侍女こしもと)” の例文
しるべの燈火ともしびかげゆれて、廊下らうかやみおそろしきをれし我家わがやなにともおもはず、侍女こしもと下婢はしたゆめ最中たゞなかおくさま書生しよせい部屋へやへとおはしぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きれいな侍女こしもとたちが三、四人、駕籠かごをはなれて腰をかがめた。伴天連——呂宋兵衛るそんべえと蚕婆は、もったいらしく、祈祷のひざをおこして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも人の目を引いたのは、これら士分の者の奥方や女房たちが、侍女こしもとや女中をつれてこの桟敷に乗り込んだ時でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これまでのは渡りものの、やす女だ、侍女こしもとも上等のになると、段々勿体もったいをつけて奥の方へ引込むな。」従って森の奥になる。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、おひめさま、おかえりでございますか。」と、侍女こしもとは、おひめさまの姿すがたると、にいっぱいなみだをためてきつきました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
坂部庄司蔵人行綱の娘の藻が関白忠通卿の屋形に召し出されて、侍女こしもとの一人に加えられたのは、彼女が十四の秋であった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それで御上にはなんと仰せあそばされた。御脇差を御直々に、侍女こしもと鶴江に御遣わしの御覚え、あらせられるか、あらせられぬか、何んと仰せあそばされた」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
政子はそう云ってから侍女こしもとを帰した。政子はそうしておだやかに云って侍女を帰したものの、頭の中は穏かでなかった。その政子の頭にちらと浮んだことがあった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
間もなく侍女こしもとに案内されて、素足の指に血などにじませ、かむって来たらしい被衣かつぎを手に持ち、髪を乱し顔蒼ざめた早瀬が、ソワソワした様子ではいって来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(そうだ。ここは御殿の侍女こしもと部屋だ——だって、そんなところに、お父様がいなさることはない)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その上に白い紙が貼ってあって「もとの奉化州判符女、麗卿之ひつぎ」としるし、その柩の前には見おぼえのある双頭の牡丹燈をかけ、またその燈下には人形の侍女こしもとが立っていて
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
宵は師走霜月の、いかに日短なこの頃とても。点燈頃まで、旦那様、お帰宅かへりなからふものならば、三方四方へお使者つかひの、立つても居ても居られぬは、傍で見る眼の侍女こしもとまで。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「お気に召しましたでしょうか。あなたの侍女こしもとにして下さりませ」などと訊いたりしました。
其方儀そのはうぎ先年京都日野家につとめちう種々しゆ/″\惡事あくじに及び其上嘉川主税之助方に於て主人しゆじんの惡事を助け先代平助嫡子ちやくし藤五郎藤三郎に無禮ぶれい法外はふぐわいの儀を働き侍女こしもとしま絞殺しめころし候だん重々ぢう/\不屆ふとゞきつき獄門ごくもん申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
な正義は大事業にして正義を守るにまさる大事業のあるなし、人世の目的は事業にあらざるなり、事業は正義に達するのみちにして正義は事業の侍女こしもと(Handmaid)にあらざるなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「若は御存知あるまいが、この者は、妻恋坂司馬道場の奥方、お蓮さまの侍女こしもとでござる。拙者は、先般この御婚儀の件につき、先方へ談合にまいった折り、顔を見知って、おぼえがあるのだ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それが氣懸きがゝりゆゑ、おれゃもうけっしてこのやみやかたはなれぬ。そなた侍女こしもと蛆共うじどもと一しょにおれ永久いつまで此處こゝにゐよう。おゝ、いまこゝで永劫安處えいがふあんじょはふさだめ、憂世うきよてたこの肉體からだから薄運ふしあはせくびき振落ふりおとさう。
すると、奥の丸の橋廊下を、幾人もの幼な子を、その母なる人や侍女こしもとたちと共に両手をひいて、こなたへ渡って来る老人があった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
莞爾にっこりしたが、勝山の世盛よざかりには、団扇車で侍女こしもとが、その湯上りの霞を払ったかんざしの花の撫子なでしこの露をいと日覆ひおおいには、よその見る目もあわれであった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのお嬢様より侍女こしもとの方が美しい、奥様のうちでは身分は少し軽いけれども、結局あの奥様がいちばんの別嬪べっぴんだなどと、品評しなさだめをしていたのがこの時
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小坂部のゆくえを探しに出た侍女こしもとどもは、なんの手がかりもなしに帰って来た。三人の侍もむなしく戻った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひめさまは、だれものつかないうちに、あちらのしまかくすことになさいました。あるのこと三にん侍女こしもととともに、たくさんの金銀きんぎんふねまれました。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
御領内一般は申すに及ばず、日本国中に知れ渡って、どうだ、明君とも云われる新太郎少将も矢張女は可愛かったのだ。侍女こしもとに御手が付いて御落胤まである仲だ。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そうした頼朝のそぶりに気のいたのは政子であった。政子は頼朝づき侍女こしもとの一人を呼んで詮議せんぎした。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
座に列なっている妻妾や侍女こしもとや、近習役や茶道衆や、幸若太夫の面々は、顔を見合わせて黙っている。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
みじかしとくらこゝろ如何いかばかり長閑のどけかるらんころ落花らくくわの三ぐわつじんちればぞさそあさあらしにには吹雪ふゞきのしろたへ流石さすがそでさむからでてふうらの麗朗うら/\とせしあまあがり露椽先ぬれゑんさき飼猫かひねこのたまかるきて首玉くびたましぼばなゆるものは侍女こしもとのお八重やへとてとし優子ゆうこに一おとれどおとらずけぬ愛敬あいけう片靨かたゑくぼれゆゑする目元めもとのしほの莞爾につこりとして
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、夜の酒もりにも彼女をじえた。そこには、奥の侍女こしもと、家族の老若ろうにゃく、重臣たちも共になる。いかにも、春の夜らしい人々であった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、引渡しましょう。秋や定。」と急込せきこむにぞ、側にさぶらいける侍女こしもとにん、ばらばらと立懸くるを、遮って冷笑あざわら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひめさまは、侍女こしもとをおびになって、そのことをはなされますと、侍女こしもとは、びっくりしてまるくしました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかも迂濶にそれを主人の耳に入れるのは良くないというので、小ざかしい侍女こしもと二人と侍三人とをひそかに手分けして、東西南北それぞれの方角へ捜索に出した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし葛葉の顔にあるものは、決して同情や愛憐ではなくて、むしろ自分の寵愛を、侍女こしもとの千浪に横取られることを、恐れて案じているところの、めかけらしい嫉妬の情であった。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三人づれ侍女こしもとらしい女が走って来た。若侍は当惑した。侍女らしい女は若侍の傍へ来た。
村の怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幸いにしてその後、みどりの身の上には格別のあぶないこともなく、ほかの侍女こしもとどもが主人のちょうもっぱらにしておりますので、引込みがちで隠れた仕事をのみして日を送っておりました。
大名の内幕は随分ダラケたもので、侍女こしもと下婢はしため馴染なじんでは幾人も子を産ませる。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
侍女こしもとに日傘をささせ、女坂の中段から右の平地をはすに切って、そこに一軒ある古風な生垣に蠣殻かきがらかぶせの屋根門をスウとくぐった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ侍女こしもとの気で迎えてやれ。(みずから天幕テントの中より、ともしたる蝋燭ろうそくを取出だし、野中に黒く立ちて、高く手にかざす。一の烏、三の烏は、二の烏のすそしゃがむ。)
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍女こしもとたちがってげる金銀きんぎんかがやきと、おひめさまのあか着物きものとが、さながらくもうような、夕日ゆうひうつ光景こうけいは、やはりりく人々ひとびとられたのです。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その上に白い紙が貼ってあって「故奉化符州判女もとのほうかふしゅうはんのじょ麗卿之柩れいけいのひつぎ」としるし、その柩の前には見おぼえのある双頭の牡丹燈をかけ、又その燈下には人形の侍女こしもとが立っていて
その建物と主殿とを繋いで、長い廻廊が出来ていたが、その廻廊に青い燈火が、一点ユラユラと揺れながら、建物の方へ進んで行く。一人の侍女こしもと雪洞ぼんぼりをささげて、廻廊を進んで行くのであった。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一は大菩薩峠の頂で猿と闘った時の笈摺おいずるの姿、第二は神尾の邸に侍女こしもとをしていた時の御守殿風ごしゅでんふう、第三はすなわち今、太夫ほどに派手はででなく、芸子げいこほどに地味じみでもない、華奢きゃしゃを好む京大阪の商家には
丫鬟あかん侍女こしもとふたりに左右から扶けられて、歩々、牡丹の大輪が、かすかな風をも怖がるように、それへはいって来た麗人がある。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくして、侍女こしもと立出で、「矢島さんお奥で召します。その人を連れまして庭口からお露地へ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わたしがよく、侍女こしもとたのんでおきます。そして、そんなにながくはたたない。じきにもどってくるから、どうかわたしのいうことをいておくれ。ぜひおねがいだから……。」
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるにその年の夏のはじめ、一匹のかわずえんから座敷へ這上って、右お部屋様の寝間の蚊帳かちょうの上にヒラリと飛び上ったので、取あえず侍女こしもと共を呼んでその蛙を取捨てさせた所が
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
侍女こしもとは立ってゆく。客はながし目に見ていた。ここの侍女に不美人はいないとよく人はいうが、なるほどとうなずいているかのようにである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人は端然として傍目わきめも振らず、侍女こしもと二人は顔見合せ、吐息といきと共に推出おしだす一言、「おお危い。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女儀にょぎのことじゃで毎日出歩きもならぬ。さりとて初めてのおのぼりじゃで別に親しい友達もない。侍女こしもとどもばかりを相手にして、毎日退屈そうに送っていらるるは見るも気の毒じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いいえ、おひめさま。これは、あまりきんぎんをたくさんふねんであるからであります。きんぎんおもみをれば、ふねは、かるくなってがるでありましょう。」と、侍女こしもとらはいいました。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
胸につまるいっぱいの涙と羞恥はにかましさに樹蔭へかくれてしまうのである。侍女こしもとはそれを歯がゆがるように、自分だけ走り出して
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのときかの怪しい上臈が再び庭さきに姿をあらわしたと侍女こしもとどもはささやいていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)