たくは)” の例文
福間先生は常人よりもむしせいは低かつたであらう。なんでも金縁きんぶち近眼鏡きんがんきやうをかけ、可成かなり長い口髭くちひげたくはへてゐられたやうに覚えてゐる。
二人の友 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふところには小錢こぜにたくはへてくことも出來できるのであつたがかれくコツプざけかたむけたのでかれふところけつして餘裕よゆうそんしてはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あのかたが何年間かのあなたの心をたくはへた行李かうりけて人に見せ、焼き尽しもした程にくみを見せながらそのあなたの弟や妹に
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
じつこの音色ねいろたくはへてなどといふは、不思議ふしぎまうすもあまりあることでござりまする。ことに親、良人をつとたれかゝはらず遺言ゆゐごんなどたくはへていたらめうでござりませう。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
一の穗碎かれ、その實すでにたくはへらるゝがゆゑに、うるはしき愛我を招きてさらに殘の穗を打たしむ 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
現金のたくはへはほとんどなく、時々庭から出入りするらしく、ひどくその邊を踏み固めて居るのが眼につきます。
佛人フツジンごとくに輕佻けいてふうごやすきにあらず、默念焦慮もくねんせうりよして毒刄どくじん懷裡かいりたくはふるは、じつ露人ロジン險惡けんあくなる性質せいしつなり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
あなたの鞄は結婚の旅の用意をした時のまゝひもをかけぢやうを下して置いてあつた。たくはへもなく、一錢もないまゝで、私の大事な人はどうなることかと私は訊ねた。
すぐにそのちからのなすまゝにかたち調節ちようせつして平均へいきんつため、地震力ぢしんりよくたくはへられることをゆるされない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ほどたつて、裏山うらやま小山こやまひとした谷間たにあひいはあなに、うづたかく、そのもちたくはへてあつた。いたちひとつでない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たくはへたりとは若いにはめづらしき人なりと感ぜしかば吾助に向ひ遠路ゑんろのところ態々わざ/\御尋ね有て御身の落着おちつき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
砂糖さとう澱粉でんぷんといふような含水炭素がんすいたんそとよぶ養分ようぶんつくり、それをからえだへ、えだからみきくだつておくつて、木全體きぜんたい發育はついくのための養分ようぶんにし、そののこりはたくはへておきます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
代助はちゝの様子、ちゝの言葉つかひ、父の主意、凡てが予期に反して、自分の決心をにぶらせる傾向にたのを心苦しく思つた。けれども彼は此心苦こゝろぐるしさにさへ打ち勝つべき決心をたくはへた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大坂城が陥るまで、秀吉がたくはへ置いた金銀は、家康を怖れさせたといふのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
黒餅こくもち立沢瀉たちおもだか黒紬くろつむぎの羽織着たるがかく言ひて示すところあるが如き微笑をもらせり。甘糟と呼れたるは、茶柳条ちやじま仙台平せんだいひらの袴を着けたる、この中にてひと頬鬚ほほひげいかめしきをたくはふる紳士なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
又青貝の戸棚に並びたるは珍駄婁ちんだるの媚酒、羅王中ロワンチユンの紅艶酒。蘇古珍スコチン阿羅岐アラキ焼酎。ギヤマン作りの香煙具。銀ビイドロの水瓶。水晶の杯なぞ王侯の品も及ばじな。前の和尚の盗みたくはめにやあるらむ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでも幾日いくにちつゞいたあめみづたくはへてひくはたしばらかわくことがなかつた。みづためひたつた箇所かしよすくなくなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
銀行も金庫も、株券も手形もなかつた時代に、金がどうしてたくはへられたか、これは實に面白い問題でした。
このことだけは今日もなほ何か我我の心の底へみ渡る寂しさをたくはへてゐる。夢は既に地上から去つた。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くふが如く五體の膏血かうけつしぼたくはへたる金が今思へば我が身の讐敵あだがたきとは云ものゝ親のつとめ村長役むらをさやくを勤なば親々が未來みらいの悦びと思込しが却て怨みを受るもとゐとなり無實の大なん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
少年讀者しようねんどくしやは、天文學てんもんがく地理學ちりがく地質學ちしつがく物理學ぶつりがくとう應用おうようによつて、わが地球ちきゆう球體きゆうたいちかきこと、平均密度へいきんみつどが五・五なること、表面ひようめんちか部分ぶぶん構造こうぞう内部ないぶたくはへられる高熱こうねつ
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
せいとして奇怪なる事とし謂へば、見たさ、聞きたさにへざれども、もとより頼む腕力ありて、妖怪えうくわいを退治せむとにはあらず、胸にたくはふる学識ありて、怪異を研究せむとにもあらず。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
種々いろ/\世辞せじたくはへて置いてこれつたら、さぞ繁昌はんじやうをするであらう。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれすこしばかりあましてあつたたくはへからむしくひでもなんでもはしらになるやら粟幹あはがらやらをもとめて、いへ横手よこてちひさな二けんはうぐらゐ掘立小屋ほつたてごやてる計畫けいくわくをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
めかけたくはへる制度が存在する以上、家庭の神聖が保たれぬことは、何人なんびとにも見易い道理である。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大概の醒臭なまぐさ坊主に引けを取らず、妾二人をたくはへてる外、講中の誰彼に手を出して、絶えず問題を作りますが、そんな不始末は不思議なことに狂信者達を驚かさなかつたのです。
これより一説いつせつあるところなん大晦日おほみそかげたくせに、尊徳樣そんとくさまもないものだと、編輯へんしふ同人どうにんつておほいあざけるに、たじ/\となり、あへわが胸中きようちうたくはへたる富國經濟ふこくけいざいみちかず、わづかしろおもかげしるすのみ。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貞操道徳が全く弛廢ちはいしてしまつて、遊女崇拜が藝術の世界にまで浸潤しんじゆんして來た幕府時代には、男の働きでめかけたくはへることなどはむしろ名譽で、國持大名などは、その低能臭い血統の保持のために
だからわたくしはらそこ依然いぜんとしてけはしい感情かんじやうたくはへながら、あの霜燒しもやけの硝子戸ガラスどもたげようとして惡戰苦鬪あくせんくとうする容子ようすを、まるでそれが永久えいきう成功せいこうしないことでもいのるやうな冷酷れいこくながめてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)