なな)” の例文
いつも、がたが、ななめにここへすころ、淡紅色たんこうしょくちいさなちょうがどこからともなくんできて、はなうえまるのでした。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
白きは空を見よがしに貫ぬく。白きものの一段を尽くせば、むらさきひだあいの襞とをななめに畳んで、白きを不規則なる幾条いくすじに裂いて行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六つぶ泡をきました。それはゆれながら水銀のように光ってななめに上の方へのぼって行きました。
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平次に重ねて言われると、自分の書いた手紙を二十四通、膝の上に置いて、身体をななめにしたまま、極り悪そうに勘定しておりましたが
博士の機嫌きげんは、ななめならず、フォークとナイフとを使いながら、何かしきりにつぶやいている様子が、たいへん楽しそうに見えた。
咲耶子さくやこはチラとまゆをひそめたが、にわかに右手めての笛をはげしくななめにふって落とすこと二へん、最後に左の肩へサッとあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただしななめに後ろから見た上半身。人形の首はおのずから人間の首に変ってしまう。のみならずこう少年に話しかける。——
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
戸の開いた便所の内側は、電燈の光をななめにうけているので、よくは見えない。しかし、だれか中で掃除をしていることだけはたしかだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ななめに冬木立のつらなりてその上に鳥居ばかりの少しく見えたる、冬田の水はかれがれにびて刈株かりかぶ穭穂ひつじぼを見せたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ななめ下には、教会堂の尖塔せんとうするどく、空に、つきさって、この通俗的な抒情画じょじょうがを、さらに、完璧かんぺきなものにしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
テーブルの足と足の間に二枚の鏡がななめに張ってあったのです。犯人はそのうしろにかくれて、手首だけをテーブルの上に出し、巻き物の箱をつかんだのです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
着物の地や柄は婆やにはよく見えなかったが、袖裏に赤いものがつけてあるのはさだかに知れた。ななめ後ろから見ただけでもめずらしく美しそうな人に思われた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
民さんの生あたたかい小便をしているうしろから、どうかしたはずみに、きんたまを見たことがあった。きんたまは、昼すぎのななめの日にうかんで、いろは白かった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ななめにかぶった運動帽の下からときどきまぶしそうな顔を持ち上げながら、その下図をとりだした。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
杉の古樹こじゅの陰にささやらならやらが茂って、土はつねにじめじめとしていた。晴れた日には、夕方の光線がななめに林にさしとおって、向こうに広い野の空がそれとのぞかれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こうすいをきかして泰軒が立ち去ったのち、二人は、あれでどれほど長く玉姫神社の階段に腰をかけて語り合っていたものか——気がついた時は、陽はすでにななめに昇って
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夕陽が向う側の監獄の壁を赤く染めて、手前の庭の半分に、煉瓦建の影をななめに落していた。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そして中央まんなかところがちょっとまがって、ななめにそとるようになってります。岩屋いわや所在地しょざいちは、相当そうとうたかい、岩山いはやまふもとで、やますそをくりいてつくったものでございました。
順作はうっとりと何か考え込んだが、気がいて近くの瓶の傍へ往って、せばまっている底のほうに力を入れて押してみた。かめはなかなか重かったがそれでもななめに傾きかけた。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ななめにうねった道角みちかどに、二抱ふたかかえもある大松おおまつの、そのしたをただ一人ひとり次第しだいえた夕月ゆうづきひかりびながら、野中のなかいた一ぽん白菊しらぎくのように、しずかにあゆみをはこんでるほのかな姿すがた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
神保町から一つ橋、神田橋から鎌倉河岸、それからななめに本石町へ出、日本橋通を銀座の方へ、女はズンズン歩いて行く。だから、もちろん、岡八も歩いて行かなければならなかった。
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雨の滴々したたりしとしとと屋根を打って、森の暗さがひさしを通し、みどりが黒く染込しみこむ絵の、鬼女きじょが投げたるかずきにかけ、わずかに烏帽子えぼしかしらはらって、太刀たちに手をかけ、腹巻したるたいななめに
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風前猶剰旧夭斜 風前ふうぜんあま旧夭きゅうようななめなり〕
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鹿はおどろいて一度に竿さおのように立ちあがり、それからはやてにかれた木の葉のように、からだをななめにしてげ出しました。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こんどは余は石段の上に立ってステッキを突いている。女は化銀杏ばけいちょうの下で、行きかけたたいななめにねじってこっちを見上げている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八五郎は少しななめになって、プイと外へ出てしまいました。この上お北のために働いてやる工夫のないのが、淋しくも張合いのない様子です。
ただし、ななめ上から見たところがうつっている。ちょうど、ビルの三階ぐらいから地上を見下ろしたような調子であった。
洪水大陸を呑む (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふりかえると、猫間川の水が、大きな波紋をいて、とまをかぶせた小舟が一そうななめにすべって、水禽みずとりのように寄ってきた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは塾生たちの静坐の姿勢を直したあと、朝倉先生の横にななきにすわっていたので、よく全体が見渡みわたせたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
茶色ちゃいろふるびた帽子ぼうしななめにかぶった、くちひげのあるおじさんは、なんとなくずるそうなつきをして、自分じぶんのまわりにっている子供こどもたちのかおまわしました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二度、三度、ドシンドシンと、ぶっつかっているうちに、ギギギ……と音がして、ちょうつがいがはずれ、ドアがななめ向こうにたおれて、人のはいる隙間すきまができました。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……やがて別館から彼女の父らしいものが姿を現した。そしてその二人づれは私の窓の前をななめに横切って行ったが、見ると、彼女はその父よりも背が高いくらいであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
車はあるいは急角度に横にまがりななめにおち、ガッタンガッタンと、登ったかとおもえば、また陥ちる、頭のかみが、風にふかれてい上がるのも、恐怖きょうふに追われ逆立つおもいでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
看護員は身をななめにして、椅子に片手を投懸けつつ、手にせる鉛筆をもてあそびて
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
部屋へやなかは、まどからすほのかなつきひかりで、ようやもののけじめがつきはするものの、ともすれば、えたばかりの青畳あおだたみうえにさえ、くらかげななめにかれて、じっと見詰みつめている眼先めさき
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
月はもう余程よほど高くなり、星座もずいぶんめぐりました。蝎座さそりざは西へしずむとこでしたし、天の川もすっかりななめになりました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
友の挨拶あいさつはどのへんに落ちたのだろうと、こそばゆくも首をじ向けて、ななめに三段ばかり上を見ると、たちまち目つかった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身体がななめにかたむいたのだ。僕はズデンドウと尻餅しりもちをつくだろうと思った。ところが尻餅なんかつかないのだ。身体はなおも傾いて身体が横になる。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白い光のしまが、ななめに天地をかすめている、遠くからながめると、飛んでくる白鷺しらさぎとも見える二つの蓑笠みのかさをかぶった者が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、玄関をはなれると、くぬぎ林のまえの広場をななめに、正門のほうに向かって自転車の速力をはやめた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
行儀ぎょうぎわるく、火鉢をななめに押出おしだしながら
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、御母おっかさん」とななめな身体を柱から離す。振り返った眼つきにはうれいの影さえもない。の女と謎の女は互に顔を見合した。実の親子である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云いながら画かきはまた急に意地悪い顔つきになって、ななめに上の方から軽べつしたように清作を見おろしました。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
矢数やかずはひょうひょうとにじのごとくはなたれたが、時間はほんの瞬間しゅんかん、すでに大鷲おおわしは町の空をななめによぎって、その雄姿ゆうし琵琶湖びわこのほうへかけらせたが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はすっかり隙間すきまのないほど身固みがためし、腰にはピストルの革袋かわぶくろを、肩からななめに、大きな鶴嘴つるはしを、そしてズックの雑袋ざつぶくろの中には三本の酒壜を忍ばせて
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宗助は大きな姿見に映る白壁の色をななめに見て、番の来るのを待っていたが、あまり退屈になったので、洋卓の上に重ねてあった雑誌に眼を着けた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
林の中には月の光が青い棒を何本もななめに投げんだようにして居りました。その中のあき地に二人は来ました。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
少尉は、背後に向って、携帯用の懐中電灯を、なな十字じゅうじに振った。それは下士官を呼ぶ信号だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一見不用意に似た尺八の構えは、いわゆる八面鉄壁ななな青眼せいがん、たしかに一流をこなしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「動かばこそと云うのは、動けるのに動かない時の事を云うのだろう」と細長い眼のかどからななめに相手を見下みおろした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)