弟子でし)” の例文
先生と弟子でしとの間にある共通な点があらば、それは単に精神的のものでもこれが肉体の上に多少の影響を及ぼさないとは言われない。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とねんをおして、四にん弟子でしっていきました。かしらも、もうじっとしておれなくて、仔牛こうしをひきながら、さがしにいきました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
これで勝負しょうぶはつきました。芦屋あしや道満どうまんくらいげられて、御殿ごてんからされました。そして阿倍あべ晴明せいめいのお弟子でしになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
西洋にあっては弟子でしたちは先ず年期奉公というものをやらされ、その間においては一向に絵らしいものを描かしてもらう事は出来ない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
きのう、なんのかのとおいらに末寺の兄弟弟子でしのあの美男上人の讒訴ざんそをしたのも、今になって思い直してみりゃ気に食わねえんだ。
と両手をり合わせて絶望的な歎息たんそくをしているのであった。弟子でしたちに批難されては月夜に出て御堂みどう行道ぎょうどうをするが池に落ちてしまう。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
勿論もちろん留守るすねらつておよしたのであつたが——そろつて紫星堂しせいだうじゆく)をたといて、その時々とき/″\弟子でし懷中くわいちう見透みとほしによくわかる。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
篤胤ののこした仕事はおもに八人のすぐれた弟子でしに伝えられ、その中でも特に選ばれた養嗣ようしとして平田家を継いだのが当主鉄胤かねたねであった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(唯円、筆を水につけてくちびるをうるおす。弟子でしたちそれにならう)裁く心と誓う心は悪魔から出るのじゃ……人のしもべになれ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また先頃までは、小幡勘兵衛おばたかんべえの軍学所の生徒でもあったから、そこの教頭だった新蔵からすれば軍学のおとうと弟子でしにあたる者達である。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう言う大慈悲心を動かした如来はたちまち平生の神通力じんつうりきにより、この年をとった除糞人じょふんにんをも弟子でしかずに加えようと決心した。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あのヨハネ伝の弟子でしの足を洗ってやる仕草を真似まねしていやがる、げえっ、というような誤解を招くおそれなしとしないので一言弁明するが
美男子と煙草 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おまえには歩くことよりもものを言うことよりももっとしないでいられないことがあった。よくそれがわかった。それでこそ私の弟子でしなのだ。
瑞仙は痘をすることの難きを説いて、「数百之弟子でし無能熟得之者よくじゅくとくせるものなし」といい、晋を賞して、「而汝能継我業しこうしてなんじよくわがぎょうをつぐ」といっている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
名人めいじんとか上手じょうずとか評判ひょうばんされているだけに、坊主ぼうずぶ十七八の弟子でしほかは、ねこぴきもいない、たった二人ふたりくらしであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大きなからだをこまねずみのようにキリキリ舞いさせて、不知火しらぬい弟子でしどものいる広間のほうへと、スッとんでいったが……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三ばんめの弟は、ろくろ細工師ざいくしのところへ弟子でし入りしました。これは手のいりこんだしごとですから、ならうのにいちばん長くかかりました。
弟子でしたちの中には幾人も、脚本をさし出して彼の称賛を得ようとした者があったが、その中で彼がおもしろいと思ったのはただ一つであった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
眞淵まぶち弟子でし本居宣長もとをりのりなが、その弟子でし夏目甕麿なつめかめまろ、このひとで、紀州きしゆう醫者いしやいへ養子ようしとなつた加納諸平かのうもろひらといふひとがあります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
世間で得意を極める人も、高き標準からはかったならば、最もいやしむべきものとなりはせぬか。耶蘇やそがその弟子でしに説いた言葉に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
当時四十二さいでありましたが、ジェンナーの温順な性質がすっかり気にいって、弟子でしというよりもむしろ友達ともだちあつかいにしてかわいがりました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
だがしかし、生を諦め、死をあきらめることは、ひとり仏弟子でしのみにかぎらんや、です。それは、万人の必ず心すべきことではないでしょうか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
其上そのうへものになりさうだツたら何卒どうか怠惰屋なまけや弟子でしといふことにねがひたいものです。さうなるとわたしはうでも出來できるだけのおれいは致します積りで……
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「おじちゃんのこと好きだしさ」と伊三は続けた、「できるなら弟子でしにしてもらってさ、半人なみでもいいから職人になりてえって思ったんだよ」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、芭蕉が弟子でしを送る心を陳べると同時に東海道の風物ふうぶつを思い浮べたのである。そうすると乙州は自分の身を振返って
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
申し込んでは往々断わられるのは、いかにもつらいことではあった。彼の評判は地に落ちていた。数人の弟子でしを見つけるにもたいへん骨が折れた。
わたしはただ広告こうこくをさえすればしいだけの弟子でしは集まるのだ。そこでそのあいだにゼルビノとドルスの代わりになる犬を二ひきしこもうと思う。
「どうせ、おめえやうに紺屋こんや弟子でしてえな手足てあし牛蒡ごばうでもかついであるくのにや丁度ちやうどよかんべ」復讎ふくしうでも仕得しえたやうな容子ようすぢいさんはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その人は師匠の弟弟子でし杉山半次郎すぎやまはんじろうという人、鳳雲ほううんの家にて定規通り勤め上げはしたけれども、わざがいささか鈍いため、一戸を構える所まで行かず
で、その夜つくづくと考えますに尊者に対してチベットのラサへ進入の道は山道を取るといって置いたがこの山道には尊者の弟子でしが多いから危ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
同じ中坂だから「まどき」の弟分おととぶん弟子でしじゃなかろうかといううわさもあって、「まどき」の名が盛んなるにれて思案外史の名もまた段々と聞えて来た。
奈落の暗闇くらやみで、男に抱きつかれたといったら、も一度此処ここでも、きもを冷されるほどしかられるにきまっているから、弟子でし娘は乳房ちぶさかかえて、息を殺している。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
少し理由わけがあつて旅をするとふと、弟子でしなにかが一しよきたがるが、弟子でしでは少し都合つがふの悪いことがある。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
する習慣があるのでござりましてずいぶんそのためには大袈裟おおげさな費用をかけるものなので金のあるお弟子でしには師匠がそれをやらせたがるのでござりますが
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
父は弟子でしたちに手伝わせて、細工場の方にたなのようなものを作っていた。それはもう半ば出来かかっていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
だからかれは、いつからともなく、ほかの弟子でしたちをいて、仕事しごとうえでは、主人しゅじんわりをしていました。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人ふたりは一所に図書館を出た。其時与次郎が話した。——野々宮君は自分の寄寓してゐる広田先生の、もと弟子でしでよくる。大変な学問好きで、研究も大分ある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『たづ園』は広島県沼隈ぬまくま草戸くさど村の小林重道という人が出していられました。井上通泰いのうえみちやす氏のお弟子でしで、井上氏が岡山へ赴任せられた頃からの熟知なのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「とても地獄じごく一定いちじょうすみかぞかし」とか、「親鸞は弟子でし一人も持たずさふらふ」とか、「父母の孝養こうようのためとて、念仏一返にても申したることいまださふらはず」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
との一心と云其上拍子ひやうしの間もよくことに古今の音なれば太夫も始めは戲談じようだんの樣に教へしが今は乘氣のりきが來て此奴こやつは物に成さうだと心を入て教へける故天晴舊來ふるき弟子でし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母親のもとへとお歳暮せいぼのしるしにお弟子でしが持つて来る砂糖袋さたうぶくろ鰹節かつぶしなぞがそろ/\とこならび出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
クレーマンは先年故人になったが、その晩年は音楽院の声楽主任であるほか、私塾を開いて弟子でしを取り、世界の声楽研究生のメッカの観を呈したと言われている。
才気があり、またかなり学問もあって、エピクロスの弟子でしであると自ら思っていたが、おそらくビゴール・ルブランの描いた人物くらいのものに過ぎなかったろう。
しかし、君、解ったら、そうしたら好いじゃありませんか、僕は君等の将来を思って言うのです。芳子は僕の弟子でしです。僕の責任として、芳子に廃学させるには忍びん。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
サンフラスシスコの郊外こうがいにささやかな道場を開いて、アメリカ人に日本の柔道じゅうどうを教えていたのは、富田常次郎とみたつねじろうだんであった。講道館長こうどうかんちょう嘉納かのうろう先生の最初の弟子でしだ。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
そんなものは、弟子でしたちにやらせます。わたしは本職の人形師です。子供の時分に、安本亀八に弟子入りしたこともある。日本式の生人形いきにんぎょうですよ。きりの木に彫るのです。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その先生は凧屋たこやに凧をらせて、自分でそれに絵をかいてやるのをたのしみにしている人でした。だから、おやじさんのいうことをすぐに聞いて、自分の弟子でしにしました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
後進または弟子でしであってまた対抗者なるミケランジェロやラファエルなどに圧倒されてしまった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
涙にくれて相擁あいようしながらも、再び弟子でしがかかるたくらみを抱くようなことがあってははなはだ危いと思った飛衛は、紀昌に新たな目標をあたえてその気を転ずるにしくはないと考えた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あんまの師匠ししょうは、そういう弟子でしをとりたがらないのだが、マスノの骨折りで、彼のばあいは首尾しゅびよく住みこめたという。その磯吉に、マスノはまるで弟あつかいの口をきき
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)