なめ)” の例文
しかしながら色は必ずしも白色でなければならぬとは限らない、印度インドの女の皮膚の色には別なやわらかみとなめらかな光沢があって美しい
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
最初はプリプリしていた鉄も、平次の心持が解ると次第に打ち解けて、晩酌ばんしゃくを付合いながら、なめらかに話すようになっていたのです。
俊亮も、ビールのせいか、口がいつもよりなめらかだった。彼はわかいころの政治運動の失敗談などをもち出して、みんなを笑わせた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
白い襦袢じゅばんに白い腰巻をして、冬大根のようになめらかな白いすねを半分ほど出してまめまめしく、しかしちんまりと静かに働いていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてその魅力をさらに大ならしむるものは、きよあたたかいなめらかな声の惑わしだった。一語一語が美しい和音のように響いていた。
洋傘直しは引き出しからあわを出し一寸ちょっと水をかけ黒いなめらかな石でしずかにりはじめます。それからパチッと石をとります。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かくばかりなめらかに通されて、温かいお言葉に接することは、神尾の身にとって、近ごろ絶えて無いこと、よろこばしう存ずる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手桶てをけつめたいみづさらした蕎麥そば杉箸すぎはしのやうにふといのに、黄蜀葵ねり特色とくしよくこはさとなめらかさとでわんからをどさうるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
月光げつくわうそのなめらかなる葉のおもに落ちて、葉はながら碧玉へきぎよくあふぎれるが、其上そのうへにまた黒き斑点はんてんありてちら/\おどれり。李樹すもゝの影のうつれるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
私はふと何故なぜだか分らずにそのなめらかそうな柵をいじくろうとして手をさしべたが、それにはちょっとれただけであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そうなれば、自分一個人だけではなく、我々の住んでいる社会全体がいかにもなめらかにとどこおりなく愉快なものとなるであろう。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、けやきで囲んだ大きな家屋、裏から続いたなめらかないそあおい海、なじみの漁夫の顔……。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
橋から見える限りのあたりの水面は、油のようなべっとりした感じの黒光りを放った、いっこうに皺のないなめらかさであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
怜悧りこうなお延は弱らせられた。会話がなめらかにすべって行けば行くほど、一種の物足りなさが彼女の胸の中に頭をもたげて来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが風にらぐと、反射でなめらかながけの赤土の表面が金屏風きんびょうぶのようにひらめく。五六じょうも高い崖の傾斜けいしゃのところどころに霧島きりしまつつじがいている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
金色の髪がふさふさと肩に垂れ、海のように青い眼をし、薔薇ばら色のほほをして、肌は大理石のようになめらかでまっ白でした。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
玉は乱れ落ちてにわかに繁き琴の手は、再び流れて清くなめらかなる声は次いで起れり。客はまたもそなたを見上げぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「聽き手の熱心さは話し手の舌をなめらかにするものです。」と私はジプシイにと云ふよりは寧ろ自分に向つて云つた。
それは僕の油断を見すまし、その河童が僕の万年筆を盗んだことに気がついたからです。しかし皮膚のなめらかな河童は容易に我々にはつかまりません。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこをいざり尽すと、私たちは崩れの上に直立している、なめらかな花崗岩の面を伝わらなければならなくなった。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
これ程の大事件を依然として馬鹿にし切って、もてあそんでいるような、なめらかな、若々しい声で言葉を続けた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
半分ほどあらわに出したなめらかな光沢のある二つの肩には、瑪瑙めのうと大きい真珠の首飾りが首すじの色と同じ美しさで光っていて、それが胸の方に垂れていました。
なめらかに湯を浴び桜色に色づいたももの線は流し場に群れた人のに区切られて見えなかった。女は浴び終ると、くるりと、脊中を向けて上り口に大股に踏み出した。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
そして自分の方が金を借りでもしたかのように、男には珍らしいなめらかな頬の皮膚をやや紅くした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なまりおもりかとおもふ心持こゝろもちなにでゞもあるからんと、二三ふつたが附着くツついてそのまゝにはれないから、何心なにごゝろなくをやつてつかむと、なめらかにひやりとた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取りだしたのは藁苞わらづとである、グイとしごいて、苞からむきだされたのは、蝋色鞘ろいろざやなめらかな大小。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白いなめらかな、朝霧を含んだ絹のような、はり切った皮膚を見る度に、彼は頬を摺りつけ、舐めてみたり、或は、そっと噛んでみたいような、激しい憧れを感ずるのです。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
三日月みかづきあわひかりあお波紋はもんおおきくげて、白珊瑚しろさんごおもわせるはだに、くようにえてゆくなめらかさが、秋草あきぐさうえにまでさかったその刹那せつな、ふと立上たちあがったおせんは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お吉の言ふ所では、迎への人が今朝着いたといふ事で、昨日上げた許りなのに誠に申譯がないけれど、これから直ぐお定を歸してやつて呉れと、言葉なめらかに願つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
船檝ふねかじを具え飾り、さなかずらという蔓草の根を臼でついて、その汁のなめを取り、その船の中の竹簀すのこに塗つて、蹈めばすべつて仆れるように作り、御子はみずから布の衣裝を著て
いよいよ不可思議な大和めぐりだと自らあきれる、しかしこの狸の舌はなかなかに愛嬌あいきょうなめらかだ。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
私たちは受け取ることの徳を得ないならば偉い人間とはいえない。人間と人間との接触のなめらかにゆかないのは一つは近代人が受け取ることの徳を持っていないからである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あの男は町人の伜だったが、なめした皮のようになめらかだったよ。あの男は若いご家人だったが、足の力が強かったよ。あの男は下等な船夫かこだったが、胸が広くて厚かったよ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえば、帯は緞子どんすの帯ならば、そのなめらかな地質がその物の如く現われ、また緋鹿ひがの帯上げならば、鹿の子に絞り染めた技巧がよく会得されるように精巧に試みました。
マリーナは、合点合点をし、ダーリヤのなめらかな血色のよい頬を情をこめて撫でたたいた。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
非常に素早いなめらかさですては起ち上って口元に手をり、手にべたつく一杯の血を草の間にぺっとりと吐きつけた、そしてなおぬたつく口元に手をやって、いそいで谷間に下りると
丘はいつもとは違つて見える——丘の雑木林の上には烏が群れて居た。うすれ日を上から浴びて、丘の横腹は、その凸凹がぎ出されたやうな丸味を見せて、なめらかに緑金に光つて居る。
すると妻が彼の肩を軽くたたいてくれた。それから、ふと思いがけぬところに、バスの乗場があり、バスはなめらかに山霧のなかを走った。——それはまだ昨日の出来事のようにあざやかであった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
このとき、ちかくの水草みずくさしげみから三うつくしい白鳥はくちょうが、はねをそよがせながら、なめらかなみずうえかるおよいであらわれてたのでした。子家鴨こあひるはいつかのあの可愛かわらしいとりおもしました。
追っつけ三子の来そうなもの、と魚屋の名をひとごとしつ、猪口を返してしゃくせし後、上々吉と腹に思えば動かす舌もなめらかに、それはそうと今日の首尾は、大丈夫此方こちのものとはめていても
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朝になって羅は起きようとしたが、よるに女がこしらえてくれた着物は芭蕉のような葉であるから、とても着られないだろうと思いながら手にとって見ると、緑の錦のひどくなめらかなものであった。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
が、江戸ッ子のチャキチャキたる紅葉は泰然と澄ました顔をして、三人して食堂の卓を囲んだ。隣の卓では若い岡倉天心おかくらてんしんが外国人と相対さしむかいに肉刺フォークを動かしつつ巧みな英語をなめらかにあやつッていた。
百日紅さるすべりなめ木肌こはだのこぼれ日は花咲き足らひいとどしき搖れ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
何の苦も無くおのづから、なめらかにこそ動くなれ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
質、兩替の番頭といふよりは、歌舞伎役者にありさうな、柔かいなめらかさ、十九娘のお君が夢中になつてゐたのも無理のないことです。
その声はあおぞらのなめらかな石までひびいて行きましたが又それが波になってもどって来たとき木霊はドキッとしていきなりかたく胸をおさえました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
別段食いたくはないが、あの肌合はだあいなめらかに、緻密ちみつに、しかも半透明はんとうめいに光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は父には渋面を向けても、手触りのなめらかな葉子には諧謔かいぎゃくまじりに好意ある言葉を投げかけないわけに行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私の大好きな場處は、小川のちやうど中程に白々とかわいて現はれてゐる、なめらかな大きな石の上で、其處へは水の中を跣足はだしわたつて行くより外はなかつた。
しかし、呆れてしまった久助も、お雪も、この後家さんにめんと向えば、そのお世辞に魅せられてなめらかに話が合って、いい気持になるのが不思議なくらいです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)