ただ)” の例文
「曾呂崎と云えば死んだそうだな。気の毒だねえ、いい頭の男だったが惜しい事をした」と鈴木君が云うと、迷亭はただちに引き受けて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若者わかものこころよけ、ただちにその準備したくにかかりました。もっと準備したくってもべつにそううるさい手続てつづきのあるのでもなんでもございませぬ。
それでただちにわが学界へ発表すると同時に、英米独仏の四ヶ国の学術協会へ原稿を急送したいのだ。君、直ぐに翻訳にかかってくれ給え
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
洋上の空気が益々膨張するから前にも記した如く怒風どふうを起こし、大鍋から立ちのぼる蒸発気がただちに雲となって米国の天に広がったのだ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
ここに若日下部の王、天皇にまをさしめたまはく、「日にそむきていでますこと、いと恐し。かれおのれただにまゐ上りて仕へまつらむ」
一時は口もかれぬ程の重態であった坑夫ていの負傷者も、医師の手当てあてよって昨今少しく快方に向ったので、警官はただちに取調とりしらべを始めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もとよりご城内の、かれらの一組には知れています。そしてただちにそのことは江戸表の紋太夫の耳にも居ながらに分っておるわけで」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜陰にとどろく車ありて、一散にとばきたりけるが、焼場やけばきはとどまりて、ひらり下立おりたちし人は、ただちに鰐淵が跡の前に尋ね行きてあゆみとどめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それで二十ページばかり書きましたがなかなか文典というものは新聞雑誌の文章を書くようにただちにこしらえてしまうという訳にいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
およそ芸術上の大きさとはこれを意味する。真に独自の大きさを持つ芸術作品はただちに人にうけ入れられない。必ず執拗な抵抗をうける。
永遠の感覚 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ただちにこれを信仰の対象としてその前に額伏ぬかふし災厄祓除ふつじょ、幸福希求の祈祷を捧げたが、人心の統一を欲するや、やがてはその宗教は進化し
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
すると、ただちに国民は次ぎの文化の建設を行わねばならぬのですが、その度に日本は他の文化国の最も良い所を取り入れます。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
八人の船子ふなこを備えたるはしけただちにこぎ寄せたり。乗客は前後を争いて飛移れり。学生とその友とはややりて出入口にあらわれたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少小より尊攘のこころざし早く決す、蒼皇そうこうたる輿馬よば、情いずくんぞ紛せんや。温清おんせいあまし得て兄弟にとどむ、ただちに東天に向って怪雲を掃わん
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
第三の瞬間はただちに動揺を伴って来た。彼は先刻からの仇敵かたき様に憎んで居た年増の婦人のたもとへ、今紳士から抜取った二つの品を押込んで了った。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
覆面をしたからといって、辻斬りの本尊様ではなくて、女の姿であることによって、ただちにそれと受取れる、それはお銀様の微行姿しのびすがたであります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ベッドを転がり落ちると、ただちに花の様な真赤な色が彼女の目を刺戟し、ヌルヌルした液体が彼女の触覚をくすぐった。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
甚兵衛は、みやこの一番にぎやかな場所ばしょに、ただちに小屋こやがけをしまして、「世界一の人形使い、ひとりでおどるひょっとこ人形」というれい看板かんばんをだしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ほかの連中も、ただちに雪崩を打って右近のあとを追い出した。が、人数の多いのは、この場合、どこまでも不利益だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
((田忌))ただちに大梁たいりやうおもむく。しやう龐涓はうけんこれき、かんつてかへれり。(四二)せいぐんすですでぎて西にしす。
勝家は越前に帰り着くと、ただちに養子伊賀守勝豊に山路将監、木下半右衛門等を添えて長浜城を受取らしめた。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
常としてゐる。それは必しも偶然ではない。ただちにクリストに達しようとするのは人生ではいつも危険である。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふたたび家を東京にうつすに及び、先生ただちにまげられ、いわるるよう、鄙意ひい、君が何事か不慮ふりょさいあらん時には、一臂いっぴの力を出し扶助ふじょせんと思いりしが
かれは、ただちに病院びょういんへかつぎまれました。きずさいわいにあし挫折ざせつだけであって、ほかはたいしたことがなく、もとより生命せいめいかんするほどではなかったのです。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
地図と羅針盤を見くらべていた龍介は、やがてうなずくと共に、信号兵に一枚の伝令書を渡した、信号兵はただちに飛んでいる二台の飛行艇に信号をした——
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「今からでも決しておそくはないから、ただちに抵抗ていこうをやめて軍旗のもとに復帰するようにせよ。そうしたら、今までの罪は許されるのである。」とさとし、また
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
物語畢りしとき、少女は暫し巨勢を見やりて、「君はそののち、再び花うりを見たまはざりしか、」と問ひぬ。巨勢はただちに答ふべき言葉を得ざるやうなりしが。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
翌日の午前に行われた手術の後、患者が麻酔から醒めたときいて、ただちに病室を見舞った私は、白布の中からあらわれた渋紙色の顔に向って慰めるように言った。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
或は他の石片をつちとしてただちに其周縁そのまわりき或は骨角こつかくの如きかたき物にて、作れる長さ數寸のばうの一端を、石斧とすべき石片の一部分にて、此棒の他端たたんをば
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ただちにそれをもってわれらの安全をおびやかすか、あるいは不思議なる災厄の予報と認むるを常とす。
我々は孔子が「天」を言ったからといってただちにそれを宇宙の主宰神と定めることはできぬと思う。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
百重ももへなす心は思へどただに逢はぬかも」(巻四・四九六)、「うつつにし直にあらねば」(巻十七・三九七八)、「直にあらねば恋ひやまずけり」(同・三九八〇)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
此に於て熬米いりごめみ以て一時のうへしのび、一走駆さうくしてただちに沿岸にいたり飯をんとけつす、此に於て山をくだり方向をさだめて沼辺にいたらんとし、山をくだれば前方の山又山
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
従者 (急に姿勢をただし)私は何時いつまでも、此処にこうしておられる体ではござりませぬ。私はぐに馳せ戻り、あの葬式のお先導をして、小船を漕がねばなりませぬ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
向日葵ひまわり毎幹まいかん頂上ちょうじょうただ一花いっかあり、黄弁大心おうべんたいしんの形ばんごとく、太陽にしたがいて回転す、し日が東にのぼればすなわち花は東にむかう、日が天になかすればすなわち花ただちに上にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
私は其の男が春画売りか源氏屋に相違無い事を、屡々の経験からただちにさとる事が出来ました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
実は御願おんねがい只今ただいま上りましたので御座ございますと、涙片手の哀訴に、私はただちにって、剃刀かみそり持来もちきたって、立処たちどころに、その娘の水のるような緑の黒髪を、根元から、ブツリ切ると
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
学校を丹波丹六より一年先に卒業して、B興業株式会社に入ると、ぬきんでられてただちに社長秘書になり、二三年経つうちにはもう、社内で飛ぶ鳥を落す勢いになっていたのです。
上陸して逍遥しょうようしたきは山々なれど雨にさまたげられて舟を出でず。やがてまた吹き来し強き順風に乗じて船此地を発し、暮るる頃函館はこだてに着き、ただちに上陸してこの港のキトに宿りぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
若干じゃっかんの差があるのを見ると、ただちに引き算や足し算を始め、生きた人マイナス死んだ人は命、死んだ人プラス命は生きた人というように考え、生きた人が死んだ人になる時には
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
九十九里付近一帯の村落にい立ったものは、この波の音をただちに春の音と感じている。秋の声ということばがあるが、九十九里一帯の地には秋の声はなくてただ春の音がある。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
『お前はかぜやすい体質だから、毎朝怠らず冷水浴をやるがいい』と、その男は親切らしく妻に云ったのです。心の底から夫を信頼している妻はただちにその通り実行しました。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
浸水してもただに内部へ浸透せざるよう、さらに第二の函をめ込み、さらに第三の函を嵌め、その状あたかも今日欧州文明国の造船所において、艦艇を建造するに用うる手段と
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
故に事物によりてはただちに生命に関するものあり、しかも滞在半年余の長日月ちょうじつげつを要する胸算きょうさんなりしがゆえに、すこぶる注意周到なる準備をすにあらざれば、べきにあら
喬介はただちに屍体に近付くと、遺族に身柄を打明けて、原田喜三郎の検屍を始めた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
人がもしほかの女の美に酔うて淫蕩の心を起こした場合には、彼女はただちにその美女の性格や魅力や容姿を完全に身にまとって、その人に同じ淫蕩の念を起こさせる女でありました。
もしその時他の細胞より分裂しきたったものに合わすことが出来れば、彼ら双方のものはただちに接合して、双方に於ける組織成分を交換し、再び分れて旧に復し、そのおのおのが活溌に運動し
ただしこのボーボーをただちに今日の棒のことだと、断定してしまうのはまだ早い。
園さんはただちにこれを雲仙名所として、私達の入り込んだ口に標示ぐいを立てるという話で、新焼の名は殺風景であるから何とか命名したい、あなたの名を取って幽芳渓ゆうほうけいとしてはという話も出たが
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
主人公はあたかも切り札を配っていたところであったので、ヘルマンはテーブルの方へ進んで行くと、勝負をしていた人たちはただちに彼のために場所をあけた。シェカリンスキイは丁寧に挨拶した。