しり)” の例文
その廻りに、黒ん坊みたいな子供が四人、ウジャウジャと寝て、その向うに腰巻一つの内儀おかみさんが、ふとったしりをこっちへ向けている。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今度のは大小二つあって、大きい方はしりの形が少し悪いらしく、なかなか立たない。しかし小さい方はすぐ立たせることが出来た。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
差櫛くし珊瑚珠たまのついた鼈甲べっこうの簪を懐紙につつんで帯の間へ大事そうにしまいこみ、つまさきを帯止めにはさんで、おしりをはしょった。
なんぼ山鳥やまどりのおろのかゞみで、頤髯あごひげでたところで、えだで、のこぎり使つかひ/\、さるあしならんだしりを、したからせてはつこちねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしの顔を見ると、「ちょっと手をおし」といったまま、自分は席に着いた。私は兄に代って、油紙あぶらがみを父のしりの下にてがったりした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふんどしのしり手拭てぬぐひをブラ下げたり、お尻ばかりプツクリ浮べたり、仲間を背中に乗せたりして、さかんに騒ぎまはつてゐます。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
おれはそこで棒切れでもってひきがえるのしりを突っついてやった、ひきがえるはもちろんのそのそ歩きだし、おれは熊平にどうだと訊いた
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おかがってきょろきょろまわしていますと、そこのまつの木のえだにまっかおをして、まっなおしりをしたものがまたがっていました。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「あッ、もッちょこい!」沖売の女が頓狂とんきょうな声を出して、ハネ上った。「人のしりさ手ばやったりして、いけすかない、この男!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ボースンは、とっつかまえられた、コソ泥棒みたいに、しきりにしりごみしながら、ストキにつかまれ、励まされて待っていたのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
源十郎はそうとは知らずにそのしりをそっくりおさよ婆さんへ持ってきて、今までお艶を幽閉ゆうへいしておいた納戸へこんどはおさよを押しこめ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いきなりわしの上の蛾次郎がじろうを、二、三げんさきへ突きとばした。不意をくって、しりもちついた蛾次郎は、いたい顔をまがわるそうにしかめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅にうぐいすやら、浦島が子やら、たかやら、どれもどれも小さいたけの短いふくなので、天井の高い壁にかけられたのが、しり端折はしょったように見える。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お庄はしりから二番目の妹と、一つの車に乗せられた。汽車に乗る前に、父親に町で買ってもらった花簪はなかんざしなどを大事そうに頭髪あたまにさしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、処罰が二人前になって十分にふりかかるのは、生意気な、頑丈な、片意地な、しりの大きいオランダ人の腕白小僧だった。
で、いつもなら食後三十分もたてば引きあげるはずの他の来賓たちも、荒田老に対する気がねから、かなりながいことしりをおちつけていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「あんたんちのかあさん、うちの母さんにあのことをいいつけに来たわよ。あたし、うんとおしりをぶたれちゃった。あんたは?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
卑陋びろう至極しごく 食器を自分の着物で拭く位の事は平気なもの、卑陋びろう至極しごくではありますが彼らは大便に行っても決してしりぬぐわない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
生れしままなれば素跣足すはだししりきり半纏ばんてん田圃たんぼへ弁当の持はこびなど、松のひでを燈火ともしびにかへて草鞋わらんじうちながら馬士歌まごうたでもうたふべかりし身を
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、両手にさわって見ると、実際両脚とも、腿から下は空気を掴むのと同じことである。半三郎はとうとうしりもちをついた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
へえ、これは、その、いえまえとおりますと、まきがきにこれがかけてしてありました。るとこの、しりあながあいていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それは、わりあいにやわらかい土であったが、彼はおしりをしたたかにぶっつけ、「うン」とうなり声をあげると、気を失った。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
荷馬には本馬ほんうまとカラしりと二種あった。カラ尻は本馬の半分の量目の荷だけ附け、尻の方はカラになってる、そこへ人が一人乗られるのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
さあ僕等はもう黒雲の中に突き入ってまわって馳けたねえ、水が丁度漏斗じょうごしりのようになって来るんだ。下から見たら本当にこわかったろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
長い着物のしりをくるりとまくり、または腕まくりもできないからたすきを掛けるので、是を甲斐々々かいがいしいなりをしているというのは間違いである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あそこで大きな白熊しろくまがうろつき、ピングィンちょうしりを据えてすわり、光って漂い歩く氷の宮殿のあたりに、昔話にありそうな海象かいぞうが群がっている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
坊主頭ぼうずあたまへ四つにたたんだ手拭てぬぐいせて、あさ陽差ひざしけながら、高々たかだかしりからげたいでたちの相手あいては、おな春信はるのぶ摺師すりしをしている八五ろうだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ところが、返すのはつらくもあるし、惜しくもある! それに、良心の方からいったって、しりくすぐったいわけだからな。
舟をおりようとして、旅人がひよいと見ますと、へさきに立つてゐる子どものしりべたから、長い尻尾しつぽが垂れてゐました。
狐の渡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
二人のかたわ者はかたわがなおりかけたと気がつくと、ぺたんと地びたにしりもちをついてしまいました。そして二人は
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
目をとじ耳をふさいで一目散に逃げ去りたいのに、その心をさておいて何物かネチネチしりをまくる妖怪じみた奴がおり
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
されば今日だけ厄介やっかいになりましょうとしり炬燵こたつすえて、退屈を輪に吹く煙草たばこのけぶり、ぼんやりとして其辺そこら見回せば端なくにつく柘植つげのさしぐし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……春になってからと云うものは、お前のおしりをつけねらう色男が四人や五人じゃきかないんだから。……まったく物騒と云ったらありゃしない。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
七兵衛はしり端折はしょった。そうして、すっと、歩き出した。今までくるわの中をブラリブラリと歩いていたのとは足並あしなみが違う。
たまにはこういう話もしないと不可いかん」と三吉がしりを落付けた。「飯でも食って、それから復た話そうじゃ有りませんか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
申しあげたるや己れ云はざるに於てはかうするぞとほう爪捻つめりしり爪捻つめり種々いろ/\にして責問せめとへども一向に云はざるゆゑ久兵衞扨は此小僧めが車坂のお民の一件を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くさ厩舎きゅうしゃの腐り馬とわらわれていた馬が見習騎手の鞭にペタペタしりをしばかれながらゴールインして単複二百円の配当
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
乗合舟のりあいぶね鳥追とりおい猿廻さるまわしなど在来の型の通りで、中には花見帰りの男がたるしりを叩いて躍っている図などもあったが、一般にまだごく幼稚でありました。
クルリと尻をまくると、兩方のしりかへるとなめくぢを彫つて犢鼻褌ふんどしの三つの上に、小さく蛇がとぐろを卷いて居ります。
すると二階で髭を動かしている奴があり、三階の窓から頭を出している奴がおり、五階の入口からおしりの毛を出している奴がいたりするのであった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
大坂ダイハンは、熊本と、もう何回接吻せっぷんをした」 とか 「おしりにさわったか」とか、あるいは、もっと悪どいことをうれしそうにいって、嘲笑ちょうしょうするのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「さうでござんすね」勘次かんじはぐつたりと俛首うなだれて言辭ことばしりきとれぬほどであつた。ふかうれひ顏面かほしわつよきざんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鼻の頭にくっついたのを吹き飛ばそうとするところは少し人間臭いが、しり膠着こうちゃくしたのを取ろうとしてきりきり舞いをするあたりなど実におもしろい。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
恩田はねこなで声で言いながら、いつの間に用意していたのか、猛獣使いの短いむちを取り出すと、恐ろしい勢いで、可哀かわいそうな熊のおしりたたきはじめた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母親が早くくなったせいもあるのだろうが、女学校を二年の途中でめさせられたか、勝手に止めてしまったかしてから、さっぱりしりが落ち着かない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ズボンのしりのポケットにやって、そこに入れてあるものをたしかめてから、歩き出そうとして、まだ持っていた左手の、火のついたシガレットを村子に渡す
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
三句切の歌詠むべからずなどいうは守株しゅしゅの論にて論ずるに足らず候えども三句切の歌はしり軽くなるのへい有之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
何か渋面をしたり、途方もないことを言ったり、大公爵の鼻を引っ張ったり、あるいは貴婦人のしりったり、そんなことを突然したくてたまらなくなった。
石山さんが隣村の葬式に往って居ると娘がけて来て、作代が逃げ出すと云うので、石山さんはあわてゝ葬式の場からしりっからげて作代引とめに走って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それで股引しり端折ぱしょり日和ひより下駄、古帽子や手拭の頬冠ほほかむり、太巻毛繻子の洋傘を杖にして、農閑の三、四月から続々上京、五人六人連れ立って都大路を練り歩く。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)