床屋とこや)” の例文
毎夕私は、父の肩車かたぐるまに乗せられて父の頭に抱きついて銭湯の暖簾のれんをくぐった。床屋とこやに行くときも父が必ず、私をつれて行ってくれた。
わたしは床屋とこやさんの前でかれが「なに、友だちをてる」とさけんだとき、どんな感じがしたか、ことばで語ることはできなかった。
床屋とこや伝吉でんきちが、笠森かさもり境内けいだいいたその時分じぶん春信はるのぶ住居すまいで、菊之丞きくのじょう急病きゅうびょういたおせんは無我夢中むがむちゅうでおのがいえ敷居しきいまたいでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
自分はその容子が可笑しいのでくす/\笑ひながら、買つて來た机を床屋とこやの硝子戸の下に据ゑて、風呂敷から硯と原稿紙を出して並べた。
胡瓜の種 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
煙草屋たばこやへ二町、湯屋へ三町、行きつけの床屋とこやへも五六町はあって、どこへ用達ようたしに出かけるにも坂をのぼったりくだったりしなければならない。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その用事ようじがあって床屋とこやのおじいさんがつえをついてそこをとおりかかりましたときに、くろいしつけてひろげました。
てかてか頭の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この二人は浅草公園を徘徊はいかいする不良ので、岩本は千束町に住んで活動写真の広告のビラをるのが商売、山西は馬道うまみち床屋とこやせがれであった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
餘事よじだけれど、大火たいくわに——茅場町かやばちやう髮結床かみゆひどこ平五郎へいごらう床屋とこやがあつて、ひとみなかれを(床平とこへい)とんだ。——これけた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある日の事、一緒いっしょに近所の床屋とこやまできた柴山とかたをくんで、その店に入って行くと、上原がもう来ていて、娘さんとなにか笑い話をしています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
安井やすゐくろかみあぶらつて、目立めだほど奇麗きれいあたまけてゐた。さうしていま床屋とこやつてところだと言譯いひわけらしいことつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「やあ、どうしたい、床屋とこやの親方、どうやらおひげの手入どころではないという顔つきだが。」と、ろばはいいました。
あの病気の黴菌ばいきんは、伝染力は極めて弱いものだけれども、鼻汁から感染しやすいものであるから、長江の行く床屋とこやへ行かないようにする方がいい
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頭も床屋とこやにきたからでしょうが、四角なかっこうに、きれいにかりこんでいます。もとから、あまり口をきかないで、目を細くして、にこにこしていました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
薬罐やかんをさげてよろよろと歩いてくると、床屋とこやの角の電信柱の前でもう歩けなくなったんでしょう、電信柱に寄り掛かってしばらく休んでいたかと思ううちに
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
床屋とこやのリチキは、商売がはやらないで、ひまなもんですから、あとでこの話をきいて、すぐ勘定かんじょうしました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は早速さっそく彼と一しょに亀井戸かめいどに近い場末ばすえの町へ行った。彼の妹の縁づいた先は存外ぞんがい見つけるのにひまどらなかった。それは床屋とこやの裏になった棟割むねわ長屋ながやの一軒だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
役者か芸人になりたいと思定おもいさだめたが、その望みもついげられず、空しく床屋とこやきちさんの幸福をうらやみながら、毎日ぼんやりと目的のない時間を送っているつまらなさ
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの戯作者的げさくしゃてき床屋とこや俳句的卑俗趣味の流行した江戸末期に、蕪村が時潮の外に孤立させられ、ほとんど理解者を持ち得なかったことは、むしろ当然すぎるほど当然だった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これはぼつちやん やあ、いらつしやい いま貴方あなたのお父さんと床屋とこやごつこをやつてゐましたわい
この村を通り過ぎると、次の村まではまた暫くの間人家じんかが無かつた。次の村の入口には、こはれた硝子戸がらすどを白紙でつくろつた床屋とこやがあつた。其の村は前の村よりも貧しさうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
綿わたの師匠などが、會所や床屋とこやの男達のクラブに相對して、蓮葉はすつぱ娘達の寄合ひ場所になつてゐた頃、縁結びからかうじて、附け文ごつこにまで發展し、町内から隣町へかけての
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
雄二は誕生日の前の日に、床屋とこやに行きました。鏡の前には、鉢植はちうえの白菊の花が置いてありました。それを見ると、雄二はハッとしました。何か遠い澄みわたったものが見えてくるようでした。
誕生日 (新字新仮名) / 原民喜(著)
床屋とこやへいってらっしゃい。帰りにおふろへよってくるんですよ。」
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
床屋とこやのない村では学校のバリカンがひどく役に立ち、それは男先生のうけもちだった。髪の毛をだんごにしている女の子のほうは、女先生が気をくばって、水銀軟膏すいぎんなんこうをぬりこんでやらねばならない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「巌か、何遍なんべん床屋とこやへゆくんだ、いくら頭をかっても利口にならんぞ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かにみせし、床屋とこやでござる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かど床屋とこやのガラス
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
函館はこだて床屋とこや弟子でし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
だがつまり先生が床屋とこや同居どうきょしていないはずもなかった。わたしたちは中へはいった。店ははっきり二つに仕切られていた。
吉原よしわらだといやァ、豪勢ごうせいびゃァがるくせに、谷中やなか病人びょうにんらせだといて、馬鹿ばかにしてやがるんだろう。伝吉でんきちァただの床屋とこやじゃねえんだぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
代助は床屋とこやかゞみで、わが姿すがたうつしながら、例の如くふつくらしたほゝでゝ、今日けふから愈積極的生活に入るのだと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きたな床屋とこやへいって、病気びょうきでもうつるといけないから、いつもの床屋とこやへいったほうがいいでしょう。」といわれました。
すいれんは咲いたが (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで友伯父ともをぢさんだけはあたまを五分刈ぶがりにしてくことにりました。ところが、むらには床屋とこやといふものがりません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そういえばいつか小平さんが町の床屋とこやさんへ、小僧こぞうにいったということを、聞いたような気もします。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
昼の日中、村に帰るのは恥かしいというのである。そこで叔父だけが先に帰って、私達は久し振りに床屋とこやに行って顔をったり、祖母への手土産てみやげを買ったりなどした。
役者か芸人になりたいと思定おもひさだめたが、その望みもつひげられず、むなしく床屋とこやきちさんの幸福をうらやみながら、毎日ぼんやりと目的のない時間を送つてゐるつまらなさ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うちからさをなんぞ……はりいとしのばしてはなかつたが——それは女房にようばうしきり殺生せつしやうめるところから、つい面倒めんだうさに、近所きんじよ車屋くるまや床屋とこやなどにあづけていて、そこから内證ないしよう支度したくして
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けれども大人おとなかしこい子供らは、みんな本当にしないで、笑っていました。第一それをいだしたのは、剃刀かみそりを二ちょうしかもっていない、下手へた床屋とこやのリチキで、すこしもあてにならないのでした。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おほむ床屋とこやの親方の人生観を講釈すると五十歩百歩のかんにあるが如し。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あわて床屋とこや」である。みんながとりまいて、ついて歌う。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
床屋とこやなんか——。」
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
床屋とこやへゆきました」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あわて床屋とこや
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある田舎いなかに、おなじような床屋とこやが二けんありました。たがいに、おきゃく自分じぶんのほうへたくさんろうとおもっていました。
五銭のあたま (新字新仮名) / 小川未明(著)
仕方しかたなしに、伯父をぢさんがうらきりした友伯父ともをぢさんをれてきまして、伯父をぢさんが自分じぶん床屋とこやをつとめました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「いやあ、それでもきみは、音楽の調子がわからないと言うのかい」と床屋とこやさんは手をたたきながら言った。
三四郎は其日から四日よつかとこを離れなかつた。五日いつか目に怖々こわ/″\ながら湯にはいつて、鏡を見た。亡者の相がある。思ひ切つて床屋とこやつた。そのあくは日曜である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
下巻には楽屋総浚そうざらひのさま面白く尾上雷助らいすけの腰掛けて髪をはする床屋とこや店先みせさき大谷徳治おおたにとくじが湯帰りの浴衣ゆかた手拭てぬぐいひたいにのせ着物を小脇こわきかかへて来かかるさまも一興なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、落とした財布さいふでも見つけたように、さけびました。なるほど、その小路こうじのなかほどに、あかと白のねじあめの形をした、床屋とこや看板かんばんが見えました。——克巳の家は床屋さんでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
まだ四十をしていくつにもならないというのが、一けん五十四五にえる。まげ白髪しらがもおかまいなし、床屋とこや鴨居かもいは、もう二つきくぐったことがないほどの、あかにまみれたうすぎたなさ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)