身代しんだい)” の例文
「さア、こゝは、きみちやんなんかの働くには、日本一のいゝ場所なんだからね。ひと身代しんだいつくるつもりで、どし/\働いてくんな」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
借る程の者なれば油斷ゆだんならざる男なりと言れし時三郎兵衞はギヨツとせし樣子やうすを見られしが又四郎右衞門は身代しんだい果程はてほどありこまつた事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……身代しんだいらして税にするんでは税やない、罰金やて。……阿呆でも大學校へ片足ブチ込んで來よつたんで、言ふことは分つたるがな。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
またその時予がさいむかって、今日福沢諭吉は大丸だいまるほどの身代しんだいに成りたれば、いつにても予が宅に来て数日逗留とうりゅうし、意をなぐさめ給うべしとなり。
あなたは越前屋という大きな身代しんだいや、店の切り盛りをする力はない、身分が不釣合だと云われる、私はまたあなたのほかに妻を
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「塩山つていふ村は、昔からえらく変り者を出す所でナア、それが為めに身代しんだいこしらへる者はえではねいだが、困つた人間も随分出るだア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なアに少しも憎くは有ません目「では何故殺した藻「伯父の身代しんだいが欲いから殺しました、此頃は商買しょうばいが不景気で日々にちにち苦しくなるばかりです、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
わしも一と身代しんだいつくるつもりだ。……え、品の納入先おさめさきはどこかって。そいつは、いえない。熊野牛王くまのごおう誓文せいもんにかけて、これだよ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、間が悪い時には悪いもので、邸がまだ半分も出来上らない昨今、身代しんだいはまたバアクシヤアだねの豚のやうに留め度もなくふとり出して来た。
そういうわけで、身代しんだいもだんだんに衰えて来ましたので、げん天暦てんれき年間、李は自分の郷里を立ち退いて、桂州へ行きました。
てゝせり呉服ごふくるかげもなかりしが六間間口ろくけんまぐちくろぬり土藏どざうときのまに身代しんだいたちあがりてをとこ二人ふたりうちあに無論むろんいへ相續あととりおとゝには母方はゝかたたえたるせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身代しんだいを作り上げて、御領主黒田の殿様から鉢巻という苗字と、帯刀を許されたという立志伝中の人物だそうで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主人の大澤は薄々瀧山誠之進の素姓をさとつて、身代しんだいを半分やるとか、娘の聟になれとか誘つたらしいが、それは岸本誠太郎もさすがに出來なかつた
但し町までひとの土地を踏まずに行けるという程の大家たいけでない。街道筋の金持は兎角粒が小さい。それでも国会議員に四度や五度は出られそうな身代しんだいである。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まあこんなふうにすれば、いくらあっても、お金はさっさとにげていってしまうでしょう。とうとうむすこはたった四シリングの身代しんだいになってしまいました。
ところが被告は頭を白洲の砂に埋め、誠に恐入ったる義ながら、永の病気に身代しんだい必至と不如意ふにょいに相成り、如何様にも即座の支払は致し難き旨を様々に陳謝した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
それは二代目塩原しほばらが、大層たいそう身代しんだいになつて跡目相続あとめさうぞくをした時、おとつさん、おまへさんはもうこれだけの身代しんだいになつたら、少しはさつぱりした着物をおしなさるが
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
この身代しんだいを譲られたりとて、他姓たせいをかして得謂えいはれぬ屈辱を忍ばんは、彼のいさぎよしと為ざるところなれども、美き宮を妻に為るを得ば、この身代も屈辱も何か有らんと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
画工ゑかきはね、こゝろくんぢやない。こゝろそと見世みせしてゐるところくんだから、見世みせさへ手落ておちなく観察すれば、身代しんだいおのづからわかるものと、まあ、さうして置くんだね。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今では大分身代しんだいをつくり上げたといううわさであるが、それにもかかわらず、電車の出来ないむかしから、今以て四谷よつや寺町辺てらまちへんの車さえ這入はいらぬ細い横町よこちょうの小家に住んでいる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「急に出來た身代しんだいは急に倒れるのが北海道の原則らしい」と、呑牛は平氣だ。「僕等はその間にあつて、多少のうまい汁が吸へるの、さ——丸で火事場泥棒も同樣、さ。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
このみせ主人しゅじんは、やはり小僧こぞうからいま身代しんだい仕上しあげたひとだけあって、奉公人ほうこうにんたいしても同情どうじょうふかかったのでした。信吉しんきち病気びょうきにかかると、さっそく医者いしゃせてくれました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ミハイル、アウエリヤヌヰチはもとんでゐた大地主おほぢぬし騎兵隊きへいたいぞくしてゐたものしかるに漸々だん/\身代しんだいつてしまつて、貧乏びんばふし、老年らうねんつてから、つひ郵便局いうびんきよくはひつたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
百姓はわりに合はん仕事やちうことは、ようかつてるが、そいでも地價がズン/\あがるさかい、知らん身代しんだいが三ぞう倍にも五層倍にもなつたアるちうて、みな喜んではつたが
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
「さうで御座ございませうかなあ。私が剛情者といふことは自分でもはつきり判ります。が、それでまたあの身代しんだいをこしらへましたので、剛情も別に悪いことゝは思ひませんでしたが」
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
忠太郎と名乗って出て、お登世へ譲る水熊の身代しんだいに眼をつけて、半分貰う魂胆こんたんなんだ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
かかる場合においては万々やむをえず、泣く泣くもたとい一国を身代しんだい限りの悲堺ひかい沈淪ちんりんせしむるも武備の用意をなさざるべからず。すなわち独仏の関係は歴史的の記憶あるがためなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ヂュリ 内實なかみの十ぶん思想しさうは、言葉ことばはなかざるにはおよばぬ。かぞへらるゝ身代しんだいまづしいのぢゃ。わしこひは、分量ぶんりゃうおほきう/\なったゆゑに、いまその半分はんぶんをも計算かんぢゃうすることが出來できぬわいの。
かつ兄の当然持っておるべき身代しんだいを、妹として譲り受けるということは望ましい事ではない。そうして置いては、兄の隠居が何事をしようと、これにくちばしれることが出来ぬであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのあひだ相變あひかはらずたけつては、黄金おうごんれましたので、つひにはたいした身代しんだいになつて、家屋敷いへやしきおほきくかまへ、使つかひなどもたくさんいて、世間せけんからもうやまはれるようになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それこそ「暗闇くらやみに鬼」の如き根強き身代しんだい、きらいなものは酒色の二つ、「下戸げこならぬこそ」とか「色好まざらむ男は」とか書き残した法師を憎む事しきりにて、おのれ、いま生きていたら
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
身代しんだい釣合つりあい滅茶苦茶めちゃくちゃにする男も世に多いわ、おまえの、イヤ、あなたのまよい矢張やっぱり人情、そこであなたの合点がてん行様ゆくよう、年の功という眼鏡めがねをかけてよく/\曲者くせものの恋の正体を見届た所を話しまして
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すなわち他にあらず、身代しんだいの貧乏、これなり。およそ日本国中の人口三千四、五百万、戸数五、六百万の内、一年に子供の執行金しゅぎょうきん五十円ないし百円を出して差支なき者は、幾万人もあるべからず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
本来そうあり余るという身代しんだいではないから、懐中が少しずつ寒くなる。
習っていたこの者親の身代しんだいを鼻にかけどこへ行っても若旦那わかだんなで通るのをよい事にして威張いばくせがあり同門の子弟を店の番頭手代並みに心得こころえ見下す風があったので春琴も心中面白くなかったけれども
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
分かりやすく例を取りてみれば、商戦に従事する者はもくろみ通りに成功し、いわゆるトントン拍子びょうし身代しんだいをふやし、または営業を拡張することあるも、これは決していつまでもつづくものではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
うしよう、身代しんだいいまに、床平とこへいけた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わさびの味が分っては身代しんだいは持てぬ。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
贔屓ひいきになし富澤町古着渡世甲州屋とて身代しんだい可成かなりなる家へ入夫いりむこの世話致されたり其後吉兵衞夫婦の中に男子二人を儲け兄を吉之助と名付弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御承知の通り、次右衛門は総領でありながら、関口屋の身代しんだいを弟の次兵衛に取られてしまったので、内心甚だ面白くない。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に又之を殺せば日頃憎しと思う藻西は死し老人の身代しんだいは我愛する美人倉子の持参金と為りて我が掌底たなそこころがり込む訳なれば承知したるも無理ならず。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ここいらで一番、身代しんだいを作ってくれようかな……ついで毛唐けとうきもたまをデングリ返してやるか……という気になって、ニッコリと一つ笑って見せたもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「嫁にゆくことなんか考えるな、枡平の身代しんだいとみの公の縹緻きりょうなら、婿に来てはそれこそ芝野川の砂利だぞ」
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十年前に国元ア夜逃げする様にして逃げて来たゞが、今ぢやえら身代しんだいのうこしらへて、彼地処あすこでア、まア好い方だつて言ふたが、人の運て言ふものは解らねえものだす
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「——とすると、千両ばかり煙になる勘定だが、楽に積んだ身代しんだいは、やッぱり、楽に灰になりゃアがる」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蟠作「紀伊國屋遣りなさい、自分の身代しんだいになれば碁に勝ってもいじゃアないか、よう遣りなさい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチはもとんでいた大地主おおじぬし騎兵隊きへいたいぞくしていたもの、しかるに漸々だんだん身代しんだいってしまって、貧乏びんぼうし、老年ろうねんってから、ついにこの郵便局ゆうびんきょくはいったので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
珍らしい働き手で、酒男さかをとこと一緒に倉に入つてせつせと稼いだから、身代しんだいは太る一方だつたが、太るだけの物は道修繕みちなほし橋普請はしふしんといつたやうな公共事業に費して少しもをしまなかつた。
道中最も古株の三面記者で、小説も書けば、俳句もむと云ふ老人が來る。芝居好きでその身代しんだいをつぶし、今は劇評家兼花柳界消息通になつて滿足してゐると云ふ大熊緑紅が來る。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
これが又禿の御意ぎよいに入つたところで、女めつらつ高利アイス塩梅あんばいを見てゐる内に、いつかこの商売が面白くなつて来て、この身代しんだい我物と考へて見ると、一人の親父よりは金銭かねの方が大事
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)