あぶな)” の例文
いつまでそこの藝者屋にもゐられないし、それにもう塔の澤は一體にあぶなくなつたから、今度は湯本ゆもと福住ふくずみへ逃げるんだつて言ふのよ。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
で、どこまで一所になるか、……稀有けうな、妙な事がはじまりそうで、あぶなっかしいうちにも、内々少からぬ期待を持たせられたのである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやういふところやまひは多くあるものだからな、これから一つ打診器だしんき肺部はいぶたゝいて見てやらう。登「いやそれうもあぶなうございます。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうもあぶないので、おもふやうにうごかせませなんだが、それでもだいぶきずきましたやうで、かゞみませんが、浸染にじんでりますか。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まったく、ばかなたぬきです。汽車にばけるなんて、よくそんなあぶなっかしいことができたものです。むてっぽうにもほどがありますよ。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かない⁉ それはつよい! けれどいまあぶないからいけません、追付おつつ成長おほきくなつたら、大佐たいさ叔父おぢさんもよろこんでれてつてくださるでせう。
いまにもクマにわれそうになりながら、そのクマが人間にねらわれていることを教えてやって、あぶないところをすくってやったり
思ひ違ひ、言ひ違ひ、曖昧な返答、下手へたな口籠り、云ひ方一つで善くもわるくも取れるやうなことは、余程注意しないとあぶないぞ。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
母 あぶないとこへいくんじゃないよ。花火やよっぱらいのそばにいっちゃ、いけませんよ。そして、暗くならないうちに帰ってくるんですよ。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
お見舞いくださいました本人は、今日もあぶないようでございまして、ただ今から皆で山の寺へ移ってまいるところでございます。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
油断をすると此方こっちの方があぶないぞ、馬鹿なやつだあれを知らぬかなどゝ、い加減に饒舌しゃべれば、書生の素人しろうとへた囲碁で、助言じょげんもとより勝手次第で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
でもな、眞實ほんたう小額こびたひところ雛鷄ひよっこのお睾丸程きんたまほどおほきな腫瘤こぶ出來できましたぞや、あぶないことよの、それできつ啼入なきいらッしゃった。
うさ、往来の真中で吸殻あ手の平やあ載けて悠々閑々と煙草を喫んでいるだあもの。気をつけなせやあよ、あぶなやあに」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こんな日の続いて行く中で、座敷牢にいる人が火いじりのあぶなさを考えると、炬燵こたつ一つ入れてやって凍えたからだをあたためさせるすべもないとしたら。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、この官選弁護士ってのが、そう云っちゃアなんですが、ひどく事務的でしてね、どうも、洗濯屋の立場があぶなっかしくなって来たんです。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
あぶない場合に平衡を立て直して船を新たに躍進せしむるかいの一撃であるところの、不断の反動的な感情——それによって、クリストフの心の中には
「おいおいあぶない!」腕に青いきれをつけた巡査がそう言って、留吉を電車線路から押しだして、みちよりもすこし小高くなった敷石の上へ連れていって
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「まあそうやって、後生大事に働いてるがいや。私もあぶなだまされるところだったよ。養母おっかさんたちは人がわるいからね」お島も棄白すてぜりふでそこを出た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼も大小の岩を飛び越えねばならなかった、山蔦やまづたすがってあぶない綱渡りをせねばならなかった。洋服扮装でたちの彼は、草鞋わらじ穿いて来なかったのを悔いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小使のじじいは二人の前に、あぶなっかしい手附きで茶をいで出すと、何遍もお辞儀しいしい禿頭を光らせて出て行った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ステッキ一本の余は、降ったり止んだりするあぶなげな空を眺め〻〻行く。田無街道を突切って、荻窪停車場に来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
銃と背嚢はいのうとを二人から受け取ったが、それを背負うとあぶなく倒れそうになった。眼がぐらぐらする。胸がむかつく。脚がけだるい。頭脳ははげしく旋回する。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
みちはおじいさんがきにたつ案内あんないしてくださるので、すこしも心配しんぱいなことはありませぬが、それでもところどころあぶなつかしい難所なんしょだとおもったこともございました。
私などもまだ播州ばんしゅうにいたころ、大きな西洋釘せいようくぎに紙のふさを附けたものを、地面に打付うちつけているのを見たことがあるが、あぶないといって持つことを許されなかった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そしてこれが恐るべき空魔艦の一味に盗み聞かれるとは知らず、大佐はだんだんと重大な話を隠されたマイクロフォンの前に始めようとする。あああぶない危い。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いぢることがあぶないので與吉よきちひとりでかまどをつけることはきんぜられてる。はひなかれたばかりで與吉よきち
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かうした仕事を彼等は Camouflage と呼んでゐるが、暢気のんきなやうで実はなか/\あぶなつかしい。
でも感情に溺れはしません。またこの即答の針でもつてあなたをもあぶな瀬戸際せとぎはから守つて差上げるのです。
ラヴィニアったら、私が裾を泥んこにしているって、嗤うのよ。私、思わずかっとして、あぶなく何かやり返してやるところだったけど——でも、やっと我慢したの。
あぶなぃがった。危ぃがった。むこうさりだらそれっ切りだったぞ。さあ達二たつじ団子だんごべろ。ふん。まるっきり馬こみだぃに食ってる。さあさあ、こいづも食べろ。」
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あぶない」と車掌が飛んできて、後から引きおろした。叔母は泣いていた。母も祖父も、それとは別に遠ざかってゆく叔父の振る帽子に合図して、夢中に手拭てぬぐいを振っていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
あぶなくわしの霊魂を地獄に堕す所だつたが、幸にも神の恵と、わしを加護してくれた聖徒の扶けとによつて、遂にわしは、わしに附いてゐた悪魔の手から免れる事が出来た。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
もしもお上人様までが塔あぶないぞ十兵衛呼べと云わるるようにならば、十兵衛一期の大事、死ぬか生きるかの瀬門せとに乗っかかる時、天命を覚悟して駈けつけましょうなれど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それには、さすがの天皇もこわくおなりになって、おそばに立っていたはんのきへ、大急ぎでおげのぼりになり、それでもって、やっとあぶないところをお助かりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「おい、ちやああぶないぞ‥‥」と、わたし度毎たびごとにハラハラしてかれ脊中せなかたたけた。が、瞬間しゆんかんにひよいといて足元あしもとかためるだけで、またぐにひよろつきすのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そして幾箇いくつの橋を渡ツて幾度道を回ツたか知らぬが、ふいに、石か何かにつまづいて、よろ/\として、あぶなころびさうになるのを、辛而やつと踏止ふみとまツたが、それですツかりが覺めて了ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「おお、すんでのところ。ちつぽけでも、たつた一つきやねえ生命いのちだ。あぶない。あぶない」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「やあこりゃ、自分のことも少し気をつけないとあぶないぞ。」とボートルレは呟いた。
第一こう云う大雪のに、庭先へ誰か坊主ぼうずが来ている、——それが不思議ではありませんか? わたしはしばらく思案したのち、たといあぶない芸当にしても、とにかくもう一度茶室の外へ
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ままよと度胸をめたが、かく一人ではあぶない。私は私立探偵を頼む事にした。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
楽屋口へ這入ると「今日終演後ヴァラエテー第二景第三景練習にかかります。」だの、何だのと、さまざまな掲示の貼出はりだしてある板壁に沿い、すぐに塵芥ごみだらけなあぶなッかしい階段が突立っている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同時に、僕は風船の繩梯子を弾丸で撃ち切り、折枝を墜落させました。僕は射撃の名人だけれど、まさか初めから繩梯子を狙った訳じゃない。あれはまぐれ当りですよ。オットどっこい。あぶない危い
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひまは十分にある。彼女は歩をゆるめる。そばへ寄れるだけ寄る。姉のエルネスチイヌは、これ以上近寄ると、棒がはね返って来た時にあぶないと思い、行動の中心地帯を境として、その線上に立ち止まる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
子供のあぶない生命を、全身で縋りついてでも、取り止めようとするような此の母親の姿を見ると、雄吉は悲哀と敬虔と尊敬とが、交って居るような心持で、いた/\しく見詰めずには居られなかった。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あヽ云ふ若い美くしい和上わじやうさんのられたのはあぶないもんだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
あぶない。」とおりかはいって幸子を受けた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あつ! あぶない! お父さん
時にあふぎのあぶなかりけり
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あぶない出ろ。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
離すと、いことに、あたり近所の、我朝わがちょう姉様あねさま仰向あおむけ抱込だきこんで、ひっくりかへりさうであぶないから、不気味らしくも手からは落さず……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)