琥珀こはく)” の例文
まだ自殺までには大分時間があるから、充分、十二分に落ち付いて、紫の煙と、琥珀こはく色の液体を相手に悠々と万年筆をふるう事にする。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
コゼットは白琥珀こはくの裳衣の上にバンシュしゃの長衣をまとい、イギリス刺繍ししゅうのヴェール、みごとな真珠の首環くびわ橙花オレンジの帽をつけていた。
雲のしまうす琥珀こはくいたのようにうるみ、かすかなかすかな日光がって来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
真紅しんくや、白や、琥珀こはくのような黄や、いろ/\変った色の、少女おとめのような優しい花の姿が、荒れた庭園の夏をいろど唯一ゆいいつの色彩だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
寂漠たる苔原ツンドラ地帯。せいぜい一尺ぐらい、それより育たないわい小な白樺と松。湿風モリヤンカが吹いて通る。琥珀こはく色の太陽。雁の声。空寂。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田といふ田には稻の穗が、琥珀こはく色に寄せつ返しつ波打つてゐたが、然し、今年は例年よりも作がずつと劣つてゐると人々がこぼしあつてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そうしてポケットから琥珀こはくに金のをはめた見事なパイプを出して煙草をふかしながら、自慢そうに私にみせて呉れたりした。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ガラスびんからは冷たい雫がたれていたが、その中にいっぱいつまった琥珀こはく色の液体をすかして、次郎の胸がぼやけて見えた。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
眼は変わりやすくて、灰色であり琥珀こはく色であり、緑や金など各種の反映を帯びることができ、あたかもねこの眼のようだった。
また、彼のひとみは、茶褐色をしていて、琥珀こはくのように時折光った。眸が茶色をしていたという異相の人には、法然上人にも同じ云い伝えがある。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫はその音の高まる度に、琥珀こはく色の眼をまんまるにした。かまどさへわからない台所にも、この時だけは無気味な燐光が見えた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
琥珀こはく刺繍ぬひをした白い蝙蝠傘パラソルを、パツとはすの花を開くやうにかざして、やゝもすればおくれやうとする足をお光はせか/\と内輪うちわに引きつて行つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
根元の方にも日の光は漏れて、幹は黒々と、葉は淡きバアントシーナを塗ったように、琥珀こはく色に透明して、極めてうるわしい。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
お柳の豊かな髪が青貝をちりめた螺鈿らでんの阿片盆へ、崩れ返った。傴僂の鼻が並んだ琥珀こはく漢玉かんぎょくの隙間で、ゆるやかに呼吸をしながら拡がった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
煙草吸いが琥珀こはくと云っているものだが、これはなかなか上等な品だ。僕はそう思うんだが、ホン物の琥珀のパイプが、いくつロンドンにあるかね。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
この家は古くから瑪瑙めのう石や瑠璃るり琥珀こはくなどを玉に磨いたり、細工物にこしらえたりして京へ売り出すのを業としていた。
フランクリンの凧の逸話は人口に膾炙かいしゃしているが、一七五二年の九月の暴風雨のその一夜にいたる迄には、ギリシャ人たちが琥珀こはくの玉をこすっては
科学の常識のため (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
象牙色ぞうげいろの磁器にもられた液体琥珀こはくの中に、その道の心得ある人は、孔子こうしの心よき沈黙、老子ろうしの奇警、釈迦牟尼しゃかむにの天上の香にさえ触れることができる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
そこにはまた、すこぶる珍らしいガラスのくだと、結晶石の大きい凝塊かたまりと、小さい点のある鉄の綱と、琥珀こはくと、非常に有力な天然磁石とが発見された。
車屋の黒はそのびっこになった。彼の光沢ある毛は漸々だんだん色がめて抜けて来る。吾輩が琥珀こはくよりも美しいと評した彼の眼には眼脂めやにが一杯たまっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかして光が、玻瓈はり琥珀こはくまたは水晶を照らす時、その入來るより入終るまでの間にすこしひまもなきごとく 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
小さい築山つきやまの裾のあたりに、夏水仙の花が咲き揃っていたが、緑にまじっているがために、琥珀こはくのような色が冴えて見えた。昼のが庭に降り注いでいる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
清酒と同様に綺麗きれいに澄んでいて、清酒よりも更に濃い琥珀こはく色で、アルコール度もかなり強いように思われた。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
琥珀こはくのような顔から、サントオレアの花のような青い目がのぞいている。永遠の驚をもって自然を覗いている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
何事の起ったのかと種彦はふと心付けばわがたたずむ地の上は一面に踏砕ふみくだかれた水晶瑪瑙めのう琥珀こはく鶏血けいけつ孔雀石くじゃくせき珊瑚さんご鼈甲べっこうぎやまんびいどろなぞの破片かけらうずつくされている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
七宝は、金・銀・瑠璃るり硨磲しゃこ碼碯めのう珊瑚さんご琥珀こはくまたは、金・銀・琉璃るり頗棃はり車渠しゃこ・瑪瑙・金剛こんごうである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
高慢というのでもなく謙遜けんそんというのでもなく、きわめて自然に落ち着いてまっすぐに腰かけたまま、の長い白の琥珀こはくのパラソルの握りに手を乗せていながら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
手には元禄模様の華美はでな袋にバイオリンを入れて、水色絹に琥珀こはくの柄の付いた小形の洋傘こうもりげている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
琥珀こはくの中のはえ」などと自分で云っているが、単なるボスウェリズムでない事は明らかに認められる。
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
火をつけてから手のひらの上へ載せてやって、自分も思い出したように帯の間にある紅い琥珀こはくかますを抜き取ると、こはぜの附いたふたの下へ白い小さな手の甲を入れた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
九女八は、タバコやにの流れた筋が、あめ色に透通すきとおるようになった、琥珀こはくのパイプをすかして眺めて
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ずっと以前には長い立派なひげいかめしそうにはやした小父さんであった人がそれをり落し、涼しそうな浴衣ゆかた大胡坐おおあぐら琥珀こはくのパイプをくわえながら巻煙草をふかし燻し話す容子ようす
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その紙で出来た笠は一銭であつた。けれどもそのランプのガラスのつぼは、石油を透して琥珀こはくの塊のやうに美しかつた。或る時には、薄い紫になつて、紫水晶のことを思はせた。
女はこういって、琥珀こはく群青石ぐんじょうせきの指輪を一つずつはめた両手を餉台ちゃぶだいの上に並べて見せた。
ルブランの「奇巌城」、甲賀三郎の「琥珀こはくのパイプ」などに、これが用いられている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
硝子ガラス棚、バリカン、廻転椅子、カバーの白白白、立ち廻る理髪師の背広の、ズボンの白、掻き立てなすりつけた客の頬やあご石鹸シャボンの白、琥珀こはくの香水、剃刀かみそりの光、鋏のチャキチャキ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
乾葡萄ほしぶどう、乾桃、乾棗ほしなつめ及び薬種その他宝石類では金剛石こんごうせき瑠璃るり𤥭琥しゃこ瑪瑙めのう琥珀こはく類であるが、なかんずくその大部分を占めて居るものは珊瑚珠さんごじゅというもとどりを飾る宝石である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おとらはそう言って、博多はかた琥珀こはくの昼夜帯の間から紙入を取出すと、多分のお賽銭さいせんをお島の小さい蟇口がまぐちに入れてくれた。そこは大師から一里も手前にある、ある町の料理屋であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは古渡こわたりの無疵むきず斑紋けらのない上玉じょうだまで、これを差上げ様と存じます……お根付、へい左様で、鏡葢かゞみぶたで、へい矢張り青磁せいじか何か時代のがございます、琥珀こはくの様なもの、へえかしこまりました
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宗室そうしつくわいして、長夜ちやうやえんるにあたりては、金瓶きんべい銀榼ぎんかふ百餘ひやくよつらね、瑪瑙めなう酒盞しゆさん水晶すゐしやうはち瑠璃るりわん琥珀こはくさら、いづれもこうなる中國ちうごくいまかつてこれあらず、みな西域せいゐきよりもたらところ
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
窓近くさしでたる一枝は、枝の武骨なるに似ず、日光のさすままに緑玉、碧玉へきぎょく琥珀こはくさまざまの色に透きつかすめるその葉の間々あいあいに、肩総エポレットそのままの花ゆらゆらと枝もたわわに咲けるが
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
似たものにこいを使ってやるのはあるが、こんな美味い琥珀こはく揚げはできない。
琥珀揚げ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
雪中の熊は右のごとく他食たしよくもとめざるゆゑ、そのきも良功りやうこうある事夏の胆にくらぶれば百ばい也。我国にては、●飴胆あめい琥珀胆こはくい黒胆くろいとなへ色をもつてこれをいふ。琥珀こはくを上ひんとし、黒胆を下品とす。
と見ると、裾に銀糸で渦巻模様を刺繍した真黒な琥珀こはくの夜会服を着た若い女が、卓子の間を縫って静に歩いてきた。丁度彼女が私の傍を通過ぎた時、軽い音を立てて床に落ちたものがあった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
今日汽車の内なる彼女かれ苦悩くるしみは見るに忍びざりき、かく言いて二郎はまゆをひそめ、杯をわれにすすめぬ。泡立あわたつ杯は月の光に凝りて琥珀こはくたまのようなり。二郎もわれもすでに耳熱し気あがれり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
卷上れば天一坊はあつたけからざる容體ようだいに着座す其出立には鼠色ねずみいろ琥珀こはく小袖こそでの上に顯紋紗けんもんしや十徳じつとくを着法眼袴はふげんはかま穿はきたり後の方には黒七子くろなゝこの小袖に同じ羽織茶宇ちやうはかま穿はき紫縮緬むらさきちりめん服紗ふくさにて小脇差こわきざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして暖かそうな白い飯に琥珀こはくのような光りのある黄汁をかけたものが、私の前に運ばれた。昨夜軍艦の中では缶詰の牛肉を食った。その牛肉は素敵に美味おいしいものであった。それにパンも食った。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこには、みごとに花をつけた椿の枝が水の上におおいかぶさり、落ちた椿の花がすこし赤茶気た、しかし琥珀こはくをとかしたように澄んでいる浅い水底に沈んでいた。まだ水に浮いている花もあった。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
パチンと、宝石をちりばめた琥珀こはく煙草シガレットケースを開く。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いま琥珀こはくの杯に凝つて玉のやうだ。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)