いつ)” の例文
いつそこりや貴方あなたに御願ひ申して、手短く書いて頂きたいと思ひまして——どうして女の手紙といふものは斯う用がもとらないのでせう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、ねぎのやうに寒い歯齦はぐきを出して笑つてゐる。画剣斎も、夢剣庵もまんざら悪くは無いが、もつといのはいつそ剣の事なぞ忘れてしまふのだ。
覺ゆるにいつそ宿にて飮むまいかと割籠わりごの支度を座敷へ取寄せ寺に殘りし二人を呼び飮みかけたるまではよかりしが篁村ゑひの𢌞りに分からぬ事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
見る時は不便心が彌増いやまほどこすことのすきなる故まうけの無も道理ことわりなり依て六右衞門も心配なしいつそ我弟が渡世とせい先買さきがひとなりはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうですとも、さうですとも冬になつて札幌に逃げて行くほどならいつそ初めから東京に居て開墾した方が可いんです。何に僕は辛棒しますよ。」
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
此上貴嬢が立派な奥様におなり遊ばした御姿を拝見さへすれば、此世に何の思ひ残すことも御座いません、いつそ御決心なされては如何いかがで御座ります
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お妙 これほどに申しても聽いてくださらなければ、お父樣よりも先に、わたくしがいつそ死んでしまひます。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
人民じんみんどもがみん平伏ひれふさなければならないくらゐなら、いつ行列ぎやうれつないはうましぢやないの?』其故それゆゑあいちやんは自分じぶんところしづかに立停たちどまつてつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
到底君達は嬢様のやうな立派な申分の無い淑女の配偶たる権利が無いんだから子。いつそ諦めて人物相応に其辺そこらの下宿屋か牛肉屋の女でも捜し給へ。なに、失敬極まると。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「あの男、何だか見込がないやうな気がするの。いつそ別れてしまはうかとも思ふけれど……。」
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いつそ東京へ行かうかとも思つて見たがそれも要するに思ふ丈で実行する勇気がなかつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
いつそのくされ、思う存分書いて見よか、と思ったのは先達せんだっての事だったが、其後そのご——矢張やっぱり書く時節が到来したのだ——内職の賃訳がふっと途切れた。此暇このひまあすんで暮すは勿体ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
太郎といふ子もある身にて置いて驅け出して來るまでには種々いろ/\思案もし盡しての後なれど、今更にお老人としよりを驚かして是れまでの喜びを水の泡にさせまする事つらや、いつそ話さずに戻ろうか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつそ赤いインキで○を付けると、少し目立ち過ぎはするが、目的を遂げることは出來るかも知れぬと思つたけれど、さういふ風にしていよ/\新聞を送るといふ決心も、お光には付き兼ねた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
新聞しんぶん雜誌等ざつしなど繰廣くりひろげてたがなにかない、いつ晝寢ひるねせんか、市街まちでも散歩さんぽせんかと、思案しあんとり/″\まどつてながめると、眼下がんかおろす子ープルスわんかゞみのやうな海面かいめんうかんで、ふね
「おい、じつとして居ないか、まとが狂ふぢやないか。僕はいつそ一思ひにつ付けたいから、君の頭に狙ひを付けてるんだ。」
私の意気地いくぢないことを叱る様な亡母はゝの声が聞えるぢやありませんか、あゝいつそ死んだならば、斯様こんな不愉快な苦境から脱れることが出来ようなどと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
早くまぬかれたくいつ未來みらいへ參りなば此苦しみも有まじと存じ斷念あきらめて罪を身に引請ひきうけ白状はくじやう仕つり候なり其實は人を殺し金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丑松は別に誰の機嫌を取るでも無かつた——いや、省吾の方にはやさしくしても、お志保に対する素振を見るといつ冷淡つれないとしか受取れなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのあひだに二人は云ひあはさねどいつそ死なんと覺悟し、綾衣は手桶にさしたる蓮の一枝を持來り、縁に打ちつけて花を碎き、この通りに……と外記の顏をみる。外記もうなづく。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
太郎たらうもあるにていてしてるまでには種々いろ/\思案しあんもしつくしてののちなれど、今更いまさらにお老人としよりおどろかしてれまでのよろこびをみづあわにさせますることつらや、いつはなさずにもどろうか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
耳朶みゝたぶに怪我をしたものだから、縫つて貰はうと思つて来たのだが、余り手間取るからいつそ食つてしまはうと思つて。」
すると彼奴あいつは気が弱いもんだから、黙つて寝床の内へ潜り込んで、しく/\やつて居ましたつけ。其時、我輩も考へた。いつそこりや省吾を出した方がいゝ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
も見ずに迯行にげゆきしが殘りし二人は顏見合せこはい者見たしのたとへの如く何樣どんな人やらよくんと思へば何分おそろしく小一町手前てまへたゝずみしがつれの男は聲をかけいつその事田町とほりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「私の様なものはても世間へ面出かほだしが出来なからうと思ひましてネ、いつそ御迷惑さまでも、おうちで使つて戴いて、大和さんや、老母おばさんに何か教へて戴きたいと考へますの——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
太郎と言ふ子もある身にて置いて駆け出して来るまでには種々いろいろ思案もし尽してののちなれど、今更にお老人としよりを驚かしてこれまでの喜びを水のあわにさせまする事つらや、いつそ話さずに戻ろうか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつそこゝで二三枚かいて行つたら早手廻しでせうが……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いつ贋物がんぶつで辛抱したら、格安に出来上るだらうと、懸額かけがくから、軸物、屏風、とこの置物まで悉皆すつかり贋物がんぶつで取揃へて、書斎の名まで贋物堂がんぶつだうと名づけて納まつてゐた。
贋物 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
いつ賃仕事ちんしごとしてもおそばくらしたはうつぽどこゝろよう御座ございますとすに、馬鹿ばか馬鹿ばか其樣そのやうことかりにもふてはならぬ、よめつた實家さとおやみつぎをするなどゝおもひもらぬこと
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お菊 えゝ、もういつそのこと。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いつ贋物がんぶつで辛抱したら、格安に出来上るだらうと、懸額かけがくから、軸物、屏風、とこの置物まで悉皆すつかり贋物がんぶつで取揃へて、書斎の名まで贋物堂がんぶつだうと名づけて納まつてゐた。
いつそ賃仕事してもお傍で暮した方がつぽど快よう御座いますと言ひ出すに、馬鹿、馬鹿、その様な事を仮にも言ふてはならぬ、嫁に行つた身が実家さとの親のみつぎをするなどと思ひも寄らぬこと
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこでいつそ別れようといふ事で、日をめて弁護士のとこに落合つて、その手続をする事に談話はなしを運んだ。
困つたねとお京は立止まつて、それでも吉ちやん私は洗ひ張にきが来て、もうお妾でも何でもい、どうでこんなつまらないづくめだから、いつその腐れ縮緬ちりめん着物で世を過ぐさうと思ふのさ。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
南洲翁の大きかつた事を今になつて吃驚びつくりするやうでは、いつ吃驚びつくりせずに死んだ方がましだ。何故といふに、そんな人は明日あすになつたら、またぞろ自分の下らぬ事に吃驚びつくりするかも知れないから。
たばそらつきあひみるべきぞとならばうれしけれどしやのねがひに左樣さうゆるにやいつらからば一すぢならでたのみのあるだけまどはるゝなりさてもお便たよりのきこえぬは何故なにゆゑいとはせたまひなば此處こゝへこそ御入來おいでなくとも本宅ほんたくへまで御踈遠ごそゑんとは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さぐれとおほせらるゝともそれ違背ゐはいはすまじけれど戀人こひびと周旋とりもたんことどう斷念あきらめてもなることならず御恩ごおん御恩ごおんこれはこれなりいつそおふみ取次とりついだるていにしてこのまゝになすべきかや/\それにてはみちがたゝずじつ斯々かく/\なかなりとて打明うちあけなばじようさま御得心おとくしんくべきかわれこそは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)