いくさ)” の例文
何分にもいくさのあとで、ここらも荒れ切っているので、うちはきたなくなっているばかりか、盗賊どもがしきりに徘徊するので困ります。
「……それから、お侍衆の噂では、いよいよ、公方討くぼううちのいくさおこって、長州様も、土州様も、薩州さっしゅう様も、また芸州様もこんどは……」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、「すわ、大事だいじだ!」と、いって、三まん兵士へいしは、るものもとりあえず、いくさ仕度したくをして、御殿ごてんのまわりにあつまりました。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
源氏方の後藤兵衛実基は、長年のいくさの経験から、磯の戦はさしおいて、数人の郎党をひきいて内裏に乱入、あちこちに火を放った。
信玄、謙信に向っては織田公も家康公も二目も三目も置いたようないくさぶりをしておられたが、太閤ならばどんなものであったろうか知ら
昨夜ゆうべいといくさのことに胸なやませていたていじゃに、さてもここぞまだ児女わらわじゃ。今はかほどまでに熟睡うまいして、さばれ、いざ呼び起そう」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
まずいくさの血祭りとして、土岐十郎頼兼と、多治見ノ四郎二郎国長とを、そのやかたにこれより攻めて討ってとるということであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若しわが記憶に誤りなくば、いかなる疑ひもわがかの時の思ひのうちにありとみえしもののごとく大いなるいくさを起して 一四五—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何でもよほど古い事で、神代かみよに近い昔と思われるが、自分がいくさをして運悪く敗北まけたために、生擒いけどりになって、敵の大将の前に引きえられた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まず今日が日までの息災を謝し奉り、これよりは知らぬ国に渡りていくさちまた危うきを犯し、露に伏し雨風に打たるる身の上を守りたまえと祈念し
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
蛇足のたとえは『戦国策』に見ゆ。昭陽楚の将として魏をち更に斉を攻めた時、弁士陳軫ちんしん斉を救うためこの喩えを説き、昭陽にいくさめしめた。
倹約をむねとして一〇家のおきてをせしほどに、年をみて富みさかえけり。かつ一一いくさ調練たならいとまには、一二茶味さみ翫香ぐわんかうたのしまず。
旋廻軸の如何に由つて、そのいくさは或は勝ち、或は負ける。従つて、作戦上では、この旋廻軸に一番すぐれた部隊を置く。
現代と旋廻軸 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
先祖を問へば、ペエテルのまだいくさの功名を世にとゞろかした時、屈竟の武士で、フオオト、クリスチナを打囲とりまいた一人のフアン、ヰンクル氏です。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
さて、随縁ずいえんと申すは、妙なもので、あなたはその頃、鬼ごっこ、かくれん坊——勿論、堂裏へだけはお入りなさらなかったであろうが、いくさごっこ。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ熊曾建くまそたけるが家に到りて見たまへば、その家の邊に、いくさ三重に圍み、室を作りて居たり。ここに御室樂みむろうたげせむと言ひとよみて、をし物をけ備へたり。
『大君の御楯となりし丈夫ますらをの末はますますいや榮えたり』『整ひし五百津いほついくさいかでかも君が御楯みたてとならざらめやも』
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼らが「命を捨ていくさをする」のも、熊谷くまがいの言葉をかりて言えば、おのが子の「末の世を思ふ故」である、すなわち家族の生活を保証するためである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
信幸、家康の許へ行くと、家康喜んで、安房守が片手を折りつる心地するよ、いくさに勝ちたくば信州をやるしるしぞと云って刀の下緒さげおのはしを切って呉れた。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遊一 なんにしても、いくさが出来ねえのはつまらねえ話だ。ここじゃ攻めてくる奴もないし、ノンビリし過ぎらあ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
成吉思汗ジンギスカン (独り言のように)長年想いをけた女が来る晩に、いくさなどと、そ、そんな殺風景なことができるか。
松島を旗艦として千代田ちよだ厳島いつくしま橋立はしだて比叡ひえい扶桑ふそうの本隊これにぎ、砲艦赤城あかぎ及びいくさ見物と称する軍令部長を載せし西京丸さいきょうまるまたその後ろにしたがいつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なかに一人、船に、賭博ばくちに、加之おまけいくさにも、女にも弱いやうな顔をした士官が、海の荒れ始めから、自分の船室ケビンへ潜り込んで一向影を見せないのがあつた。
異国船処々に来り候由に候へば、いくさも近き内と奉存候。其節は異国のママ首を打取り、帰国可仕候。かしく。
内部なかで何か故障を起こしたらしく、マズルカが中途で、⦅*4マルボローはいくさに門出せり⦆という歌に変り
花に寝て夢おほく見るわかうどの君はいくさに死ににけるかな(禰津少尉の旅順二〇三高地のえきに歿しけるに)
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
十六の年に奥州のいくさに出て、敵の征矢そやに片方の眼を射られながら、それを抜かぬ前にとうを射返して、その敵を討ち取ったという勇猛な武士でありましたが
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
壮烈なほんとのいくさはこのあとだ!——つまり、洋々たる前途を望む雄大な気概なぞといふものがあつて
そうでなくてさえ大公儀から睨まれて居る加賀百二万石、——銭屋五兵衛ぜにやごへえに抜け荷を扱わせて、軍用金まで拵えて居ると、江戸では今にもいくさが始まるような噂だ。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
父と云う人はかつては五奉行の一人として天下に並びない権勢をうたわれ、今度も江戸の内府どのを相手に上方勢かみがたぜいを寄せ集めて大きないくさを起したほどの偉いお方であり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おそらく、昔の仙台武士はいくさの旅から帰って来て、たがいに祝いの酒をくみかわし、手拍子でも打ちながら、心ゆくばかりあの歌を合唱したものでありましたろう。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
出陣ときまって気英の人びとはたがいにひざをのりだした。守戦をとなえた老臣たちも、事がきまればいささかも逡巡するところはない、すぐいくさくばりにとりかかった。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相談すべき家來は先づ此二三人で、利章はいくさらしい軍をせぬものである。右衞門佐の企を利章ばかりが知つてゐて、我々が知らぬと云ふのは、其企の無い證據である。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
すると、馬は足踏み嘶いて、勇ましい騎士達は目を醒し、馬に跨っていくさに向って進むのです。
顕家あきいえ親房ちかふさはほんのはだか身でもって奥州や伊勢や諸所方々でいくさを起こして負けては逃げ、逃げてはまた義兵を集め、一日だって休むひまもなく天子様のために働きましたよ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
サアと成る迄は仮令たとえ長官にもしらさぬ程だけれど君は先ずわしが周旋で此署へもいれやった者ではあるし殊に是がいくさで言えば初陣の事だから人に云われぬ機密を分けて遣る其所の入口を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
追うて歩きます。然様さよう、四十頭も五十頭も出ますかな。勢いの好かものですばい。ボシタと申すのは敵を滅したという意味です。御承知のごと八幡さまはいくさの神さまじゃけん……
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
總勢すぐツて百四五十人ばかり。毎日いくさごツこのやうな眞似ばかりして居たが、そのうち世は漸次しだいに文化に向つて、さういふ物騷ぶつさうな學校の立ち行かう筈もないので、其中そのうちに潰れて了つた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
女郎は短い袖のいくさ装束しょうぞくで年は十四五であろう、おさげにした髪は霧のかかったようで、細そりした腰は風にもたえないように見えた。それは花でもくらべものにならない美しさであった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
菅原から系図を引いて正しいもので、幕の内ととなえるは、お大名がおいくさの時、角力取を連れて入らしって旗持はたもちにしたという事でございます、旗持には力が要りますので力士が出まする者で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つるぎつゑに。松陰まつかげの。いはほさゝへて。吐息といきつく。時哉をりしも見ゆる。若武者わかむしやは。そもいくさの。使つかひかや。ればころもの。美麗うるはしさ。新郎はなむことかも。あやまたる。其鬚髯そのほうひげの。新剃にひそりは。秋田あきたを刈れる。刈稻かりしねの。そろへるさまに。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
それはかく不意ふい来客らいきゃくとしては五六十にんはなかなかの大人数おおにんずうでございます。ましてそれが日本国中にほんこくじゅうにただ一人ひとりあって、二人ふたりとはない、いくさ神様かみさま御同勢ごどうせいとありましてはたいへんでございます。
国民の目的は唯いくさに勝つと曰ふだけで有つたらしいが、今度露国と開戦するに就て、只日本が強いと云ふ事を世界に誇るのみに満足せず、之と同時に正しい国であると云ふて欲しい望が出て来た。
また兵站へいたんを考えれば、二日ふつか以後の食糧は、どこに求むべきか当てもつかず、冬が近づくが、兵士にくつのなき者が数千人、この秋風をしのぐに毛布なき者が数万人である。しかしいくさ成敗せいはいは天にる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ぢやによつて帝は御悦び斜ならず、目でたく凱歌のうちいくさをめぐらされたが、やがて「れぷろぼす」には大名の位を加へられ、その上諸臣にも一々勝利の宴を賜つて、ねんごろに勲功をねぎらはれた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
火事かじところもありいくさところもあり、ぼく大變たいへんきなれば、姉樣ねえさま御覽ごらんにならば吃度きつときならん、大姉樣おほねえさま上野うへののも淺草あさくさのも方々はう/″\のを幾度いくどしに、中姉樣ちうねえさま一度いちどれてかぬは意地いぢわるではきか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八つの年には、今度こそきっといくさが起るという噂であった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
霧しろく鶏冠山をかき消しぬいくさのけぶり匍ひし世のごと
国のためいくさに向へ父母にこころなおきそ道をつとめて
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
またいくさか。智者の聞くことを好まぬ響だ。10235