はが)” の例文
皮肉の拷問 その拷問の仕方は、まず割竹を指の肉と爪の間に刺し込んで爪をはがして、そうしてまた肉と皮との間へ割竹を刺すのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「三輪の親分もすご/\と引揚げましたよ。床下も天井もはがし、井戸を覗いて庭まで掘つたが、口惜くやしさうでしたよ、三輪の親分の顏が」
翌年よくとしになり權官はあるつみを以てしよくはがれてしまい、つい死亡しばうしたので、ぼくひそかに石をぬすみ出してりにたのが恰も八月二日の朝であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
揚句あげくはてに彼と夫人との間にできた胎児たいじが、ポロッと子宮壁しきゅうへきからはがれおちて外部へ流れ出し、完全に堕胎の目的を達しようというのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
幡随院の和尚から魔除の御札を裏窓へ貼付けて置いて幽霊の這入はいれない様にした所から、伴藏さんが幽霊に百両の金を貰って其の御札をはが
峯々に雲がかかっているときは、翁はうれたげな眼を伏せてはまた開いて眺めた。藍墨の曇りの掃毛目はけめの見える大空から雲ははがれてまくれ立った。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「死ねと云つても死ぬものか」と腹の中で反抗しながら、母がはがしてたゝんで置いた張物を風呂敷に包むと、直ぐ店を出た。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
大掃除おほさうぢときに、床板ゆかいたはがすと、した水溜みづたまりつてて、あふれたのがちよろ/\と蜘蛛手くもではしつたのだから可恐おそろしい。やしき……いや座敷ざしききのこた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御恩借ごおんしゃく金子きんすは三月頃上京の節是非御返しをするつもりだとある。手紙は山鳥の血で堅まって容易にはがれなかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多分は村の外の林にふくろうのしわざだったろう。屋根の板をはがし割って夜の中に荒して行ったのである。大屋も店子たなこも共にこの危険には無智であった。
はがれしかば天も漸々やう/\受納じゆなふ有てや是よりあめふり出して三日三晩小止こやみなく因て草木もみどりの色を生ぜしとかや趙氏が妻とお菊が孝心は和漢一つゐ美談びだんいつつべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人ふたりわらくゝつたおほきなたばいてはねばつたものでもはがやうつかつて熱心ねつしんせはしくうすはらたゝきつけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はよく汗のついた手首に、その繪の女王や昆虫の彩色をかゆいほど押しては貼り、はがしてはそつと貼りつけて、水路の小舟に伊蘇普いそつぷ物語のあやしい頁をへした。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ほんとうのユアンは、一週間ほど前からヴァレンシアの母親のところへまいっています」そしてユアンはにっと口許に笑みを泛べて、顳顬こめかみあざはがして見せた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
新三郎のうちの裏の小さい窓へ貼ってあるお札をはがしてくれと云って頼むので、明日剥しておくと云って約束したが、其の日は畑へ往ってすっかり忘れていたところで
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
随分生皮いきがわはがれよう、を負うたあし火炙ひあぶりにもされよう……それしきはまだな事、こういう事にかけては頗る思付の渠奴等きゃつらの事、如何どんな事をするかしれたものでない。
西洋料理の道具といえば先日の御意見で台所はことごとく西洋鍋ばかりに致しましたが白い琺瑯ほうろうを敷いてある西洋鍋のうちで底の方の琺瑯がポツポツとはがれるのが出来ました。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
吹き筆の軸も煙管きせる羅宇らおもべたべたねばり障子の紙はたるんで隙漏ひまもる風にはがれはせぬかと思われた。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われまことなんじたばかられて、いぬる日人間ひとの家に踏み込み、いた打擲ちょうちゃくされし上に、裏のえんじゅつながれて、明けなば皮もはがれんずるを、この鷲郎に救ひいだされ、危急あやうき命は辛く拾ひつ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている見窄みすぼらしい家並やなみのつゞいた町であった。玄関の円柱はしらに塗った漆喰しっくいが醜くはがれている家や、壁に大きな亀裂ひびのいっている家もあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「化膿しちゃうわ。……歯ぐきと頬っぺたの肉がすっかりはがれちゃってるんだもの」
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
安政五年の四月の二十三日は、暦を束にして先にはがしたような麗かな陽気だった。
それ以来あの通り金網を張って警戒し、半紙百枚以上の凧は御法度ごはっとになりました。金助のはがしたのは右の雌鯱めじゃちで、その遠眼鏡で御覧になると一枚足らなくなっているところがよく分ります
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中身に縦横格子形こうしがたに筋をつけ、なるべく底を疵附きずつけぬようにして、そこへい油を少し引き、網を乗せた炭火にかけ、煮立ち始めると、へたを左の指で持って、はしで廻りからそろそろはがします。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
風吹きすさみ熱砂顔にぶつかる時ふさぎてあゆめば、邪見じゃけん喇叭らっぱけろがら/\の馬車にきもちゞみあがり、雨降りしきりては新道しんどうのさくれ石足をむに生爪なまづめはがし悩むを胴慾どうよくの車夫法外のむさぼ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ソレカラ段々としを取るに従て仕事も多くなって、もとより貧士族ひんしぞくのことであるから、自分で色々工風して、下駄げた鼻緒はなおもたてれば雪駄せったはがれたのも縫うとうことは私の引受ひきうけで、自分のばかりでない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
羽交はがじめにしたまゝ、欄干から引きはがさうとしましたが、この身投男は思ひの外の剛力で、容易に八五郎の手に了へません。
御覧なさい、こうやって、五体の満足なはいうまでもない、谷へも落ちなけりゃ、いわにもつまずかず、衣物きものほころびが切れようじゃなし、生爪なまづめ一つはがしやしない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎晩あがりまして御迷惑の事を願い、誠に恐れ入りまするが、だ今晩も萩原様の裏窓のお札がはがれて居りませんから、どうかお剥しなすって下さいまし
自分はチョコレートの銀紙をはがしながら、敷居の上に立って、遠くからその様子をぬすむように眺めていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて寺の男に水運ばせこけを洗ひつたはがして漫漶まんかんせる墓誌なぞ読みまた写さんとすれば、衰へたる日影のはやくもうすつきてひぐらしきしきる声一際ひときわ耳につき、読難き文字更に読難きに苦しむべし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かがやく蒼空をいまき出すように頭上の薄膜はくまくの雲は見る見るはがれつつあった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
体の皮をはがれた者、腹を裂かれた者、手を切られた者、足を切られた者、眼をえぐられた者、舌を抜かれた者、それはもう人間の感情を持っていては、ふた眼と見ることのできないものばかりであった。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
音松は空家の奧の六疊の押入に首を突つ込み、床板をはがしたまゝ背中から匕首あひくちを突つ立てられてこと切れて居たのです。
どうしても這入はいることが出来ませんから、おなさけに其の御札をはがしてくださいましというから、明日あした屹度きっと剥して置きましょう、明晩みょうばん屹度お願い申しますと云ってずっとけえった
座敷の硝子戸ガラスどはたいてい二重にとざされて、庭のこけを残酷に地面から引きはがしもが一面に降っていた。今はその外側の仕切しきりがことごとく戸袋のうちおさめられてしまった。内側も左右に開かれていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸をはがして入る。女、飛び上り、窓を破って逃げ、竹藪に入る。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
袷の裏まではがして賣る有樣、妹のお雪は二十一二のすぐれた容貌きりやうですが、これも、尾羽打枯して見る影もありません。
新吉はい気になりまして、種々いろ/\な物を持出しては売払い、布団どころではない、ついには根太板ねだいたまではがして持出すような事でございますから、お累は泣入っておりますが、三藏は兄妹のじょう
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いいとこね。まるで古い油絵をはがしてもって来たようね」
呼ばれし乙女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
燈籠の笠石のこけはがしたのは、念入な細工だが、燈籠は少し遠くにあるし、笠石にはかどがあるから、實はそんな仕掛けは出來さうで出來ないことだ。
ヴァイオリンの胴をはがして、中を見ると、なめし革とにかわで、胴裏に貼り付けたのは、おびただしい宝石です。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
昨夜ゆうべ、坊やの着て居た着物の襟をはがして、こんな手紙と一緒に店へ投り込んで行つた者があります」
「伊八の娘の信乃しのはこれを三枚持つて居りました。御勝手の土竈へつゝひの上の、荒神樣のところに貼つてあつたのをはがしたものです。すゝけたり、破けたりして居りますが」
「天井裏は見通しですよ、二人で搜したんだから、このうへは屋根をはがすよりほかにはありません」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)