しろがね)” の例文
しろがねは柔かく二ツに分れて、愛吉の手は帳場格子の上に結いつけられたようになったが、双方無言で、やがて愛吉はぶるぶると震えた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あはれ騎士ナイトが戦ひに破れし青銅ブロンズの盾にふりそゝぐしろがねの涙ともならば、と祈らむにも力は尽きぬ——金のつるもて張れるわが喜びの琴は
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
という評判を得、邸内はまたたくうちに、天下の稀種きしゅを入れた鶉籠うずらかごやら黄金やしろがねの鳥籠で足のふみばもなくなったなどという話もある。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日は未だ昇らない、夜中に高かったしろがねの月は、槍ヶ岳と穂高山の中間に、淡くかかっている、その脚下の鉄壁の雪田のみが、やはり白い。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ただし頭髪かみのけは真っ白で、ちょうど盛りの卯の花のようで、それをまげに取り上げていた。しろがねのように輝くのは、明るい燈火ともしびの作用であろう。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宮城野の橋まで来ると、谿たには段々浅くなっている。橋下の水には水車が懸っていて、しろがねの月光を砕きながら、コト/\と廻り続けていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十四日の大きい月はなかぞらに真ん丸く浮き上がって、その影をひたしている大川の波はしろがねを溶かしたように白くかがやきながら流れていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しろがねひもは永久に解けたのではなく、またこがねさらは償いがたいほど砕けたのでもない(6)のだ。だがいったいそのあいだ霊魂はどこにあったのか?
下界は隈なくしろがねの光にあふれ、妙なる空気は爽やかにも息苦しく、甘い気懈けだるさを孕んで、薫香の大海うみをゆすぶつてゐる。
アルバノ、フラスカアチの少女の群は、髮を編みて、しろがねにて留め、薄き面紗ヴエールの端を、やさしくもとゞりの上にて結びたり。
秋はしだいにたけて、ならの林の葉はバラバラと散った。虫の鳴いた蘆原あしはらも枯れて、白のすすきの穂がしろがねのように日影に光る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
螢の薄光で、ほのかに見える其の姿は、何樣どんなに薄氣味うすぎみ惡く見えたろう。眼は妙にきらついてゐて、鼻はとがツて、そしてひげしろがねのやうに光ツて、胸頭むなさきを飾ツてゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だから糸をれたまま、喜んで尊の話相手になった。二人はそこで長い間、古沼に臨んだ柳の枝が、しろがねのような花をつけた下に、いろいろな事を話し合った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
玉のいしだたみ暖かにして、落花自ずから繽紛ひんぷんたり、朱楼紫殿玉の欄干こがねこじりにししろがねを柱とせり、その壮観奇麗いまだかつて目にも見ず、耳にも聞かざりしところなり。
鏡の中なる遠柳とおやなぎの枝が風になびいて動くあいだに、たちましろがねの光がさして、熱きほこりを薄く揚げ出す。銀の光りは南より北に向って真一文字にシャロットに近付いてくる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭の柿の幹に青蛙あおがえる啼声なきごえがきこえて、しろがねのような大粒の雨がにわかに青々とした若葉に降りそそいだりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここに太后、神せして、言教へさとし詔りたまひつらくは、「西の方に國あり。くがねしろがねをはじめて、目耀まかがや種種くさぐさ珍寶うづたからその國にさはなるを、あれ今その國をせたまはむ」
遠い礼拝堂で十五分毎に打つ鐘が、しろがねの鈴のやうに夜の空気をゆすつて、籠を飛んで出た小鳥の群のやうに、トビアスの耳のまはりに羽搏はうつ。次第に又家々に明りが附く。
わたくしただちに統一とういつめて、いそいで滝壺たきつぼうえはしますと、はたしてそこには一たい白竜はくりゅう……爛々らんらんかがや両眼りょうがん、すっくとされた二ほんおおきなつのしろがねをあざむくうろこ
較々やゝ霎時しばしして、自分は徐ろに其一片の公孫樹の葉を、水の上から摘み上げた。そして、一滴ひとつ二滴ふたつしろがねの雫を口の中に滴らした。そして、いと丁寧に塵なき井桁のはしに載せた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
無益むだにさすのも不憫とは、どこから出し算用ぞや、ふと決断の蟇口開けて、そをら遣らふと、大まかに、掴み出したるしろがねは、なんぼ雪でも多過ぎまする。お狐様じやござりませぬか。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
しろがねくがねたまもなにせむにまされるたからかめやも 〔巻五・八〇三〕 山上憶良
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
丹精こめたかひもなく、しろがねの月をつて御足みあしの台とすることがかなひませぬならば、わたくしのはらわたを噛むくちなはかかとの下に置くでござりませう、いとさはに罪を贖ひたまふ、栄光さかえある女王さま
見んとして見えず何となく氣さかんになりて身に膓胃ある事を忘れたり此山路このやまぢ秋は左こそと青葉をくれなゐに默想し雪はいかにと又萬山を枯し盡して忽ち突兀とつこつ天際に聳ゆるしろがねの山を瞑思すつひに身ある事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
呼気つくいきは霜をむすんで、海狸の襟にしろがねとかがやく』〔
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しろがねの玉をあまたにはこ荷緒にのおかためて馬はしらする
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
思ひ出の月夜なり、しろがねいた鍍金メツキ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しろがねの十字をかけまつる
(旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
しろがねすずらしてきた。
鈴が鳴る (新字新仮名) / 小川未明(著)
しろがねの色にきらめく。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
酒精のしろがねの夢に
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
しろがねあめそゝぐ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
こがねよ! しろがねよ! 金よ! 銀よ! よしよし思うさま泣くがよい! わしがその中地の下からきっと掘り出してやるからの!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
果しなき王の御栄への前に、吾は吾しろがねの鎧を紅ひに染めても、あゝ、吾に一抹の悔も残らざらむ。王者よ、吾に使命めいぜよ、吾行かむ、ニールを超へて。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
われはしろがねの如く美しき月光に浴しつゝ、蹌々踉々さう/\らう/\として大聲唐詩を高吟し、路傍の人家を驚かしたるを今猶記憶す。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
南に富士川は茫々ばう/\たる乾面上に、きりにて刻まれたるみぞとなり、一線の針をひらめかして落つるところは駿河の海、しろがね平らかに、浩蕩かうたうとして天といつく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
しろがねも黄金も玉も何かせんです! ⦅金を持つより、善き友を持て⦆と或る賢人もおしえていますからね。」
寒いはずだ、膝行袴たっつけばかま筒袖つつそで布子ぬのこ一枚、しかし、腰の刀は身なりにも年にも似あわぬ名刀のしろがねづくり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれ大帶日子おほたらしひこの天皇、この迦具漏比賣の命に娶ひて生みませる子、大江おほえの王一柱。この王、庶妹ままいもしろがねの王に娶ひて生みませる子、大名方おほながたの王、次に大中おほなかつ比賣の命二柱。
ゆきしづむ……しろがねくし照々てら/\と、兩方りやうはうびんに十二まい黄金こがねかんざしたま瓔珞やうらくはら/\と、おぢやうさん。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
較々やや霎時しばしして、自分はおもむろに其一片ひとひらの公孫樹の葉を、水の上から摘み上げた。そして、一滴ひとつ二滴ふたつしろがねの雫を口の中にらした。そして、いと丁寧に塵なき井桁の端に載せた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女の小さい、あらわの、しろがねのような足は、下の黒い鏡のごとき大理石の中にきらめいていた。
でございますから、或時は机の上に髑髏されかうべがのつてゐたり、或時は又、しろがねの椀や蒔繪の高坏たかつきが並んでゐたり、その時描いてゐる畫次第で、隨分思ひもよらない物が出て居りました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
橋下の水には水車が懸つてゐて、しろがねの月光を砕きながら、コト/\と廻り続けてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
城らしきものはかすみの奥に閉じられて眸底ぼうていには写らぬが、流るるしろがねの、けむりと化しはせぬかと疑わるまで末広に薄れて、空と雲との境に入る程は、かざしたる小手こての下より遙かに双のまなこあつまってくる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黄金やしろがねが地の下から早く掘り出してくれと云うて泣いているのが解らぬかの? これが解らぬとはヤクザ者じゃ。坑夫など早く止めるがよいわ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春の曙の夢は千々に乱れて薄紅の微笑ほゝえみ、カラカラと鳴り渡るしろがねの噴泉、一片ひとひらの花弁、フツと吹けば涙を忘る——泣いて泣いて泣き明した後の清々しさ……と
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
んだやうな夜気やきのなかに、つて、ひとりきて、はなをかけた友染いうぜんは、被衣かつぎをもるゝそでて、ひら/\とあをく、むらさきに、芍薬しやくやくか、牡丹ぼたんか、つゝまれたしろがねなべ
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でございますから、或時は机の上に髑髏されかうべがのつてゐたり、或時は又、しろがねの椀や蒔絵の高坏たかつきが並んでゐたり、その時描いてゐる画次第で、随分思ひもよらない物が出て居りました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同じやうに、荘重な息吹いぶきが天上にも聞かれ、夜が、神々しい夜が、厳そかに更けて行く。妙なるしろがねの光りに包まれた地上もまた美しかつた。だが、最早それに見惚れる人の子は一人もなかつた。