何分なにぶん)” の例文
見捨みすてたと云かどがあるゆゑ道具だうぐ衣類いるゐは云までもなく百兩の持參金ぢさんきんはとても返す氣遣きづかひなしと思ふゆゑそれそんをしてもかまはぬが何分なにぶん離縁状りえんじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(青金でだれもうし上げたのはうちのことですが、何分なにぶんきたないし、いろいろ失礼しつれいばかりあるので。)(いいえ、何もいらないので。)
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何分なにぶんにも乗組員の数が少ないから、各人はそれぞれ相当重い役割をつとめなければならない。それは覚悟して置いてもらいましょう
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歳は私よりとおばかり上だが、何分なにぶん気分が子供らしくて、ソコデ私を中津にえすような計略をめぐらしたのが、私の身には一大災難。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
男「おおきに待遠まちどおだったろうな、もっと早く出ようと心得たが、何分なにぶん出入でいり多人数たにんずで、奉公人の手前もあって出る事は出来なかった」
何分なにぶんお願ひ申す。」と、松村も同意した。小幡は先づ用人ようにんの五左衞門を呼び出して調べた。かれは今年四十一歳で譜代の家來であつた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
これともうすもひとえ御指導役ごしどうやくのおじいさまのお骨折ほねおりわたくしからもあつくおれい申上もうしあげます。こののちとも何分なにぶんよろしうおたのもうしまする……。
しかるに世間というものはここが話じゃ、今来たのは一名の立派な紳士じゃ、夜会の帰りかとも思われる、何分なにぶんか酔うてのう。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何分なにぶん空氣くうきかんなか侵入しんにゆうするので、今日こんにちこれをけててもほねのこつてゐるのはごくまれであつて、わづかにのこつてゐるくらゐであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
あの部屋は何分なにぶんわれわれに適当しないから、約束の一週間の終わるまでここにいることは出来ないと言い聞かせると、女は平気でこう言うのだ。
で、ただその供養を見ただけで法会ほうえには行きません。なぜ行かないかというに何分なにぶん急込せせこましくってなかなかすわる場所がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母はただ叔父おじに万事を頼んでいました。そこに居合いあわせた私を指さすようにして、「この子をどうぞ何分なにぶん」といいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私にもあまりい気持がしなかったが、何分なにぶん安値やすくもあるし、にぎやかでもあったので、ついつい其処そこに居たのであった。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
これは前記『日本アルプス』の中のの辺に出ている言葉であるか、何分なにぶん今から十二三年前の作であるから、引用した私にも分らない、覚えていない。
何分なにぶん地震で屋根がこわれ落ちているところへ、どんどん火の子をかぶるのですからたまったものではありません。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
何分なにぶん各人の願い望みがまちまちであるために、今では名ばかりのこって、一年に一どの物詣ものまいりにつき合うだけ、またはほうぼうから集まってくるのみで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「中世の伝説を集めた本でしてね。十四五世紀のあいだに出来たものなんですが、何分なにぶん原文がひどい羅甸ラテンなんで——」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何分なにぶんにも明治初年か慶応けいおう頃の撮影さつえいであるからところどころに星が出たりして遠い昔の記憶きおくのごとくうすれているのでそのためにそう見えるのでもあろうが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とよ何分なにぶんよろしくと頼んでおたき引止ひきとめるのを辞退じたいしていへを出た。春の夕陽ゆふひは赤々と吾妻橋あづまばしむかうに傾いて、花見帰りの混雑を一層引立ひきたてゝ見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そういえば、お昼過ぎ、何だか大きな音がした様にも思いますが、何分なにぶん直ぐ裏の山で始終鉄砲の音がしているものですから、別に気にも止めませんでした」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いや、何分なにぶんお願いします。でも、却って余り騒がない方がいいと思います。じゃあ、もうこれ位で……」
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何分なにぶんとっぴで、ちょっとチンドン屋みたいでおかしいところへ、チョコチョコと駆けだす恰好が、玉乗りのため妙な腰つきになったのか、ヘンにおかしいのだが
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
その書類はわたしの部屋……いや、われわれの部屋の机の抽斗ひきだしにはいっているのだが、何分なにぶんにも秘密の使いだから弁護士や雇い人を出してやるわけにいかないのだ。
養和の頃の出来事であったと覚えているが何分なにぶんにも古い事ではっきりした時は云われないのだが、その頃の二年の間と云うもの実にひどい飢饉のあった事があった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
何分なにぶん九十近い老体のことだから、起居が不自由ふじゆに、どうかすると坐つたまま小水をもらすこともあるが、そんななかにも和尚は手にした筆だけは放さうとしなかつた。
何分なにぶんこつちに充分な時間的な証拠がないので、とうとう新しい事実は一つもつかみ出せなかつた。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
当時あさひの昇るような勢いの『ヘルキュレス』、勝目のところはよく行って四分六しぶろく、せいぜい七分三分の兼ね合いというところ、何分なにぶんにも望みのすくない話でごぜますが
どうかしてかたきちたいとおもいますが、何分なにぶんこうは三上山みかみやま七巻ななまはんくというおおむかでのことでございますから、よしかって行っても見込みこみがございません。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
先方さきでも何言なにごとも云わずにまた後方うしろって、何処どこともなく出て行ってしまった、何分なにぶん時刻が時刻だし、第一昨夜私は寝る前に確かに閉めたドアが外からけられる道理がない
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
遠方ゑんぱうまでわざ/\出迎でむかへをけて、大儀たいぎであつた。何分なにぶん新役しんやくのことだから、萬事ばんじよろしくたのむ。しかしかうして、奉行ぶぎやうとなつてれば、各々おの/\與力よりき同心どうしんは、のやうにおもふ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
カピ長 先度せんどまうしたとほりを繰返くりかへすまでゞござる。何分なにぶんにも世間せけん知らず、まだ十四度よどとはとし變移目かはりめをばむすめ、せめてもう二夏ふたなつ榮枯わかばおちばせいでは、適齡としごろともおもひかねます。
小浜と愛野あいのわずかに五マイルを走る小鉄道で、島原鉄道と連絡しているので、雲仙登山には好都合の訳であるが、何分なにぶん一時間半以上の間隔をおいて発車するので、実用には縁遠く
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「そうか。では、気の毒じゃが、何分なにぶん頼むよ」と言ったまま、そわそわと宿を出てしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
合衆国がっしゅうこく桑港サンフランシスコから、国の中央を横切っている、かの横断鉄道には、その時、随分ずいぶん不思議なはなしもあったが、何分なにぶんロッキーさんの山奥を通過する際などは、そのあたり何百里というもの
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
娘はついにその俳優やくしゃたねを宿して、女の子を産んだそうだが、何分なにぶんにも、はなはだしい難産であったので、三日目にはその生れた子も死に、娘もそののち産後の日立ひだちるかったので
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
門灯の光で、千種の風体ふうていには怪しいところは無いと見た様子ですが。何分なにぶんにも遅過ぎます。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
柳川君やながはくんらばこれにておわかまうすが、春枝はるえ日出雄ひでをこと何分なにぶんにも——。』とかれ日頃ひごろ豪壯がうさうなる性質せいしつには似合にあはぬまで氣遣きづかはしに、あだか何者なにもの空中くうちゆう力強ちからつようでのありて
余も感心せざるにあらねど余は何分なにぶんにも今まで心に集めたる彼れが無罪の廉々かど/\を忘れ兼れば
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
総督は逆手さかてをとって、彼がいつぞや土木局の連中を相手にもちあげたさる醜聞しゅうぶんを、わざわざ言い出したので、彼は弁明これ努めて、何分なにぶんにもあのころはまだ未経験だったので——と
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
何分なにぶんヘッドライトもないし次の瞬間には車内燈ルームライトの光りの外に闇に消えてしまっていたというのですが、これを聞いた時、私たちさっきの青大将を見た連中は唇の色を失っていました。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
何分なにぶんじっとしていられなくなって、室内をあちらこちらと歩きはじめました。
何分なにぶんにも老先おいさきの短かい身に頼り少いのが心細く、養子を貰ったそうだ。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
何分なにぶん戦後せんごで、品物しなものがないのですから。
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうですか、では、何分なにぶんよろしく」
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「では、何分なにぶんよろしく願います。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
難有ありがたいね、何分なにぶんよろしく。』
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かさね右のおもぶきまで願書にしたゝめ居たるに加賀屋長兵衞入り來り我等何分なにぶんにも取扱ひ候間いますこし御待ち下さるべし白子屋方へ能々よく/\異見いけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
例のごとくその夜は山の間に露宿してさてその翌日は東北の方向を取ればある駅場えきばに出られる訳ですが、何分なにぶんにも磁石がないから方角が分らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
余はそれを通読するつもりでうちへ持って帰ったが、何分なにぶん課業その他が忙がしいので段々延び延びになって、何時いつまで立っても目的を果し得なかった。