ほうむ)” の例文
髪の毛でも送って来なければ、ほうむりようがなかった。せがれ夭死ようしして、頼みの綱の孫がまた、戦死した祖父のうちは、寂しそうであった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
もとより赤の他人には相違ありませんが、一と月でも半月でも、離屋に置いたお半を、このまま犬猫のようにほうむるわけにも行きません。
延陵えんりょう季子きし、その長子をほうむりて、『骨肉は上に帰復すさだめなり。魂気の若きは、すなわちかざるなし、かざるなし』とのたまいし、云云うんぬん
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
秀吉は、変を知ると、中国高松城の水攻めを、毛利家との和睦わぼくに中止して、疾風のごとく陣を返し、山崎の一戦に、光秀をほうむり去った。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふぐの特質は、こんな一片のシャレでほうむり去られるものではなかろう。ふぐの味の特質は、もっともっと吟味ぎんみされるべきだと私は考える。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
昔は一遍いっぺん社会からほうむられた者は、容易に恢復する事が出来なかったが、今日では人の噂も七十五日という如く寛大となったのであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良吉りょうきちかなしさのあまりきあかしました。文雄ふみおむらのおてら墓地ぼちほうむられました。良吉りょうきち文雄ふみおのお葬式そうしきのときにもいてついてゆきました。
星の世界から (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、おなみだのうちに、やっと、女神のおなきがらを、出雲いずもの国と伯耆ほうきの国とのさかいにある比婆ひばの山におほうむりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
けれどもこれほどのえらい将軍しょうぐんをただほうむってしまうのはしいので、そのなきがらによろいせ、かぶとをかぶせたまま、ひつぎの中にたせました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さまたげてもって死を送らんとすることを恐る。死者知るなしと言わんとすれば、まさに不孝の子その親をててほうむらざらんとすることを恐る。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そんなに苦労してとったフィルムが、いつ世界の人の眼にとまるのだ。永久にこの宝島にほうむりさられるとも限らないのだよ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
首級おしるしなどあらばほうむらうものと、このようにお探しいたしても、かけた火に焼かれてそれさえない。悲しやな、オーオーオー
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大隅国加治木おおすみのくにかじき長念寺ちょうねんじという寺がある。其寺そこに、ある人が死んでほうむられた。生前の名は忘れました。四十九日ってから家族が墓石を建てたんです。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
主君のちゅうを討つ時、彼らは父が死んでほうむらぬ間に干戈かんかを起すは孝行でなく、臣が君をしいするは仁でないといって武王をいさめたが用いられなかった。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ほうむりをしてから雨にも逢わないので、ほんの新らしいままで、力紙ちからがみなども今結んだ様である。お祖母さんが先に出でて
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
賽児さいじ蒲台府ほだいふたみ林三りんさんの妻、わかきより仏を好み経をしょうせるのみ、別に異ありしにあらず。林三死してこれを郊外にほうむる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
永劫えいごう暗黒やみほうむり去られることになった——とこういう因果話のはしはしが、お露の亡霊からいつ果てるともなく、壁へ向ってつぶやかれるのであった。
現に隣のねえさんは娘時代に父無し児を生んだのを、家同志の情けから、その子をそんなにしてやみほうむってしまったのよ
「仲よくほうむりてやりましょう。子供というものは死ぬまで面倒を見てやらなければならんこともようやく知り申した。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
随ってこの事件は、一精神異常者の奇怪なる幻想として、深く取調べることもなくほうむり去られたことに相違ない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのの伝吉の一生はほとんどこの怒のために終始したと云ってもよい。伝吉は父をほうむったのち長窪ながくぼにいる叔父おじのもとに下男げなん同様に住みこむことになった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔から船艦せんかんの中で死んで印度洋の水底にほうむられた人は数知れぬ。印度洋で死んだ日本人も一人や二人では無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……だから今までにドレ程の数学家が、自分の天才を発見し得ずに、闇から闇にほうむられ去ったことであろう。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
総監がうのには、この位なことで、貴方あなたを社会的にほうむってしまうことは、何とも遺憾なことなので告訴を取り下げるように懇々こんこん云って見たが、頑として聴かない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
チベットのいわゆる鳥葬というのは仏法の方では風葬というもので、チベットでは屍骸をチャ・ゴエ(禿鷲)に食わせるのをもって一番良いほうむり方として居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ありがとうございます。ついては敵の死骸しがいほうむりたいとおもいますが、お許し下さいましょうか。」
烏の北斗七星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
われわれは彼を船旗に包み、足もとに三十二ポンド弾を置いて、その日の午後に彼をほうむった。わたしが弔辞ちょうじを読んだとき、荒らくれた水夫はみな子供のように泣いた。
「閣下、いよいよ御子息にそういありませんならば、あらためて山寺へおほうむりになるがよろしゅうございましょう、そのうえで、私から閣下に申しあげたいことがございます」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
杜国とこく亡びてクルーゲル今また歿ぼっす。瑞西すいっつるの山中に肺にたおれたるかれの遺体いたいは、故郷ふるさとのかれが妻の側にほうむらるべし。英雄の末路ばつろ、言は陳腐ちんぷなれど、事実はつねに新たなり。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
アリス・バアナムは、こうして良人おっとアウネスト・ブラドンの「涙」のうちにほうむられたのだった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
有耶無耶うやむやほうむってまたいつのにか平気な顔で佐助に手曳てびきさせながら稽古に通っていたもうその時分彼女と佐助との関係はほとんど公然の秘密になっていたらしいそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ほと/\えられぬ臭氣しゆうきも、たましひも、とうくなるほどで、最早もはやこのくさつたさかなとは一刻いつこく同居どうきよがたく、無限むげんうらみんで、少年せうねん二人ふたりで、沙魚ふか死骸しがいをば海底かいていふかほうむつてしまつた。
草庵の裏山に眺望ひらけた中腹の平地を探しもとめて、涙ながらに友のなきがらをほうむった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
此時このときは一しゆべからざるの凄氣せいきたれたのである。此所こゝこれ、千すう年前ねんぜんひとほうむつた墳墓ふんぼである。その内部ないぶきながらつてつのである。白骨はくこつけるにあらぬか。
死人に六文銭ろくもんせんを添へてほうむるのが古来こらいならいである。その六文銭のある間、母はわが子を養育するために毎日一文づつの飴を買つてゐたのであるが、けふは六日目でその銭も尽きた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いかなる前生の悪業あくごうありてかかる憂目うきめに遭うかと生きる望も消えて、菊之助をほうむった後には共にわずらい寝たきりになって、猿の吉兵衛は夜も眠らずまめまめしく二人を看護し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そりゃあ、あるとも。多分学校といっしょになって秘密にほうむろうとするだろうね。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
自分で自分をほうむる気持は、生涯何度も繰返したので、一向めづらしいことではない。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
子供はうまれたが、婦人は死んでしまった所密通をしたかどと子を堕胎おろした廉が有るから、よんどころなく其の死骸を旅荷にこしらえ、女の在所へ持ってき、親達と相談の上で菩提所ぼだいしょほうむる積りだが
私が六年間この浦和町につくした志は全然ほうむられてしまうことになる、諸君は学生の分を知らなければならん、学生は決して俗世界のことに指をめてはならん、ただ、私は諸君にいう
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
巨男おおおとこのむくろは月桂樹げっけいじゅの葉でおおわれて都の東にある沙丘さきゅうほうむられました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
まだ退役の辞令を受けていなかったため、軍葬の礼をもってほうむられた。カテリーナ・イワーノヴナは姉や伯母といっしょに、父のとむらいが済み次第、十日ばかりして、モスクワへ立ってしまった。
あの人は西へも東へも、遠くにも近くにもほうむられているのですもの。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ロレ まへのをはかほうむって、べつのを掘出ほりだせとはつひはぬ。
三峰の奉納試合に、梅軒が八重垣流の鎖鎌くさりがまの秘を尽して坂東の剣術者をほとんど総薙そうなぎにほうむったおととしの記憶などを思いうかべていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただし受け入れる事のできない人に与えるくらいなら、私はむしろ私の経験を私の生命いのちと共にほうむった方がいと思います。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その最期さいごも立派であったと部落の人達にめられもし、憐れみの掛かることもあろう、ほうむってくださるお方もあろうに、おめおめ刑死しようものなら
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おうさまは、いて、きさきをふじのはなやまのふもとにほうむられました。あとのこされたたくさんのあおたまは、むなしく御殿ごてんなかにさびしいひかりはなっていました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの女房がお前の教えに従って、不用な一人の命を、やみから暗へほうむったとて、それがどうして罪悪になるのだ。私は理窟ではそんな風に考えることが出来た。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おお、可哀かわいそうな人であります。わたくし、こうして置いて、後で手篤てあつほうむってやります。たいへんたいへん、気の毒な人です。みな、あの○○獣のせいです
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)