一個ひとり)” の例文
一四一かれ善果ぜんくわもとづきて遷化せんげせしとならば、一四二道に先達せんだちの師ともいふべし。又活きてあるときは一四三我がために一個ひとり徒弟とていなり。
そこへ……いまお道さんが下りました、草にきれぎれの石段を、じ攀じ、ずッとあがって来た、一個ひとり年紀としわか紳士だんながあります。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、縁者の一個ひとり殉職じゅんしょくなどは取るに足りません。憂うるところは、これが天下に及ぼす騒乱のちょをなしては一大事と存ずるのです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを昇は、あだかも自家うぬ一個ひとりの課長のように、課長々々とひけらかして、頼みもせぬに「一の力を仮してやろう、橋渡しをしてやろう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
殺さば殺さるゝ其條目はのがれ難し如何はせんと計りにて霎時しばし思案しあんくれたるがやう/\思ひつくことありてや一個ひとり點頭うなづき有司いうしに命じ庄兵衞の母おかつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくし何氣なにげなく衣袋ポツケツトさぐつて、双眼鏡さうがんきやう取出とりいだし、あはせてほよくその甲板かんぱん工合ぐあひやうとする、丁度ちやうど此時このとき先方むかふふねでも、一個ひとり船員せんゐんらしいをとこ
其を救ふ為めの一個ひとり証人あかしびとにならねばならぬと申したれば、貴女は身をに砕いても致しますと固く約束なされたでせう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
袋棚ふくろだなと障子との片隅かたすみ手炉てあぶりを囲みて、蜜柑みかんきつつかたらふ男の一個ひとりは、彼の横顔を恍惚ほれぼれはるかに見入りたりしが、つひ思堪おもひたへざらんやうにうめいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いくら新聞では見、ものの本では読んでいても、まさかに自分が、このいまわしい言葉と、眼前直接の交渉を生じようと予想した者は、一個ひとりもあるまい。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
忠一は引返ひっかえして燐寸まっちを擦ろうとする時、一個ひとりの小さい人間が闇に紛れてひらりと飛び込んで来た。重太郎は縁の下に潜んで内の様子を窺っていたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆめ一個ひとり風采ふうさい堂々だう/\たる丈夫ますらをあらはれて、自分は石清虚せきせいきよといふものである、けつして心配しんぱいなさるな、君とわかれて居るのは一年ばかりのことで、明年八月二日、あさはや海岱門かいたいもんまう見給みたま
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
折から向ふより庵僧とも覺しき一個ひとりの僧の通りかゝれるに、横笛、わたりに舟の思ひして
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
一個ひとりの壮年入り来たり炉の傍の敷居に腰かけぬ、彼は洗濯衣を着装きかざり、すそを端折り行縢むかばきを着け草鞋わらじをはきたり、彼は今両手に取れる菅笠すげがさひざの上にあげつつ、いと決然たる調子にて
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
今度こんど發見はつけんされた駒岡附近こまをかふきんにも、すですで澤山たくさん横穴よこあな開發かいはつされてあるのだが、て、果報くわはうなのは今回こんくわいのお穴樣あなさまで、意外いぐわい人氣にんき一個ひとり背負せおつて、まこと希代きたい好運兒かううんじいな好運穴かううんけつといふべきである。
れども彼は元来一個ひとりの侠骨男子、芸人の卑下なる根性をたぬが自慢なれば、あたらしき才芸を自ら埋没して、中年家に帰り父祖の産を継ぎたりしかど、生得の奇骨は鋤犂じよりに用ゆべきにあらず
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もやが分れて、海面うなづらこつとしてそびえ立った、いわつづきの見上ぐる上。草蒸す頂に人ありて、目の下に声を懸けた、樵夫きこりと覚しき一個ひとり親仁おやじ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それではかう云ふのですな、貴方はつとめを為てをつても、外の客には出ずに、この人一個ひとりを守つて——さうですね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すゝむる物から親子ともに下戸げこなればとて手にだもふれ詮方せんかたなければ一個ひとりにて傾けながら四方八方よもやまはなしの中に容子ようす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、これが安行でないとすると、何処いずこの何者であろう。たとい角川家の主人其人そのひとにあらずとも、一個ひとりの人間が惨殺されて此処ここよこたわっているのは事実である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一個ひとり天女てんによごと絶世ぜつせ佳人かじん! たれらん、この二人ふたりは、四ねん以前いぜんにネープルスでわかれた濱島武文はまじまたけぶみ
御存知の通り文三は生得しょうとくの親おもい、母親の写真を視て、我が辛苦を艱難かんなんを忍びながら定めない浮世に存生ながらえていたる、自分一個ひとりため而已のみでない事を想出おもいいだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
檣の陰より現われしは一個ひとりの大男なり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
高岡石動いするぎ間の乗り合い馬車は今ぞ立野たてのより福岡までの途中にありて走れる。乗客の一個ひとり煙草火たばこびりし人に向かいて、雑談の口を開きぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ビイルをひやせだ事のと、あの狭い内へ一個ひとりで幅をやがつて、なかなかいごきさうにも為ないんぢやありませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
座敷のうちにわかにぱッと明るくなったので、私も驚いて飛びきる、その途端に何処どこから来たか知らぬが一個ひとりの人かげが、この広い座敷の隅の方からふらふらと現われ出た。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
如何いかにも古風こふうらしい一個ひとり英國人エイこくじんつてつたが、この活劇ありさまるより、ぶるぶると身慄みぶるひして
それもうぬ一個ひとりで鼻に掛けて、うぬ一個ひとりでひけらかして、うぬうぬ披露ひろうしている分の事なら空家で棒を振ッたばかり、当り触りが無ければ文三も黙ッてもいよう、立腹もすまいが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やりたき物なりとさる大家とは知ざれば一個ひとりこゝろに思ひゐたるが息子殿には不束ふつゝかなる娘お光を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三個が、手足を突張つっぱらかして、箸の折れたように、踊るふりで行くと、ばちゃばちゃと音がして、水からまた一個ひとり這上はいあがった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畚が中途までさがって来た時、暗い岩穴の奥から一個ひとりの怪しい者が現われた。彼は刃物を振翳ふりかざして、綱を切って落そうと試みたが、綱は案外に強いので、容易に刃がたたなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一個ひとり洋服の扮装いでたちにて煙突帽をいただきたる蓄髯ちくぜんおとこ前衛して、中に三人の婦人を囲みて、あとよりもまた同一おなじ様なる漢来れり。渠らは貴族の御者なりし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取巻きの芸妓げいしゃたち、三人五人の手前もある。やけに土砂を振掛けても、突張つッぱり返った洋服の亡者一個ひとりてのひら引丸ひんまろげて、さばきを附けなけりゃ立ちますまい。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かく言いつつ他の一個ひとりはその庖丁を白糸の前にひらめかせば、四ちょうの出刃もいっせいにきらめきて、女のを脅かせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公子 (さわやかに)獄屋ではない、大自由、大自在な領分だ。歎くもの悲しむものは無論の事、僅少きんしょううれいあり、不平あるものさえ一日も一個ひとりたりとも国に置かない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕したつむりわきに、薬瓶かと思う、小さな包を置いて、悠々と休んでいた一個ひとりの青年を見た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる異様なのが、一個ひとり々々、多津吉等の一行と同じ影をわせて歩行あるいた。
良心にわれて恐惶きょうこうせる盗人は、発覚を予防すべき用意にいとまあらざりき。渠が塀ぎわに徘徊はいかいせしとき、手水口ちょうずぐちひらきて、家内の一個ひとりは早くすでに白糸の姿を認めしに、渠はおそくも知らざりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(不審立聴く)一個ひとり婀娜的あだもの、三枚がさね肩掛ショオルを着て縮緬ちりめんの頭巾目深まぶかなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一個ひとり幼児おさなごを抱きたるが、夜深よふけの人目なきに心を許しけん、帯を解きてその幼児を膚に引きめ、着たる襤褸らんるの綿入れをふすまとなして、少しにても多量の暖を与えんとせる、母の心はいかなるべき。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テエブルわきに椅子にかかって、一個ひとりの貴夫人と対向さしむかいで居た。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一個ひとり年若き佳人にござ候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)