何卒どうぞ)” の例文
「実は、今、あの話を三吉さんにしましたところですよ」とお倉は力を入れて、「何卒どうぞまあ事業しごとの方も好い具合にまいりますと……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかわたしすこしも身體からだ異状いじやういです、壯健さうけんです。無暗むやみ出掛でかけること出來できません、何卒どうぞわたし友情いうじやうことなんとかしようさせてください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
よくお帰りで、何卒どうぞ今晩一晩お泊め下されば有難い事で、追々夜が更けますから、何卒一晩何様どんな処でも寝かして下されば宜しいので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
上気せる美くしき梅子のあどけなきかほを銀子は女ながらにれと眺め「私が悪るかつたの、梅子さん、何卒どうぞ聴かして下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
紫縮緬むらさきぢりめんの被布を買つて貰つた嬉しさと、少し薄暗いやうな部屋に、ピカ/\光る着物を着た番頭に「何卒どうぞこちらへ」と案内されて
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
『今の中ですもの、何卒どうぞお供をさせてやって下さいまし。もう十八ですから、お役にこそ立て、決して足手纒いにはなりますまい』
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「藍丸王様。青眼爺あおめじいで御座います。お召しに依って参りました。何の御用で入らせられまするか。何卒どうぞ何なりと御仰せ付けを願います」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
はずかしながらわたくしは一神様かみさまうらみました……ひとのろいもいたしました……何卒どうぞそのころ物語ものがただけ差控さしひかえさせていただきます……。
と、しんみり云つて聴かせてから、襖を締めて立たうとすると、「待つて下さい、何卒どうぞそこにゐて下さい」とでも云ふやうに、又
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヂュリ ほんにどくぢゃ、氣分きぶんわるうてはなァ。したが、乳母うば乳母うばや、乳母うばいなう、何卒どうぞうてたも、戀人こひゞとなん被言おッしゃった?
さるゝもいやさに默止もだしれば駕籠舁かごかき共は夫婦に向ひもし旦那もどり駕籠ゆゑ御安直おやすく參りやす何卒どうぞのりなされといひけるに浪人夫婦は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
左樣さうでせう、確かに左樣だらうと思つた、サ、何卒どうぞお二階にお上り下さい、實は東京からあなたをたづねていらした方があるのです、と言ふ。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何卒どうぞゆっくりおやすみになって下さい。今女中にお床をのべさせますから、本当にこんな所で先生に御目にかかれようとは思いませんでした。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
何卒どうぞいつまでも/\殿様になつてゐて下さい。」と申しましたが、万作は頭を横に振つて、さつさと御殿を出て行きました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
父も母も宜しく申しましたというと、又「はい」という。何卒どうぞ何分願いますというと、一段声を張揚はりあげて、「はアい」という。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何卒どうぞ一緒に連れて行てれないかといった所が、連れて行こうと云うことになって、私は小野に随従ずいじゅうして行くことになりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何卒どうぞわたしを罪にして下さい……そしてあれのためには『情状酌量』をお願いいたします……重々悪うございました、判事様
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
『や、小川さんですか。』と計量器メートルグラスを持つた儘で、『さ何卒どうぞお上り下さいまし。』と、無理にねた様な訛言なまりを使つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此方こちらでそう言うと、此度は向から優しく出るの。そうして何卒どうぞこれまでのようになっていてくれというの。……私は、『厭だ!』と言ってやった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「まあ、何をなさるんでございます、何卒どうぞお静かに、お師匠様もお静かに、おかみさんも手荒いことをなさらずに」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なに、いけませんければ跣足はだしになりますぶんのこと、何卒どうぞかまひなく、嬢様ぢやうさま御心配ごしんぱいをかけてはみません。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
した。主人のわしう手をついてあやまるから、何卒どうぞ内済ないさいにしてくれ。其かわり君の将来は必俺が面倒を見る。屹度きっと成功さす。これで一先ず内地に帰ってくれ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あの、何卒どうぞお構いなく」娘はあかくなって下を向いた。そのぶな優しさがフリント君の心を捕えた。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
其時そのときむらうち一人ひとり老人としよりがありまして、其塲そのばけてまいり、おあしんだとはなしきいたがついては、わたくし實驗じつけんがあるから、れをば何卒どうぞツてれ、其法そのはうまうすは
『エミルもクレエルも僕も空には何んにもない事がよく分りました。それから、もつと何卒どうぞ。』
その時大方魔酔剤ますいざいかがされたものと見えます。何卒どうぞ一刻も早く、旅館へ連れていって下さい。うしている間にも、父様の上にどんな恐ろしい事が起るかも知れないのです。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
れはおまへやだといふのもれてるけれども何卒どうぞれのかたつて、横町組よこてうぐみはじすゝぐのだから、ね、おい、本家本元ほんけほんもと唱歌しようかだなんて威張ゐばりおる正太郎しようたらうとつちめてれないか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
就いてはこの暮にでも結婚させたいと思ひますが、何卒どうぞそこの所をおみ下すつて……
そしてその時わたしは何卒どうぞ貴方のおしになさる時、今一お側へ来たいと心に祈って死にました。それは貴方に怖い思をさせたり、貴方をいじめたりしようというのではございませぬ。
どうぞ、何卒どうぞ、大将にはおっしゃらないで下さい、お願いです、と何度も同じことを繰り返し、蟇口から十円紙幣を三枚出して餉台の上に置き、立ち上り、悄然として出て行った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
『さうとも、兒玉こだまさんぼくつたことはおさはらんやうにねがひます。何卒どうぞその大島小學校おほしませうがくかうのことをはなしてもらひたいものです』とハーバードは前言ぜんげんのお謝罪わびにオックスホードに贊成さんせいした。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
今あなたがそんな事を云つては芝居がやれなくなりますから何卒どうぞ我慢してやつて頂きたい。あなたの技藝は我々が始終賞めてゐるのですから、我々の爲にと思つて一とつ是非奮發して頂きたい。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
お浪は女の物やさしく、幸ひ傷も肩のは浅く大した事ではござりませねば何卒どうぞお案じ下されますな、態〻御見舞下されてはまことに恐れ入りまする、と如才なく口はきけど言葉遣ひのあらたまりて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何卒どうぞはあ、けつしてやりませんから、へえお内儀かみさんどうぞ」勘次かんじ草刈籠くさかりかご脊負せおうて前屈まへかゞみになつた身體からだ幾度いくどかゞめていつた。なみだまたぼろ/\ときものすそからねてほつ/\とにはつちてんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「さあ、何卒どうぞ御覧下さい」と云いながら彼は手袋を探偵に渡した。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愛のひえきつた世でござる、何卒どうぞえびらの矢をとつて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「これは御丁寧なる。何卒どうぞ御打ち下されい」
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
何もございませんがここで何卒どうぞ御寛ごゆる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何卒どうぞお願ひします。』
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「叔母さん、すこし吾家うちも片付きました。ちと何卒どうぞ被入いらしって下さい。経師屋きょうじやを頼みまして、二階から階下したまですっかり張らせました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つい此の小僧に心が引かされて、お兄様やお母様に不孝を致します、せめて此の與之助が四歳よっつ五歳いつゝに成ります迄何卒どうぞお待ち遊ばして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何卒どうぞ青眼先生、是非その悪魔を退治て下さい。貴方は病気の事ばかりでなく悪魔の事までも詳しく御存じだ。何卒どうぞ何卒御頼みします
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
アヽ、梅子さん、何卒どうぞ我国にける、社会主義のマザアとなつて下ださい、マザアとなつて下ださい、是れが篠田長二畢生ひつせいの御願であります
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と、しんみり云つて聴かせてから、襖を締めて立たうとすると、「待つて下さい、何卒どうぞそこにゐて下さい」とでも云ふやうに、又
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何卒どうぞ是非ぜひ一ついていたゞきたい、とふのは、じつ然云さういわけであるから、むしろきみ病院びやうゐんはひられたはう得策とくさくであらうとかんがへたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すべて天狗てんぐかぎらず、幽界ゆうかい住人じゅうにんばけるのが上手じょうずでございますから、あなたがた何卒どうぞそのおつもりで、わたくし物語ものがたりをきいていただぞんじます。
『や、小川さんですか。』と計量器を持つた儘で、『さ何卒どうぞお上り下さいまし。』と無理にねた樣な訛言なまりを使つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
打まもり夫は又きこえぬおほせぞや御前に別れて外々ほか/\縁付えんづくやうな私ぢやない氣のよわい事を云ず共コレ父樣とゝさま何卒どうぞ九助が命乞いのちごひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今までだッてもそうだ、何卒どうぞマア文さんも首尾よく立身して、早く母親おっかさんを此地こっちへお呼び申すようにして上げたいもんだと思わない事は唯の一日も有ません。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私がその者に云うに、何卒どうぞその言葉を忘れてれるな、見て居る前で福澤の一家残らず裸体はだかになって出て行くから、七十万でかって貰いたい、財産は帳面のまゝ渡して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)