光景ありさま)” の例文
にん一人ひとりずつその屋台やたいまえって、ちいさなあなをのぞいてみました。すると、それには不思議ふしぎな、ものすごい光景ありさまうごいてました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これまで私が君に話したことで、君は浅間山脈と蓼科たでしな山脈との間に展開する大きな深い谷の光景ありさまほぼ想像することが出来たろうと思う。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしはそのとき、きっとこのひとはこのおとこにかかってんだのであろうとおもいましたが、かくこんな苛責かしゃく光景ありさまるにつけても
此物語に引き入れらるゝおそれなく、詩趣ゆたかなる四圍あたり光景ありさまは、十分に我心胸に徹して、平生の苦辛はこれによりて全く排せられをはんぬ。
胡麻塩羅紗ごましほらしやの地厚なる二重外套にじゆうまわしまとへる魁肥かいひの老紳士は悠然ゆうぜんとして入来いりきたりしが、内の光景ありさまを見るとひとしく胸悪き色はつとそのおもてでぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家から家へ火が移つて、村一面に焔の海となつて、見覺えのある村の者共が顏や手足を燒け焦がして泣き叫んでゐる光景ありさまを彼れは夢みた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
かゝる光景ありさまは雪にまれなるだん国の風雅人ふうがじんに見せたくぞおもはるゝ。およそちゞみをさらすには種々しゆ/″\所為しわざあれども、こゝには其大略たいりやくをしるすのみ。
先方むこうでも声に応じて駈けて来た。が、惨憺たる此場このば光景ありさまを見て、いずれも霎時しばらく呆気あっけに取られた。巡査は剣鞘けんざやを握って進み出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
車の窓に身をもだえて、すみれ色のハンケチを投げしその時の光景ありさまは、歴々と眼前に浮かびつ。武男は目を上げぬ。前にはただ墓標あり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼は、成人おとなと成人が利慾の上から夫々唯物的な主張を持つて、反目のまゝ、対坐する光景ありさまは想つても冷汗が流れるのであつた。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さるほどに、やままたやまのぼればみねます/\かさなり、いたゞき愈々いよ/\そびえて、見渡みわたせば、見渡みわたせば、此處こゝばかりもとを、ゆきふうずる光景ありさまかな。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
萌黄の帷子かたびら。水色の透綾すきや。境内は雜然としてかんてらの燈火あかり四邊あたり一面の光景ありさまを花やかに、闇の地に浮模樣を染め出した。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
けれど時には夫の留守などに窓側へよりかかって、自分が一生に一番美しかったあの夜の光景ありさまを思い浮かべて果敢ない追憶に耽けることもある。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
しかもなお、彼等は首を引込めようとはしなかった。おそらく眼の前の光景ありさまが彼等の総身を麻痺させてしまったのだろう。
わたくし此時このときまでほとんど喪心そうしん有樣ありさまで、甲板かんぱん一端いつたん屹立つゝたつたまゝこの慘憺さんたんたる光景ありさままなこそゝいでつたが、ハツと心付こゝろついたよ。
數「うん岩越、ひょろ/\歩くと危いぞ池へおっこちるといかん、あゝ妙だ、家根やね惣体そうたい葺屋ふきやだな、とんと在体ざいてい光景ありさまだの」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
殺人者が目の前にいるとも知らず血みどろになって狂い廻る断末魔だんまつま光景ありさま、最初の間、それらが、どんなにまあ私を有頂天にして呉れたことでしょう。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暗き穴より飛び来たりし一矢深くかれが心を貫けるを知るものなし、まして暗き穴に潜める貴嬢きみが白き手をや、一座の光景ありさまわが目にはげに不思議なりき。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
トいう光景ありさまで、母親も叔父夫婦の者もあてとする所は思い思いながら一様に今年のれるを待詫まちわびている矢端やさき
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
四十八 まず日が没したので休戦の許しを得た様なものだ、この後の太陽の光景ありさまは見る事が出来ぬけれど
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
私は今でもあの夜の光景ありさまを思い出すとゾットする。それは東京に大地震があって間もない頃であった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
わずかに通う息、美しい貞女は、夢心地に眼を開いて、みなぎる明りの中に、この異様な光景ありさまを見廻しました。
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
東町奉行所で白刃はくじんしたのがれて、瀬田済之助せいのすけが此屋敷に駆け込んで来た時の屋敷は、決して此出来事を青天せいてん霹靂へきれきとして聞くやうな、平穏無事の光景ありさまではなかつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
続いて残る九人の生命いのちが相次ぎて磔刑柱はりつけばしらの上に消え行く光景ありさまを、眼も離さず見居りたるわれは、思はず総身水の如くなりて、身ぶるひ、胴ぶるひ得堪へむすべもあらず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
憎々にくにくしい鴨田の声に、須永が尚も懸命に争っているうちに、いつの間に開いたか、入口のドアが開かれ、そこには此の場の光景ありさま微笑ほほえましげに眺めている帆村の姿があった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時船中で二人がベッドに寐る時の光景ありさまをはっきりと記憶している。宮島までは四、五時間の航路であると思うが、二人はその間を一等の切符を買って乗ったものである。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
土人乙女はその時まで私の側に立っていたが、部落の光景ありさまを眺めるや否や、やはり足を空へ上げて狂気きちがいのように踊り出した。そして私を引っ張りながら部落の方へ走り出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の光景ありさまて取つたる松本常吉「議長、満場別に異議ないやうです、採決を願ひませう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
恰も此の潮の初に當つて風雨の加はると同じ樣な光景ありさまに、生理的の血行に心理的の種々のものが加はるのは、其の那方が那方を誘ひ起すのか知らぬが、觀察に値する事實である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
洋風まがひの家屋うちの離れ/″\に列んだ——そして甚麽どんな大きい建物も見涯みはてのつかぬ大空に圧しつけられてゐる様な、石狩平原の中央ただなかの都の光景ありさまは、やゝもすると私の目に浮んで来て
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今でも実に何ともかとも申されぬなずかしきその時の光景ありさま追懐ついかいいたします。実に月日の過ぎ行くのは早いもので御座いまして、もはや当地に参りましてから年の半分は立ちました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どの部屋もの光景ありさまが隅々まであり/\と見えた。広間の、夏はふさいである炉の蓋の上に小猫が眠つて居るのまで見えた。此のしづかな空つぽの家を、奥の間の仏壇が留守して居る様に思はれた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
血につながる叔父おじおいの間柄として、そんな無惨むざん光景ありさまを横目で眺めてすましているわけにもゆくまいから、ひとつ、ふんぱつして、このたびにかぎり、手前があなたのいのちを助けてあげます。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この物凄い光景ありさまを見て、とりのぼせたのでしょうな、林は、このまま出たら、てっきり自分に嫌疑がかかると思いこんで、なんとかして、少しでも、死体の発見をおくれさせる必要があると思い
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
少し離れた処からこの光景ありさまを横目で見ながら、静かに狒々の毛皮を脱いで一と休息やすみしようとしている男があった。上品な立派な容貌と、スポーツマンのような美事な風采とに私達は目を見張った。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
先刻から大分元気付いて来た晴次と光雄はこの光景ありさまを見ると
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そこにはまったく意外な光景ありさまがあらわれていたのであります。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
何にもあれわが故郷ふるさと光景ありさま
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
巨大な墓石の並び立つ別の光景ありさまがまたその小山の上にひらけた。そこには全く世間というものから離れたかのような静かさがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と見ると、雲の黒き下に、次第に不知火しらぬいの消え行く光景ありさま。行方も分かぬ三人に、遠く遠く前途ゆくてを示す、それが光なき十一の緋の炎と見えた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のあたり、うした荘厳無比そうごんむひ光景ありさませっしたわたくしは、感極かんきわまりて言葉ことばでず、おぼえず両手りょうてわせて、そのつくしたことでございました。
「窮屈だらうな……」などと彼は呟いたが、彼女にそんな親切をされる光景ありさまを思ふと、忽ち無分別な感覚派エピキユリアンになつた。
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
世間の事を考へるどころではない彼れも、かつて見たことのある力士の顏形や、國技館の土俵の光景ありさまを念頭に浮べた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
私は今でも、その当時の光景ありさまを覚えている。遥か彼方に二本の杉の木が見えて、右手に藁屋わらやが見える……その向うの方から一人の白装束をした男が来た。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こゑわめこえあはれ救助たすけもとむるこゑは、すさまじき怒濤どとうおと打交うちまじつて、地獄ぢごく光景ありさまもかくやとおもはるゝばかり。
その元日も此雪国の元日もおなじ元日なれども、大都会たいとくわい繁花はんくわ辺鄙へんひの雪中と光景ありさまかはりたる事雲泥うんでいのちがひなり。
この意外なる光景ありさまきもひしがれて、余の人々はただ動揺どよめくばかり、差当りうするという分別も出なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は当夜の物々しい光景ありさまを想像して思わずふき出しそうになったのを、やっとこらえました。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我等は詞もあらで、此光景ありさまを眺め居たり。事果てゝ後顧みれば、かの媼は在らざりき。
早くもお勢を救い得たのちの楽しい光景ありさま眼前めさき隠現ちらつき、払っても去らん事が度々有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)