可恐おそろ)” の例文
女房かみさんは、よわつちやつた。可恐おそろしくおもいんです。が、たれないといふのはくやしいてんで、それにされるやうにして、またひよろ/\。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昨日一人の叔父が電話で出て来いというから、僕が店から帰りがけに寄ったサ。すると、例の一件ネ、あの話が出て、可恐おそろしい御目玉を
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余りの可恐おそろしさに直行は吾を忘れてその顔をはたとち、ひるむところを得たりととざせば、外より割るるばかりに戸を叩きて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其晩そのばん湿しめやかな春雨はるさめつてゐた。近所隣きんじよとなりひつそとして、れるほそ雨滴あまだれおとばかりがメロヂカルにきこえる。が、部屋へやには可恐おそろしいかげひそんでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
可恐おそろしい崖崩れがそのままになっていて、自動車が大揺れにあおった処で。……またそれがために様子を聞きたくもなったのでした。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は勝手元の焚火たきびに凍えた両手をかざしたく成った。足袋たび穿いた爪先も寒くしみて、いかにも可恐おそろしい冬の近よって来ることを感じた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
既に恨み、既にいかりし満枝のまなこは、ここに到りて始て泣きぬ。いと有るまじく思掛けざりし貫一はむし可恐おそろしとおもへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
可恐おそろしい惨忍ざんにん思着おもいつきが潜んでいるのではないかと、ふと幼心に感づいて、おびえた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……と言ふとたちまち、天に可恐おそろしき入道雲にゅうどうぐもき、地に水論すいろん修羅しゅらちまたの流れたやうに聞えるけれど、決して、そんな、物騒ぶっそう沙汰さたではない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一夜の出来事は、それに遭遇であった人々に取って忘られなかった。折角上京したお種も、お仙を連れての町あるきは可恐おそろしく思われて来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鉄をつんざき、いはほを砕くのためし、ましてや家をめつし、人をみなごろしにすなど、ちりを吹くよりもやすかるべきに、可恐おそろしや事無くてあれかしと、お峯はひと謂知いひしらず心をいたむるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此手紙以外このてがみいぐわいに、をんなにくには、如何どん秘密ひみつあとつけられてあるか、それは一さいわからぬ。こゝろおくに、如何どんこひふうめてあるか、それもとよりわからぬ。わたし想像さうぞう可恐おそろしくするどくなつてた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
うはさらなかつた隧道トンネルこれだとすると、おとひゞいた笹子さゝご可恐おそろしい。一層いつそ中仙道なかせんだう中央線ちうあうせんで、名古屋なごや大𢌞おほまはりをしようかとおもつたくらゐ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
達雄が残して行った部屋——着物——寝床——お種の想像に上るものは、そういう可恐おそろしいような、可懐なつかしいようなものばかりで有った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島は年取った人達のすることや言うことが、可恐おそろしいような気がしていたが、作の物をむさぼり食っている様子が神経に触れて来ると、胸がむかむかして、体中がふるえるようであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小宮山は思わず退すさった、女はその我にもあらぬ小宮山の天窓あたまから足の爪先つまさきまで、じろりと見て、片頬笑かたほわらいをしたから可恐おそろしいや。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「三吉——もう俺も親類廻りは済ましたし、是頃こないだの晩のようなことが有ると可恐おそろしいで、サッサと郷里くにの方へ帰るわい」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
病院通いをするようになってから、可恐おそろしいものに触れるような気がして、絶えて良人おっとの側へ寄らなかった彼女は、その時も二人の肉体に同じような失望を感じながら、そこを離れたのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
迂濶うっかり知らないなぞと言おうものなら、使い方を見せようと、この可恐おそろしい魔法の道具を振廻されては大変と、小宮山は逸早すばや
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一目に子供の運命が見られるような気がして、可恐おそろしくて、戸が押せなかった。思い切って開けて見ると、お房はすこし沈着おちついてスヤスヤ眠っている。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……と言うとたちまち、天に可恐おそろしき入道雲き、地に水論の修羅のちまたの流れたように聞えるけれど、決して、そんな、物騒な沙汰さたではない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実際、それが事実であったから仕方ない。何物にも換えられなかった楽しい結婚のしとね、そこから老い行く生命いのちむような可恐おそろしい虫が這出はいだそうとは……
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「一ツ分けてやりましょうかね。団子が欲しいのかも知れん、それだと思いが可恐おそろしい。ほんとうに石にでもなると大変。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、十一時頃に朝飯と昼飯とを一緒に済ました。彼は可恐おそろしい夢から覚めたように、家の内を眺め廻した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はまなべ、あをやぎの時節じせつでなし、鰌汁どぢやうじる可恐おそろしい、せい/″\門前もんぜんあたりの蕎麥屋そばやか、境内けいだい團子屋だんごやで、雜煮ざふにのぬきでびんごと正宗まさむねかんであらう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もし彼が二十年若かったら、これ程の精神こころの激動を耐える力はなかったろうとも想って見た。しまいには、彼は自分で自分の情熱を可恐おそろしく思うように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「時につかぬ事をお伺い申しまして、恐れ入りますが、貴方は方々御旅行をなさいまして、可恐おそろしい目にお逢い遊ばした事はございませんか。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
モメて仕様が無い。ホラ、あの話ねえ——段々うらなってみると、盗人が出て来ましたぜ。可恐おそろしいもんだねえ
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あれさ妄念もうねん可恐おそろしい、化けて出るからお止しよといえば、だから坊はね、おいらのせいじゃあないぞッて、そう言わあ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しまいには自分のからだまでその中へ巻込まれて行くような、可恐おそろしい焦々いらいらした震え声と力とを出して形容した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その時分、増上寺の坊さんは可恐おそろしく金を使ったそうでね、怪しからないのは居周囲いまわりの堅気の女房で、内々囲われていたのさえ有ると言うのさ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海は深くて、その男の死骸しがいは揚らなかったとか。この話を聞いた時は、山本さんは他事ひとごととも思えなかった。可恐おそろしく成って、お新を連れて、国府津行の汽船の方へと急いだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鯉七 そこだの、姫様ひいさまが座をお移し遊ばすと、それ、たちどころに可恐おそろしい大津波が起って、この村里は、人も、馬も、水の底へ沈んでしまう……
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
復た馬車は暗黒やみの中を衝いて進みましたが、それが夜道へ響けて可恐おそろしい音をさせました。
可恐おそろしい早さだ、放すな!」と滝太郎はせなかをお雪に差向ける。途端にすさまじい音がして、わっという声が沈んで聞える。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の知らないやうなことを一番多く私にぎ込んで呉れたのは、一番私の嫌ひな下婢だつた。ある晩、私は女に呼び起されて、黙つて寝た振をしながら独りで可恐おそろしく震へて居たことも有つた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つきかげかげともしびかげゆきはな朧々おぼろ/\のあかりにも、かげのないひまはなし……かげあれば不氣味ぶきみさ、可厭いやさ、可恐おそろしさ、可忌いまはしさに堪兼たへかねる。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ここの桑畠くわばたけ三度みたびや四度もあの霜が来て見給え、桑の葉はたちまち縮み上って焼け焦げたように成る、畠の土はボロボロにただれてしまう……見ても可恐おそろしい。猛烈な冬の威力を示すものは、あの霜だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美女 (声細く、されども判然)はい、……覚悟しては来ましたけれど、余りと言えば、可恐おそろしゅうございますもの。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いま外へ出れば、枝を探り、水を慕って、きっと自殺をするに違いない。……それが可恐おそろしい。由紀はまだ死にたくない未練があると思ったそうです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はあ、これなればこそけれ、聞くも可恐おそろしげな煙硝庫えんしょうぐらが、カラカラとしてはしゃいで、日が当っては大事じゃ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まい……二まい、と兩方りやうはうで、ペエジをやツつ、とツつして、眠氣ねむけざましにこゑしてんでたが、けて、可恐おそろしく陰氣いんきとざされると、ひくこゑさへ
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて、これは決闘状はたしじょうより可恐おそろしい。……もちろん、村でも不義もののつらへ、つばと石とを、人間の道のためとか申して騒ぐかたが多い真中まんなかでございますから。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何しろ素晴しいもんじゃあねえか、可恐おそろしい。幾らだとか言ったっけな、んんどうだろう、うむ、豪儀な。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からみ合って、空へ立つ、と火尖ひさきが伸びる……こうなると可恐おそろしい、長い髪の毛の真赤まっかなのを見るようですぜ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御機嫌麗わしからずじゃあないか。顔色が可恐おそろしく悪いぜ、花札ふだが走ったと見える、御馳走ごちそうはお流れか、」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かは可恐おそろしさに氣落きおちがして、ほとんこしたないをとこを、女房にようばういて、とほくもない、ゑんじゆ森々しん/\つた、青煉瓦あをれんぐわで、藁葺屋根わらぶきやねの、めう住居すまひともなつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
学円 今朝から難行苦行なんぎょうくぎょうていで、暑さに八九里悩みましたが——可恐おそろしい事には、水らしい水というのを、ここに来てはじめて見ました。これは清水と見えます。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ路傍みちばたくさいきれが可恐おそろしい、大鳥おほとりたまごたやうなものなんぞ足許あしもとにごろ/″\してしげ塩梅あんばい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはともかく、あの悪智慧のほどが可恐おそろしい、行末が思い遣られると、見るもの聞くもの舌を巻いた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)