)” の例文
子供こどもらは、はじめのうちは、おじいさんのくバイオリンのめずらしいものにおもって、みんなそのまわりにあつまっていていました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
さうして、時々声に出してじゆする経文が、物のに譬へやうもなく、さやかに人の耳に響いた。聞く人自身の耳を疑ふばかりだつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
じん、時々飛々とびとびに数えるほどで、自動車の音は高く立ちながら、鳴くはもとより、ともすると、驚いて飛ぶ鳥の羽音が聞こえた。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それならお兄様……あの鐘のはもうお聴きにならなくてもいいのですか……お兄様……ききたいとはお思いにならないのですか」
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
いままでながもとしきりにいていたむしが、えがちにほそったのは、雨戸あまどからひかりに、おのずとおびえてしまったに相違そういない。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
角海老かどゑびが時計の響きもそぞろ哀れのを伝へるやうに成れば、四季絶間なき日暮里につぽりの火の光りもあれが人を焼くけぶりかとうら悲しく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、恐怖だけは、迷いとべつに、尼の神経を冴えさせるばかりだった。山音、風の歩み、雨のようなこおろぎの啼くたすけて。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのといつたら美しい女のすゝり泣きをするやうな調子で、聴衆ききては誰一人今日までこんな美しい音楽を耳にした事はないらしかつた。
庭の桔梗ききょうの紫うごき、雁来紅けいとうの葉の紅そよぎ、撫子なでしこの淡紅なびき、向日葵ひまわりの黄うなずき、夏萩の臙脂えんじ乱れ、蝉の声、虫のも風につれてふるえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
木枯こがらしすさまじく鐘の氷るようなって来る辛き冬をば愉快こころよいものかなんぞに心得らるれど、その茶室の床板とこいた削りにかんなぐ手の冷えわたり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たしかにお聞きになったのですね? ところで手太鼓の音に混って鈴のが聞えはしませんでしたか? これは大事なことですがね
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雨夜あまよの月に時鳥ほととぎす時雨しぐれに散る秋のの葉、落花の風にかすれ行く鐘の、行き暮るる山路やまじの雪、およそ果敢はかなく頼りなく望みなく
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
若僧 (迹りて)そのような物のではございませぬ。やっぱり女人の長い髪が、重そうに葉の上を流れて行く音でございました。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
補佐役の青木主膳あおきしゅぜんという侍から「あれは寄手よせてが追いくずされる物音です」とか、「今度は味方が門内に引き揚げる合図のかいです」
秋風のにも虫の声にも帝が悲しみを覚えておいでになる時、弘徽殿こきでん女御にょごはもう久しく夜の御殿おとど宿直とのいにもお上がりせずにいて
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
勿論、おれもその鶯を江戸まで持って帰ろうとは思わぬが、鳴くが余りに哀れに聞えるので、せめて籠から放してやりたいのだ。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かすかにおとよさんの呼吸いきの聞き取れた時、省作はなんだかにわかに腹のどこかへ焼金を刺されたようにじりじりっと胸に響いた。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
吐息といきともき声ともつかぬものういをほっと洩らすと共に、彼はまた身を屈めて仕事をし出したが、やがて沈黙はまた破られた。
半鐘の蒸汽じょうきポンプのサイレンのひびきが、活動街の上を越して伝わって来た。それに混って時々樹上の畸形児の狂喜のうなりが聞えた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「少し気がききすぎているくらいだ。これじゃつづみのようにぽんぽんする絵はかけないと自白するはずだ」と広田先生が評した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だがそのなかにあつて、なほ自然にかもし出される音の世界はそれでもいくらか複雜ないろを持つてゐたといひうるであらう。
(旧字旧仮名) / 島木健作(著)
軟らかな風がどこからともなしに吹いてきて、笑声が聞え、その笑声に交って笛やしょうが聞えてきた。毅は不審に思って外の方を見た。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
樹々を震はせ………………………弱り弱ツた名残のが、見えざる光となツて、今猶、或は、世界の奈辺どこかにさまよふて居るかも知れぬ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
道庵が、そこで足を洗いにかかると、この宿の楼上で三味線のがします。そこで道庵が、またも足を洗う手を休めてしまって
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
月光散りしく城内はるかの広場の中を騎馬の一隊に先陣させた藩兵達の大部隊が軍鼓を鳴らし、法螺ほらを空高く吹き鳴らし乍ら
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
何故なぜお前のいた糸のが丁度石瓦いしかわらの中にめられていた花のように、意識の底に隠れている心の世界を掻き乱してくれたのか。
続いて「へい、何か一枚御贔屓様ごひいきさまを」と云った。二階にしていた三味線のが止まって、女中が手摩てすりつかまって何か言っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
蟲のわたりて月高く、いづれも哀れは秋の夕、しとてものがれんすべなきおのが影を踏みながら、うでこまぬきて小松殿のかどを立ち出でし瀧口時頼。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
次は高く風を受けてもただ琴のに通うといわるるいわゆる松風まつかぜすなわちいわゆる松籟しょうらいがあるばかりで毫も動ぜぬその枝葉です。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わたしの笛ので魅せられたようにスズキの類のパーチはあたりをさまよい、森の残骸が肋骨のようにばらまかれた水底を月はわたった。
越前永平寺えちぜんえいへいじ奕堂えきどうという名高い和尚おしょうがいたが、ある朝、しずかに眼をとじて、鐘楼しょうろうからきこえて来るかねに耳をすましていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「そら見たことかい、それでやっとお前さんにも、女の底力がわかったというもんさ!」と、例の小百姓が頓狂なをあげた。
ふふみの、まだなづむの、うぐひすの鳴まねびをる。頬白のふりまねびをる。しづゆり、ゆり遊びをる。移り飛びをる。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一頃ひところの熱狂に比べると、町もシーンとして来た、小諸停車場の前で吹く喇叭らつぱが町の空に響き渡つた。入営するものを寄せ集めの相図あひづだ。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
Sサナトリウムを囲み、森を奏でるようなひぐらしを抜けて、彼は闇に白く浮いた路を歩いていた。その路は、隣りのG——町に続いていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
長い間その楽器は皇帝に秘蔵せられていたが、その弦からたえなるをひき出そうと名手がかわるがわる努力してもそのかいは全くなかった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ところが、灰色ネズミたちが小麦こむぎを一つぶのみこんだかのみこまないうちに、中庭なかにわのほうから、するどふえが、かすかにひびいてきました。
水司又市は十方でぶう/\/\/\と吹く竹螺たけぼらを聞きまして、多勢の百姓共に取捲とりまかれては一大事と思いまして、何処どこを何うくゞったか
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
カピはたしかに高名になってもいいだけのことはあったけれど、わたしが……わたしが天才だなどとは、どこをおせばそんなが出るのだ。
梅野十伍はそのベルのを聞いた瞬間に必ずや心臓麻痺を起し、徹夜の机の上にぶったおれてあえなくなるに違いないと思っているのである。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は今うとうとと眠りかけたが、ふと向うから馬の鈴のが聞えて来た。顔をあげると、あかりが一つちらちらと街道を動いて来るのが見える。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
時には桂大納言に真似て「秋風」と云う曲を琵琶で弾いたりすると松風のがこれにまるで和する様に聞えてくるのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
「どっこい、お品さんは尋常なをあげる娘さんじゃなかったはずだ。二千両ありゃ当分の暮しに困るまい、双生児ふたご宗次の女房は悪くないぜ」
さながら水を掻きゐたるかひが、疲勞つかれまたは危き事を避けんため、一の笛のとともにみな止まる如くなりき 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
見て餘所よそながらなる辭別いとまごひ愁然しうぜんとして居たる折早くも二かうかね耳元みゝもとちかく聞ゆるにぞ時刻じこく來りと立上りおとせぬ樣に上草履うはざうりを足に穿うがつて我家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おもって、っていました。そのうちふえはだんだんちかくなって、いろしろい、きれいな稚児ちごあるいてました。弁慶べんけい
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
腕たア、撞木しゅもくの腕のことか。その腕じゃ、ゴーンといても碌なは出なかろう、何を吐かしやがる。……まア、そんなことはどうでもいいや。
こんなことを話し合つてゐる中に、千代松は莖ばかりのかりといふ煎茶を丁寧に入れて、酒の出るまでと道臣に進めた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お庭をわたる松風のと、江戸の町々のどよめきとが、潮騒しおさいのように遠くかすかに聞こえてくる、ここは、お城の表と大奥との境目——お錠口じょうぐち
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そんなあまい手に乗るおれだと思うのか」彼は鼻で笑った、「見ていろ、すぐに化けの皮きれいにいでやるから、そのときをあげるなよ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)