ちち)” の例文
もうルセットもいない、ちちもない、バターもない、これでは、謝肉祭しゃにくさいもなにもないと、わたしはつまらなそうにひとごとを言った。
おとめはひもをといて、おきさきさまの背中せなかから小さな男の子をおろしました。そして、お妃さまの乳房ちぶさにあてがって、おちちをのませました。
ちちをしぼる女が牛の疱瘡ほうそうにかかって、手にできものをつくることは、よく知っていましたけれど、牛の疱瘡にかかったものが
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
自分じぶんも、かたわらへながながとて、ちちをのませました。これが、いつまでもつづくものなら、母子おやこのねこは、たしかに幸福こうふくだったでしょう。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふうわりと軽くて、まるで綿のようで、ほほをつついてみると、つるつるしてやわらかで、かすかにちちにおいがしていました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
はじめて片手を休めたが、それさへ輪を廻す一方のみ、左手ゆんでなお細長い綿わたから糸をかせたまゝ、ちちのあたりに捧げて居た。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わらうべし、わらうべし、ちちくさい伊那丸いなまる咲耶子さくやこなどが、烏合うごうの小勢でよせまいろうとて、なにをぎょうぎょうしい軍議などにおよぼうか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし御嫡子ごちゃくしの若様におちちをあげたという深い縁故をもっている彼女は、その後も屋敷へお出入りを許されて御主人からは眼をかけられていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
糸目のつけ方にはいろいろあって、両かしぎ、下糸目、上糸目、ちち糸目、三本糸目、二本糸目、本糸目などがある。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
またある時、須利耶さまは童子をつれて、馬市うまいちの中を通られましたら、一ぴき仔馬こうまちちんでおったと申します。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「わたしはどうも、あまりこのましくないけれど、ちちしぼりもなくてはじつにこまるから、おいてみましょうねえ」
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その万人まんにん万人まんにんきできでたまらねえおんなの、これが本当ほんとうにおいだろうじゃねえか。ほどはだにおいもある。かみにおいもある。ちちにおいもあるにァちげえねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その店の前に腰掛けて居る三十余りのふっくりと肥えた愛嬌の女が胸を一ぱいにあらわして子供にちちを飲ませて居る。子供は赤いちゃんちゃんを着て居る。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そうして、それと一所におちちのような、又は洗い粉のような甘ったるいにおいが、ほのかに湧いて来るのです。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
おばあさんは、夕がた、ちちをしぼりながら、くたびれすぎて、いねむりをしそうになりますと、いつも孫たちのことを考えては、気をひきたてるのでした。
宇受女命うずめのみことは、おちちもおなかも、もももまるだしにして、足をとんとんみならしながら、まるでつきものでもしたように、くるくるくるくるとおどくるいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
貴方あなたなどは、才智さいちすぐれ、高潔こうけつではあり、ははちちとも高尚こうしょう感情かんじょう吸込すいこまれたかたですが、実際じっさい生活せいかつるやいなやただちつかれて病気びょうきになってしまわれたです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
飢饉ききんのときに、ちちの出なくなったおかあさんの乳首ちくびを、くわえたまま死んだ子もいるし、ぎっしりつまった三等車とうしゃの人いきれの中で、のどがつまって死んだ子もいる。
四布風呂敷よのぶろしきほどの大きさの肩掛けをかけたり、十八世紀風のボンネットや肩にあてものをしたり、おちちにもあてものをして、胸のところで紐を編上げたりするシミズを着て
他の者つゐいたる、岩に近づけば菩薩ぼさつ乳頭にうとうおぼしき所に、一穴あり、頭上にも亦穴をひらけり、古人の所謂いわゆる利根水源は文珠菩薩のちちよりづとは、即ち積雪上をみ来りしさい
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
道益は朝のかいにしている牛のちち金椀かなまりでやりつけながら、まず、は、は、はと思出し笑いをし、それから、昨夜、磧で聞いた鰻掻うなぎかきの下人どもの側言そばごとをおどけた口で話してきかせると
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
◎これはちと古いが、旧幕府の頃南茅場町みなみかやばちょう辺の或る者、乳呑子ちのみごおいて女房になくなられ、その日稼ぎの貧棒人びんぼうにんとて、里子に手当てあても出来ず、乳がたりぬのでなきせがむ子を、もらちちして養いおりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
それで今若いまわか乙若おとわかとはいのちだけはたすかって、おてらへやられました。牛若うしわかはまだおちちんでいるので、おかあさんのそばにいることをゆるされましたが、これも七つになると鞍馬山くらまやまのおてらへやられました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
生きの身の吾が身いとしみ牛のちちまだきに起きてまづ吸ひにけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「お母様によろしく。おちちを充分いただいておいでなさいよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「だって、しようがねえよ。わしからはちちねえよ。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
生温なまぬるちちが涌いて、人や羊の子の飲物になる。
「ウン、あのね、母さまのおちちのみたいの」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おもちち、甘くふくめる悲みは
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「この小さな楽師がくしさんは、雌牛めうしが聞きたいというのだ。たいへん大きなやつでなくて、ごくじょうぶで、ちちをたくさん出すのだそうだ」
ぐまは、おちちみあきたか、それとも、とちのをたべあきたか、おかあさんの背中せなかったり、また、むねのあたりにびついたりしました。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると怖ろしいほどすぐちちが止るのである。嬰児あかごは泣く。——せめてこのき声なと、良人の耳にとどくすべもないかと、また、涙におぼれてしまう。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諒安はそのくろもじのえだにとりついてのぼりました。くろもじはかすかなにおいを霧におくり霧はにわかにちちいろのやわらかなやさしいものを諒安によこしました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すると、カモはおきさきさまのすがたになって、あがっていきました。そして、ぼうやにおちちをのませ、小さな寝台しんだいをゆすって、ふとんをよくかけてやりました。
つれてきた若衆わかしゅうの話によると、ちちしぼりは非常ひじょうにじょうずで朝おきるにも、とけいさえまかしておけば、一年にも二年にも一朝ひとあさ時間をたがえるようなことはない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうだ、ちちをしぼる女がみんなそういうことをいっているとすれば、まんざらうそではないであろう。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……はだおおうたよりふっくりと肉を置いて、脊筋せすじをすんなりと、撫肩なでがたして、白い脇をちちのぞいた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちちもしぼってもらえないし、せわもしてもらえない。夜のかいばもなければ、寝るところもない。
かたからちちへとながれるほうずきのふくらみをそのままのせんに、ことにあらわのなみたせて、からこしへの、白薩摩しろさつま徳利とくりかしたようなゆみなりには、さわればそのまま手先てさきすべちるかと
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
途中において護送者が男は陰嚢いんのう女はちちうって即死せしめ、死骸を路傍の穴へ蹴込けこみて、落着らくちゃくせしむる事あり、ある時亭主殺しの疑いある女にて、繋獄けいごく三年に及ぶも証拠あがらずさればとて追放にもなし難く
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
摩耶まやちち長閑のどにふふますいとけなき仏の息もききぬべき日か
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それで今度はおなかがっているのだろうというので、近所のおかみさんをたのんでちちを飲ました。まあ、まったくおなかが減っていたのだよ。
「よし、よし、おにいさん、おっぱいにさわってはいけませんよ。これは、あかちゃんのおちちですから。」と、おかあさんは、わらいながらいわれました。
お母さんのお乳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ではみなさんは、そういうふうに川だとわれたり、ちちながれたあとだとわれたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知しょうちですか」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところでこのヤギは、そのおちちでみんなをやしなっていたのですから、よいえさをもらわなければなりません。それで、まい日草原くさはらへつれだしてもらいました。
牝牛めうしちちのようにあま女親おんなおやなみだのなかに、邪気じゃきも、よくも、なにもなく、身をひたりこんだ蛾次郎がじろうのすがたを見ていると、だれもかれに少しのにくしみも持てなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、夕がた、ちちをしぼりに牛小屋へきたとき、くたびれすぎて、泣いていることもありました。しかし、すぐに子どもたちのことを思いだしては、元気になりました。
母ちゃんちちいというのに、また奈々子はと姉らに問えば、そこらに遊んでいるでしょう、秋ちゃんが遊びにつれていったんでしょうなどいうをとがめて、それではならない
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あの白酒を、ちょっと唇につけたところは、ちちの味がしはしないかと思う……ちょっとですよ。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしは、うしちちをしぼってらしていますだ」と、いなか言葉で答えました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)