)” の例文
その間僕は炉のそばにそべっていたが、人々のうちにはこのうちの若いものらがんで出す茶椀酒ちゃわんざけをくびくびやっている者もあった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこへは病気のまだ好くならぬ未亡人の外、りよを始、親戚一同が集まって来て、先ず墓参をして、それから離別のさかずきかわした。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
余と碧梧桐君とは居士の意をんで、「死後」と題する文章に在るような質素を極めた葬儀にせようと思ったがそれは空想であった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その悲壮な決意は、主なる将にはみなよくみ取られていた。その点、彼にもまた、彼のためにはいつでも死のうとする腹心は多い。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は慣れぬ腰つきのふらふらする恰好かっこうを細君に笑われながら、肩の痛い担ぎ竿で下の往来側から樋の水をんでは、風呂を立てた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
新公はその音に驚いたやうに、ひつそりしたあたりを見廻した。それから手さぐりに流し元へ下りると、柄杓ひしやくになみなみと水をんだ。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これより先、仏頂寺弥助と、丸山勇仙とは、兵馬の座敷へ入り込んで、火鉢を中に鶏肉を煮ながら、酒をみ交わしておりました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤黒く、ドロリとした液体が一杯に湛えられて、それを水差しのような白磁の壺にみ分けては、我々に差し出してくれるのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
我が心の萬一もみとらで、何處どこまでもつれなき横笛、冷泉と云へる知れる老女を懸橋に樣子を探れば、御身も疾ぐより心を寄する由。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
蚊さへなくば夏の夕の月あかき時なんどは、ことに川中に一杯をみて袂に余る涼風に快なる哉を叫ぶべき価ある処なりといふ。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
若いキリリとした女房おかみさんが、堀井戸に釣るしてあったかんからコップへ牛乳をんでくれた。濃い、甘い、冷たい牛乳だった。
それとなく別盃べっぱいむために行きたい気はしたが、新聞記者と文学者とに見られて又もや筆誅ひっちゅうせられる事を恐れもするので
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
怜悧さとき浪子は十分にんで、ああうれしいかたじけない、どうぞ身をにしても父上のおためにと心に思いはあふるれど、気がつくほどにすれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕もその席に侍りて、先のほどまで酒みしが、独り早く退まかいでつ、その帰途かえるさにかかる状態ありさま、思へば死神の誘ひしならん
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
代々木、志賀の親しい友達を前に置いて、ある温泉宿の二階座敷で互に別れの酒をみかわした時にも、岸本は何事なんにも訴えることが出来なかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち集団的人間の類型的見かたを個人がみとることを意味する。集団的性格が個人的個性に滲透するのである。
芸術の人間学的考察 (新字新仮名) / 中井正一(著)
友は大喜びでわたしむかえてくれた。その晩は何年ぶりかで一しょに酒をみかわしながら、私はくわしくようすを聞いた。
此方このはうからくといへ恥辱ちじよくにもなるじつにくむべきやつではあるが、情實じやうじつんでな、これほどまでみさをといふものを取止とりとめていただけあはれんでつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
事に依るとあの屏風の畳まれたのも、誰かゞ左大臣の意をんで、わざとあんな風に動かしたのであるかも知れない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、お兄さんの心持をんで、それを叩き返してやらうと思つたのです。それを返しながら、お兄さんの怨みを、知らせてやらうと思つたのです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
料理番れうりばんまをしつけて、玄竹げんちく馳走ちそうをしてらせい。もともに一こんまう。』と、但馬守たじまのかみは、こつならせた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
天氣は上々、春はたけなは、これからお靜の手料理で、八五郎とみ交すのが、まさに一刻千金いつこくせんきんの有難さだつたのです。
この先生は探幽たんゆうの流れをんで、正しい狩野派の絵をよくかれた人で、弟子にも厳格な親切な人でありました。
先づ饅頭笠にて汚水をいだし、さら新鮮しんせんなる温泉をたたゆ、温たかき為め冷水を調合てうごうするに又かさもちゆ、笠為にいたむものおほし、抑此日や探検たんけんの初日にして
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
その喜多流をんだ由来も、もとよりつまびらかでないが、元亀天正の乱世に、肥前に似我という忠勇無双の士が居た。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
けれどもとにかく、いかに考えてみても、またいかに事情をんでやっても、常にこういう結論に落ちゆかざるを得なかった。すなわち、彼は徒刑囚である。
それも主人とみかわすのではなくて、一方がしゃくをしてやってその家来だけに一杯飲ませるので、狂言では普通は扇を使い、何だか烏帽子櫃えぼしびつふたのようなものを
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長十郎はその日一家四人と別れのさかずきかわし、母のすすめに任せて、もとより酒好きであった長十郎は更に杯を重ね、快く酔って、微笑を含んだまま午睡ごすいをした。
順吉と同宿していたのが津和野の人で、後に西氏に語りましたのには、或日金沢の士が二、三人尋ねて来て、どこかで酒をんだようですが、それきり帰りません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
二人を奥座敷に送りこんだあと、都築泰亮は下男相手にいつまでも酒をんでいた。阿賀妻の身辺をねらうものありという悪い噂に警戒するのがその一つであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「義理となさけにはもろくして人一倍の泣虫」(八十五頁)と佐太夫には言はせたれど、この義理と情にも我が粋癖はうち勝つ者なる事は、読者のみ取る余情に任せたり。
ことなどは大厭だいきらひ性質たちであるから一同いちどうそのこゝろんで、表面うはべなみだながものなどは一人ひとりかつた。
通行の人は次から次へと来て、茶に咽喉のどを潤して去る。いずれむに任せ、飲むに任せてあるに相違ないから、摂待する側の人はただそこに詰めているものと思われる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
私はどぎまぎして良人のいうことの意味はよくみ取れませんでしたが、良人の気性を充分に知っている私は、夫のそのいたわりを全部善意にうけ取ることが出来ました。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一夜しみじみ酒をみ合いたく、その為ばかりにでも、私は満洲に行きたいのですが、満洲は、いま、大いそがしの最中なのだという事を思えば、ぎゅっと真面目になり
三月三十日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかるに彼の精神をみ得るものは、彼が眉間みけんに傷をうけ、しかもそれを茶坊主輩の手よりうけながら、なお泰然自若たいぜんじじゃくとしていたのを見て、心ある者は泣かずにおられぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ほのかに硫黄いおうかおりの残っている浴後よくごはだなつかしみながら、二人きりで冷いビールをわした。そのとき彼の口から、この事件の一切の顛末てんまつを聞くことが出来たのだった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おれの態度がどうしてもむこうにはみ取れないと見えると青年は心中少しく残念に思った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただし神代の神々、式内しきないの神々も時宜じぎんで院中に祭るべし。それ以下菅公、和気わけ公、楠公、新田公、織田公、豊臣公、近来の諸君子に至るまでその功徳くどく次第神牌を立つるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
酒の自由に飲めない彼らは、かかる映画の上に自分を投射して、そこにみかわされる美禄びろくに酔うのである。これらの点でこれらの映画はジャズ音楽とまさに同種類の芸術である。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いやばけの皮の顕われぬうちに、いま一献いっこんきこしめそう。待て、待て。(馬柄杓まびしゃくを抜取る)この世の中に、馬柄杓などをなんで持つ。それ、それこのためじゃ。(酒をむ)ととととと。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが想像のあだとなれるを思うに、およそ貴嬢を知るほどの者は必ず貴嬢をめとらんとねがう者なるべし。さあれ貴嬢にしてもしわがこころざしみ給わずば、われはついに悲哀のふちに沈み果てなん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
夜になって私たちは僅かな酒をみながらも、同じ部屋の床にはいってからも、機関車の運転の話ばかりしていた。どのような話でも私がそこへ持って来てしまうからでもあったろう。
今この義僕がみずから死を決する時の心をんで、その情実を察すれば、また憐れむべきにあらずや。使いに出でていまだ帰らず、身まず死す。長く英雄をして涙をえりに満たしむべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
日々この四老に会してわずかに市城名利の域を離れ林園に遊び山水にうたげし酒をみて談笑し句を得ることはもっぱら不用意を貴ぶ、かくのごとくすること日々ある日また四老に会す
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かれは、うれしさをとおりこして、あるさびしさをすらかんじました。そして、よる燈火あかりしたぜんえて、毎晩まいばんのように徳利とくりさけを、そのは、利助りすけのさかずきに、うつしてみたのです。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここでは落ちついて談話はなしも出来ぬ。宿へ帰って一献もうではありませぬか。と言い出づる善平。最も妙ですな。と辰弥は言下に答えぬ。綱雄さあ行こうではないか。と善平は振り向きぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
唐、天竺は愚か、羅馬ろおま以譜利亜いげりやにも見られぬ図ぢや。桜に善う似たうるはしい花のの間に、はれ白象が並んでおぢやるわ。若い女子等が青い瓶から甘露かんろんでおぢやるわ。赤い坊様ぼんさまぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「葉村君は私の気持を少し好意的にみすぎたんですよ。あれじゃ全然葉子を叩きつぶすようなもので、私も寝醒ねざめが悪くて仕様がありませんから。一つ取り消していただきたいと思って……。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)