えら)” の例文
姉妹篇「たこ」に対して「春」という一字をえらんだのです。「春」という字は音がほがらかで字画が好もしいため、本の名にしたわけです。
はしがき (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
ここに一種の研究所を設けて、およそ五、六名乃至ないし十名の学者をえらび、これに生涯安心の生計を授けて学事の外に顧慮する所なからしめ
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ今の時勢人情にては、遠国へ渡海して数多あまたの国々を検査し、うち善悪をえらび開業に掛ることは、日本国の人情においていまだきざさず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
漢学者で仏典もくわしい。鄧完白とうかんぱく風の篆書てんしょを書く。漢文が出来て、Y県人の碑銘を多くえらんでいる。純一も名は聞いていたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
白い胸掛むねかけをした鶴子は、むしろ其美しきをえらんでみ且摘み、小さな手に持ち切れぬ程になったのを母の手にあずけて、また盛に摘んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
曽病アリ、依而養生ノ為、宿ヲ外浜町村屋清蔵ニ取、□□不読医ヲえらンデ長府かなや町多原某を求、不日ニ平癒スト、期一七日トス。
坂本竜馬手帳摘要 (新字旧仮名) / 坂本竜馬(著)
初めからそんなのばかりえらんで持ち合ったのだから、一として彼らの情事に関しないものはない、ことごとく罰杯を命ずべき品物である。
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さうして重荷を担ふて遠きを行く獣類とえらぶ所なき現代的の人間にも、また此種不可思議の行為があると云ふ事を知る必要がある。
文芸とヒロイツク (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
アカシアの並木は何処どこまで行ってもきないように見えた。私はとうとう或る大きなアカシアをえらんでその前に立ち止まった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
番頭傳兵衞でんべゑいへる者あづか支配しはいなし居たるが此處に吉之助をつかはして諸藝しよげいの師をえらみ金銀にかゝはらずならはするに日々生花いけばなちや其外そのほか遊藝いうげい彼是なにくれと是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
作曲者はそれらのうちからえらんで、音楽と言う別の約束を持つものを結合し、詩情にそいながら新しい別境を作るのである。
歌詞とその曲 (新字新仮名) / 信時潔(著)
彼は一月ひとつき前迄費用の掛らぬ市外の土地をえらんで六円五拾銭の家賃の家に住んで居た。彼は何等のきまつた収入も無い身の上だ。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
われわれは個である以上、此の二つの唯心、唯物のいずれか一つをその認識力に従って、えらばねばならぬ運命を持っている。
追出したんだろう、また何等の取得が有ッてあんな庸劣やくざな奴ばかりをえらんで残したのだろう、その理由が聞いて見たいネ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……倉敷くらしきめいたちへの土産みやげものを買いながら、彼は何となく心がはずんだ。少女の好みそうなものをえらんでいると、やさしい交流が遠くに感じられた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
中の茶の間は、広いけれど障子しょうじ一重ひとえで台所だし、光線が入らず、陰気でじめじめしているので、母親はそこを嫌って寝室にも玄関をえらんだ訳であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
えらんで『酒場バー』を出すか、『洋品店』をするか、洋裁の心得のある方だったら、婦人、子供洋服の店を持つとか……
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それより連立ちて寺のうちに踏入り、方丈と覚しき所に、畳少し朽ち残りたるをえらびて、其処そこをば棲居と定めける。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
現代は個人主義において、自由をえらび得たというであろうが、同時に秩序を失ったことを否定することができぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
寛平くわんびやう四年御年四十八類聚国史るゐじゆこくし二百巻をえらみ玉ふ。和哥は菅家御集一巻、詩文は菅家文草十二巻同後草一巻(後草は筑紫にての御作なり)今も世に伝ふ。
なぜかというと、書を習うに従って技巧を覚え、柄にもない、身分にもない書風をえらんで、そこに匠気しょうきが出る。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
さはらぬ人にたゝりはない、おのれの気持を清浄に保ち、怪我けがのないやうにするには、孤独をえらぶよりないと考へた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
して行くなら、そこは人情、酒の一杯ぐらい、飲ませてやらぬ限りもないぞ。ばかめ、どっちをえらぶのだ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷光院殿れいこういんでん御尊讐ごそんしゅう吉良上野介殿きらこうづけのすけどの討取るべき志これあるさむらいども申合せそうろうところ、この節におよび大臆病者ども変心こころをかえ退散つかまつり候者えらみ捨て、ただ今申合せ必死相極め候面々めんめん
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ヂュリ 乳母うばや、一しょに部屋へやて、明日あすねばならぬいっ似合にあ晴衣はれぎ手傳てつだうてえらんでくりゃ。
伊豆や相模さがみの歓楽郷兼保養地に遊ぶほどの余裕のある身分ではないから、房総ぼうそう海岸を最初はえらんだが、海岸はどうも騒雑そうざつの気味があるので晩成先生の心にまなかった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
古今集こきんしゆうえらんだひと四人よにんあるが、そのうちもっとも名高なだかいのは、あの紀貫之きのつらゆきといふひとであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
打製石斧は最初先づけ物の重し石の如き物をり、之を他の石とち合はせ數個の破片を作り、其中そのうちより石斧とするにてきしたる形のものをえらみ出し、臺石だいいしの上に
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
范祭酒はそれを聞いてますます怒って、縉紳の家へ結婚を許したが、そのうえに十一娘と孟とが関係があると疑ったので、吉日をえらんで急いで結婚の式をあげようとした。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
しかれどもこれを救う法、もしそのよろしきを得ざれば、その害もまた少々ならざるべし。あるいはいわく、天下最良の教をえらぶべし。あるいは云、人々の好むところに任すべし。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
嵯峨さが帝が古万葉集からえらんでお置きになった四巻、延喜えんぎみかどが古今集を支那しな薄藍うすあい色の色紙を継いだ、同じ色の濃く模様の出た唐紙とうしの表紙、同じ色の宝石の軸の巻き物へ
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
望みのとおりみんな背嚢はいのうの中に納めてやりたいことはもちろんだったが、それでは僕も身動きもできなくなるのだから気の毒だったがその中からごくいいやつだけえらんださ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大いなる欠点というべきものであったが、こうした簡単なる籾落し法を行うとすれば、むしろそういう実翻れの容易な稲をえらんで、栽培したような土地もあったかも知れぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただし女としては早晩そうばんおっとを持つべきはずの者なれば、もし妾にして、夫をえらぶの時機来らば、威名赫々かくかく英傑えいけつに配すべしとは、これより先、既に妾の胸にいだかれし理想なりしかど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
人々手をわけて浄書きよがきすみぬれば、五つ輪の円座、居ずまひ直して、総数四十幾首より各々好める歌ぶり十首ばかえらみ入るゝなり。朗唱の役は我、煙草に舌荒れて声思ふやうに出ず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そう思立って人の見ない裏の空地をえらんだ。三冊の草稿を持出しながら土蔵の前を通り、裏の木戸を開け、例のいちごを植えて置いた畠の側へ行って見ると、そこに恰好かっこうな場所がある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二十はたちはるゆめらして、落花らくくわゆふべになにごとをおもひつきてか、令孃ひめ別莊住居べつさうずまゐしたきねがひ、鎌倉かまくら何處どことやらに、眺望てうばうえらんで去年こぞはれしが、はなしのみにてぬもゆかかしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
晴代は新らしい自身の職場を求めるのに、特にこの月魄をえらんだわけではなかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
今から考えて見ると、随分変な先生をえらんでくれたものだとも思えるが、あるいは幼い頃から、名工と名付くべき人の特殊の感化を受けるようにと、父の深遠な理想があったのかも知れない。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
藤右衛門はその表紙の「松の花」という題簽だいせんをあらためて見なおした、松の緑はかわらぬみさおの色だ、そこにえらまれたのはあらゆる苦難とたたかった女性たちの記録である、いまの世にひろめ
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女かのじょは、にわのすみにあって、日当ひあたりのいいからたちのえらびました。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはアンデルセンのお伽噺とぎばなしであった。私は別に童話なんかに趣味をもっていたのではなかったが、でも叔父の本箱の中にはそんなものしかなかったので、仕方なしにこれをえらんだのであった。
それについてはこと仰候あふせさふらふ日蓮相承にちれんさうしようの中よりえらみ出して候。能々よく/\信心あるべく候。たとへば、祕藥ひやくなりとも、毒を入ぬれば藥用くすりのようすくなし。つるぎなれども、わるびれたるひとのためにはなにかせん。
みづからの解放かいほうに正しいみちえらび、ける銃架じうかたることとゞめるであらう
法師ゑみをふくみていふは、此の歌は一〇〇風雅集ふうがしふえらみ入れ給ふ。
私のえらみ取ったのは、松雲元慶禅師のお作でした。
えらみつ、切りつ、かろらかに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
えらばれてあることの
(新字新仮名) / 太宰治(著)
抽斎はその数世すせいそんで、文化ぶんか中に生れ、安政あんせい中に歿ぼっした。その徳川家慶いえよしに謁したのは嘉永かえい中の事である。墓誌銘は友人海保漁村かいほぎょそんえらんだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分の妻は天下の美人である。この天下の美人が晴れの席へ出て隣りの奥様とえらぶところなくいっこう目立たぬのは不平な者だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)