太夫たゆう)” の例文
役者はみなほんもののさるで、ことごとくそれが下座の鼓一つできまりきまりを踊りぬき、なかんずく盛遠になった雄ざるの太夫たゆう
いまさらおまえさんとこの太夫たゆうが、金鋲きんびょうった駕籠かごむかえにようが、毛筋けすじぽんうごかすようなおんなじゃねえから安心あんしんしておいでなせえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
『あんな貧乏人の娘を貰っちゃ世間や親類方の手前も悪い、せめて吉原の華魁おいらん入山形いりやまがたに三つ星の名ある太夫たゆうでも受出して来い』
そういえば、耳のぴんと立った太夫たゆうがひとりござって、胡弓こきゅうをじょうずにひいてきかしてくれたてや。じゃ、あれが、きつねだったのかィ
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「さあさあ太夫たゆうさん一踊り、ご苦労ながら一踊り……〽男達おとこだてならこの釜無かまなしの流れ来る水止めて見ろ……ヨイサッサ、ヨイサッサ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神尾主膳は、同じ家の唐歌からうたという遊女の部屋に納まって、太夫たゆう禿かむろとをはんべらせて、あか羅宇らうの長い煙管きせるで煙草をふかしていると、あわただしく
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「文楽の太夫たゆうは語ってしまうまで何も食べん云うやないか。舞と義太夫とは違うにしたかて、あまり食べんと置く方がええで」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女は、芸者にしてはけばけばしい姿なりをしているが、どこか素人しろうとらしくないところの見えるのは、女歌舞伎かぶき太夫たゆうででもあろうかとお高は思った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女帝は道鏡に帝位を与えなかったが、彼の生地にユゲの宮をつくって太夫たゆう職をおき、実質的にはまったく天皇と変りのない扱いであったのである。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何しろ夕霧と云い、浮橋うきはしと云い、島原や撞木町しゅもくまちの名高い太夫たゆうたちでも、内蔵助と云えば、下にも置かぬように扱うと云う騒ぎでございましたから。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるいは太夫たゆうが語り物を典し、雲助がふんどしを質に置くように、寺としてなければならぬものを置くので、質屋の方でも安心して取るのかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
朔日ついたち顔見世かおみせは明けの七つどきでございますよ。太夫たゆう三番叟さんばそうでも御覧になるんでしたら、暗いうちからお起きにならないと、間に合いません。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「金銀は卑しきものとて手にも触れず、仮初かりそめにも物の直段ねだんを知らず、泣言なきごとを言はず、まことに公家大名くげだいみょう息女そくじょの如し」とは江戸の太夫たゆうの讃美であった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
なかんずく大評判、大当たりは、滝の白糸が水芸みずげいなり。太夫たゆう滝の白糸は妙齢一八、九の別品にて、その技芸は容色と相称あいかないて、市中の人気山のごとし。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで今でも、あの太い三味線がでんとなって、太夫たゆうがうーと一言うなると直ぐに浄るりを聞くだけの心がまえがたちまちにして私の心に備わるのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
最初にはこれが万歳まんざい太夫たゆう以上に、我々の正月とは深い関係のあったことを、鳥の方でももうとっくに忘れている。
太政大臣家の公達は頭弁とうのべんなどという成年者も兵衛佐ひょうえのすけ太夫たゆうの君などという少年上がりの人も混じって来ているが、他に比べて皆風采ふうさいがきれいであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「とんでもない望みをするだぞ、そんな真似をしたひには、吉原の太夫たゆうをひとり身受けする程かかってしまう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんた、先度せんどいでやはった時に、わてに口かけときなさりながら、島原しまばら太夫たゆうさん落籍おさせやしたやないか。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伯母をばさんあの太夫たゆうさんんでませうとて、はたはたけよつてたもとにすがり、れし一しなれにもわらつてげざりしがこのみの明烏あけがらすさらりとうたはせて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
途中とちゅう帽子ぼうしを失いたれどあがなうべき余裕よゆうなければ、洋服には「うつり」あしけれど手拭てぬぐいにて頬冠ほおかぶりしけるに、犬のゆることはなはだしければ自ら無冠むかん太夫たゆうと洒落ぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのお筆は、はや九十に近いけれども、若い頃には、玉屋山三郎たまややまさぶろう火焔宝珠ほうしのたまと云われた程の太夫たゆうであった。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まず私はほどよい行燈あんどんのあかりに照された座敷に人形のように坐ってた点茶の太夫たゆうと、この菓子皿を手にうけて金魚みたいに浮いてきたかわいい子を思いだす。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
それと見た一党の士気は、こうなればもはや太夫たゆうの出府も間はあるまいというので、いよいよ振いたった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
やがて、燕尾服えんびふくを着た仁丹のひげのある太夫たゆうが、お客に彼女のあらましの来歴を告げて、それから、ケルリ、ケルリ、と檻に向って二声叫び、右手のむちを小粋こいきに振った。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
太夫たゆう様、団十郎の芸をいかが思召おぼしめさる、江戸自慢の荒事とやらをどう思召さる」といた時
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東西とざい東西とうざい、このところお聞きに達しまする浄瑠璃芸題げだい、「艶姿女舞衣はですがたおんなまいぎぬ」、語りまする太夫たゆう、玉井春昇しゅんしょう、三味線お京、いよいよ、三勝半七酒屋の段、そのため口上、東西東西」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
清長の好んで描く所は浄瑠璃所作事じょうるりしょさごとの図にして役者のうしろ出語でがたり連中れんじゅうを合せ描きたり。この時代の出語を見るに富本常磐津とみもとときわず太夫たゆうにはかみしもを着けず荒きしまの羽織を着たるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これから両人で参りますと、藤原喜代之助という右京の太夫たゆうの家来でございますが、了簡違いから浪人して居りますが、今ではおかやという女房を持って不足なく暮して居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
湯くみは友達が替わり合ってしたのですから、意趣を持った男はそのひまに悪いことをしたのと見える(本職の太夫たゆうは、他人には湯はくませはしない。皆門人を使うことになっている)
不埓ふらちをんなめツ」とわたくしくちびるんだ、が、悲哉かなしやわたくし其道そのみちにはまつたくの無藝むげい太夫たゆう
これまた太夫たゆうの服を着、顔と手足とのどはかくし、きれいにかざりたてた小宮殿のような透明猫のはいった箱のそばに立って、つめかける客の一人一人に、箱の上の穴から手を入れさせ
透明猫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたは声がいいから、なにか浄瑠璃じょうるりでも習えば、りっぱな太夫たゆうになれると思う。侍なんてもうはやらない世の中である。いっそ丸腰になって、二人で一生を面白おかしく暮そうではないか。
たからはなんでも千というかずをそろえてつものだそうた。奥州おうしゅう秀衡ひでひらはいいうまを千びきと、よろいを千りょうそろえてっている。九州きゅうしゅう松浦まつうら太夫たゆうゆみを千ちょうとうつぼを千ぼんそろえてもっている。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その音源はお園からは十メートル近くも離れた上手かみて太夫たゆう咽喉のど口腔こうこうにあるのであるが、人形の簡単なしかし必然的な姿態の吸引作用で、この音源が空中を飛躍して人形の口へ乗り移るのである。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「うむ。でっぷりしているから、如何にも太夫たゆうさんらしい」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八重の潮路の海鳥うみどりの沖の太夫たゆう生檎いけどりぬ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「次に続く太夫たゆうの芸は?」
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「いえ。すべてでは千人あまりもござりましょうが、そのうちで太夫たゆう格子こうし局女郎つぼねじょろうなぞと、てまえかってな差別をつけてござります」
「そのとおり。——おかみさん。太夫たゆう人気にんきたいしたもんでげすぜ。これからァ、んにもこわいこたァねえ、いきおいでげさァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
町のかどごとに立って胡弓きがひく胡弓にあわせ、鼓を持った太夫たゆうさんがぽんぽんと鼓をのひらで打ちながら、声はりあげて歌うのである。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
入山形いりやまがたに二つ星の太夫たゆう——それも吉原には少ない数ではないでしょうが、薄雲の評判は、妙に江戸の若い男を焦立いらだたせた時代があったのです。
「いや、そうでない、貴公のようなのが、女には騒がれる。都へ来て島原の太夫たゆうを知らんというは話にならんテ、なあ溝部みぞべ
座が白けて、しばらく言葉が途絶とだえたうちに所在がないので、唄うたいの太夫たゆう退屈たいくつをしたとみえて、顔の前の行燈あんどうを吸い込むような大欠伸おおあくびをしたから。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にわかごしらえの水独楽みずごままわしの太夫たゆう、いでや、独楽をまわそうとしてはでな口上をいったはいいが、ひょいと人輪ひとわのなかの浪人と六のすがたを見て
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は軽業の太夫たゆうであって馬扱いには慣れていた。で小舟を乗り捨てて馬と一緒に泳ぐことにした。荒れ狂う浪を掻き分け掻き分け馬と人とは泳ぎに泳いだ。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いま両国りょうごくに小屋がけしている手品の太夫たゆうを招いて学童たちのまえでやってもらったところが、それが、一空さまにもはっきり見覚えのある、おゆうの良人の相良寛十郎だったのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清元きよもとの一派が他流のすべからざる曲調きょくちょうの美麗を托した一節いっせつである。長吉は無論太夫たゆうさんが首と身体からだ伸上のびあがらして唄ったほど上手に、かつまたそんな大きな声で唄ったのではない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
喜多村は泉鏡花氏作「たき白糸しらいと」の、白糸という水芸みずげい太夫たゆうになっていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
また御贔負ごひいきをの嬌音きやうおんこれたやすくはひがたし、れが子供こども處業しわざかと寄集よりあつまりしひとしたいて太夫たゆうよりは美登利みどりかほながめぬ、伊達だてにはとほるほどの藝人げいにん此處こゝにせきめて、三味さみふゑ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)