こう)” の例文
「いくらかんがえたってしかたがないことだ。おれたちははたらくよりみちがないのだ。」と、おつこうさとし、自分じぶん勇気ゆうきづけるようにいいました。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしの光は、古いプラタナスの葉が、ちょうどカメのこうのようにりあがって、しげっている生垣いけがきの中に、さしこもうとしていました。
真白なのは、てのひらへ、むらさきなるは、かへして、指環の紅玉ルビイの輝くこうへ、朱鷺色ときいろと黄のあしして、軽く来てとまるまでにれたのであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかるにこうの政党とおつの政党とはその主義をことにするために仲が悪い、仲が悪くとも国家のためなら争闘も止むを得ざるところであるが
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
三笠氏は、老人の優しさで、娘をいつくしむ様に、目を細くして珠子を眺め、彼女の白い手を取って、そのこうをペタペタと叩いて力づけた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は前跼まえかがみになると、手のこうをかえしてこぶしの先で三和土の上をあちこち触れてみた。手の甲というものは、冷熱の感覚がたいへん鋭敏である。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その國からのぼつておいでになる時に、龜のこうに乘つて釣をしながら勢いよく身體からだつて來る人に速吸はやすい海峽かいきようで遇いました。
神仙は銀製の長さ二寸ばかりあるトッコンと云う楽器、水晶でこしらえた亀のこうの形をした一寸五分ばかりのもの、鉄扇てっせんけんの四種の品をくれた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫人の横顔は、いつもにくらべると、いくぶん青ざめており、その視線は、つつましくひざの上に重ねている手のこうにおちているように思われた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
うそをつけ。つらあらったやつが、そんな粗相そそうをするはずァなかろう。ここへて、よく人形にんぎょうあしねえ。こうに、こんなにろうれているじゃねえか
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
橋の上で怪我をしたらしく、足のこうは無造作に巻いてありますが、素足のままの足が、板じきを踏んで、こんな事にまで痛々しさが沁み出すのです。
照彦てるひこ様はまもなく台所で見つかって、お母様のお部屋へやへ引かれてゆく途中とちゅう小間使こまづかいの手のこうに歯あとの残るほどかみついて、また一つつみがふえた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また、近頃、頻りと使者の往来がはげしいのは、今川家を中心に、駿すんこうそう三ヵ国間に、不可侵ふかしん協定の下談したばなしが、結ばれようとしている気配だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういってかるく頭をぶってやると、しろ公は目をしょぼしょぼさせて、ごめんね、とでもいうように林太郎の手のこうをしゃりしゃりなめたりします。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
鶴見少年にも思想らしいものが、内からこうひらいてぐんでいる。そこに見られるのは不満の穎割葉かいわればである。かれはいつのまにか生意気になってきた。
しかし今度は黙ったままで。そうして私は老人の動かしている無気味に骨ばった手のこうを目で追っているうちに、ふいと「巨人きょじん椅子いす」のことを思いうかべた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おばあさんはやれやれとこしをのばして、手のこうで額を一寸ちょっとこすりながら、二人の方を見て云いました。
十月の末 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかしてこうがその専門についてある点まで上達すれば、乙がまた他の専門についてある点に達するに比べて専門がいかに違っても、各自の造詣ぞうけいは深さ高さによりて測り
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
小初の涙が薫の手のこうを伝って指の間から熱砂のなかに沁み入った。薫はそれを涼しいもののように眼を細めて恍惚こうこつと眺め入っていたが、突然とつぜん野太い男のバスの声になって
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
落花啼鳥らっかていちょうの情けも心に浮ばぬ。蕭々しょうしょうとしてひと春山しゅんざんを行くわれの、いかに美しきかはなおさらにかいせぬ。初めは帽を傾けて歩行あるいた。のちにはただ足のこうのみを見詰めてあるいた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蛇は太い柱のごとく、両眼は灼々しゃくしゃくとかがやいている。からだのこうは魚鱗の如くにして硬く、腰から下に九つの尾が生えていて、それを曳いてゆく音は鉄のよろいのように響いた。
勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小勝負一度とはこう組(九人の味方)が防禦ぼうぎょの地に立つ事とおつ組(すなわち甲組の敵)が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
王曰く、彼おおく、我すくなし、しかれども彼あらたに集まる、其心いまだ一ならず、之を撃たばかならず破れんと。精兵八千を率い、こうき道を倍して進み、ついに戦ってち、忠と瑱とをて之を斬る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
丁寧ていねいに髪を掻いたお初、大好きな西陣ちりめんの乱立てじまの小袖に、いくらか堅気すぎる厚板の帯、珊瑚さんごも、べっこうも、取って置きのをかざって、いい時刻を見はからって、黒門町のやどを出る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この文珠屋佐吉もんじゅやさきちの足をとめる声、聞いていて、こう、身内がぞくっとすらあ!——駿すんこうそうの三国ざかい、この山また山の行きずりに、こんな、玉をころがす声を聞こうたあ、江戸を出てこの方
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こういって女は、手のこうの、牛の疱瘡にかかったあとを見せました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
蒔絵の模様は、こうを除いたほとんど全部に行きわたっていて、両側の「いそ」は住吉すみよし景色けしきであるらしく、片側に鳥居とりい反橋そりはしとが松林の中に配してあり、片側に高燈籠たかどうろう磯馴松そなれのまつと浜辺の波が描いてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其時現場先づ測り、次に青銅のこうを取り、 315
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
大亀おおがめヘロネのこうの鏡8170
「どうぞ、これをくださいな。」といって、これをいました。こうのアネモネがはこられるとき、あとの二つのアネモネは
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのこうたちは、祖先義清いらい、一世紀余も住み古してきた代々の家だった。北の彼方に、国分寺のあとがある。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草鞋を穿いた足のこうへも落ちた上へまたかさなり、並んだわきへまた附着くッついて爪先つまさきも分らなくなった、そうしてきてると思うだけ脈を打って血を吸うような
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですから、その女の子のかわいらしい足のこうは、すっかり赤くなって、いかにもいじらしく見えました。
次郎は、そう言って、わざわざ目を手のこうでこすった。しかし、つぎの瞬間には、そんなごまかしをやった自分が、たまらなくいやになり、思わずかたをすくめた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
小林少年の手のこうにとまって、かわいい目をキョロキョロさせて、じっと聞いていましたが、ご主人の命令がわかったものとみえて、やがて勇ましく羽ばたきして
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やっと笑いやんだラツールが、笑いこけてほほをぬらした涙を、手のこうでぬぐいながら、そういった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから数日の後、別のところにすなの盛りあがること十数里、その上に一物いちもつを発見した。それは海亀に似たもので、大きさは車輪のごとく、身にはこうをつけて三つ足であった。
あるいは謄写とうしゃしたりして教師の目をくらますことである、それには全級の聯絡れんらくがやくそくせられ、こうからおつへ、乙からへいへと答案を回送するのであった、もっと巧妙な作戦は
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
手燭てしょくをつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、釣手つりてをはずして、長くたたんでおいて部屋の中で横竪よこたて十文字にふるったら、かんが飛んで手のこうをいやというほどった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お父さんが監獄かんごくへ入るようなそんな悪いことをしたはずがないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈きぞうしたおおきなかにこうらだのとなかいの角だの今だってみんな標本室にあるんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
酒のこぼれた口ばたを、ぐいと手のこうで押しぬぐった泰軒は
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
買わんがためのお世辞でもあったであろうが当時三十七歳の春琴は実際よりもたしかに十は若く見え色あくまで白くして襟元えりもとなどは見ている者がぞくぞくと寒気がするように覚えたこうの色のつやつやとした小さな手を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
馬尾の冠毛振りかざすこう天邊てつぺん打碎き
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
「ああ、なつかしい、まさしくこうへいだ! よくなずにかえってくれた。」と、おつは、に、あつなみだをいっぱいながしてよろこびました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「この前の例もあります。孔明は八門遁甲とんこうの法を得て、六ちょうこうしんをつかいます。或いは、天象に奇変を現わすことだってできない限りもありません」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし骨董こっとうと名のつくほどのものは、一つもないようであった。ひとり何とも知れぬ大きな亀のこうが、真向まむこうに釣るしてあって、その下から長い黄ばんだ払子ほっす尻尾しっぽのように出ていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お父さんが監獄かんごくへはいるようなそんなわるいことをしたはずがないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈きぞうしたおおきなかにこうらだのとなかいのつのだの今だってみんな標本室ひょうほんしつにあるんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
元結もとゆいは切れたから、髪のずるりとけたのが、手のこうまつはると、宙につるされるやうになつて、お辻は半身はんしん、胸もあらはに、引起ひきおこされたが、両手を畳に裏返して、呼吸いきのあるものとは見えない。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一郎はふうふういって、泥だらけの手のこうひたいを横なぐりにいた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしのじゅくの生徒はみんな不幸なやつばかりだ、同じ土地に生まれ同じ年ごろでありながら、ただ、金のためにこうは意気揚々ようようとしおつ悄然しょうぜんとする、こんな不公平な話はないのだ、いいか安場、そこでだ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)