ちぎり)” の例文
私のいたづらに願ひてえ果さず、その人の幸ありて成し遂げ給ふなる、君が偕老のちぎりの上とに在るのみなることを、御承知下され度存※。
しづく餘波あまりつるにかゝりて、たますだれなびくがごとく、やがてぞ大木たいぼく樹上きのぼつて、こずゑねやさぐしが、つる齊眉かしづ美女たをやめくもなかなるちぎりむすびぬ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
得念は木挽町こびきちょうに住居致候商家の後家ごけと、年来道ならぬちぎりを結び、人のうわさにも上り候ため度々たびたび師匠よりも意見を加へられ候由。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「はい。三とせ前からついした縁がちぎりの初めとなって、かようないとしい子供迄もなした仲でござります。お助け、お助け下さりまするか!」
が、この神は父の神が、まだむこの神も探されぬ内に、若い都の商人あきゅうど妹背いもせちぎりを結んだ上、さっさと奥へ落ちて来られた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはそれでいいとして、私はそのために、香折との此世のちぎりを忘れたわけでは無い。人間には人間の営みがあり、現身には現身の暮し方がある。
く君の悲哀かなしみみ、お雪の心情をも察するに、添い遂げらるるえにしとも思われねば、一旦は結びたる夫婦のちぎりを解き、今までを悲しき夢とあきらめ
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
斉に落着き大夫たいふ国氏こくしの娘をめとって二児を挙げるに及んで、かつての路傍一夜のちぎりなどはすっかり忘れ果ててしまった。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
富子は顔をあげて「古きちぎりを忘れ給いて、かくことなる事なき人を時めかし給うこそ、こなたよりましてにくくなれ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は思いもかけず覚えていてくれたのが嬉しいやら、恥しいやら……到頭その夜かりそめの夢のちぎりを結びました……
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
鉄蔵 おつさん、服部はつとりの息子ね、僕と同じ班なんだぜ。昨日、戦友のちぎりを結ぼうなんて、レモン・テイイをおごりやがつた。あいつ、センチだからなあ。
死ねば陰気盛んにしてよこしまけがれるものだ、それゆえ幽霊と共に偕老同穴かいろうどうけつちぎりを結べば、仮令たとえ百歳の長寿を保つ命も其のために精血せいけつを減らし、必ず死ぬるものだ
月の上るころおい、水辺の森に来て、琴を鳴らし、ああ、くびに掛けたる宝玉たまを解いて、青年わかものちぎりを結ぼう。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
不肖、われわれも皇叔と兄弟の義をむすび、君臣のちぎりをかため、すでに二十年、浮沈興亡、極まりのない難路を越えてきましたが、決してまだ大志は挫折しておりません。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼を赤くしたひひらぎよ、おまへの爪のしたほとばしる血でもつて兄弟のちぎりを結ばせる藥が出來さうだ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かくて十一歳の少女と十五歳の少年とは主従の上に今また師弟のちぎりを結びたるぞ目出度めでた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
現在、死人の戸籍に這入っているその少女は、近いうちに自分のシャン振りと負けず劣らずの、ステキ滅法界めっぽうかいもない玉の如き美少年と、偕老同穴かいろうどうけつちぎりを結ぶ事になっているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
猟犬は霎時しばしありて、「某今御身とちぎりを結びて、彼の金眸を討たんとすれど、飼主ありては心に任せず。今よりわれも頸輪くびわすてて、御身と共に失主狗はなれいぬとならん」ト、いふを黄金丸は押止おしとど
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「そして今夜は別れや悲しみの夢は見ないで、幸福な愛と多幸なちぎりの夢をね。」
むしろ「年々に松打つ柱古りにけり 虚子」などという句の方に近いかと思う。尤も年に一度の「もたれ柱」は星のちぎりと同じく、見様によってはかえって情味が深いことになるのかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
梅岡うめおか何某なにがしと呼ばれし中国浪人のきりゝとして男らしきにちぎりを込め、浅からぬ中となりしよりよその恋をば贔負ひいきにする客もなく、線香の煙り絶々たえだえになるにつけても、よしやわざくれ身は朝顔のと短き命
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
永野の葉書には、『太宰治氏を十年の友と安んじ居ること、真情吐露とろしてお伝え下されく』とあるから、原因が何であったかは知らぬが、益々交友のちぎりを固くせられるよう、ぼくからも祈ります。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今更にくくこそおぼゆれなどたはむるるに、富子三一二やがおもてをあげて、三一三古きちぎりを忘れ給ひて、かく三一四ことなる事なき人を三一五時めかし給ふこそ、三一六こなたよりましてにくくあれといふは
『このねぬる朝妻船のあさからぬちぎりを誰にまたはすらむ』
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これもとよりあだなる恋にはあらで、女夫めをとちぎりを望みしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ねたましくそのこゑを聞く旅商人たびあきびとは行く先々さきざきちぎりをむすぶ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ちぎりを結んだ私の妻は忘れられない。
短かき歡樂よろこびあかぬちぎりのすゑ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なに恥かしきちぎりかは。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「ああ、いやだっていうんだもの、」と絶入るように独言ひとりごとをした。あわれこうして、幾久しくちぎりめよと、杉が、こうして幾久しく契を籠めよと!
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祭礼まつりちぎりを結んだ女の色香に飽きたならば、直ちに午過ひるすぎ市場フエリヤきての女の手を取り給へ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
吾妻屋に身請みうけされてからも、顏の一寸似てゐるのを幸ひ、弟といふことにしてつれ込み、不義のちぎりを重ねてゐたが、矢つ張り吾妻屋永左衞門が邪魔になつて殺す氣になつたのだ
ま、怒らずとお聴きゃれ、思い出ずれば八年前、其方に不忍池畔に出逢い、友のちぎりを結んでより、拙者の情誼じょうぎはいつも変らぬ。拙者は絶えずそなたの身状を案じておるのじゃ。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
アヌンチヤタはいづくにかきし。ベルナルドオなかりせば、彼人は不幸に陷らで止みしならん。否、彼人のみかは、我も或は生涯の願を遂げ、即興詩人の名を成して、偕老かいらうちぎりまつたうせしならんか。
ちぎりもかたきみやづかへ、恋の日なれや。冷かに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
星達のちぎりのすゑや木々の露 白良
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
深く考うるまでもなく、いおりの客と玉脇の妻との間には、不可思議の感応で、夢のちぎりがあったらしい。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何事も宿世しゅくせの因縁なりかし。初手しょては唯かりそめのちぎりとしぬれば人にいはれぬ深きわけ重なりてまことの涙さそはるる事もぬるなり。これらをや迷の夢と悟りし人はいふなるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「道ならぬちぎりを重ねた隱し男」
そゞろにしみて、はるゆふべことばちぎりは、朧月夜おぼろづきよいろつて、しか桃色もゝいろながれしろがねさをさして、おかうちやんが、自分じぶん小船こぶねあやつつて、つきのみどりのがくれに、若旦那わかだんな別業べつげふかよつて
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もっともこの変りやすい空模様思いがけない雨なるものは昔の小説に出て来る才子佳人がわりなきちぎりを結ぶよすがとなり、また今の世にも芝居のハネから急に降出す雨を幸いそのまま人目をつつむほろうち
しかも浅次郎はその身より十ばかりも年嵩としかさなる艶婦にちぎりめしが、ほど経て余りにそのねたみ深きがいとわしく、否しろその非常なる執心の恐ろしさに、おぞふるいて、当時予が家に潜めるをや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たび密月みつゞきたび第一夜だいいちやから、附絡つきまとふて、となり部屋へや何時いつ宿やどる……それさへもおそろしいのに、つひ言葉ことばのはづみから、双六谷すごろくだに分入わけいつて、二世にせちぎりけやうとする、けば名高なだか神秘しんぴ山奥やまおく
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よしなんとでも言へ、昨日きのふ今日けふ二世にせかけてちぎりむすんだ恋女房こひにようばうがフト掻消かきけすやうに行衛ゆくゑれない。それさがすのが狂人きちがひなら、めしふものはみな狂気きちがひあついとふのもへんで、みづつめたいとおもふも可笑をかしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫婦ふうふ二世にせちぎりく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)