“侍:さむらい” の例文
“侍:さむらい”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治15
喜田貞吉8
楠山正雄8
芥川竜之介6
森鴎外6
“侍:さむらい”を含む作品のジャンル比率
社会科学 > 社会 > 社会学30.3%
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸4.8%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)1.6%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
かつて乱心者らんしんものを取り抑えた際に、三右衛門ほか一人ひとりさむらい二人ふたりとも額に傷を受けた。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
岩「むゝ……分った、むゝう成程さむらいてえものは其様そんなものか……だから最初てんで武家奉公は止そうと思った」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じつはこの子のくなりましたちちも、坂田さかたというりっぱなうじったさむらいでございました。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
といって、大きな、いいにおいのするみかんを三つ、りっぱなかみにのせて、おともさむらいわたしました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さむらいはもと卑しい者でありまして、貴人とか老人とかの側に始終さむらうてこれを保護し、身の廻りの用を達す者であります。
二人のさむらいはさすがに気の毒になって、小さい声で耳もとにささやいて「何とでもいいから声をたてなさい」と言った。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いずれにしても、武蔵ばかりでなく、新免家のさむらいたちが、関ヶ原以後、敗走兵として、他国へ流寓していたことは事実に近い。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
続いて二十二日には同じく執政三人の署名した沙汰書を持たせて、曽我又左衛門そがまたざえもんというさむらいを上使につかわす。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ソコで文久三年の春、英吉利イギリスの軍艦が来て、去年生麦にて日本の薩摩のさむらいが英人を殺したその罪は全く日本政府にある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「それは源氏げんじ大将たいしょう頼光らいこうと、それについております四天王てんのうさむらいどもにかぎります。」
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「無論、そんな者でないことは分っているが……」と一角は注意ぶかい容子ようすで、あたりにいるさむらいたちへも聞かすように、
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日がくれると、膳所ぜんしょさむらいが、おびただしい料理や美酒をはこんできて、うやうやしくふたりにすすめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やア、この人穴ひとあなには、ずいぶんおさむらいが大勢いるんだなあ。おじさんたちは、いったいそこでなにをしているんだい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、間違いでも難癖でもござりません、へえ。あのう、御当家に、お若い美しいおさむらいさまはいらっしゃいませんでしょうか」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
医者で作者でさむらいで商法家だが、一つ武芸者ではなかりし源内、快刀乱麻かいとうらんまの手伝いはできないので、時々そこから、
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、誰にも遠慮のいらないここのさむらい部屋は、目下、天堂やお十夜や周馬にとって、またなきねぐらとなっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近日土民・さむらい之皆(階)級之時節也。雖非人党之輩、可守護・国司之望、不左右者也。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
むかし、摂津国せっつのくに阿倍野あべのというところに、阿倍あべ保名やすなというさむらいんでおりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
暫らくの間にちまたほこりによごれ切って、さむらいとも無頼漢ならずものとも知れない、まことに異形いぎょうな風俗だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またさむらいとはもと賤しい職務であっても、実力を得た結果久しく所謂土民の上位に立っておったものであります。
宗太郎の実父は私の母の従兄ですから、私もその風采ふうさいしって居ますが、ソレハソレハ立派なさむらいと申してよろしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
りっぱなうまった大将たいしょうらしいさむらいさきてて、こんどはなんにんというさむらい
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
家人たる従者は、本来は常に主人の座右に侍して、その用を弁ずべき身分のもので、すなわち「さむらい」である。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
さむらい連歌師れんがし、町人、虚無僧こむそう、——何にでも姿を変えると云う、洛中らくちゅうに名高い盗人ぬすびとなのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔はそれと違ってさむらいは皆命懸いのちがけの商買しょうばいだから、いざと云う時に狼狽ろうばいせぬように心の修業を致したもので
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
肥後ひご細川家ほそかわけ家中かちゅうに、田岡甚太夫たおかじんだゆうと云うさむらいがいた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでおさむらいの一騎打ちの時代は必然的に崩壊してしまい、再び昔の戦術が生まれ、これが社会的に大きな変化を招来して来るのであります。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
さむらいたちがあまんじゃくをせて、うらの山をとおりかかりますと、かきの木の上で、
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そんな、一揆のお先棒にかつがれて、河原で首をぶち斬られるよりは、さむらいになって、自分も生き、人も生かす工夫をしてえと思うのでがす。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、相手は誰かと思うと、朱鞘しゅざやの大小をかんぬき差しに差した身のたけ抜群のさむらいだった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年のれに軍功のあったさむらいに加増があって、甚五郎もその数にれなんだが、藤十郎と甚五郎との二人には賞美のことばがなかった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
教師が教壇に立って業を授けるのはさむらいものに身を固めて戦場に臨むようなものである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとから、さむらいがいやになっていたやさきだったので、惣七は、ひらりと稼業しょうばいがえをした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もと卑賤の職掌の「さむらい」の語も、実質さえ改まればそのままにまた立派な身分のものの名称ともなる。
蔵六は、さむらいの最大な不名誉「わらわれ者」の汚名を、どうして拭おうかを、必死で考えたあげく、
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者窓でもつけたら、さむらいが出て来そうな、古風な土塀どべいをめぐらした大邸宅で、邸を囲んで爽々さつさつたる大樹がしげっていた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
後にイエノコと訓読して家の子郎党と並称せられたものは、すなわちもと中間男に相当する「さむらい」で、国法上この家人階級に当るものであった。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
その声はさむらいらしいわかい男の口から出た。それを耳にした七八人の見物人はどっと笑った。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかるに武家が勢力を得るに及んで、彼らは武芸を練磨し、その主と仰ぐ人を護衛するのが職掌となって、「さむらい」は同時に「武士ぶし」であった。
中世以後武士を「さむらい」と申すのは、主人のかたわらにさむろうて、身の回りの面倒をみたり、主人のために雑役に従事したためであります。
当時のさむらいは、君父くんぷの仇をそのままに差いては、生きて人交りができなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
一、冷光院殿れいこういんでん御尊讐ごそんしゅう吉良上野介殿きらこうづけのすけどの討取るべき志これあるさむらいども申合せそうろうところ
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
これは十二三になるさむらいの子とおぼしき風采ふうさいで、道のまん中に坐り込んだまま、刀のつかに手をかけて寄らば斬らんと身構えてはいるが
もう一つ、彼女の弱い魂をおびやかしたのは、今夜の客が江戸のさむらいということであった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丁字髷ちょんまげったおさむらいと男の子のむきあっている絵の読本の時間だった。
向こうから三人づれのさむらいが来たので、父娘は道の端によけて通った。三人の足音がうしろのやみに消えてしまうのを待って、久助が、低い早ぐちでいった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、城内のさむらい部屋で、元小六党のひとりだったという家臣が、或る折、同僚にささやいた談片などによると、いささかその辺の消息が解けないでもない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桃太郎ももたろうはおさむらいるような陣羽織じんばおりて、かたなこしにさして、きびだんごのふくろをぶらげました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さむらいたちはびっくりして、どこかにみずはないかとあわててさがまわりましたが、そこらには井戸いどもなし、ながれもありませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「おい、おさむらいさんが、お茶を飲ましてくれと云うから、早う一ぱいんで来い」
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
抽斎はこの日に比良野の家から帰って、五百いおに「比良野は実に立派なさむらいだ」といったそうである。その声はふるいを帯びていたと、後に五百が話した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「やあ、やあ。」と、先生せんせいにはこえないように、ごえをかけて、丹下左膳たんげさぜんさむらいちまわりをさせていました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今もなお箕輪心中みのわしんじゅうと世に歌われる藤枝外記ふじえだげき、また歌比丘尼うたびくに相対死あいたいじにの浮名を流した某家のさむらいのように
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とやはりさむらいむすめである。夕刻主人公が役所から帰るのを待ちわびて、
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこの金部屋かねべやには、いつもさむらいが二人ずつ泊ることになっていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はるか廊下のかなたに、何ごとか知らせに来たさむらいの平伏する頭が、見えた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おじいさんとおばあさんは、何事なにごとがはじまったのかとおもって、びくびくしていますと、おさむらいはそのとき、おじいさんとおばあさんにかって、
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「これが歴とした二本差、丹波彌八郎と言うさむらいなんだから驚くでしょう」
「あなたはどういうご身分のお方? おさむらいさんではありませんわねえ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、その晩のことであるが、みすぼらしい一人のさむらいが、下谷池ノ端をあるいていた。登場人物の一人であった。すると向こうから老武士が来た。登場人物の二人目であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうだね、ぼうやはみやこへ出ておさむらいにならないかい。」
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ある失業したさむらい(貴族に仕える男、後世の侍ではない)が、あった。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは折から、用事があって、池の尾の寺を訪れたさむらいが、前よりも一層可笑おかしそうな顔をして、話も碌々ろくろくせずに、じろじろ内供の鼻ばかり眺めていた事である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仙「免し難ければサア己を斬れ、其の新身の刀を引ッこ抜け、さむらい
母の考えでは、夫がさむらいであるから、弓矢の神の八幡はちまんへ、こうやって是非ないがんをかけたら、よもやかれぬ道理はなかろうと一図いちずに思いつめている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、内藤さんはおやしきへ上がるとすっかりさむらいになってしまう。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「お前さま達は、おさむらいのくせに、大逆人の娘に仕えて、何でそんなに忠義だてしなさるか。主を殺した人間の一族には、世間がこうむくうぞと、思い知らせてくれたがいいに」
某は香木を松向寺殿に参らせ、さて御願い申候は、主命大切と心得候ためとは申ながら、御役に立つべきさむらい一人討果たし候段、恐入り候えば、切腹仰附おおせつけられたしと申候。
又いかように相成ろうとも、われ等、さむらい奉公の者が、この後とも歩む道は、一筋でしかない。右顧左眄うこさべん、要らぬことじゃ。侍に生れたれば侍に死ぬる。それでしかない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、つい目の前に、大たぶさのさむらいが、突っ立っていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小坂丹治たんじ香美郡かみごおり佐古村さこむら金剛岩こんごういわほとりで小鳥を撃っていた。丹治は土佐藩のさむらいであった。それは維新のすこし前のことであった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また一人のさむらい息を切らしてかけ来り、以前の侍に向ひ
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仙「乱暴な奴だな、あのさむらいは何だえ若衆わけえしゅ
「おらも、さむらい奉公したいと、心がけているんで、諸国の侍の風や、大名たちの威勢ぶりを見て来たから、侍奉公するからには、主人を選ぶのが第一と分って来た。うかつには、主は持てぬ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにつけても月日経ち候につけ、先年溜池ためいけにて愚僧が手にかゝり相果て候かの得念が事、また百両の財布取落とりおとし候さむらいの事も、その後は如何いかが相なり候
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中での若いさむらいが愚痴をぼすようにこう云った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
相手は立派なおさむらい、殊に美貌で金もあるらしい。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
某は香木を三斎公に参らせ、さて御願い申候は、主命大切と心得候ためとは申ながら、御役おんやくに立つべきさむらい一人討ち果たし候段、恐れ入り候えば、切腹仰附おおせつけられたくと申候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おまえは口癖に敵々かたきかたきというが、それはいけないよ、敵討かたきうちということはさむらいの子のすることで、お前なんぞは念仏をしてお爺さんの後生ごしょうを願っておればよいのだ」
江戸の山の手に住んでいるさむらいの一人が、某日の黄昏ゆうぐれ便所へ往って手を洗っていると手洗鉢ちょうずばちの下の葉蘭はらんの間から鬼魅きみの悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「実際これが自分の魂だと思うと、さむらいぎ澄した名刀を、長夜ちょうや灯影ほかげ鞘払さやばらいをする時のような心持ちがするものですよ。私は弓を持ったままぶるぶるとふるえました」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いうもおそし、一同はわれ遅れじと梯子段をけ下りて店先まで走り出ると、差翳さしかざ半開はんびらきの扇子せんすに夕日をよけつつしずかに船宿の店障子へと歩み寄る一人のさむらい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「もし、おさむらいさん、お侍さん」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことにもと家人けにんさむらいなどと呼ばれた賤者も、時を得ては武士となって高く社会を睥睨する様になった世の中のこととて、古え「大みたから」と呼ばれた農民までが、一様に賤者として見下されていたのである。
エタに対する圧迫の沿革 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
さむらいの妻とは、不びんなものだ。——だが、こうして殿とのからお暇をゆるされて、家にある一日だけは、気儘もいうがよい。おれのからだは、そなたのものだ。そなたの体はまた、おれのものだし……。はははは」
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前はさむらいである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつて中層あるいは下層にあって永い間の侮蔑と屈辱に甘んじていた武士の階級は、公家の奴僕すなわち「さむらい」という名を保存しつつも、今や上層としての実権を握り、自己の要求に従って社会の新組織を樹立しかかっていた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
肥前鍋島家ひぜんなべしまけの役人、山目付やまめつけ鈴木杢之進すずきもくのしんという色の黒いさむらい、手に寒竹かんちくつえをもち、日当たりのいい灌木かんぼくの傾斜を、ノソリ、ガサリ、と歩いている。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山こやまは、夜店よみせったといって、丹下左膳たんげさぜんさむらいちいさな人形にんぎょうを二つ三つ、かみせて、したから磁石じしゃくあやつっておどらせていました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おふくろの身は、親類の者が見るだろう。だが、お通は独りぼっちだ。あれやあ、嬰児あかごのころ、寺へ泊った旅のさむらいが、置いてき放しにした捨子じゃといった、可哀そうな女よ、武やん、ほんとに、俺が死んだら、頼むぞ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴎外が芝居しばいを見に行ったら、ちょうど舞台では、色のあくまでも白いさむらいが、部屋の中央に端坐たんざし、「どれ、書見しょけんなと、いたそうか。」と言ったので、鴎外も、これには驚き閉口したと笑って書いて在った。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もなくいんさまは三浦みうらすけ千葉ちばすけ二人ふたり武士ぶしにおいいつけになって、なんさむらい那須野なすのはらててわたしをさせました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
塙団右衛門ばんだんえもんほどのさむらいの首も大御所おおごしょの実検にはそなえおらぬか? それがし一手ひとての大将だったものを。こういうはずかしめを受けた上は必ずたたりをせずにはおかぬぞ。……」
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おお、おさむらいふざけちゃいけねえ。ただの鳥刺とは鳥刺が違う。こう見えても侍だ。しかも武田の家臣だわえ! 鳥刺に姿をやつしているのは尋ねる人があるからさ。望みもとげねえその前に生命いのちを取られてたまるものか。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『いかにも、そういう御法令はない。——けれどそれは町人のそちと、御法規とのあいだにだけ通用する話だぞ。さむらいという者同士になると、彼等のあいだには、御法規も御法規だが又べつな義とか情とかいうのが重んじられておるからの』
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度此の屋敷のような御殿の奥庭で、多勢の腰元と一緒にお姫様が蛍を追って居るかと思えば、淋しい橋の袂で深編笠ふかあみがささむらいが下郎の首を打ち落し、死骸の懐中から奪い取った文箱ふばこの手紙を、月にかざして読んで居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
徳川三〇〇年の幕府ばくふが倒れて多くの大名だいみょうが、それぞれ国境を撤廃てっぱいしてめいめいが持っていたさむらいすなわち、軍隊をやめ、両刀をなくしたことはつまり軍備をすててしまって日本という一つの国に統一しました。
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
それがいまはえらいさむらいになったといって、せっかく遠方えんぽうからたずねててもってはくれない。このごろはめっきりとしをとって、こんどまたおうといっても、それまできていられるかおぼつかない。
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「私の身の上を憐れんで、親身になってこの私を助けてくれるものはあるまいか、そう思って数多い客の中で、これぞと思うさむらいをあれかこれかと試しては見るが、心の中を打ちあけて頼んで見るようなお方様は今日までは一人も見つからなかった」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや才三については憐れな話がある。その頃家中に小野田帯刀おのだたてわきと云うて、二百石取りのさむらいがいて、ちょうど河上と向い合って屋敷を持っておった。この帯刀に一人の娘があって、それがまた藩中第一の美人であったがな、あなた」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)