うれい)” の例文
一歩は高く一歩は低くと来らア。何でも家がぐらぐらして地面が波打って居やがらア。ゲー酒は百薬の長、うれい玉箒たまぼうき、ナンテ来らア。
煩悶 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
オレたちがお前たちの仲間に入っておれば、お前らも後顧こうこうれいなしというわけだ。八十吉君も竹造君も彼らと一しょに飲もうじゃないか。
今消極のうれいうれえてこれを防ぐにもせよ、積極の利をはかってこれをもとむるにもせよ、旧藩地にて有力なる人物は必ずこれを心配することならん
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余り道が遠くあるいは事の間に合わぬうれいもあり、かたがた貴国はチベット政府とははなはだ親密なる関係を持って居られる事でありますから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
瓦斯なるために薪炭まきすみの置場を要せず、烟突えんとつを要せず、鍋釜の底のすすに汚れるうれいもなく、急を要する時もマッチ一本にて自在の火力をべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この書一度ひとたび世にでてより、天下てんか後世こうせい史家しかをしてそのるところを確実かくじつにし、みずからあやまりまた人を誤るのうれいまぬかれしむるにるべし。
災害を予報し、作法方式を示し、時あってうれいまよいを抱く者が、この主人を介して神教を求めんとしたことも、想像にかたくないのであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あえて人のうれいを見て喜ぶような男ではないが、さりとて差当りああした中の礼之進のために、その憂を憂としてかなしむほどの君子でもなかろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
必要な場合には、いくらでも父から補助を仰ぐ事ができた。たとい仰がないでも、月々の支出に困るうれいはけっしてなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うれい重荷おもにうて直下すぐしたに働いて居る彼爺さん達、彼処あち此処こちに鳶色にこがれたけやきの下かしの木蔭に平和を夢みて居る幾個いくつ茅舎ぼうしゃ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
少女の挽物細工ひきものさいくなどかごに入れてりに来るあり。このお辰まだ十二三なれば、われに百円づつみ抛出なげださするうれいもなからん。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それじゃ基督ハリストスでもれいきましょう、基督ハリストスいたり、微笑びしょうしたり、かなしんだり、おこったり、うれいしずんだりして、現実げんじつたいして反応はんのうしていたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
殊更うれいを含む工合ぐあい凄味すごみあるに総毛立そうけだちながらなおくそこら見廻みまわせば、床にかけられたる一軸たれあろうおまえの姿絵ゆえ少しねたくなって一念の無明むみょうきざす途端
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
にぎやかな拍手をもって花の慰問隊を送る工場の人々に交って、道子夫人の顔だけが、ひとりうれいにとざされていた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
りに一歩をゆずり、幕末にさいして外国がいこく干渉かんしょううれいありしとせんか、その機会きかい官軍かんぐん東下とうか、徳川顛覆てんぷくの場合にあらずして、むしろ長州征伐ちょうしゅうせいばつの時にありしならん。
余は鰥寡孤独かんかこどくうれいに沈むもの、或は貧困縷衣るいにして人目ひとめはばかるもの、或は罪にはじ暗処あんしょに神のゆるしを求むるもののもとを問い、ナザレの耶蘇いえすの貧と孤独とめぐみとを語らん
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ところが、今遠藤の場合は、全然うたがいを受けないで、発覚のうれいなしに、殺人が行われそうに思われます。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「兄さん、お願いだから、もう一度お目にかからせてね。」と×××にうれいのきく淋しい眼元。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
年頃数多あまた獣類けものしいたげ、あまつさへ人間をきずつけ、猛威日々にたくましかりし、彼の金眸を討ち取りて、獣類けもののために害を除き、人間のためにうれいを払ひしは、その功けだし莫大ばくだいなり
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
速かに寛永打払うちはらい令の旧に復せば、また何ぞ黒船のうれいあらんやと。外事に聵々かいかいとして、一日の苟安こうあん偸取とうしゅせんとする幕府は、ここにおいて異国船を二念なく打払うの令を布けり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小諸は東西の風をうけるから、南北に向って「ウネ」を造ると、日あたりも好し、又風の為に穂のれ落ちるうれいが無い、自分等は絶えずそんなことを工夫しているとも話した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
バアナアド・ショウのような哲人でさえ、余りに多く加工的警句を、その作の中へ盛るために、鳥渡ちょっと肩を聳やかしたくなる。自然に流露する警句には、そうしたうれいは少しも無い。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
余勢をかって毬杖ぎっちょうの玉の大きなものを作り、目鼻をつけるとこれを入道清盛の首と称して、踏め、打てなどはやし立てる中を、玉を蹴り、棒で叩くなど大いにうれいを晴らしていた。
うれいを抱いている自分を淋しがらせてくれ、憂にえぬ自分ではあるが、お前の声によって一層淋しさを覚ゆるところに、かえって慰むところがあるぞよ閑古鳥、というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かゝる次第ゆえ、此の始末を娘が聞知きゝしる時は、うれいせまやまいおもって相果あいはてるか、ねがいの成らぬに力を落し、自害をいたすも知れざるゆえ、何卒どうぞ此の事ばかりは娘へ内聞ないぶんにして下さらば
天下既に乱れ身辺に内戚のうれい多い彼が、わずかに逃避した境地がその風流である。特に晩年の放縦と驕奢には、政治家として落第であった彼の、ニヒリズムが暗澹あんたんたる影を投げて居る。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さすがの美人がうれいしずんでる有様、白そうびが露に悩むとでもいいそうな風情ふぜいを殿がフト御覧になってからは、ゆうたえなお容姿ようすに深く思いをよせられて、子爵の御名望ごめいぼうにもかえられぬ御執心と見えて
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
三年一回の凶歳きょうさいありても飢餓きがうれいまぬかるべき割合ではありませぬか。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
然るに片山初め一同は、予と同情を以て大奮励するとして、いずれも予が説に伏して、初めて復常するに至れり。ああ此時に於て予も共にうれいに沈みて活気を失う事あらば、或は瓦解に至る事あらん乎。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
同氏のように、いわば精巧極まる作品を生産する人が、そのようなうれいをいだくのは当然のことであり、私のような、無頓着な、荒削りの作品を生産するものが楽観的態度をとるのは当然のことである。
江戸川氏と私 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
杞人きじんうれいですか?」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
喜びの深きときうれいいよいよ深く、たのしみの大いなるほど苦しみも大きい。これを切り放そうとすると身が持てぬ。かたづけようとすれば世が立たぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たわむれにともづなのもやいを解いて、木馬のかわりにぐらぐらと動かしても、縦横に揺れこそすれ、洲走すばしりに砂をすべって、水にさらわれるようなうれいはない。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他の小鳥が寝処を捜す時刻になってから、この二色の鳥ばかりが際限もなく鳴いて来る故に、うれいある者はことに耳をそばだてざるを得なかったのである。
それは鳥にれば鳥に伝染のうれいがあり、また川に流せば他に伝染の憂があるというところから許されないのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と自然に分明ぶんみょうしたから、細君はうれいてんじて喜とし得た訳だったが、それも中村さんが、チョクに遊びに来られたおかげで分ったと、上機嫌になったのであった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
久しく民におもてを見せたまはざりし国王なれど、さすがにいたましがりて、うれいを含みたる顔も街に見ゆ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
牛乳屋では余り物が出来るために高く売らなければならんので、毎日余ったものが残らず売れさえすれば背負い込むうれいがありません。その代り一升余れば一升持って来る。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
余輩よはい常に思うに、今の諸華族が様々の仕組をもうけて様々のことに財を費し、様々のうれいうれえて様々の奇策きさく妙計みょうけいめぐらさんよりも、むしろその財のいまむなしく消散しょうさんせざるにあたり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
◯ヨブはまず「わが心生命いのちいとう、されば我れわがうれいを包まず言い表わし、わが魂のくるしきによりてものいわん」との発語を述べてち、痛刻なる語をもって神と争わんとするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
またらに一歩をすすめてかんがうれば、日本の内乱に際し外国干渉かんしょううれいありとせんには、王政維新おうせいいしんの後に至りてもまた機会きかいなきにあらず。その機会はすなわち明治十年の西南戦争せいなんせんそうなり。
「だから昔から酒はうれい玉箒たまぼうきというじゃないか。酒なくて何のおのれが桜かなだろう。お酒さえ飲んでいれァお父さんはもう何もいらない。お金もいらない。おかみさんもいらない。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一度その中に這入はいつて善くその内部を研究し而して後に娑婆しゃばに出でなばふたたび陥るうれいなかるべし、月並調を知らずしていたずらに月並調を恐るるものはいつの間にか月並調に陥り居る者少からず
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大王これをきこし召して、いささか心に恐れ給へば、佻々かるがるしくは他出そとでもしたまはず。さるをいま和主が、一ぜんもと射殺いころしたれば、わがためにうれいを去りしのみか、取不直とりもなおさず大王が、眼上めのうえこぶを払ひしに等し。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
風雲をまき起すうれいがあって、企劃をヒミツにしてあるそうだ。
集団見合 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ダン艇長の顔には、深いうれいしわがうかんだ。その時
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう将卒の顔には、何等のうれいの影もなかった。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喜雨到る後顧こうこうれい更に無し
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
国が強く戦争のうれいが少なく、そうして他から犯される憂がなければないほど、国家的観念は少なくなってしかるべき訳で
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と繰返してまた言った。かく可哀相だと思ってやれと、色にうれいを帯びて同情を求めること三たびであるから、判事は思わず胸が騒いでかすかししむらの動くのを覚えた。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)