かめ)” の例文
旧字:
自動車のタイヤのやうな円い浮袋ブイもあれば、8の字のや、また、さるかめ鵞鳥がてうなどの首のついた、乗つて泳げる浮袋ブイなどもあります。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
アキレウスは「そのスラリと長い脚で」無限にかめに近迫するがよい。しかし、ヅェノンの逆説を成立せしめることを忘れてはならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
うさぎとかめとでは身長は亀のほうが小さくても「秒」の長さは亀のほうが長いであろう。すると、どちらが長寿だか、これもわからない。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて新吉は、こんどは前と反対に、背中を下にして、つまり竹竿の上にあおのけになってかめの子のように手足を動かすげいに移ったのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
急には車がとめられないようで、車夫はかめみたいにのばしたしわくちゃの細首を、がっくりと前に垂らして、ふた足三あし、車を進ませた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
先日せんじつ歳暮せいぼまゐつたらまつうめ地紋ぢもんのある蘆屋あしやかま竹自在たけじざいつて、交趾かうちかめ香合かうがふ仁清にんせい宝尽たからづくしの水指みづさしといふので一ぷく頂戴ちやうだいしました。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこには古い絵具のげかけた壁画があって、つるかめ雉子きじのようなものをいてあったがそれもことごとく一方の眼がつぶれていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから村の横手には、大きなにごり池がありまして、その岸に、かめが幾匹かいて、きょとんと頭をあげて空を見ていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
男は真綿帽子を冠り、藁靴わらぐつ穿き、女は紺色染の真綿をかめの甲のように背中にしょって家の内でも手拭てぬぐいを冠る。それがこの辺で眼につく風俗だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かめの子のように、のこのこと蒲団ふとんの中から首をもたげだしたのは、独楽こまをもらったうれしさに昂奮こうふんして、つい寝つかれずにいた泣き虫の蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「親父が古い本を調べているんだ。荒神風呂にかめつどい、鶴も巣籠すごもる峯の松と書いてあるそうだ。それから荒神風呂って名前が不思議だと言っている」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二十時の国電の上りが、山々に警笛の音をこだまさせながら、かめやつのトンネルにつづく切取の間へ走りこんで行く。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その他、様々の中で最も手数のかかった大作は、何んといっても、私自身の家の膏薬こうやく天水香のかめの看板であった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
僕はその時、白い石でうさぎを、黒い石でかめを作ろうとした。亀の方は出来たけれども、兎の方はあんまり大きく作ったので、片方の耳の先きが足りなかった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ありゃ天満のかめ子煎餅こせんべい、……成程亀屋の隠居でしょう。誰が、貴方、あんな婆さんが禁厭まじないの蛇なんぞを、」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船長は、かめの子のように首を縮めていた。そして、質においても量においても、小倉と三上との二人分よりも沢山着込んでいるのに、寒さにふるえていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
おまるちゃんが「かめの年」といったのは、よく諸方で可愛がられる子で、近所の——そばや利久の前の家——酒屋で、孫娘のように大事にしてよくかりに来た。
またこれとは正に反対に、同じ恋の句でも寂しい扱い方をしたものが、『比佐古ひさご』のかめの甲の章にはある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かめ束子だわし、髪洗粉などを並べた上に、蚊やり線香と書いた赤提燈が、一ぱいに大きく下っている——その店先へたたずんで、荒物屋のお上さんと話しているのは
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるひは琴を弾じを描きまたは桜の枝に結び付くべき短冊たんざくに歌書けるものあり。あるひは矢を指にして楊弓ようきゅうもてあそびあるひはおかめめんかぶりて戯るるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勝ってかえる人達はとにかく元気でした。陸上の東田良平が、大きなかめの子を二ひき、記念にもらくびひもをつけ、ほがらかに引張って歩いているのが目立っていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
先天的に剛に出来ている人と、同じく先天的に柔に出来ている人とあるは、あたかも動物にもかめもあれば海月くらげもあり、植物にもくりもあればいちごもあるがごとくである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主人と知ると、恐れ入って、膝行頓首しっこうとんしゅかめの様に平太張りつゝすり寄ってびた。わるい事をして追かけられて逃げ廻るが、果ては平身低頭へいしんていとうして恐る/\すり寄って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まだこの下が三人ありますだ。一番小さいのは、まだ庭をかめの子みてェに、ひまはつてゐますだ。でも、こいつがもう十三になりました。もうぼつぼつ一人前です。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
うさぎかめと、どっちが早いかということは、長い間、動物仲間のうちで問題になっていました。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
一年生のときは、うさぎとかめのかけくらのことで、も一つは大きいものがいちばん立派だといふことでした。それから三人はみんな一番にならうと一生けん命競争しました。
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
信一郎の乗っている自動車の運転手は、の時代遅れの交通機関を見ると、丁度お伽噺とぎばなしの中で、かめに対したうさぎのように、いかにも相手を馬鹿ばかにし切ったような態度を示した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大きくて見事な茄子のある時はかめ甲焼こうやきにします。これは巾著きんちゃくなどというのでは出来ません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「今日はね、おもしろいお話を聞いてよ、あのうさぎかめのお話を聞いてよ、言って見ましょうか、——ある所に一ぴきの兎と亀がおりました——あらおかあさまいらッしてよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
変心の暁はこれが口をききて必ず取立とりたてらるべしと汚き小判こばんかせに約束をかためけると、或書あるしょに見えしが、これ烏賊いかの墨で文字書き、かめ尿いばりを印肉に仕懸しかくるなどたくいだすよりすたれて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから更に三十秒のちには、かめ子束子こだわしほどにふくれた。私はすこし気味が悪くなった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
たなからちる牡丹ぼたもちものよ、唐様からやうたくみなる三代目さんだいめよ、浮木ふぼくをさがす盲目めくらかめよ、人参にんじんんでくびく〻らんとする白痴たはけものよ、いわしあたま信心しん/″\するお怜悧りこうれんよ、くものぼるをねが蚯蚓み〻ずともがら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
さうするとおなかの物はすつかりと消化こなれてしまふ。けれどもかめんだときだけにはそれがきかないさうだ。どういふわけかといふと、亀は堅い甲羅かふらを着てゐるから、蛇いちごもきかない。
蛇いちご (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
かめっ! われの突ん出る幕じゃあねえ、俺さまがお抱き申して往くんだ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しり端折ぱしょりの尾骶骨かめのおのあたりまで、高々たかだか汚泥はねげた市松いちまつの、猫背ねこぜ背中せなかへ、あめ容赦ようしゃなくりかかって、いつのにかひとだかりのしたあたり有様ありさまに、徳太郎とくたろうおもわずかめのようにくびをすくめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かめの上の山もたづねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
卦算けさんかめの子をおもちゃにしていた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
かめの甲のやうに並んでゐる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それで、この場合における自分と、前記のかめさんや試写会の子供とちがうのはただ四十余年の年齢の相違だけである。
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
倹約な巴里の家庭では何処どこでも冬季に使用するかめ形の小さな炭団たどんが石炭と一緒に混ぜて焚いてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浦島太郎が、かめ背中せなかから振り落されて、ザブツと水にもぐりました。そして、ふんどしをしたお尻だけが、プクツと水の上に、チヨンまげ頭のやうに浮びました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
とも知らず、夜が明けるか明けないうちに、かめのようにムックリ寝床から首をもたげだした竹童
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小僧のかめどんが見つけて騒ぎ出したので、かえっておおかめさんに叱られたのだといったが——末の子の、おっちゃちゃんが亡くなると、思い出してしようがないから
それから、ハッとけ声をかけて、しゃっちょこ立ちをしました。次に竹竿のてっぺんへうつせになり、両手両足をはなして、かめのようにふらふらとまわりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
正覚坊しょうかくぼうはじっとしています。いくらたずねても黙っています。それもそのはずです、かめに口がきけるわけはありません。平助はそれに気付いて、ひとりで声高く笑い出しました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かめやつのトンネルを抜けると、車窓から見える景物がにわかに春めかしくなる。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山では大へんなさわぎになりました。何しろ花火などというものは、鹿しかにしてもししにしてもうさぎにしても、かめにしても、いたちにしても、たぬきにしても、きつねにしても、まだ一度も見たことがありません。
赤い蝋燭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
前の晩、これを買う時に小野君が、口をきわめて、その効用を保証したかめの子だわしもある。味噌漉みそこしの代理が勤まるというなんとかざるもある。羊羹ようかんのミイラのような洗たくせっけんもある。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ちゅうぱらでずいと立つと、不意に膝かけの口が足へからんだので、かめばい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本にある通りの比重ひじゅうでやったらかめは半分ものこらなかった。去年きょねん旱害かんがいはいちばんよかったところでもこんな工合ぐあいだったのだ。けれども陸羽りくう一三二ごうのほうは三わりぐらいしか浮く分がなかった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)