もう一間とみまわすと、小庭の縁が折曲りに突当りが板戸になる。……そこが細目にあいた中に、月影かと見えたのは、ひさしに釣った箱燈寵はこどうろうの薄明りで、植込を濃く、むこうへぼかしてうっすりと青い蚊帳かや
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うっすりした目のうちが、さっとさめると、ほろりとする。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影のようにうっすりと浮いて見えます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)