にわとり)” の例文
旧字:
そしてにわとりだけには、ほしのものをいうことがよくわかりました。また、にわとりいていろいろなことをはなすのも、ほしにはよくわかりました。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちずんずんそらあかるくなってきて、ひがしそら薄赤うすあかまってくると、どこかのむらにわとりてるこえがいさましくこえました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ひよッ子を育てるような金網の籠に犬は犬、猫は猫と二三匹か四五匹ずつ入れた奴がズーッと奥の方まで並んでいる。にわとりも居るし小羊も居る。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのうちに髪の白い男が真先まっさきに立つて、ほかの三人がそのあとに附いて、この町内の角を曲つて行きましたが、やがてにわとりが鳴き始めました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ヤ、あのにわとりは実に見事に出来ましたネ。私もあの鶏のような作がきっと出来るというのなら、イヤも鉄砲てっぽうも有りはしなかったのですがネ。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昔、井戸を掘ると、の下にいぬにわとりの鳴く、人声、牛車ぎゅうしゃきしる音などが聞えたという話があります。それに似ておりますな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
料理人は左の手にフークをり右の手に料理用のナイフを持ち先ずフークを以てにわとりの体を抑えナイフを腰にてて軽く腰のつが截放きりはなしぬ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「恭一はな」と、にわとりえさをやりに出てきたおばさんが、きかしてくれました。「ちょっとわけがあってな、三河みかわの親類へ昨日きのう、あずけただがな」
小さい太郎の悲しみ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鵞鳥がちょうが増えたこと、百歩蛇ひゃっぽだにわとりと喧嘩したこと、誰それが転勤になって平地に降りたこと、——熱に浮かされたように
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
その証拠しょうこにはご覧なさいにわとりでは強制肥育ということをやる、鶏の咽喉のどにゴム管をあてて食物をぐんぐんんでやる。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへじ倒した。丁度、にわとりの脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それはこうだ。そのにわとりというやつはトッテクーと鳴くのだ。取って食うと鳴いたら最後さいご、どんなものでも取って食ってしまうのだ。おそろしい奴だ。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ふと耳をすますと、いつの間にか、隣室のやかましい物音がやんで、底知れぬ静寂の中から、殆んど信じ得られぬ様な、ほがらかなにわとりの声が聞えて来た。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
にわとりかえさせると、かれらは何かにおどろくとたちまち飛び散ってそのまま行きがた知れずになってしまうそうである。
それからおにが集まってきて博奕ばくちをうつという条でも、一方は地蔵に言われて遠慮をしいしいその肩に乗り、好い頃あいを見てにわとりの鳴声をまねすると
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつも独りで工場裏のあしの生えた沼地のへりに立っているか、または工場主の鶏舎の前にかがみこんでにわとりの動作をつくねんと見戍みまもっているらしかった。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この頃の空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろに曇り、あたりの樹木からは虫噛むしばんだ青いままの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにわとり啼声なきごえはと羽音はおとさわやかに力強く聞える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は焦燥しながらつるにわとり山蟹やまがにの卵を食べ続けるかたわら、その苛立いらだつ感情の制御しきれぬ時になると、必要なき偵察兵を矢継早やつぎばやに耶馬台やまとへ向けた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
パナマ帽に黒の上衣うわぎは脱いで、抱えて、ワイシャツの片手にはにわとりの首のついたマホガニーの農民美術のステッキをついてゆく、その子の父の私であった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
馴合なれあい中人ちゅうにんが段々取持とりもつような風をして、果ては坊主の代りに酒やにわとりを買わして、一処に飲みながら又ひやかして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
にわとりの足に似た細長い首にはフランネルのぼろがまきつけられ、肩からはこの暑いのに、一面にすり切れて黄色くなった毛皮の上着がだらりと下がっている。
「それのみか、門前町から山上の途中でも、見晴らしのちんを打ちこわし、附近の娘どもを見れば、狼がにわとりでも追うように、追っかけ廻して歩いてきたとか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きているうさぎだのにわとりだのには、冥途めいどゆきの赤札あかふだをぶら下げるだけですが、そのほかのは必ず頭のある魚を揃えたり馬肉の目方をはかって適当の大きさに截断し
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学校の宿直室に先生のとまっているのを知って、あんころ餅を重箱にいっぱい持って来てくれるのもあれば、にわとりを一羽料理して持って来てくれるものもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
恋猫こいねこ恋犬こいいぬにわとりは出しても/\につき、すずめは夫婦で無暗むやみに人のうち家根やねに穴をつくり、木々は芽を吐き、花をさかす。犬のピンのはらははりきれそうである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土間のすみに片寄せてあるうすの上に、ふくれていたにわとりが、驚ろいて眼をさます。ククク、クククと騒ぎ出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、その年の暮れには、にわとりに卵を生ませ、畑に冬ごしの野菜ものさえいくらか育てていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
にわとりの丸焼きだの凝血腸詰プウダンなどを喰べて、寝るにも起きるにもまるで普通の人間と少しも違わないのよ。
「ヒンヒンというのは馬の啼き声、ワンワンというのは犬の啼き声、ニャンニャンというのは猫の啼き声、コケコッコーと申しますのは、にわとりの啼き声にございます」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なにがしという一人の家をかこみたるおり、にわとりねぐらにありしが、驚きて鳴きしに、主人すはきつねの来しよと、素肌すはだかにて起き、戸を出ずる処を、名乗掛なのりかけてただ一槍ひとやりに殺しぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何貫目ぐらいの豚、たいでも何百もんめのたい、というふうに行かねばならぬ。にわとりでも年ったのは不味まずい。卵を生む前のが美味い。かように鶏といっても千差万別である。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
カバレット・ポンペアの低い嬉びに、世界各国のにわとりの歌奏でるユダの主人、私はシャンパン、緑色の天井、進撃勇ましい、桃色の月、見上げて、十人のコウカサスの女に接吻する。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
田楽刺でんがくざしにしてやることが、かえって娘夫婦のためだと思った。故に老巧な治部太夫は、必殺の構えをつけた、にわとりくに牛刀をつかう恨みを、心のうちに感じながらも、着実に進退した。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
一山もある、れた洗濯物を車に積んで干場ほしばへ運んでく事もある。何羽いるか知れない程のにわとりの世話をしている事もある。古びた自転車に乗って、郵便局から郵便物を受け取って帰る事もある。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
というのはにわとりは食い過ぎたり発熱したりしやすく、なかなか長寿を得難いからだ。しかもその中の一羽は、エロシンコ君が北京滞在中作った唯一の小説、「小鶏の悲劇」の中の主人公とさえなった。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ドミエの漫画! 何とコッケイな、何とちぐはぐなにわとりの姿!
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
金桂鳥きんけいちょうからにわとり——と。」
にわとり空時そらどきつくる野分のわきかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「いま、さむかぜが、あちらのとおもりなかさわいでいる。」と、にわとりげますと、にわとりは、うなだれてからだじゅうをまるくしてちぢむのでした。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
どちらもけずおとらぬえらいちからでしたから、えいやえいや、両方りょうほうあたまりこをしているうちに、けかかって、にわとりきました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「それはねぎを百本、玉葱を百個、大根を百本、薩摩芋さつまいもを百斤、それから豚と牛とを十匹、七面鳥とにわとりを十羽ずつ買って来い」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
わたしはもう一度、表へ出てみると、往来には一人も通らず、夜の更けるに連れて月がます/\冴えてゐるばかりです。にわとりや犬はまだ鳴いてゐる。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「犯人は、只者ただものじゃない。チャン爺さんを殺すことなんか、にわとりの首をしめるほどにも感じなかったんだろう」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからまだあるのは、この日月のお形の下に、一方には鶺鴒せきれいという小鳥、他の一方にはにわとりが彫り入れてあることで、説明がないとこれだけはよく解らない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただあやまるだけで済めばいが、酒を五しょうにわとりと魚か何かをもって来て、それで手をうって塾中でおおいに飲みました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
外では寒そうなにわとりの声がしているが、折角せっかくこれを書き上げても、いやに気のふさぐのはどうしたものだ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて、空は少しずつ青味を加え、星屑は徐々にその光を薄くし、にわとりの声があちこちに聞え始めました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この県は戦争中の取立と近年にない飢饉ききんとで、見た通りにわとりき声一つしなくなっているとも云った。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも所々ところどころ宅地の隅などに、豌豆えんどうつるを竹にからませたり、金網かなあみにわとりを囲い飼いにしたりするのが閑静にながめられた。市中から帰る駄馬だばが仕切りなくれ違って行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
としとったおかあさんはとなりにわとり今日きょうはじめてたまごをうんだが、それはおかしいくらいちいさかったこと、背戸せどひいらぎはちをかけるつもりか、昨日きのう今日きょう様子ようすたが
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)